スズ・クラネルという少女の物語   作:へたペン

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友達を紹介するお話。


Chapter08『紹介の仕方』

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 スズ・クラネル

力:h136⇒171  耐久:g241⇒247 器用:g212⇒220

敏捷:h120⇒158 魔力:e490⇒d567

 

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 ヘスティアを交えてベルはスズからリリの大まかな事情を聞いた。

 ヘスティアは騙そうとしていたリリのことをぷんすかと怒るものの、リリが無事【ソーマ・ファミリア】から抜けることが出来れば【ヘスティア・ファミリア】へのコンバージョンを認めてくれて、ベルもスズも一安心する。

 

 スズがヘスティアに解決策を聞いてみるが、やはり内輪もめに関してはその【ファミリア】内で解決すべきことなので、余程のことがない限りはリリ自身のことを手伝ってあげても、【ソーマ・ファミリア】自体と関わるのは得策ではないようだ。

 現状が金銭で落ち着いている以上、下手に刺激するのは危険らしい。

 

 ベルはリリが困っているとわかっているのに、直接助けに行けないのが歯がゆかった。

 何かないかと考えを振り絞るが、スズとヘスティア、それに加えてリリまで同意見になるくらい【ファミリア】間での問題は繊細である。

 

 特に【ソーマ・ファミリア】は酒の販売元としては有名ブランドであり、悪だと決めて抗争を仕掛ければギルドからペナルティーを受けるのは自分達で、抗争を仕掛けるだけの力も、リリを助けるお金を用意する財力も【ヘスティア・ファミリア】にはなく、例えペナルティーを無視して武力で解決できたとしても、リリと同じように苦しんでいる【ソーマ・ファミリア】の子達まで巻き込んでしまう。

 

 主神であるソーマを説得出来れば話は早いのだが、ソーマは趣味である酒造り以外に興味を持っておらず、金にがめつい団長が【ソーマ・ファミリア】を仕切っていうので、それも叶わない。

 やはり現状維持してお金を貯め、脱退するために吹っかけられるだろう金額をあらかじめ用意しておくしかないだろう。

 

 英雄譚のようにさっと助けに行けないのが、ベルは悔しかった。

 いつも頼りにしているエイナの顔が思い浮かぶが、いくらエイナが優しく世話焼きな性格でも、ギルドである以上公平に裁かなければならないため、盗みを働いていたリリのことが明るみに出ればリリまで処罰の対象になり、今後リリはギルドのバックアップを受けられなくなってしまうかもしれない。

 

 やはりお金を集めるしか方法が思い浮かばなかった。

 そのことを謝ると「そんなベル様とスズ様の優しさだけで、リリは頑張れます」と笑顔で言ったリリの姿が頭から離れない。

 

 それでも、リリが気丈に振る舞い、スズとベルのことを信じて事情を話してくれたのだから、くよくよなんてしていられない。この日はリリのために張り切ってダンジョンに挑んだ。

 

 

 攻略階層は7階層より下、8階層。

 8階層から9階層は今までと雰囲気が異なり、大樹にも見えてくる木のような壁には苔が付いて、地面には草も生えている。今まで天井はせいぜい3Mから4Mくらいだったのに対して、天井の高さは10Mほどもあり、ダンジョン特有の発光をする天井の灯りは眩しく、まるで広原に出てしまったかのように錯覚してしまう。

 

 この階層には新しい怪物(モンスター)は出ないものの、今まで出てきた怪物(モンスター)が階層相応の能力になって総出演してくる。

 

 広いルームばかりで戦いやすく、能力は上がっているものの攻略法は既にわかっている怪物(モンスター)しか出てこないので、異常事態(イレギュラー)がない限り7階層を攻略できた冒険者達にとって楽に攻略できる階層と言えよう。

 

 ここで怪物(モンスター)の力を見誤り、油断してやられるような冒険者は10階層から先なんて夢のまた夢である。

 

 今朝、スズにリリの話を聞いた後、一昨日の分の更新をヘスティアにしてもらったおかげで、力と器用がC半ばに、敏捷がBに到達したベルは、攻略基準値がEからCの8階層から10階層を攻略するだけの能力は十分すぎるほど持っている。

 

 一方スズの方が魔力以外攻略基準値に達していなくてベルは不安だったが、リリが言うには平均【基本アビリティ】ではなく、特化しているアビリティがEからCあれば問題なく戦えるのに加え、ベルとスズの場合、広いルームばかりの8階層の方が7階層よりも戦いやすいらしい。

 11階層まで潜って知識が豊富なリリが言い、スズも納得しているので問題は無いだろう。

 

