スズ・クラネルという少女の物語   作:へたペン

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世知辛いじぇんこの話と、それでも楽しく暮らしている幸せな【ファミリア】の日常。



Chapter04『一家団欒』

 本日の稼ぎはベルの短刀の整備費を差っ引いて六〇〇ヴァリス。一層に初めて短期間潜った稼ぎとしてみれば上々の稼ぎだと思うのが二人で頑張ってこれだ。

 ローンも大量にあるので貧困生活からの脱出はまだまだ先になりそうである。

 

 エイナからはもしもの時の為に五〇〇ヴァリスもするポーションを買っておくよう言われているが、そうすると一〇〇ヴァリスしか手元に残らない。

 一般的な食事なら五〇ヴァリスもあれば十分お腹は満たせるが三人が一日三食を食べようと思うと節約しても一〇〇ヴァリスでは心もとなかった。

 

 前衛で戦っているのが自分自身であったならベルはポーションを買わずに節約しようと思うのだが、前衛で戦っているのはスズだ。

 もしもの時に一番ケガを負うリスクをスズが受け持っていることを考えるとポーションは必需品である。

 

 だけど今日は攻撃を食らわなかったから鎧の整備は必要なかったが、そのうち鎧の整備費も必要になってくるから蓄えは早い内から貯めておいた方が安心できる。

 帰り道にどうしたものかとうんうん唸っているとスズが不意にベルの服の袖をくいくいと引っ張ってきた。

 

「ん、どうしたのスズ?」

「ポーションは明日頑張って買おう。今日の【経験値】で少しは強くなれてると思うし、エイナさんが色々教えてくれたから今日よりも明日の方が楽になっていると思うし。頑張る為にもお腹いっぱいじゃないと元気が出なくて頑張れなくなっちゃうよ?」

 だから食材のお買い物しよ、と笑顔をベルに見せた後に北のメインストリートの方向、商店街の方に少し目を向ける。

 

「ダンジョンだけじゃなくって、まだ街のこと全然知らないからこのオラリオも冒険したいかなって。これからもベルと神様と一緒に暮らしていく街をもっと知りたいの。ダメ?」

 夕日に照らされるスズの笑顔が少し幻想的に見えて、上目遣いでおねだりするスズの姿がとても愛らしく感じてベルの鼓動がまた高まる。

 

 女の子に免疫がなく押しに弱いベルがそのおねだりを断れるわけもなく、ご機嫌そうに鼻歌を歌うスズに北のメインストリートまで手を引っ張られ連れていかれる。

 その様子を仲のいい兄妹ねと街の住人達や冒険者に暖かい目で見送られている。

 可愛い兄妹ね。頼りなさそうなお兄さんねとまで言われる始末だ。主に女性から。スズの愛らしさもあって女性からの注目の的になってしまいベルの顔を上気させてしまう。

 

 

 照れ隠しにスズの様子を見ると、スズは声を掛けられ笑顔で返事を返すものの相変わらず周りの目は気にせず鼻歌を歌っていた。

 大きな手持ちのバックに剣と盾をしまって無邪気にはしゃぐ姿は年相応の女の子そのもので、はたから見れば誰が彼女を冒険者だと思うだろう。

 

 商店街で食材を求めて色々な店を周っていると肉屋や八百屋から「兄ちゃんの手伝いかい? 偉いね」「お、元気がいいね。サービスしちゃうよ!」と頭を撫でられ、世間話から冒険の帰りだと語ると驚き、ヘスティアのところで一昨日から世話になってることを話すと「ああ、ジャガ丸くんの屋台のヘスティアちゃんとこの子か」「昨日ようやく自分に子供が出来たって喜びながら【ファミリア】の勧誘に来たわね」「勿論断ったが、必死だったのはよく知ってるからな。本当によかったぜ!」と商店街の人達はヘスティアに眷族ができたことを自分のように喜んでくれていた。

 

 なんでも可愛いヘスティアはジャガ丸くんのお店のマスコットとして有名で、肉屋や八百屋含めた商店街の人達にも「ボクのファミリアにならないかい?」と聞いて周っていたそうだ。

 調理用の発火装置の取り扱いを間違えてジャガ丸くんの露店を爆発させてしまったこともあるらしく商店街では有名な神であることを聞いて、「神様なにやってるんですか!?」とベルは頭を抱えずにはいられなかった。

