スズがある程度動けるようになったので、ヘスティアはスズが倒れたきりやっていなかった【ステイタス】更新作業に入っていた。
「最近スクハ君はスズ君と交換日記をしてるそうじゃないか。スズ君が取り乱したり、君達が互いに譲り合って気まずくなるんじゃないかと、ボクもすごく不安だったから仲良く共存できているようでボクはとても嬉しいよ」
スズがスクハの存在を知ってヘスティアとの会話時間も認めているので別にもう更新中に話さなくてもいいのだが、こうやって更新作業をしながら話すのが日課になってるし、ベルに聞かれたくない本音の掛け合いをするのは止めたくなかったので、なんだかんだでどちらも逃げることの出来ない更新中の会話がヘスティアとスクハにとって一番しっくりくるコミュニケーション方法だった。
『私も少し気を遣わずにすんでほっとしているところよ。『スズ・クラネル』とのやり取りは嫌ではないし、あの子がそれで笑ってくれるのなら『私』は嬉しいわ』
「スズ君にはやけに素直だね。ボクとの会話はどうなんだい、すーちゃん?」
『嫌いになられたくなければそんな恥ずかしい名前で呼ばないでくれないかしら』
「ならそう呼ばなければボクのこと好きでいてくれるのかい、スクハ君?」
『……嫌いではないわ。ただそれだよ』
ぼふぼふぼふと今日も枕を愛用している様子を見てヘスティアは満足そうに頬を緩ませる。
しかしスクハは落ち着いたところで思わぬ反撃を仕掛けて来た。
『そういえば言い忘れていたのだけれど、明日ベルが『剣姫』とデートに行くわよ』
「ぶううううううううううううううううううううううううっ!! どどどどどどどういうことだいスクハ君!? なんでそんな大事なことを言わなかったんだ! むしろ止めなかったんだッ!!」
『冗談よ』
「タチが悪い冗談はやめておくれよ、まったく。ヴァレンなにがしなんかにボクのベル君をくれてやるもんか!」
ふん、とヘスティアが鼻を鳴らすと『ふふふ』とスクハが不敵にわざとらしく声を出す。
『厳密に言えば密会ね。人気のない夜明け前の薄暗い時間。人が一切来ない市壁の上で。『スズ・クラネル』同行の密会よ。きっと激しく体と体が触れ合うでしょうね。ちょっと二人にはまだ早いと思うし、『スズ・クラネル』はまだ幼いのに加えて今は体力を消耗しているから同意の上とはいえ少し心配ね。体への負担が大きいだろうし、あまり激しく動いてくれなければいいのだけれど。三人が同意の上なら仕方ないわね。それにしてもあの『剣姫』がまさか二人を誘ってくるなんて思いもしなかったわ』
ヘスティアにとって、デートという流れからくる不意打ちは爆弾発言でしかなかった。
人気のない時間と場所で三人で激しく体を触れ合わせる密会。
しかも幼いスズには負担が大きくて激しくしないでもらいたいことで、それでも三人が同意なら仕方ないこと。
断じて仕方なくないとヘスティアが爆発した。
「な、な、な、な、な、ベル君だけでなくスズ君も!? 君達は一体ナニをする気なんだ!! そこまで心配してるのに、というよりもわかっているのに何で止めなかったんだスクハ君っ!! ベル君もベル君だ! そ、そ、そ、そ、そ、そんな、さ、さ、さ三人でなんて破廉恥な提案を受け入れる子に育てた覚えはないぞ!? 初心なベル君は一体どこに行ってしまったんだい!? スズ君が可哀想だろっ!! せめてホームでスズ君とだけしておくれよ!! スズ君だけに愛情をそそいでおくれよ!! 優しくしてあげておくれよ!! 外でなんて、三人でなんて、一体全体どういうつもりで―――」
『ちなみに、ただの戦闘訓練のお誘いよ。一体貴方は何を想像したのか話してもらえないかしら、処女神様?』
ヘスティアが数秒間完全停止して、ボンと顔が真っ赤に染まる。
「違います神様! 誤解です! そもそも僕がスズに手を出す訳ないじゃないですか!? スズはもう僕の妹ですし、まだあんなに小さいんですよ!? そ、そ、そ、そんな酷いこと出来る訳ないです!! 間違ってもしません!! 一体スクハは何て説明しちゃったのっ!?」
大声で叫び過ぎたせいでドアの向こうのベルにまで聞こえてしまったのだろう。
