スズ・クラネルという少女の物語   作:へたペン

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応援してあげるお話。


Chapter12『応援の仕方』

 無事スズは、円形闘技場(アンフィテアトルム)前でシルを見つけて財布を渡すことが出来たので、通行人の邪魔にならないよう気遣い、円形闘技場(アンフィテアトルム)の入口…人の行列が見える闘技場奥の人気の少ない建物の物陰に座り込み、ベルとヘスティアが来るのを待っていた。

 

 すると、入口とは反対の方、スズよりももっと奥である闘技場の裏口の方から、長身で逞しく引き締まった筋肉を持つ猪人(ボアズ)の青年が近づいてきていることにスズは気づいた。

 猪人(ボアズ)の青年がスズの前で立ち止まり、表情を変えずにスズのことを見下ろしてくる。

 

「……お前は円形闘技場(アンフィテアトルム)に入らないのか?」

「もしかして、オッタルさん……?」

「私を知っていたか」

「私はまだ駆け出しの身ですが、【猛者(おうじゃ)】オッタルさんのことは【剣姫】であるアイズさん達と同じく、よく耳にしますので。オッタルさんは怪物祭(モンスターフィリア)を見にこられたんですか?」

「いや。闘技場にも入らず涼む幼子を見つけたものでな。気になって声を掛けただけだ」

「私は迷子じゃないので大丈夫ですよ。ここで家族が来るのを待ってるんです。心配して声を掛けて下さりありがとうございました。オッタルさん、優しいんですね」

「そうか。邪魔をしたな」

 それだけを言ってオッタルは来た道を引き返していく。

 

 その後姿を見つめていたが、スズは突然立ち上がり、苦しげに胸を押さえながら周りを警戒し出す。

 

 

 

 ―――――――――下に何かがいる、そうスクハは感じ取った。

 

 

 

 しばらくその場で警戒していると、様々な人のざわめき声と共に地上では決して聞こえてはいけないはずの雄叫びが聞こえた。

「モ、モンスターだああああああああああああああっ!?」

 誰かの悲鳴が聞こえた。

 脊髄反射のようにスズはその悲鳴が聞こえた方向に向かおうとするが目の前に巨体が立ちふさがる。

 

 身長3Mを超える、スズの2倍以上の大きさの『トロール』が血走った目で、興奮した瞳でスズのことを見つめ、なぜか一回だけ首をかしげるも、スズにその大きな腕を伸ばした。

 

 今のスズがまともにやりあって勝てる相手ではない。

 それでもスズは一般人を巻き込んではいけないと思ったのか逃げ出さずにトロールと対峙する。

 

「【雷よ。粉砕せよ。第三の唄ミョルニル・ソルガ】ッ!!」

 

 戦槌のように巨大な雷がトロールの体を飲み込み、トロールは膝をついた。

 その隙をついて背中に背負っていた剣と盾を装備し、地を蹴りトロールの肩を足場にさらに跳躍して、空中で反転しながら脊髄めがけ全力で剣を叩きつける。

 

 しかし力不足のせいか、人体の急所を狙ったにもかかわらず効いている様子はなかった。

 トロールがよろけながらも立ち上がり、再びスズに向かって何かを求めるように手を伸ばすところで、温かくも激しい風がスズの隣を通り抜け、砲弾のような一撃がトロールの体を粉砕した。

 

 

§

 

 

 ロキと外出中に、ギルド職員から円形闘技場(アンフィテアトルム)から怪物(モンスター)が逃げ出したと聞いたアイズは、高台に上り怪物(モンスター)の位置を風で感じ取る。

 

 聞いていた数と一匹数が合わない。

 既に遠くまで逃げてしまったのだろうか。

 しかし今はその一匹の怪物(モンスター)に構っている心の余裕がアイズにはなかった。

 

 闘技場の側面、人気のない場所で、また幼いスズが怪物(モンスター)に襲われていたのだ。

 スズがトロールに襲われ、ミノタウロスの時のように応戦しているが、ミノタウロスより劣るとはいえトロールも駆け出し冒険者が勝てる相手ではない。

 

 無駄のない動きで華麗に人体の急所を狙ったにもかかわらず、スズの剣撃はトロールに効いている様子はなかった。

 その瞬間を丁度目撃したアイズは「【目覚めよ(テンペスト)】」と風を身にまとい高速でトロールの体を射抜く。

 

 今度は間に合った。

 スズが無傷なのを確認して安堵の息を漏らしつつも、アイズは次々と逃げ出した怪物(モンスター)を仕留めていく。

 