「ただし、賞金首(バウンティ・モンスター)を見かけたら、戦わず逃げるようにしてください」

賞金首(バウンティ・モンスター)?」

 そんな聞き覚えのないリリの言葉にベルは首を傾げた。

 

「はい。ギルドが賞金首(バウンティ・モンスター)として討伐対象にするほどの異常事態(イレギュラー)怪物(モンスター)のことです。冒険者と同じく二つ名が与えられ、共食いにより魔石の味を覚えた怪物(モンスター)などが主にこの名称で呼ばれていますね。有名なのは『血濡れのトロール』です。討伐に向かった精鋭の上級冒険者様達を50名返り討ちにし、最終的には【フレイヤ・ファミリア】が動くことになったのは記憶に新しい出来事です」

 

「【フレイヤ・ファミリア】って、【ロキ・ファミリア】と同じく【ファミリア】の頂点だよね!? そんなに恐ろしい怪物(モンスター)がこの辺りにうろついてるの!?」

「さすがに『血濡れのトロール』ほどの異常事態(イレギュラー)ではありませんが、怪物(モンスター)は同種族の魔石を五つも取り込めば、劇的に能力が変化してしまいます。ですので、ギルドは『血濡れのトロール』のような恐ろしい強化種を発生させないために、冒険者の異常事態(イレギュラー)報告から情報をまとめて、信憑性が高い場合、すぐさまその怪物(モンスター)賞金首(バウンティ・モンスター)として指定しています」

 

 共食いで強くなるのなら、無限に怪物(モンスター)を生み出すダンジョンで魔石の味を覚えた怪物(モンスター)は次から次へと怪物(モンスター)を食らい、時間を掛ければ際限なく強くなってしまう。

 考えただけでも恐ろしい異常事態(イレギュラー)だ。

 

「最近賞金首(バウンティ・モンスター)に指定された怪物(モンスター)は13階層…中層を徘徊するコボルトの強化種です」

「こ、コボルト!? コボルトってあのコボルト!?」

 

「はい、1階層から4階層、そして8階層から9階層に出現するゴブリンに並ぶ弱小怪物(モンスター)のコボルトです。おそらく8階層か9階層から生まれたコボルトが魔石の味に酔い、より高純度の魔石を求めて下へ下へと下りて行ったのでしょう。そのコボルトの二つ名は『漆黒』。ウォーシャドウのように黒く変異したコボルトの強化種です。推定討伐可能LVが2から3の賞金首(バウンティ・モンスター)なので、絶対に見つけても手出しはせず、逃げに徹してください」

 

 本来弱小怪物(モンスター)に過ぎないコボルトが、上級冒険者でないと太刀打ちできないとギルドから推定されていることに、ベルは驚きを隠せなかった。

 

「りっちゃん、魔石を求めて中層で徘徊しているそのコボルトがまた上に戻ってきたりするの?」

「スズ様が疑問を持たれた通り、ギルドでも『漆黒のコボルト』の出現階層範囲は、13階層から16階層と推測されているので、リリはこの階層の探索に踏み切りました。ですが、異常事態(イレギュラー)は常に想定しておくべきです。幸いなことに『漆黒のコボルト』は魔石の味に酔いしれているせいか、冒険者よりも魔石を狙うことが遭遇した冒険者から報告されています。運悪くこの階層で遭遇しても、魔石を捨てて逃げれば追っては来ないでしょう」

「5階層も離れているところにいる怪物(モンスター)だけど、ミノタウロスが3階層まで下りてきたことあるもんね。私達が中層の攻略する前に討伐されてくれていれば、エイナさんに心配掛けなくてすむんだけど」

 

 スズの言う通り、心配性のエイナは、そんな怪物(モンスター)がうろついている階層付近の探索許可なんて絶対に出してくれないだろう。

 

「リリ達が中層に下りるまで『漆黒のコボルト』が生き延びていたら、それこそ『血濡れのトロール』と同じく、強制任務(ミッション)が発令させられるような緊急事態になっているでしょうね」

 

 コボルト相手に【ロキ・ファミリア】や【フレイヤ・ファミリア】が緊急招集を掛けられる事態なんて誰も想像出来ないが、『血濡れのトロール』の一件があるので楽観視は出来ないのもまた事実だ。

 今頃中堅【ファミリア】が『漆黒のコボルト』に懸けられた多額の報奨金目当てに、13階層から16階層を探索しているはずである。

 

 それでも『漆黒のコボルト』の暴食を止められなかったら、間違いなく強制任務(ミッション)が発令されるような緊急事態になっていることは、ベルにも容易に想像できた。

 

