スズ・クラネルという少女の物語   作:へたペン

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神会(デナトゥス)のお話。


Chapter01『神会』

 『神会(デナトゥス)』。それは三カ月に一度暇な神々が集まり今ホットな話題を出し合ったりランクアップした子供達に『痛恨の名』を与える場である。

 

 子供達が意味を理解しないままカッコいいと目を輝かせる中、神々が笑い転げる『痛い名前』を付けるのだ。

 その性質上LV.2以上の冒険者が【ファミリア】にいなければ参加資格さえもらえない。

 

 ベルがLV.2となり参加資格を得たヘスティアは何が何でもベルが笑いものになる様な二つ名がつけられないよう闘志を燃やしているが、新参者はたいてい酷い名前を付けられる的になる。

 

 さらに言えば新参者が逆らえば逆らうほど、悶えれば悶えるほど古参の神々は面白がって『痛恨の名』を出し合ってくるのだ。

 賄賂を渡すかランクアップした人物がよほど神々に気に入られるかしなければ新参者が待ちうける末路は決まって悲惨である。

 

 ヘスティアは表面上は落ち着いているように装いつつも、なんとか無難な二つ名を勝ち取れないかを考えるが、知り合いのタケミカヅチやヘファイストスがまともな意見を言ってくれても多数決の前には多勢に無勢。

 

 わかっていても諦めきれるわけがない。

 例え裸になって盆踊りをすることになってもヘスティアはベルの二つ名を勝ち取る意気込みだけはあった。逆に言うとあるのは意気込みだけな訳だが。

 

「第ン千回神会(デナトゥス)開かせてもらいます、今回の司会進行役はうちことロキや! よろしくな!」

 しかしよりによって司会進行役が仲の悪いロキだった。

 

 【ロキ・ファミリア】の団員がほとんど遠征に出向いてしまっているので暇だから司会進行役を引き受けたらしい。

 ロキがちらりとヘスティアの方に目をやって来たのでいつものように突っかかってくるのかと身構えるが何故だか悔しそうにしているだけで何もしてこない。

 前会った時といい一体どうしてしまったのだろうか。

 

「っと、あかん。今は神会(デナトゥス)の方やったな。よぉし、サクサクいくで! まずは情報交換や。面白いネタ報告するもんおるかー?」

「はいはーい。ソーマ君がギルドに警告くらって唯一の趣味を没収された後、『白猫ちゃん』に更生されて真面目になりましたー」

 

『『『なん、だと』』』

 

「『白猫ちゃん』お友達の為に【ファミリア】乗り込んだのか」「孤独神更生するとか『白猫ちゃん』マジ天使」「同じ月に転落死してた【ミアハ・ファミリア】も救ったらしいぞ」「貴方が神か」「俺がガネーシャだっ!」「はいはいガネーシャ、ガネーシャ」「でもダンジョンに穴開けたのはやっぱり『白猫ちゃん』の『OHANASI砲』って噂だぜ」「「「「魔王の『OHANASI砲』キター!!!」」」」

 

 ホットな話題がスズのものだらけだ。

 当然次に来るのはミノタウロスを倒した話題だろうか。

 

「すまない、話の腰を折るようで悪いんだが、ラキアがまた迷宮都市(オラリオ)に攻め込む準備をしているらしい」

「ほんと突然だな」

「あのバカ神そろそろ何とかした方がいいんじゃないか。ほら、レスクヴァ様に直接『OHANASI砲』をぶち込んでもらうとか」

「『白猫ちゃん』がセクハラされたって里に伝えれば滅ぶんじゃね?」

「『無敵のOHANASI砲でなんとかしてくださいよ!!』」

「『やめたげてよお!』」

 

 ラキアが無駄に攻めてきて追い返されるのはいつものことなのでノリは相変わらず軽い。

 

「悪い。もっとテンション下がる話していいか?」

 そんな中、また話の腰を折る様に一人の神が手を上げた。

 

「多分なんかの間違いだと思うんだが、先月から『レスクヴァの里』からの蜂蜜酒の輸入が止まってるんだ。『白猫ちゃん』が迷宮都市(オラリオ)に来た理由によっては緊急事態だと思うんだが」

 

 どんな話題が出ても盛り上がっていたその場が一瞬で静まり返った。

「どうせレスクヴァが何かやらかして酒蔵でも全滅させたとかそんなとこやろ。あのレスクヴァがそこらのもんに負ける訳あらへん。レスクヴァはバカやけど誰よりも『黒竜』の力理解してるんや。唯一負ける可能性があるのはその『黒竜』だけや。勝てる条件がそろわなければ挑んだりもせーへんって。そうやろドチビ?」