 

「神様がご迷惑をおかけしました!」

「いいのよ。怪我人は出なかったし、ヘスティアちゃんのおかげでここ最近売上が伸びてるから。はいこれ、お近づきの印。妹ちゃんと二人で食べてね」

 ジャガ丸くんのお店にベルが謝りに行くと獣人のおばさんから逆にジャガ丸くんを貰ってしまった。申し訳なくて遠慮したのだが「いいからいいから。お腹すかせてるでしょ?」とぐいぐいと押し付けられる勢いに押し負けて結局貰ってしまったのだ。

 

 冒険の後で空腹ということもあったが、何よりも誰かと一緒に食べる食事が、スズと歩きながら頬張る揚げたてのジャガ丸くんはとても美味しく感じられた。

 街の人達の勢いに、ベルの中からスズと手をつないでいることへの緊張感は消えていて、周りに目を配る余裕が出てくると田舎暮らしだったベルが見たことのない物ばかりを取り扱っていて、いつの間にかスズと一緒に目を輝かせながら色々なものを見て周っていた自分に「これじゃあ人のこと言えないな」と子供のようにはしゃぎまわってしまったことが恥ずかしくなってくる。

 

 

 

 

「いい街ね。すごく暖かい」

 

 

 

 日が落ちて二人で教会に戻る途中、スズが静かに口を開いた。

 冒険者の街なだけあって商店街も活気づいていて、荒くれ者が多い中仲慎ましい兄妹の姿が癒しになったのかかなりおまけをしてもらった気がする。

 

 商店街での失費はウサギ肉(一〇ヴァリス)、タマネギ(四ヴァリス)、ニンジン(七ヴァリス)、ジャガイモ(六ヴァリス)、調理用にと葡萄酒に小麦粉、ニンニクや塩やバターなどなどに加えて数日分の固焼きパンやサラダ用の野菜まで買ったものだから二〇〇ヴァリスを軽く超えた買い物になってしまった。

 

 おまけしてもらった分の食材もありベルの両手は荷物で塞がれ、スズの手も自分の荷物のバックと食材の入った紙袋でやはり両手がふさがって歩きにくそうだ。

 それでもスズは嬉しそうに、幸せそうに、表情を見なくても間違いなくスズなら笑っていると思う場面なのに、なぜか不意にダンジョンで見た冷たい表情をしたスズの姿を思い出して慌ててその表情を確かめる。

 

「どうしたの?」

 やはりそこにはいつものスズがいた。

 ベルがなかなか返事を返さなかったせいで眉をひそめた後心配そうにベルの顔を見上げている。

 一瞬だがベルはスズから違和感を感じた気がしたのは気のせいだったようだ。

 

「なんでもないよ。転ばないように気を付けてね」

「ありがとう。ベーコンや卵まで少しおまけしてもらっちゃったんだもん。みんなの好意を落として無駄にしないようにしないとね。神様喜んでくれるかな?」

「喜んでくれると思うけど、この荷物の量はさすがにびっくりしちゃうんじゃないかな」

「数日分の食費と考えれば安いと思うんだけどな。シチューは火を通せば明日も食べられるし……」

 

 スズはウサギのシチューとパンに加えてスズが故郷から持ち込んでいたボトルの蜂蜜酒(ミード)で豪華な夕食をヘスティアに食べてもらいたいらしい。

 本当はこれに加えて食卓に豚か猪肉も並べたかったと言うのだから、元はいいところのお嬢さまだったのかもしれない。

 

「スズはいつもそういうもの食べてたの?」

「いつもって訳ではないけど……騎士の宴会のたしなみだってお母さ……んがお祝いごとの日はもっと沢山の食べ物やデザートまで出してたから。里全体がね、ここでいう【ファミリア】みたいなもので、みんなで持ち寄ったものを大きなテーブルに並べて好きなものをみんなで食べていくの。中でもお母さんが作ってくれた猪肉料理はみんなに好評で、私も大好きだったな。うん、みんなのこと大好きだった」

 

 スズは星が見え始めた空を悲しげに見上げた後、またベルに笑顔を向ける。

「この街も好きになれそうでよかったなって思っただけだよ。心配してくれてありがとう」

 家族を失った痛みを知っているベルは、自分の知った痛みをすぐに理解してあげられるベルは、何かを言ってあげないと、と思った。

 