 もう犠牲者は出したくない。

 その一心で圧倒的な力で怪物(モンスター)をねじ伏せ、索敵できなかった一匹を除いて、怪我人や犠牲者が出る前に仕留めることができた。

 

 安心する一方、不可解な点がいくつかある。

 一つ目は【ガネーシャ・ファミリア】が厳重に警備していたはずなのに突然怪物(モンスター)が逃げ出した理由。

 二つ目はスズを狙ったトロール以外はまるで何かを探すように逃げ回る一般人に興味を示さずにただ徘徊していたこと。

 最後はスズを襲っていたトロールが何らかの熱で焼かれ既に瀕死だったことだ。

 

 アイズの頭から離れないスズとミノタウロスとの戦闘では、スズはミノタウロス相手に無謀にも接近戦で攻撃をいなし続けて耐えていた。

 今回は後衛である少年の姿は見当たらなかったので、いったい誰がトロールにダメージを与えたのだろうか。

 

 

 アイズがそんなことを考えていると、突然地面が揺れた。

 

 

 通りの一角の地面から蛇に酷似した巨大な怪物(モンスター)が生えてくる。

 あれは不味い。

 逃げ出した怪物(モンスター)なんかとは格が違うし嫌な感じがする。

 

 冒険者としての本能がアイズにそんな警鐘を鳴らす。

 

 逃げ出した怪物(モンスター)を倒すために駆け回ったせいで、巨大な怪物(モンスター)との距離が遠い。

 急いで駆け付ける中、ティオネとティオナが武器なしで巨大な怪物(モンスター)を殴っているが、武器なしとはいえLV.5の冒険者の攻撃にもびくともしていない。

 あんなものが地上にいていいわけがない。

 いつ犠牲が出るかわからない状況にどんどんアイズから心の余裕がなくなっていく。

 

 アイズを慕う後輩のエルフの少女、レフィーヤが圧倒的な魔力で巨大な怪物(モンスター)を仕留めようとする。

 レフィーヤはLV.3だが【スキル】と魔力、そして魔法自体が強力なおかげで火力だけなら【ロキ・ファミリア】の遠征について行ける素晴らしい後衛火力だ。

 ティオナやティオネの拳が通らなくても彼女の【魔法】なら間違いなく通るだろう。

 あのベートですらレフィーヤの火力は「アホみたいに魔力だけは高い」と評価するほどだ。

 

 しかし、レフィーヤの詠唱に巨大な怪物(モンスター)が反応し、蛇だと見間違えていた怪物(モンスター)の頭部だと思っていた部分が、つぼみが花開き、地面に埋まっていた触手が真っ直ぐレフィーヤに向かって伸びていった。

 

 LV.5の打撃を耐える防御力を持った怪物(モンスター)の攻撃力に、完全に後衛火力役として育ったLV.3のレフィーヤが耐えられるわけがない。

 防げるわけがない。

 

 

 予想外の出来事にティオネもティオナも庇いに行ってあげられない。

 アイズも……またぎりぎり間に合わない。

 またぎりぎり助けられない。

 悔しさにアイズは唇を噛み切ってしまう。

 

 

 触手がレフィーヤの腹に食い込む前に、雷の閃光が触手の横っ腹に炸裂し、触手はほんのわずかに軌道をそらされたことで地面に突き刺さる。

 

 閃光の発射地点に目を向けると、ロキのお気に入りである少女で、アイズがぎりぎり間に合わずけがを負わせてしまった少女、スズ・クラネルが身の程を弁えずに剣と盾を構えていた。

 

 誰もが無謀だと思った。

 ベートでなくても身の程を弁えろと思ってしまう絶対にやってはいけない行為。

 次元が違う第一級冒険者の戦闘に冒険者歴半月の少女が加入してきたのだ。

 

 今まで見たことのない未知の怪物(モンスター)は、先ほどの閃光でダメージすら受けている様子はない。

 接近職だと思っていたスズが【魔法】を使えたことには驚くが、素人が第一級冒険者の次元が違いすぎる戦いに首を突っ込んでいいものではない。

 

 スズが放った【魔力】に反応して花の怪物(モンスター)がその触手を三本伸ばす。

 スズはそれを何とかかわそうと身を引くが敏捷が圧倒的に足りない。

 【基本アビリティ】の問題ではなくレベルが圧倒的に足りないのだ。

 

「【アルクス・レイ】」

 