 

 スクハには何を聞かれても「聞いてない」「知らない」を突き通せと言われているがこれは突き通していい問題なのだろうか。

 スズは里全ての住人が家族な『レスクヴァの里』から『身内がいなくなって迷宮都市(オラリオ)にやって来た』のだ。

 『レスクヴァの里』は精霊レスクヴァを含めて滅んでしまっていると見ていいだろう。

 

 それは外にレスクヴァの里を滅ぼせる何かが潜んでいることになってしまう。

 そんなもの迷宮都市(オラリオ)の冒険者以外が対処できる訳がない。

 放置していては後々危うくなる事態だろう。

 

「ボクは何も聞いてない。『レスクヴァの里』を知ったのだってつい最近さ。でも、もし本当に『レスクヴァの里』に何かあったとしたら、それはスズ君にとって思い出したくもない出来事な筈だ。出来ることならギルドに調べてもらいたい。ロキの方からギルドに申請してもらえると助かるんだけど……」

 

 だからヘスティアは無難な回答を選んだ。

 放置し続けていても話題に上がっている以上いつかはバレることだ。

 ならば『悪夢』に関することをスズに直接聞かれるよりも調べに行ってもらった方がいい。

 

「そんなことだろうと思っとったわ。棚ぼたとか羨ましすぎるわボケェ! 何もないと思うけどドチビの言う通りこの件はギルドに調べてもらうのが一番やな。ギルドに報告するのはラキアのことと『レスクヴァの里』のことだけでええか?」

 

「そうね。『白猫ちゃん』が抱える心の傷が『里の全滅』だとしたら蜜壺を突いて壊す真似は避けてもらいたいわ。『巫女』さえ残っていれば里が立て直せるというのもあるけど、なによりも可愛い『白猫ちゃん』を意地悪く問い詰めるなんて可哀そうじゃない」

 

 さらりとフレイヤまで会話に混ざってくる。

 ロキとフレイヤの発言力は強いので言いにくいことをカバーしてくれたのは助かるのだがヘスティアは二人のことが苦手なので複雑な心境だった。

 

 二人がスズのことを引き抜こうと企んでいるんじゃないかと疑心暗鬼になりそうだが、少なくともスズが嫌がるやり方では引き抜きをしてこなさそうなのでまだわかりやすくて安全だ。

 

 問題は先ほどから気持ち悪い笑みを浮かべて沈黙を守っているアポロンだ。

 彼は幼い子供から美形まで男女問わず性的な意味で愛する生粋の変態だ。

 天界に居た頃に求婚されしつこく追い回された日々は思い出したくもない。

 アポロンの場合はベルも狙ってきそうなので油断ならないのだ。

 

「さて、ありえない湿っぽい話はおいといてお待ちかねの命名式や!」

「「「イエアアアアアアアアアアアッ!!」」」

 

 テンションが下がった分上がるのも激しかった。

 神なのだから大なり小なりスズが心に傷を負っていることを気づいている筈なのだが誰一人として『レスクヴァの里』の心配をしている様子はない。

 

 人外魔境を心配するだけ無駄だと思っているのだろう。

 スクハに世界の危機に成りえる事件だったかどうかくらいは聞いておくべきだったかもしれないが、ここしばらく聞ける状態ではなかったし、スズと同じで心優しいスクハが何も言わないということはそこまで気にするべきことではないということだろうか。

 

 色々悩んでいる間に『暁の聖竜騎士(バーニング・ファイティング・ファイター)』『(ぜつ)(えい)』『美尾爛手(ビオランテ)』『M87万度の闘士(ミラクル・ファイアー・ヘッド)』などの『痛恨の名』が生み出されていき我が子に変な二つ名がつけられた神の悲痛の叫びとそれをあざ笑う神々の図は予想以上に酷かった。

 

 いつも通り美の神イシュタルがフレイヤに突っかかり軽くあしらわれている会話の中に『中層でミノタウロスと遊んでいたら覆面のアマゾネスに襲われて暴走した』という情報が含まれていたが、スズをひいき目に見ているフレイヤが奪うならともかく傷つけるとは思えない。

 偶然が重なったか事故と見るべきだろう。

 

 LV.6になったアイズの命名式も「最終的には『神々(おれたち)の嫁だけどな』「殺すぞ」「すいませんでしたぁぁぁっ!」と流れるように元の『剣姫』で落ち着いている。

 