ベルの必死な叫びが聞こえて来た。
優しいベルのことだからこんなことでヘスティアを見損なったりしないし、むしろヘスティアに信頼されるように頑張ってしまうような子なのはわかっているが、盛大な勘違いをスクハに誘導されて、その勘違いで叫んだ発言をよりにもよって愛しのベルに聞かれてしまった。
仕返しにしてはやりすぎだろうとプルプルとヘスティアは体を震わせて次第に涙目になってしまう。
『ヘスティアをいじめすぎたわ。なだめるからベルはもう少しだけ待ってなさい』
「スクハもしかして神様泣かせちゃったの!?」
『わ、私だってまさか泣くとは思わなかったのよ。やらかしたことは自分で何とかするから階段の上に戻りなさい』
「泣いてないやい!」
ヘスティアは涙目のまま泣き切らず、機嫌は最悪になっていた。
いつも意地悪をしている自分も悪いがこれはあんまりな仕打ちだと思い、ただ謝るだけじゃ許してやるもんかとスズの更新を終わらせてソファーにふんぞり返る。
そんなヘスティアにスクハは大きく溜息をついてゆっくりと近づいて行った。
『ごめんなさい。ベルもちゃんとわかってくれてるから、ね。ほら泣き止みなさい。頭撫でてあげるから。大好きなジャガ丸くん手作りしてあげるから、ね。本当にごめんなさいヘスティア。意地悪しすぎたわ。『私』も『スズ・クラネル』もベルもヘスティアのこと大好きだから。嫌いになったり離れたりしないから』
スクハがヘスティアの体に抱き着き優しく頭を軽く撫でながら、まるで子供に言い聞かせるような温かい口調でそう言ってくれる。
スズとはどこか違うけど、やっぱりこの温かさを持った優しい心はスズの一部なんだなと実感できた。
「うぐぐぐぐ、大好きって言われるだけで許してしまうボクは、もしかしなくてもチョロくないか?」
『ものすごくチョロいわね。でも、あのくらいで泣かないでもらえないかしら。今の台詞、自分で言っていて恥ずかしくて消えたくなったわ』
「あ~、スクハ君の言葉でむ~ね~がい~た~い~」
『もう二度と言わないわよ、あんな台詞。今すぐ忘れなさい』
よほど恥ずかしかったのか、顔を真っ赤にしてスクハがそっぽを向いてしまう。
ベルに聞かれてしまったのは死ぬほど恥ずかしかったが、あのスクハが大好きだと言ってくれるだけではなく、抱き着いて頭を撫でてくれたのだからチャラどころかお釣りが返ってくる。
ヘスティアはご機嫌そうにスクハをまたベッドにうつ伏せにさせて、やり残していた【ステイタス】の書き写しに取り掛かるのだった。
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スズ・クラネル
力:h184⇒189 耐久:g250⇒287 器用:g223⇒226
敏捷:h170⇒190 魔力:c632⇒b748
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§
待ち合わせの時間よりも早くアイズはその場所にいた。
アイズがベルとスズの特訓をしてあげようと思ったのは、もちろんベルの『強くなりたい』という気持ちや、ミノタウロスに挑んだりレフィーヤをLV.1の身で庇うような無茶をするスズのことが心配だったり、レフィーヤを助けてくれたお礼や色々と迷惑を掛けてしまった謝罪など理由を探せばいくらでもある。
アイズ自身、二人のことを昔の自分と重ねてみてしまっていることもあり、何かと助けてあげたいと思っているのは事実だ。しかし大きな理由がもう一つだけあった。
二人のあまりに早すぎる成長速度の秘密を知りたい。
LV.1の身でミノタウロスの足止めをしただけでもスズが優れた戦闘センスを持っているのはわかる。
【魔法】が使え、さらには魔法並列処理を使えるのも仲間のレフィーヤを庇ってくれた食人花との戦闘で判明している。
だがその時【魔法】の威力は食人花にダメージを与えられるほどのものではなかった。
実は少し前にレフィーヤも無理をして3日間
少なくとも食人花の時に撃った【雷魔法】に命そのものを懸けて撃ち込んだとしても天井を貫くことは出来ないはずだ。