 レフィーヤが慌てて詠唱が終了していた【魔法】を触手に指定して、必中の矢で三本まとめて吹き飛ばすが、そんなレフィーヤに構わずもう一本触手をスズに向けて伸ばす。

 

 

 

 それに対してスズの口が動く。

 

 

 

 聞き取れないがおそらく詠唱だろう。

 口が動き終わると、スズの目の前に黄金に輝く盾が出現した。

 冒険者になって半月で【魔法並列処理】に加えて2スロット目の【魔法】。

 間違いなく彼女の冒険者としての才能は飛び抜けている。

 飛び抜けているのに、レベル差という圧倒的な壁の前には才能なんてあってないようなものだった。

 

 【基本アビリティ】や技術よりもレベルがたった1違うだけで、圧倒的な能力差が出来てしまうのが冒険者の世界である。

 黄金に輝く盾が砕け、構えた盾も意味をなさず貫かれ、スズの腕の肉がえぐれた。

 それでもスズは、なんとか致命傷を受けないように立ち回ってくれた。

 

 

 またほんの3秒だけ時間を稼いでくれた。

 その3秒でアイズは花の怪物(モンスター)に特攻し全力の一撃を叩き込む。

 

 

 花の怪物(モンスター)は一刀両断されるが、それと同時に整備中の愛剣デスペレートの代わりに持っていた、借り物の武器だった剣がアイズの力に耐えきれずに砕け散ってしまう。

 それなのに追加で先ほどの怪物(モンスター)がアイズを取り囲む形で地面から三匹も生えてきた。

 今度は完全にアイズに狙いを定め、殴り掛かるティオナやティオネにも、レフィーヤやスズにも構わず、ひたすらアイズの風に引きつけられるように触手を伸ばしてくる。

 

 不可解な点が一つだけあったが、怪物(モンスター)が魔力に反応しているのだろうことをその場にいる全員が察する。

 

「アイズ! 魔法を解きなさい! 追いかけまわされるわよ!」

「一人一匹くらい何とかするって! 白猫ちゃんの姿も見えないし、きっともう退避してるよ!!」

 ティオネとティオナの声に、スズの姿を探す。

 血の跡が地面に残っているがその姿は……あった。

 屋台に隠れて震え上がっている獣人の小さな女の子の元に駆けつけ、ケガをしていない右手で女の子の手を引いて退避させている。

 今まさに触手から攻撃を避けようとしていた場所が、避けた後触手が通るだろう予想位置が、その小さな女の子が隠れていた屋台だった。

 

 スズが女の子を攻撃範囲外まで退避させてくれたおかげで触手を掻い潜ることが出来たが、なぜかこの花の怪物(モンスター)は魔力の高いレフィーヤよりもLV.1のスズの魔力に反応していた。

 下手に魔法を解くとまたスズの方に攻撃が行ってしまうかもしれない。

 アイズが魔法を解かないままどうするべきか考えていると、代わりにとばかりにレフィーヤが詠唱を開始し始める。

 

 長詠唱の魔法。

 『効果内容と詠唱文を把握しているエルフの魔法を召喚魔法として行使する』【エルフ・リング】で、エルフの女王リヴェリアの、時さえも凍てつかせると言われる無慈悲な雪波、広範囲凍結魔法【ウィン・フィンブルヴェトル】の詠唱をレフィーヤは開始したのだ。

 

 

 これが決まれば間違いなく勝てる。

 

 

 レフィーヤの魔力に信頼を寄せるアイズ、ティオネ、ティオナの動きは迅速だった。

 レフィーヤの詠唱が終わるまで強大な魔力に引きつけられる怪物(モンスター)からレフィーヤを守り続けるだけ。

 前衛アタッカーの三人にとっていつもやっている単純なことだ。

 

「アイズさん!!」

 

 そんな中、遠くからスズの大きな声が聞こえた。

 声の方向からスズが先ほどまで装備していた剣が飛んできたので、その柄をアイズは掴み取る。

 

「壊しても構いませんッ!! 守ってあげてくださいッ!!」

 左腕から血を流しながらも、辛そうに顔をゆがませながらも、遠くでハーフエルフのギルド職員に保護されながらも、アイズのいる所まで届くように大きな声でスズが叫んだ。

 

 

 

 

 ――――――――――そうだ、もう傷つけさせたりしない。

 

 

 

 