「さて、最後は『白兎君』の二つ名やな」

「「「「『白猫ちゃん』がいない、だと」」」

 

「まあ『巫女』やからしゃーない。『恩恵』にまだ馴染み切れてないんやろ。今月中にでも『白兎君』追ってランクアップする筈やから三カ月後に祝ってあげたらええ。うちのアイズたんの記録をドチビのとこのがほいほい塗り替えられるのは癪やけどな。悪いのはドチビであって『白猫たん』じゃあらへん! せめてもの腹いせに『白兎君』には変な二つ名つけたる! お前ら準備はええか!?」

 

「「「ま か せ ろ」」」

 

 しかし変な方向に恨みというか八つ当たりの矛先が向いてしまった。

 どうやらロキはスズやレスクヴァのことは好きでもベルのことはどうでもいいらしい。

 

 これはもしかしなくてもベルが実の兄でないことがバレているのだろうか。

 それとも実の兄でも関係なくこの神々は変な名前をスズが手に入らない憂さ晴らしとばかりにつける気なのだろうか。

 

 その場のノリで生きているような神々だ。

 後者の可能性が高い。

 

「『首狩り兎(ボーパルラビット)』!」

「『斗人参家(とにんじんか)』!」

「『神々の義兄(おれたちのあに)』!」

「『絶対勝利の下半身(エクスカリバー)』!」

「『使子根(シスコン)』!」

「『太硬暴砲(スペルマ・インサーション)』!」

「『世界最速射(レコードホルダー)』」

 

「ままままま、待つんだ! 頼むからそんな二つ名を付けないでくれよ! ベル君はボクの大切な子供なんだ! 何よりもスズ君のお兄さんなんだぞ!?」

 

「「「「あんないい子を妹とかそれだけで罪! というか周り女しかいなくて男の敵だっ!!!」」」」

 

「ボクは何でもするからベル君とスズ君は見逃しておくれよ!?」

「ん……なんで―――――」

「それは『白猫ちゃん』が泣くだろうが腐れ太陽! お前は光籠童の尻でも掘ってろっ!!」

 

「「「太陽×光籠童の本はよ」」」

 

「こいつ腐ってやがる。早すぎたんだ」

 

「「「フヒヒ……サーセン」」」

 

 ヘファイストスとタケミカヅチがまともな意見を言ってくれるが当然ながらこの混沌空間は止まらない。

 女神にベルは人気なのか女神達はまだマシな名前を付けてくれるが自分達にちなんだ二つ名をつけようとしているからこれも却下だ。

 

 ヘスティアの頼みの綱だった『なんでも』が通用しない以上、後は泣いて駄々をこねるしかないが神相手には逆効果である。

 面白がってさらに変な名前になるのはわかり切っていた。ヘスティアはベルの為に何もしてあげられない己の無力さに唇を噛みしめる。

 

「ロキ、『白猫ちゃん』……というよりも『巫女』はレスクヴァと同じで私達よりなことを忘れてないかしら?」

 

 まさに鶴の一声だった。

 フレイヤのその一言でその場が静まり返った。

 

 スズが二つ名の意味を正確に理解できる感性の持ち主だと思っていなかったのだろう。

 先ほどまで騒いでいた男神達の顔が青ざめていく。

 

「忠告も終わったし私は帰るけれど、『白猫ちゃん』の為に『白兎君』にも可愛い名前を付けてあげてね?」

 

 フレイヤがそう微笑むと男神達が陥落した。

 美の女神とスズのことが絡んだことで見事な手のひら返しである。

 

「危ないとこやったわ。こんなことで『白猫たん』に嫌われでもしたらうちアイズたんに慰めてもらわな立ち直れへんとこやったわ。ドチビ命拾いしたな!」

「スズ君に今日のこと全部伝えてやる。主犯ロキとして」

「それマジでやめて! うちが今しとるおもてなしの準備を台無しにするとか鬼かドチビッ!!」

 

「ボクのスズ君を何勝手に招待しようとしてるんだっ!! ギルドに訴えるぞ!!」

「そんくらいでギルドが動くかボケェ!! それにな、うちはスズたんと友達の了承貰ってるんや! 友達家に招待するくらいええやろ!!」

 

「あら、告白したら『お友達なら』と断られたと私は聞いたのだけど、気のせいだったかしら?」

「フレイヤ帰る言うときながら何ドアの隙間からのぞいてんねん! いいからはよどっか行け!!」

「ふふふ……ごめんなさいね。自分の子供達以外のことで取り乱すロキがあまりに可愛かったからつい」

「帰れっ!」

 ロキの怒鳴り声にフレイヤは余裕の笑みを浮かべて手を振りそっとドアを閉めて行った。

 