 しかし何かを言う前に教会に辿りついてしまい、言うタイミングを完全に逃して結局何も言ってあげられなかった。

 だからせめて幸せな家族で居続けてあげないと。ベルは片手の荷物を降ろしてポンポンと優しくスズの頭を撫でてあげた後に地下室のドアを開けた。

 

 

「「ただいま神様!」」

「おお! おかえりスズ君にベル君! ちょっと遅かったからボクはとても心配したよ。その大荷物からして初めての冒険は大成功として見ていいんだね?」

「えっと、そこまで稼げませんでしたけどスズのおかげで食材も少しおまけしてもらっちゃって。今日はスズが初ダンジョンのお祝いにシチューを作ってくれるそうです!」

「スズ君の手料理か! そいつは何よりのご馳走でボクはとても嬉しいよ! でも君も冒険で疲れているだろう? 晩御飯くらいボクが――――」

 

「ごめんなさい神様。ご好意は嬉しいんですけど……その、爆発はちょっと嫌です」

 スズがそう申し訳なさそうに目をそらしたのにグサっと胸を突き刺されたヘスティアは「なぜスズ君がそれをおおおおおおっ!? おばちゃん言わないって約束してくれたじゃないかあああああああっ!!」とソファーに顔をうずくめてバンバンと何度もソファーを叩く。

「えっと、八百屋のおじ様や肉屋のおば様から聞きまして。神様が働いているお店のおば様は『神様のおかげで売り上げが伸びたから気にしないで』とだけ。ですのでおば様はしっかり神様との約束を守っていますよ」

「うぐぬぬぬ。あのおっちゃんやおばちゃん達が犯人か!! もう頭撫でさせてあげないぞ!!」

「な、撫でられてたんですか」

 神様なのに完全に商店街の可愛いマスコットと化している主神についついベルは引きつった笑みを浮かべてしまう。

 

「爆発は嫌なので分担作業にしようと思います。ベルと神様は野菜を洗ってきざんでてください。私はウサギ肉をさばいていますので」

 皮がはがれた状態で売られていた子兎を黙々と解体していくスズの姿に圧倒されながらも、ベルはヘスティアに「僕もスズもそのくらいで神様を幻滅なんてしませんよ」と手を差し伸べて、一緒にスズの手伝いをし始めた。

 手伝いと言ってもスズの希望で野菜を刻んだり簡単なサラダを作っただけでメインとなるシチューの味付けは完全にスズが担当している。

 

 手慣れた手つきからスズは家事や故郷でのお祝いごとで振る舞う料理作りの手伝いをしてきたことが容易に想像できた。

 シチューの出来は田舎暮らししていたベルや貧乏生活をおくっていたヘスティアにとってほっぺが落ちるかと思うほどのご馳走で、「飲んで欲しいな」と一口だけ勧められたミードは蜂蜜の香りが強く、酸味と甘味……ハチミツの甘味というよりはベリーなどの果汁だろうか。

 その甘味が口の中に広がり、それでいてさっぱりした喉越しである。

 ミードの糖度が強すぎてベルはその一口しか飲めなかったが、決して不味い訳ではなく美味しいのに数量で満足しまうものだった。

 流石にこれを薄めずにコップ一杯飲み切る自信はない。

 スズもヘスティアも舐める程度の量しか飲んでいないのでそういうものなのだろう。

 

 皆で作った豪華な食事を食べながらベルとスズは今日の出来事をヘスティアに語り、ヘスティアはそれを嬉しそうに聞いてくれる。

 そんな家族団欒な生活を三人は心の底から幸せだと感じることができた。

 

 

§

 

 

 楽しい食事も終わり、ベルの【ステイタス】の更新も終え、いよいよスズの【ステイタス】更新となりヘスティアの表情に緊張の色が見える。

 女の子であるスズの更新をするのでベルには一昨日と同じくドアの外で待機してもらっているからあまり長い間待たせると悪いと思うのだが、【レアスキル】のバーゲンセールであり【心理破棄】なんて爆弾を抱えたスズの【経験値】からまた変な【レアスキル】を発現させないように慎重に更新を済ませなければならない。

 

 

 息を飲み込み覚悟を決めてスズの【ステイタス】更新作業に取り掛かる。

 

 