「下を目指している『漆黒のコボルト』と遭遇することはまずないとは思いますが、念のために普通のコボルトと見間違えないでくださいね」

「うん。本当に想定外な範囲なのに教えてくれてありがとう、リリ。もしもの時はすぐ逃げ出せるように心構えしておくよ」

 

「ベル様が自分のお力に慢心していないようで何よりです。さあさあ、おしゃべりの時間はここまでです。怪物(モンスター)が出てきましたので、気を引き締めてくださいよ?」

 

 話しが切りのいいところにまでいったところで、ダンジョンの壁がピキリ、ピキリと音を立て、怪物(モンスター)が生れ落ちてくる。

 大切なもの全部を守るにはまだまだ力が足りなくて、【ファミリア】の問題でリリをすぐに助けてあげられない自分の無力さを味わったばかりのベルは、慢心なんて絶対にしない。

 

 目指す先は遥か彼方だから、慢心して満足するなんて絶対にありえない。

 もっと強くなって、例え異常事態(イレギュラー)が起きても大切な者を守れるように、リリが【ファミリア】の事情で理不尽に傷ついても、鶴の一声で解決できるほど強く立派になれるように、どこまでも高みを目指して、絶対に守るんだと想いを強めて武器を構えて怪物(モンスター)と対峙する。

 

 構える武器はスズがプレゼントしてくれた両刃短剣(バゼラード)

 生まれてきた敵はゴブリン二匹とウォーシャドウ四匹。

 そしてキラーアントとダンジョンリザードが一匹ずつ。

 

 スズが開幕の【ソルガ】で仲間を呼ばれる前にキラーアントを一撃で貫き、ベルが地を駆けウォーシャドウを横に一刀両断する。

 

 この階層に来るまでに両刃短剣(バゼラード)を使ってきたが、両刃短剣(バゼラード)はヘスティア・ナイフよりも攻撃力が落ちるものの、それでも問題なくキラーアントを倒せるし、リーチがある両刃短剣(バゼラード)は扱いやすく、今までほぼゼロ距離で戦っていたベルにとって、安全地帯から攻撃できる感覚がしてとても斬新だった。

 

 それに加えて、リリがプレゼントしてくれた魔石動力で勢いよく伸び縮みするワイヤーの先端には鋭い刃が付いていて、致命傷にはならないもののこれを怪物(モンスター)の体に打ち込み引き寄せれば、中距離にいる自分より軽い怪物(モンスター)を手元まで引き寄せられるし、逆に重いものなら咄嗟の移動手段にも使えて、これもまた便利だ。

 

 壁に突き刺し、壁を足場に脚力で強引に刃を引き抜きながら移動すれば、今まで下りてこなければ攻撃できなかったダンジョンリザードにも手が届くし、ダンジョンリザード自体に突き刺せば、そのまま一気にダンジョンリザードに切り込める。攻守のサポートに最適な道具だ。

 

 撃ち漏らしてリリやスズに向かって行った怪物(モンスター)も手元に引き寄せられるし、刃が突き刺さらない相手に対しては、魔石動力で射出するのではなく、ただ伸ばして振り回すことで絡め武器としても利用できる。

 簡単な説明しかしてもらえていないからまだお粗末な機動しかできないが、敏捷特化のベルが三次元戦闘が出来るようになったのは大きかった。

 

 スズが【魔法】を使わなくても、この階層の柔らかい敵ならディフェンダーでしっかり倒せるようで、リリのボウガンでの援護射撃もあるおかげで危なげもなく、瞬く間に怪物(モンスター)の群れを倒せた。

 

 冒険者としての才能はないというもののサポーターをし続けてきたリリの状況把握能力はかなり高く、【ステイタス】関係なしに威力を発揮できるボルト式連装ボウガン『リトル・バリスタ』によるピンポイントでの援護射撃は的確に怪物(モンスター)の攻撃や動きを妨害している。

 

 それでいて邪魔になるであろう死体の移動も行っているのだから、本人は中々認めてくれないがリリも大活躍していると言っても過言ではない。

 ダンジョンの基本である三人パーティーはこれ以上ないというくらい戦いやすかった。

 

 

 そんなこんなで、張り切っていると、ダンジョンを出るころには夜の7時を回っており、はち切れんばかりのバックに詰められた戦利品の数々は総計50000ヴァリスを軽く超え、LV.1冒険者平均の二倍の稼ぎになっていた。

 リリにその大半をあげようかと相談したのだが、脱退にいくら掛るかまだわからないし、いつも通り半々でも多いのに、さすがにこれ以上分け前を増やされたら、先に申し訳なさで気がめいってしまうとリリに断られてしまった。