「しかし真面目に考えるって言ってもなぁ。『白兎君』の特徴ってなんだ?」

 

「優しい?」「初心?」「正義感強い?」「可愛い」「食べたい」「おい表出ろ」「兎」「いやまあ『白兎君』だし。他には?」「そんなことよりおうどん食べたいです」「帰れ!」

 

「格上キラー?」

「いや、それは『白猫ちゃん』とセットだったからだろ」

「大体雑すぎだろこの資料。なんだよこの【ファイアボルト】、効果『相手は死ぬ』って。ネタは浮かんでも真面目なの浮かばねぇぞ」

「ガネーシャ様、何か意見ないー?」

「俺がガネーシャだ!」

「はいはいガネーシャガネーシャ」

 

 フレイヤのおかげでまともな方向に行ってくれたものの中々無難な名前が出てきてくれない。

 出てきてくれないのだからヘスティアの意見を聞いてくれればいいのにそれは意地でも嫌らしい。

 

「『リトル・ルーキー』とかは?」

 無難な名前が出てきてヘスティアは思わずガッツポーズをとった。

 

「可愛いけどもっとこう、あれだよ。パンチ力ほしいだろ。『あの里』出身だぞ。一目であの里ってわかる名前の方がいいって」

 しかしそれがいけなかったのか却下されてしまう。

 無難な二つ名にパンチ力なんて必要ない。

 むしろ『レスクヴァの里』とわかる名前にフレイヤの言う可愛いものなんてあるのだろうか。

 

「じゃあ『リトル・レスクヴァ』」

「それは『白猫ちゃん』だろ」

「むしろ『白猫ちゃん』は『綺麗な方のレスクヴァ』だろ」

「レスクヴァ様こっちです」

 

「「「や め て」」」

 

「じゃあ『リトル・シャールヴィ』? お兄さんだし」

「なんか違くね?」

「『ク・リトル・リトル』だっ!」

「「「リトルしかのこってねぇじゃねぇか!!」」」

 

「もう『白兎』でよくね?」

「待て待て待て。フレイヤ様に任されたんだぞ。それなら『リトル・ルーキー』の方が捻りもある」

「でもほら、弱そうじゃね? 誰かちょっかい出してきそうじゃね? 『最速だか何だか知らねぇが生意気なガキだ。俺がひねりつぶしてやるぜ』なんてつっかかるバカが出て来るんじゃね?」

「何その命知らず。レスクヴァ様に『OHANASI砲』を撃たれればいいのに」

 

 こんな不毛で無意味な会議はしばらく続き、ベルの二つ名は『最速の白兎(リトル・ルーキー)』に決まった。

 普通に『リトル・ルーキー』で良かった筈なのになぜこうも神はルビをつけたがるのか。

 こうしてルビはどこかおかしいが一応無難な名前を貰うことが出来たのだった。

 

 

§

 

 

「『最速の白兎(リトル・ルーキー)』……ですか。なんというかその、普通ですね」

「何を言うんだベル君! これ以外君にふさわしい二つ名はない! それともなにかい、この二つ名は気に入らないっていうのかい?」

「い、いえ! そんなことないです! 嬉しいです! 嬉しいんですけど、その……想像していたのと違くて……」

 

 『神会(デナトゥス)』から帰って来たヘスティアから二つ名を聞かされたベルは少し残念そうにしていたが、フレイヤのおかげとはいえ無事に無難な二つ名をあげることが出来てほっとしていた。

 

 予想以上に酷い会議内容に加えて、あそこまでレスクヴァとスズが人気だったのは予想外だった。今はレスクヴァが抑止力になってくれているが、レスクヴァが既にいないかもしれないことを知られた時どのような行動をとってくるかわからないのが怖い。

 

「さて、ボクはこの後神友の付き合いで飲み会に行かないといけないんだけど、その前にスズ君…というよりもスクハ君に用事があるんだけどいいかな?」

「すーちゃんと、ですか?」

「ほんの数分だけ内緒話をさせてもらいたいんだ。ベル君も少しだけ席を外しててもらいたい」

 だからスクハに『悪夢』に触れない程度の情報だけでも聞いておきたかった。

 

「何かあったんですか?」

「いや、スズ君が心配するようなことじゃなくって、その……す、スクハ君から相談ごとを受けていてね」

 ブラフでベルに目線を送るとベルは首を傾げてスズはどこか嬉しそうに笑った。

 