高火力であるレフィーヤの【魔法】も途中で威力が減衰していくため、階層をも貫く火炎で階層無視攻撃をしてくる『ヴァルガング・ドラゴン』の真似事は出来ない。
だがスズはこの半月にも満たない時間で無理をすれば壁抜きが出来る【魔法】か【スキル】を発現させた。
短期間での連続ランクアップを成し遂げたと考えるよりも貫通力に特化した何かを手に入れたと考える方が現実味があるだろう。
それは【魔法】や【スキル】だから真似しようがないのでこれは諦めがつく。
しかしベルは10階層を一人で攻略できると言っていた。
冒険歴1ヶ月な後衛職であるはずのベルがだ。
一撃でオークを倒せる火力を持っていたとしても、10階層は霧で視界が悪いのにも加え
群れで連携してくるインプもいる。
【魔法】だけで処理しようとすれば
純粋にこの短期間で魔力以外の【基本アビリティ】もBからAに到達してしているか、魔力がSに達して
どちらにしてもありえない成長速度だ。
そしてベルは【魔法】自体の威力も高い。
ミノタウロスに放った【長詠唱魔法】だって当たっていればミノタウロスを倒せる威力だった。
謎の漆黒の獣に襲われている時に放った別の【魔法】も階層を貫きはしなかったものの天井に大きな窪みを作ってしまったところを目撃している。
威力からこれも長詠唱だろう。
長詠唱は当然ソロには向かない。
使えなくはないが少なくとも魔法並行処理をしながら自衛できる【基本アビリティ】がなければ10階層の
情報をまとめると、ベルは【長詠唱魔法】を切り札にした【基本アビリティ】が軒並みBからAの冒険歴一ヶ月の駆けだし冒険者である。
そんなベルを守る前衛の【短詠唱魔法】を使うスズの【基本アビリティ】はどうなっているのだろうか。
AからSはありそうだ。
それに加えて壁抜きが出来る切り札を持っている。
二人の故郷が人外魔境だと『豊饒の酒場』の一件でロキが嬉しそうに語ったことがあるのだが、その言葉の意味がようやくわかった。
確かに常識を逸している。
だからアイズはベルと訓練をする約束を交わした後、LV.1冒険者が壁抜きなんて出来るのかと『あの里』に詳しいロキに聞いてみた。
するとロキは『『あの里』の連中を基準に考えたらあかんで、アイズ。あいつら大真面目に『神の恩恵』なしで神の域を目指してる連中や。いや、長が掲げる『打倒黒龍』『目指せ超英雄』なんてアホなことに付き合うお人好し連中って言った方が正しいかもしれへんなぁ。とにかく『神の力』つこうてないからアウトやないんやけど、限りなくセウトやからな。特にスズたんはすごいで。あの魂に染みついた
『神の域を目指している連中』ということは目指すための方法が何かあるはずである。
少しでも自分が強くなるきっかけが欲しくて、アイズは心優しい二人から技術を盗もうとしている。
アイズは罪悪感で心を痛めるが、それでもアイズは強くなりたかった。
そしてそれ以上に二人を強くしてあげたかった。
きっと二人は自分なんかよりずっと強くて綺麗な生き方をしてくれると感じたから、綺麗な夢を抱いたまま強くなって欲しくて手を貸してあげたくなったのだ。
まだ日も昇っていない夜明け前。
特訓場所として選んだ
アイズはまだかまだかと自分を慕ってくれている恥ずかしがり屋な白兎と人懐っこい白猫が来てくれるのを、魔石灯でぼんやりと照らされる
二人に会うのが楽しみで頬が緩んでいることを自覚することなく、アイズは二人が来るまで街並みを静かに眺めているのだった。
§
いつもよりずっと早い時間に起きて特訓に出かける準備をし、スズと一緒にホームを出た。
「なんだかこんな時間に外に出るなんてドキドキするね」
「そ、そうだね」
スズは鼻歌交じりにベルと繋いだ手を大きく揺らしていて憧れのアイズと会えるのが嬉しいのかご機嫌だ。
ベルもものすごく嬉しいしドキドキしているのだが、恋い焦がれるアイズにこれから会いに行く緊張感と、指導の光景(どんな風に指導してくれるんだろう。やっぱり手取り足取り教えてくれるのかな。不釣り合いな僕がそんなことしちゃっていいのかな。 いいよね。教えてもらってるだけだもんね。頑張ったらほめてもらえたりなんてするのかな。手を優しく握ってもらって、頑張ったね。偉いね、なんて……。いやいや、なに考えてるんだよ僕は。善意で特訓をしてくれるアイズさんにそんな妄想をするなんて! でも手を握るくらいは……)を妄想して無駄にドキドキしているだけであって、隣で子供らしく胸をときめかせているスズが眩しすぎて強制的に正気に戻されてしまう。