 

 自分が同じ立場だったら確かにそう思ってしまうとスズと共に納得して、いつも通り半々で報酬を山分けにする。

 

「いつもより遅いから神様心配してるだろうね。ご飯も待っててくれてそうだし、早く帰ろうか」

「そうだね。りっちゃんも私達のホームでご飯食べていく?」

「あ、それいいね! リリ、今日は家で食べていきなよ。スズの料理美味しいんだよ」

 その提案にきょとんとリリがした後、少し迷っているように手の指を遊ばせた後、大きくため息をついた。

 

「リリはお二人のお人好し具合に毒されてしまったみたいです。責任を取って今日も美味しい食事を食べさせてくださいね?」

 そして幸せそうにリリが笑ってくれた。

 まだ【ソーマ・ファミリア】の問題は何の解決もされていないけど、リリが本当に嬉しそうに笑ってくれて、リリが仲間になってくれて本当に良かったなと、楽しそうに話しながら【ヘスティア・ファミリア】のホームに向かうスズとリリの後姿をベルは見守るのだった。

 

 

§

 

 

「この子がスズ君のお友達になってくれたサポーター君かい?」

「リ、リリルカ・アーデです。は、初めましてっ」

 ソファーで明らかに不機嫌そうな顔をするヘスティアに対して、リリは慌てて頭を下げた。

 

「まあ君の境遇は聞いているし、見たところやましい気持ちはなさそうだし、楽にしていいよ。別にボクは、いつもよりベル君とスズ君の帰りが遅くて死ぬほど心配したとか、無事に帰って来てくれて嬉しくてスズ君に飛びついたところを見られて、途中でスズ君成分の補給を断たれたとか、お腹がすごく空いてるとか、もしかしてベル君に気があるんじゃないだろうねと勘ぐってるとか、そういうことを思っている訳じゃあないんだ。スズ君の案でこのまま銭湯にも付き合うだろうし、ゆっくりしていくといい」

 

 ベルとスズが夕食の準備をする中、ぴくぴくと引きつった笑顔を浮かべるヘスティアに、リリは乾いた笑いしか出てこなかった。

 

「ところで、サポーター君はスズ君のことをどう思ってるんだい? 正直に答えておくれ。お人好しとかそういう評価じみたことではなく、君にとってスズ君はどういう存在なのかをボクに教えてくれないかな。返答次第では、ボクも容赦は―――――」

「神様、りっちゃんをいじめないでくださいっ」

「いや、いじめてるわけじゃないんだスズ君! 誤解だ! ただ本当にスズ君のことを思ってくれているのかが気になっただけなんだよ!」

 慌てふためくその様子に、本当に眷族のことが大好きな優しい神なんだなと、さっきまで変な嫉妬をしたり、威圧したり、慌てふためいたりところころと表情を変えるヘスティアがおかしくて、ついついリリの口から笑い声が漏れそうになり口元を押さえるが、込み上げてきた笑いは止まってくれなかった。

 

「うぐぬぬぬ、スズ君のせいで威厳ある神様に見えなくなっちゃったじゃないか!」

「入口でスズを撫でまわしている時点でそれは諦めた方がいいと思いますよ、神様。バイトも掛け持ちしてますし」

「ああ、ベル君まで! こんな時くらい見栄を張らせてくれたっていいだろう!?」

 本物の家族のような温かい【ファミリア】だった。

 

 リリが知らない家族の温かいやり取りが目の前で繰り広げられていて、見ているだけで楽しくて温かい。

 だからこそ本気で正直な気持ちで答えたいとリリは思った。

 

「ただのサポーターの身で失礼とは思いますが、スズ様のことは、初めての友達だと思っております。騙そうと近づいたことは本当に――――」

「ああ、謝罪はいいよ。本当にスズ君のことを友達だと思ってくれているみたいだから、ボクからその件に関して言うことはなにもないよ。見ての通り危なっかしい子だから、しっかりスズ君のことを見てあげておくれよ。サポーター君」

 すんなり受け入れてくれるとは思わず、リリの開いた口が塞がらなかった。

 

「スズ様やベル様もそうですが、失礼ながら…ヘスティア様のお人好しも大概だとリリは思ってしまうのですが、眷族のために多額の借金なんて背負っていませんよね?」

「そ、そんなことあるわけないじゃないか! いやだなぁ、サポーター君は!」

 思いっきりヘスティアが目をそらして、スズも少し顔を伏せて、ベルだけがその様子に首を傾げていることから、リリは大体のことを察してしまった。

 