 アイズはスズの目を真っ直ぐ見つめて軽く頷き、スズから借りた剣でレフィーヤに迫る触手を薙ぎ払っていく。

 【エアリエル】の風が驚くほど剣によく馴染み、ブロートソードなのに、まるで愛用し続けている細身のデスペレートを握っているような感覚がした。

 

 レフィーヤと自分に迫る触手を斬り払い、逃した数本はティオネとティオナが打撃で打ち払っていく。

 

「【吹雪け、三度の厳冬――――――我が名はアールヴ】」

 

 周りにもう人は残っていない。

 長詠唱最後の一句も終わった。

 

「【ウィン・フィンブルヴェトル】!!」

 

 王女だけに許された極大魔法が召喚魔法として行使され、怪物(モンスター)を、街を凍てつかせる。

 レフィーヤの二つ名【千の妖精(サウザンド・エルフ)】は伊達ではない。

 怪物(モンスター)は完全に凍結し、身動き一つとれない。

 ここまで凍り付いたらいくら硬い植物怪物(モンスター)でも成す術はない。

 

 アイズが、ティオネが、ティオナが、それぞれ一匹ずつ凍り付いた怪物(モンスター)を一撃で打ち砕いた。

 

 

§

 

 

 アイズがスズにお礼を言って剣を返すと、スズは「お役に立てて私も嬉しいです」と笑顔を作っていた。

 アイズの攻撃に耐えきれずに、スズの剣には大きな亀裂が走ってしまっているにも関わらず、左手は痛々しく肉を抉られてしまっているのに、冷や汗を掻きながらもスズは笑っている。

 

「ごめんね……また少し間に合わなくて……。それに剣、ひびが……」

「それでアイズさんの家族が守れたなら、私は嬉しいです。ケガや剣はちゃんと直りますから」

 どこまでも真っ直ぐで優しい少女だった。

 レフィーヤがスズに謝りながらもお礼をし、ティオネが叱りながらもお礼を言う。

 

「レフィーヤを助けてくれてありがとね。白猫ちゃんすごかったよ! でもこんな無理したら、もう絶対にダメだからね!」

 最後にティオナがスズの頭を優しく撫でてあげていた。

 ロキが「スズたん傷もんにしたのどこのどいつやっ!!」と叫びながらこちらに向かっているのが見え、この場にアイズが留まっていても、もう何もスズにしてあげることが思いつかない。

 

 ギルド職員やロキ達にスズのことは任せて、最後の一匹を探してアイズは屋根の上を飛び回る。

 すると、ダイダロス通りの方で人々の歓声が聞こえ、ツインテールの女神に抱き着かれる白髪赤目の少年の姿がアイズの目に映った。

 

 ミノタウロスの時と同じように、自分よりも強い相手に大切なものを守るために戦いを挑んで、今度は一人で守り切ったのだろう。

 

 

 

 

 

 ――――――すごいな、とアイズは素直に思った。

 

 

 

 

 

 怖がらせてしまったこと、ぎりぎり間に合わず妹に傷を負わせてしまったことをアイズは謝りたかったが、また妹に傷を負わせてしまったので合わせる顔がない。

 

 それにあんなに二人で喜んでいるところに、スズがケガをしたなんて悪い知らせをするのは、後で知るとしても、それを伝えに行く勇気はアイズにはなかった。

 今度はアイズが少年から逃げるように、屋根を飛び移りながら去って行く。

 

 

 

 

 

 ――――――――――私にも、英雄がいてくれたらよかったのに――――――――――

 

 

 

 

 

 抱いてはいけない幼い頃の気持ちに、ズキリとアイズは胸を痛ませた。

 

 一般人の犠牲者負傷者0人。

 冒険者の負傷者一名。

 

 ダイダロス通りで白髪赤目の少年がシルバーバックを撃破したという報告もあり、謎の怪物(モンスター)脱走事件は無事幕を閉じたのだった。

 

 

§

 

 

 南の繁華街にある高級酒場の個室でロキはフレイヤを睨みつけていた。

 何で呼ばれたのか理解しているのか、いつも優雅なフレイヤの表情はどこかばつが悪そうな顔をしていた。

 

「可愛いスズたん傷つけて、どういうつもりやフレイヤ」

「私だって可愛い白猫まで襲われたと聞いて心臓が止まるかと思ったのよ。私事で一般人を巻き込むのは悪いと思って魅了したんだけれど……なんであの子が襲われたのか私にもわからないわ」