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 スズ・クラネル LV.1 ヒューマン

力:i 0⇒6  耐久:i 0⇒15 器用:i 10⇒23

敏捷:i 0⇒1 魔力:i 30⇒70

 

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 ベルと同じく初回だけあって基本アビリティの伸びがトータル七五と大きい。

 ダメージを食らっていないものの攻撃を立ち止まって受け流し続けたことから耐久と器用の伸びが大きく、そのせいもあって敏捷が一しか伸びていない。

 魔力上昇がやけに大きいのはおそらく『愛情を注がれるほど蓄積魔力が増える』効果である【愛情欲求】のおかげだろう。

 

 上昇値が多い分『親しい者との関係に不安を抱くと蓄積魔力が減る』による減少の幅も怖いところだが魔力は魔法使いにとって最大の武器だ。今は何事もなく幸福を感じて魔力が伸びたことを祝福してあげよう。

 

 問題になっている【スキル】項目は追加もなければ変化もない。

 本来【スキル】は簡単に追加されるものではないのでこれが普通であるが、でもできることなら【心理破棄】には消えてもらいたいところだった。

 

「神様。魔法に何か変化はありますか? 多分、新しい魔法が魔法スロットに現れていると思うんですけど」

「魔法スロット? 二つ空いたままだけど――――」

 どこか不安げなスズの言葉に魔法の項目に目を向ける。

 

 

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    魔法

【ソル】

・追加詠唱による効果変動。

・雷属性。

・第一の唄ソル『雷よ』

・第二の唄ソルガ『雷よ。敵を貫け。』

【】

【】

 

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 魔法スロットは埋まっていないが、【ソル】の項目に一行追加されている。前回まで『第二の唄ソルガ』なんて項目はなかったはずだ。

 魔法スロットを使わずに新たな魔法っぽいものが項目に追加されているのを見てヘスティアは唖然としてしまう。

 

「スズ君。確かに君の【ソル】の項目に【第二の唄ソルガ】という追加詠唱だと思われるものが発現している。それも魔法スロットを使わずにだ。どうしてそのことが分かったんだい?」

 魔法が発現するとしてもそれは【ステイタス】を更新させてからのはずだ。

 後天系の魔法は度重なる【経験値】によって魔法スロットに発現し魔法スロットは最大で三つ。

 二つ魔法を持った魔法使いは【パーティー】に引っ張りだこ。

 これが神々の、そして冒険者達の常識だ。明らかにこの現象は異常である。

 

「よかった。いじった術式はしっかり保存されているみたいですね。多分ですけど『追加詠唱による効果変動』は『私が作った術式による効果変動』で、この【ソル】という魔法は『雷よ』から組まれる術式をトリガーに発動する【創作魔法】の通称だと思います。拡散を直線に書き換えるだけでも結構苦労してしまいましたけど魔法スロットを使わないならどんどん新しいのを考えてみようかな」

 

 スズが何を言っているのかが分からなかった。

 そのあまりに希少価値のある魔法が怖くて理解したくなかった。

 『魔法を創作でき』『創作した術式は保存され』『その術式を自由に選択可能』な便利【魔法】を一スロットで使える。

 エルフの【魔法】限定だが全てのエルフの【魔法】を【召喚魔法】として行使できる魔法使い泣かせがいるという風噂を聞いたことがあるが、『一から術式を組み立て』て『詠唱文として要約し』それを『一スロットにまとめる』なんて【とんでも魔法】なんて見たことも聞いたこともない。

 

 しかもその異常性にスズはまだ気づいておらず『スロットを消費しないから便利だな』程度にしか思っていない。

 このままだと人前でも平気で三つ以上の魔法を使ってしまい、神々からも冒険者からも色々な意味で狙われることになるだろう。

 

 【雷魔戦鎚】に加えて【魔法】までも知られるだけで本人の意思関係なく取り合い待ったなし。

 むしろ【雷魔戦鎚】の効果である『魔法術式制御』というよく分からない項目が【ソル】という【創作魔法】を作り出してしまっているのだろう。

 拡散させる電撃を直進させるだけで苦労したという言葉を信じるならそう簡単には新しい術式は登録されないとは思うが、雷属性限定とはいえ時間を掛けて術式を作ればスズは好きな効果の長詠唱魔法を三つ以上所持して使い分けることができることになる。

 