 どうやったかまではわからないが、ベルの持つ【ヘファイストス・ファミリア】製の武器はそういうことなのだろう。

 もしかしたらヘスティアが背負う借金返済は【ソーマ・ファミリア】から抜け出すよりも大変かもしれないと思うとため息しか出てこない。

 

「ボクは【ヘスティア・ファミリア】の主神のヘスティアだ。君がスズ君の友達でいる限り、ボクは君を歓迎するよ。君も中々にクセの強そうな子だけど、これでもボクは炉の神だ。君が無事【ヘスティア・ファミリア】にコンバージョン出来る日を待ってるぜ、サポーター君」

「ありがとうございます。時間が掛かってしまうと思いますが、その日が来たら、ぜひリリを受け入れてください。リリは何があってもスズ様とベル様の味方であり続けることを誓います」

「よろしい。ならボクも君の味方であり続けるよ。これからもスズ君とベル君のことをよろしく頼むぜ」

 ヘスティアがそう笑いかけてくれた。

 こんな自分を受け入れてくれる慈悲深い女神が嬉しくてたまらなかった。

 こんな温かい世界を教えてくれて、与えてくれたスズを裏切れる訳がない。

 リリはスズが与えてくれた温かさに酔いしれていた。

 

 

§

 

 

 いつもの日課である銭湯へ行き、帰り道にリリと別れて、【ステイタス】更新の時間がやってくる。

 今日の朝更新した時は、スクハは出てこなかった。

 

 そもそもヘスティアの方から話しかけなかった。

 どう話し掛けたらいいものかと気まずくてわからなかった。

 

 

『気にしていないと言ったでしょう。無言のまま背中に居座っているせいで『スズ・クラネル』が眠ってしまったわ。今日は頑張りすぎたみたいで、すごく体が疲れているの。出来ればてきぱきと更新を終わらせてもらいたいのだけれど』

 

 

 更新を止めたまま悩んでいると、そうスクハにため息をつかれてしまった。

「あ……スクハ君ごめんよ。気を遣わせてしまって」

『謝る暇があったら更新を続けなさい。後、別に私は貴女を気遣って出てきた訳ではないわ。そこのところ、勘違いしないでもらえないかしら』

「そういうことにしておくよ。ありがとう、スクハ君」

『何もお礼を言われることはしてないわ。他に言うことがなければ、私も寝させてもらいたいのだけれど』

 本当に眠いのかスクハは軽く欠伸をしていた。

 帰りが遅かったしよほど疲れているのだろう。

 

「えっと、スクハ君は何かサポーター君を手助け出来る案はないのかい?」

『そうね、せいぜいバレないように【ソーマ・ファミリア】を拠点ごと消し飛ばすことくらいかしら』

「物騒だよ! というかスクハ君はそんなことできるのかい!?」

 

『ご想像にお任せするわ。穏便に行くなら今の堅実な脱退方法が一番いいのではないかしら。時間は掛かるけれど、正当防衛なら罪には問われないのでしょう? ちょっかいを出す輩を全て黒焦げにすれば、相手も割に合わないと諦めてくれると思うのだけれど』

 

 相変わらず言い方は物騒だが、現状維持しかやはり方法は思いつかないようだ。

 

「そっか。ありがとうスクハ君。更新は終わったからもう眠ってもいいよ」

『そう。なら遠慮なく寝させてもらうわ。それじゃあまた明日ね、ヘスティア』

「ああ! また明日、スクハ君!」

 スクハからスズに戻ったのか、安らかな寝息が聞こえてきたので、更新のために脱がしていた寝巻を元に戻して仰向けに寝かしつけてあげる。

 

 ずいぶんとスクハに心配を掛けさせてしまったようだ。

 ヘスティアのことを思ってか、何でもないタイミングで話しかけてくれて、特に用事もないのにまた明日と言ってくれた。

 それがたまらなくヘスティアは嬉しかった。

 

 

 




なんだかんだで話しかけてくれないと出てきてしまうスクハでした。

あると便利『ワイヤーフック』。ダンジョン内には竪穴もあるのでそういったカ所の上り下り用の道具がただのロープでは魔物に狙い撃ちにされるだろうなと、でっち上げました。
魔石で動いているため代えの魔石電池が必要ですし、大人数で遠征に出かけるには荷物がかさばりすぎるのと、リーチがそこまで長くないのが欠点でしょうか。
整備も大変そうなので、フロア続きなダンジョンではあまり需要はなさそうですね。
何よりもLVが上がって敏捷が高くなると屋根も飛び越える脚力になってしまいますし(笑)

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