「すーちゃんの悩みよろしくお願いしますね。ベル、ちょっとだけ外に出ててね?」

「えっと…スクハが何か悩んでるなら僕も相談に乗ってあげたいんだけど…」

「そういう深刻な話じゃなくって、女の子同士の雑談だよ。すーちゃんも日記で書いてくれればいいの――――――――――――」

 

 

 

『ベルは出ていきなさい。それとヘスティアはそこで正座しなさい。今すぐに』

 

 

 

 スクハが反射的に謝るベルを問答無用でドアから叩き出しヘスティアを睨みつけた。

「す、スクハ君。ほら、飲み会に行く前に状況確認をしておきたかったんだよ。だからそんなにおこら――――――――」

『怒るなという方が無理があると思うのだけれど。よりにもよって『私』がベル・クラネルに好意を抱いているような誘導をするのは止めてもらえないかしら。今の完全に誤解されたわ。ありえない誤解をされてしまったわ。これっぽっちも好きでもない相手のことを異性として好きだと誤解されてしまったわ』

 

「そんなこと言って、まんざらでも―――――――――――」

『燃やすわよ』

「ごめんよスクハ君! スズ君もベル君と同じ反応をすると思ったんだよ!」

 

 頬を赤めているスクハをこれ以上刺激するのは不味いとヘスティアは慌てて土下座する。

 ヘスティアだってスズがあそこまで気が回るとは思わなかったのだ。

 

 スクハを呼び出す為の餌としての意味合いと、意味は伝わらなくてもスズにそれとなくベルには聞かれたくない相談だと伝えるだけのつもりが、スクハを呼び寄せる為の餌部分を恋愛にうとそうなスズが真に受けるとは思わなかった。

 

『……私を呼び出したかっただけだとわかっているから不問にするけれど、後でフォローをする私の身になってもらえるとありがたいわ』

 

「本当にごめんよ」

 

『見苦しいからもう頭をあげなさい。まったく、これではまるで私が貴女のことをいじめているみたいじゃない。それで『私』の里についてでいいのかしら?』

 

「あ、ああ。君の里とレスクヴァがどうなったのか話せる範囲でいいから聞きたいんだ。蜂蜜酒の輸入が止まっているということで、まだ誰も心配してないもののギルドが調べることになった」

 

『そう。貴女が心配するような世界の危機とかはないけれど、そうね……。精霊レスクヴァは居ないと思っていいわ』

 

 曖昧な答えが返ってきた。

 『居ない』と言い切らず『居ないと思った方がいい』と濁した言い方をすることでスズの心を守っているのだろうか。

 

『この件に関しては全て『私』が引き受けるから、貴女は『スズ・クラネル』を幸せにすることだけを考えなさい。ギルドに調べられても何も変わりはしないわ』

 

「変わらないって……」

 

『『スズ・クラネル』に変わるから話はここまでよ。貴方達にも迷宮都市(オラリオ)にも迷惑を掛けるつもりはないわ。『私』が全部引き受けるから安心しなさい』

 

 会話を続けさせずそれだけを言い残してスクハは引っ込んでしまった。

 この話題に触れようとしたらこれからもきっとスクハはこうやって逃げてしまうだろう。

 

「すーちゃんどうでしたか?」

「ちょっと意地を張ってたかな。もう少し頼ってくれると嬉しいんだけど……」

 

 スクハは一人で抱え過ぎている。

 スズが幸せならば十分だと言っているが、ヘスティアにとってスクハも大事な家族だ。

 それだけで十分だなんてヘスティアは納得出来なかった。

 

「体を使うの嫌がってますからね。あ、神様。お時間大丈夫ですか?」

「え? わ、もうすぐ集合時間じゃないか!! ごめんスズ君、また後で!」

「神様いってらっしゃい」

「行ってくるよ、スズ君!」

 

 スクハのことは気になるがヘファイストスと約束をしているのですっぽかす訳にはいかない。

 慌ただしく準備をしてホームを飛び出して行く。

 

「すーちゃんにデートさせてあげられる方法考えておきますね」

 

 ベルにも別れの挨拶をしているヘスティアは、そんなスズの小声を聞き逃してしまうのだった。

 

 




ベル君の二つ名は『最速の白兎(リトル・ルーキー)』となりました。
声で出すと同じなのに、神々のテンション向上により需要がまとまったもののルビとなったようです。
次回ヴェルなんとかさんが出せるところまで書ければいいのですが、もしかしたら酒場シーンか、デート(仮)シーンで終わってしまうかもしれません。
のんびりとヴェルなんとかさんの登場をお待ちください。

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