強くなるために特訓に行くんだからもっと気を引き締めないとダメだろうと、今は恋い焦がれる相手ではなく目標としてのアイズ・ヴァレンシュタインに会いに行くんだと自分に言い聞かせる。
「あ、ベルとま―――――」
「っ!?」
「うわっ!?」
曲がり角を曲がろうとしたところでちょうど勢いよく人影が飛び出してきて、スズが慌ててベルの手を引いてくれたが間に合わずに、変な妄想をした天罰といわんばかりにベルは勢いよく飛び出してきた人影と頭と頭をぶつけてしまう。
スズはベルが倒れないように踏ん張ろうとするが間に合わず勢いに負けて一緒に倒れてしまった。
勢いよく床に倒れ込んだら痛いだろうなと、ベルは頭の痛みを無視してスズを抱きしめて受け身も取らずに背中から地面に激突する。
ライトアーマーを付けていなかったらものすごく痛かったかもしれない。
ぶつかった人影、エルフの少女が尻餅をついて涙目で数秒頭を押さえながら悶えている。
「ベル、大丈夫!? ごめんね、ありがとね。レフィーヤさんも大丈夫ですか!?」
スズがベルを助け起こした後、怪我がないかさっと確認してからすぐに相手の方に駆け寄って行く。
ベルにぶつかってしまった人影は長い山吹色の髪を後ろでまとめているのが特徴的なエルフの少女だった。
ベルは見覚えのない人だが名前を呼んだことからスズの知り合いだろう。
「え、あ、ご、ごめんなさっ―――――」
「っぁ、すいません、大丈夫ですか!?」
ベルは相手よりも先に謝って、額の痛みを涙目になりながらも我慢して尻餅をついてしまっているエルフの少女に手を差し出す。
手を差し出してしまってからエルフは気を許しだ相手にしか肌を許さないことを思い出したが、スズの知り合いだけあってそこまで過激に気にした様子はなく「ありがとうございます」と手を取って立ち上がった。
「スズさんと……スズさんのお兄さん、ですよね。ごめんなさい。よそ見をして走ってしまって」
「私はベルが庇ってくれたので大丈夫ですよ。お久しぶりです、レフィーヤさん」
「僕も大丈夫です。えっと、スズがお世話になってます?」
「い、いえ! とんでもないです! その、ミノタウロスを3階層まで取り逃がしてしまった不手際といい……『豊饒の女主人』でベートさんが不快な思いをさせてしまったことといい……
次第にレフィーヤはどんどんどんよりしていく。
また、ということは
レフィーヤの方がレベルが高いとのことから、スクハかスズが無理をしてものすごく心配を掛けてしまったのだろう。
「レフィーヤさんのせいじゃないですよ。それにベートさんの言葉で不快な思いをした訳ではありませんし。ね、ベル?」
「ベートさん? 思い出せないけど、『豊饒の女主人』で飛び出しちゃったことでしたら、【ロキ・ファミリア】の皆さんのせいでなくて、その、自分が恥ずかしかったといいますか、一度とはいえスズのこと置いて来ちゃった僕自身が許せなかっただけで、【ロキ・ファミリア】の皆さんは全然悪くないです! ですからえっと、こちらこそ急に飛び出してしまってすみません! 今回も!」
なんだかアイズの時もそうだが、知らないところでものすごく気に掛けさせてしまっていたことが本当に申し訳なくってベルは深く頭を下げて謝った。
レフィーヤはそんな様子をぽかんと見つめた後、ぷっと少し笑いを声を漏らしてしまい慌てて頬を赤めて口元を押さえてる。
「ごめんなさい、謝ってくださっているのに笑ったりして。『レスクヴァの里』の住民は種族問わずに皆、貴方やスズさんみたいに優しい方ばかりなんですか?」
「はい。たまに喧嘩しちゃうこともありますけど、みんな大切な友達で家族なんです。レフィーヤさんは私の里に詳しいんですか?」