 『レアスキル』や『オリジナル』という言葉が大好きな娯楽に飢えた神も戦力が欲しい神も何が何でもこの貴重なスズという少女を欲しがることだろう。

 

「スズ君。魔法は最大で三スロットだ。聡い君なら、一昨日の注意事項だけでもこの意味わかるだろう?」

「あ……すみません。ちょっと浮かれてました。そうですね、人前では三つ。詠唱の方もなるべく聞かれないようにします。でも、自分で術式を組んで発展させる【ソル】は発展させていかなければゴブリンすら一撃で倒せないほど低威力です。ですから―――」

 

「気を付けてくれればそれでいいんだ。ボクはスズ君を失うのが怖い。理不尽に他人に奪われてしまうのが怖いだけなんだよ。ボクやベル君の為に頑張りたいっていう君の意志をボクは反対しない。尊重もすする。応援もする。でもボクやベル君も同じようにスズ君の為に頑張りたいんだ。家族を失いたくないのは皆同じなんだぜ?」

 一番最初に眷族になってくれたスズとベルを失いたくないから、子供をあやすように優しくスズの頭を撫でてあげる。

 

「神様。その……このことはベルにも話したらいけないのでしょうか?」

「うむむむむ。ベル君は人に嘘をついたりごまかしたりするのが得意ではなさそうなんだよなぁ。でも【ファミリア】内で信頼できる人物ならこのことを話した方がいいと思うな。パーティーで戦う中どんな魔法が必要だとか何かいいアイディアはないかとか相談するのもいいし、大切な人に隠し事をし続けるというのも辛いだろ? ベル君としっかり話し合って外に情報を漏らさないように気を付ければ問題ないと思うぜ、スズ君」

「ありがとうございます神様ッ!! ベルを呼びに行ってきますね!!」

 ぱたぱたと嬉しそうに駆けていくスズの後姿が、大きなリボンの先から生える小さなポニーテールが小さく揺らす姿が、なんとなく猫が嬉しさに尻尾を直立させて振っているように見えてしまい、これからベルにもスズについての大切な話をするというのにヘスティアの頬が思わずゆるんでしまう。

 

 ベルにこのことを簡単に説明するとスズがすごい魔法使いとしてすごい才能を持っていることを自分のことのように喜んで「スズはすごいな。僕も頑張らないと!」と気合を入れ、外に知られると狙われるかもしれないことを話すと顔を青ざめさせ、すぐに真剣な顔つきで話を聞いて今後注意していくことを三人で話し合った。

 

 結局、冒険者の情報は生命線という基本を守れば何事も起こらないので普段通り気を付ければいいだけということに落ち着いてしまい、やや拍子抜けで終わった家族会議になってしまったが、取り返しのつかない事態になる前にスズとベルに情報の大切さと珍しい物への周りの執着心を知ってもらえたのは大きいだろう。

 

「スズ!! 眠そうだけど大丈夫!?」

 そんな家族会議の後、ベルの慌てたような言葉にヘスティアがスズに目を向けると、うとうとと今にでも床にこてんと倒れて眠ってしまいそうな状態になっていた。

 

 まだ幼いということもあるが、今日が初めてのダンジョンで疲れもたまっているし、少量とはいえ酒も飲んでいる。昨日も一昨日もスズは夜の八時ごろには床に入っていたのに、現在の時刻は夜の十時を超えているのだ。スズの活動時間は限界にきている。

 

「うわー!わー! すまないスズ君! 君の床の時間をすっかり忘れていたよっ! もう大事なことは話し終わっているから早く寝るんだっ! 今すぐに! あ、歯磨きはちゃんとしたかい!? そうだ寝巻に着替えさせてあげないと!! そんなことも気づけないへっぽこ神様でごめんよおおおおおおおっ!!」

「かかかかかか、神様!! 落ち着いて下さい!! まだ僕も部屋にいますしスズを着替えさせてあげるのは僕が出て行ってからにしてあげてくださいっ!!!」

「わー! わー! わーつ!! ベル君見てはダメだっ!! スズ君も女の子なんだから同じ家族でも着替えをのぞくなんて絶対にダメだっ!! 君はスズ君をまた泣かせる気かい!?」

「脱がせてるのは神様でしょう!? すぐに出ていきますから!!」

 顔を耳まで真っ赤にさせながらベルは既に背中を向けてドアまで走り出していた。

 

 そんな中よほど眠くて頭が働いていないのかスズの反応は皆無で「お母様……自分できがえられますからぁ」と完全に寝ぼけてしまっている。

 意識もはっきりしてなくてこのことは覚えていないだろうから、スズの為にもまたちらっとだけだがベルに素肌を見させてしまったことは黙っておくことにした。

 

 それとヘスティア自身が脱がせておいてなんだが、コートの下の上着がハイネックの黒いインナーだけというのもまだ子供とはいえ危機感が足りないなと思ってしまう。

 外に出る時や家事をしている時は破れても汚れても大丈夫な無駄に高性能なコートを着ているからいいものの、今日家で生活している時はコートを脱いでこのインナーとフリルのついたミニスカートというあまりにもラフすぎる格好であり、そのインナーの下には薄いキャミソールを着ているだけだ。

 

 濡れたり汗でもかこうものなら肌に張り付いてベルがとても直視できないことになってしまうだろう。

 そうでなくとも肌にフィットしているせいでキャミソールのラインがまるわかりである。

 

 

 よくよく見ればおへそも透けているではないか。危険だ。実に危険である。

 

 

 スズ本人からすればこのままさっと防具を着てその上からコートを着れるような格好として選んでいるのだと思うのだが、ミニスカートと黒いハイーニーソックスの『絶対領域』も加わり、『パンチラ』を防ぐ為にはかれているだろうストッキングインナーは逆にショーツが透けて見え、その食い込みに加え小さなお尻のラインを強調させてしまっており『キタこれ』『ダンケダンケ』『無知シチュキタこれ』『幼女ハァハァ』と防具をつけていない状態でコートを脱いだだけでも飛びついてくる神は多いだろう。

 

 スズは『純粋無垢』なのに『エロス』をかね揃えた『ロリコンホイホイ』を作り出してしまっているのだ。

 愛しの眷族を無意識のまま『ハイエースまったなし』な状態にしておくのは大問題である。

 

 初日にベルに裸を見られて赤面していたことからスズには羞恥心がある。

 それでも幼さから『服を着ているから大丈夫』と透けてしまうことなんて頭になく単純に考えてしまっているのだろう。

 冒険用ではなくお出かけ用の衣服はフリルのついた可愛らしいものを二着もってきているし、冒険に出なかった昨日一昨日はその衣服で過ごしていたことからも好んで露出しているわけではないのは確かだ。

 

 子供ゆえの無邪気で無知というのは恐ろしいものである。

 

 今度貯めているお金を使って冒険に着ていく用に、透けにくい似たようなハイネックのインナーシャツを買ってあげた方がいいだろう。

 同じ大きさのスパッツも必要だ。

 『見られても大丈夫だもん』なものを薄い生地にしたら『エロス』が増すだけで何の防御にもなりはしない。

 これらスズの衣服や生活品を荷造りをしてくれたのは同じ里で交易をしているお姉さんらしいのだがそのお姉さんは狙ってこのような『あざといエロス』を『純真無垢な少女』に着させようとしていたのだろうか。

 

 そう思うと大っ嫌いなロキも可愛い服や『エロス』な服を眷族に無理を言って着させているという噂を思い出し、まだ見ぬ交易お姉さんのことも腹立たしく思えてきてしまう。

 

 とにかく今はスズの貞操と初心なベルの精神を守る為にも必要な失費だとヘスティアは可愛い眷族達の為に失費を覚悟するのであった。

 

 




 チート【魔法】である【ソル】についての補足説明
雷神トール(ソール)を由来に雷属性の魔法を自由に創作する『ソル』という名前が付けられました。また【ソルガ】は語感が良かったことと、ある小惑星の名前元である【スルガ(天国)】から名付けられております。
この【ソルガ】に主神がスティア様なことから【ギリシャ語の単語】をくつけたものが魔法名となり、それぞれ【雷よ。】から始まる専用の詠唱文が一スロットに詳細文として記載されていくのが【創作魔法】である【ソル】です。

 例
・カルディア・フィリ・ソルガ『雷よ。私の想いを届け給え。』

一から術式をくみ上げるので座標設定などにも四苦八苦しながらゆっくり【創作魔法】を作ったり、時には【スキル】の影響で急に【魔法】が発現したりしますが、これからも『少女』を見守って下さると幸いです。

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