「レスクヴァ様のやんちゃぶりを何度か小耳にはさんだくらいで、人外魔境と呼ばれていたからもっと恐ろしい場所かとずっと思っていました」
「『
たはは、とスズがはにかむように笑った。
どうやらエイナが言っていた地図を書き換えるところだった事件の犯人はスズの母親だったらしい。
スズが成長してLV.5やLV.6になった時、ダンジョン内で【ミョルニル・チャリオット】を放った衝撃に
今のスズより高火力の魔導士は沢山いるから大丈夫だとは思うのだが、既に天井を粉砕してしまっているので無いとは言い切れないのが怖いところである。【地形破壊】や【貫通】といった威力以外の属性でもついているのだろうか。
「ところでレフィーヤさん。こんな朝早くから急いでどうしたんですか?」
「そうだ! スズさん! アイズさんを見ませんでしたか!? こんな日も昇っていない内から一人ホームを抜け出して心配で……アイズさんは天然だから、そこを付け込まれて変な男に誑かされてるんじゃないかって心配で……アイズさんにナニかあったら……私は……私はッ……!!」
穏やかだったレフィーヤが自分の使命を思い出したかのように、鬼気迫る表情でプルプルと体を震わしている。
とてもそのアイズがこっそり抜け出した理由が目の前に居ますなんてベルは言えなかった。
【ファミリア】の問題ではなく、よほどアイズのことを大切に思っているのか尊敬しているのかほんの些細な刺激でレフィーヤは感情を爆発させてしまうかもしれない。
ベルの額から汗がだらだらと流れ出て来る。
「レフィーヤさん、ごめんなさい。私がアイズさんと会う約束をしてたんです。これからアイズさんに稽古をつけて頂く予定で……その……。レフィーヤさんにものすごく心配を掛けてしまったみたいで本当にごめんなさい!」
スズが大きく頭を下げると予想外だったのか、レフィーヤぽかんと口を開けたまま数秒間固まってしまった。
「レフィーヤさん?」
「あ、ごめんなさいスズさん。スズさんはロキに好かれていますし、ティオナさんも会いたがっていましたよ。なので【ロキ・ファミリア】の鍛錬場は……さすがに不味いですが、そんなこそこそとしなくてもいいと思うんですけど」
「スズはそうですけど、僕もいますし……」
「謙虚なんですね、噂の兎さんは。そろそろ自己紹介しましょうか。いつまでも恩人のお兄さんを貴方と呼び続けるのもなんですし。私はレフィーヤ・ウィリディスです。LV.3の身で恥ずかしながら妹のスズさんには危ないところを助けていただきました。その際大切な妹さんに怪我をさせてしまって本当にごめんなさい」
「そんな頭を下げないでください! スズもレフィーヤさんもこうして無事だったんですし! え、えっと、ベル・クラネルです。冒険者一ヶ月程度の身ですがよろしくお願いします!」
互いに頭を下げて謝罪と挨拶で頭を下げた後、レフィーヤも「よろしくお願いします、ベルさん」と挨拶で頭を下げてくれた。
「これからアイズさんのところに行くんですけど、レフィーヤさんも来ますか? 私達の訓練なので見ていても面白くはないと思いますけど……」
「アイズさんがどんな教え方をするのか気になりますし……ちょうど私も早く起きすぎて何か訓練をしようかなと思っていたところでした。私もアイズさんに特訓してもらいたいので一緒に行かせていただきます!」
最後の最後でレフィーヤの本音が漏れていたことにベルは苦笑してしまう。
アイズに特訓を見てもらって褒められている光景を妄想しているのか「えへへっ」と自分の世界に浸っているレフィーヤを見ていると、はたから見たら自分もこんな感じに見られてるのかなと不安になってくる。
レフィーヤは可愛いエルフなのでまだ許されるが、男のベルがこんな「えへへっ」と自分の妄想に浸っていたら誰が見てもドン引きである。
【
初日にレフィーヤさんが追加されました。地味に紳士的に映ったようですが、ベル君の膝枕の行方はいかに。
ロキ様にもしっかり敬語なレフィーヤさんなので、気が緩んでいる時以外は敬語を使わせようと思います。脳内で行動はしてくれて動かしたいのに台詞回りが中々しっくりこなくて地味に困っていますが、動かせる範囲は動かしてあげたいところです。
そして徐々に『