「そんなことだろうと思っとったわ。ガネーシャんとこの子もギルドの連中も魅了。怪物(モンスター)も一般人無視して誰かを探したように徘徊しよるし、どっかの色ボケ女神が魅了したんやと思ってたんやけど、今回はずいぶん潔く白状するやないか」

 

「私だって白猫はお気に入りなのよ。あの子は自由にさせてあげている時が一番輝いている。錆びた鎖に絡まれてひび割れながらも綺麗な輝きを保つ魂なんて見たことないもの。そんな天使を不本意な事故に巻き込んでしまったら、私だってショックだわ」

 珍しく本当にへこんでいるフレイヤの姿を見て、ロキはギルドに報告してやろうかなと脅しを掛ける気も起きなかった。

 

 フレイヤはどこまでも自分の欲求に忠実だからまた近いうちに何かしでかすが、この反応を見る限りだと、気になる男に悪戯をしようとして珍しく想定外の出来事が起きてしまったのだろう。

 

 少なくとも【ロキ・ファミリア】の構成員や一般人、そしてスズを傷つける気がなかったことは、普段どんなことがあっても優雅さを保つフレイヤがどんよりとしているところを見れば一発でわかる。

 

「私だって、巻き込んだら悪いなと思ってオッタルに白猫の話し相手になってもらって気をそらそうとしたり、工夫はしたのよ?」

「【猛者(おうじゃ)】をお使いに使うとかどんだけスズたんのこと好きやねん! それオッタルが可哀相やろ!? 見た目ガチムチの最強が幼女に話しかけるだけとか、それどんな罰ゲームなん!?」

「仕方ないじゃない。私は貴女と違って『あの里』にさほど興味はないけど、あの子と来たらそこで育ったせいか自由気ままな可愛い子猫なんだもの。守りたくもなるわ」

 スズが可愛くて天使なことは完全に同意だが、やはり迷宮都市唯一のLV.7冒険者の扱いがあまりにあんまりで、ロキは思わずオッタルに同情してしまった。

 

「まあうちの子やスズたんのこと傷つけないっていうなら別にええんやけど。せやけどな、あのデカイ花の怪物(モンスター)はやりすぎやろ」

「?」

 きょとんと、フレイヤは本当に何のことかわからない表情をしていた。

 

「そんな怪物(モンスター)私は知らないわよ。それが白猫を傷つけたの?」

「らしいで。地面からにょきっと生えて来おって……。ん、地面から?」

「きな臭いわね」

「鏡見て言えや、アホ。まあええ、そんな表情ころころ変えてるんやから、ほんまに関係あらへんやろうし」

 その言葉にフレイヤが今度は眉を顰める。

 

「……そんな表情に出ていたかしら」

「付き合い長いうちやのうてもわかるくらいに変顔してたで。まあ、スズたん大好きなのはうちも一緒やし、気持ちはわからんことでもないんやけど。うちの子やスズたんに手出したら覚悟しとき?」

「直接危害を加える気はないわ。ただ、大変申し訳ないのだけどまた巻き込んでしまったらごめんなさい」

「『おまわりさんこっち』や」

「鷹の羽衣」

 不意にたった一言フレイヤはそう呟いた。

 天界にいた時に貸した羽衣をまだ返してもらえなかったことで逆にゆさぶりを掛けてきた。

 

「巻き込むかもしれないけど、それは私がやろうとしていることに自ら飛び込んできた時や、今回のような異常事態(イレギュラー)しかないわ。だから……今回のことと、これから私がやることに目を瞑ってくれるのなら、あの羽衣も貴女に差し上げるけど、どうかしら?」

「この性悪女っ」

「それに今朝話したけど、私がお目当てなのは一人よ。よほどのことがなければ貴女に迷惑は掛けないわ」

 

「本当に面倒な女やな。男一人捕まえるのに周りに迷惑かけるなっちゅうの。もうええわ、羽衣はうちのオキニやし見逃したるわ。きな臭いこと起こりそうやし、今いがみ合ってもしゃーないわ」

 ロキは年中盛っている神友に大きくため息をついた。

 天界にいた頃の神友トールも、ロキに散々振り回されてこんな気持ちだったのかと思うと、ほんの少しだけ申し訳なく思えてしまった。

 

 




章のタイトル『白猫と剣姫』でお気づきの方もいらっしゃったでしょうが、スズを外伝ルートに突っ込むことで、ベル君とヘスティア様のシルバーバック戦は大体似たようなものになりました。
書いていないものの変更点としてあげるとしたら、ヘスティア様がベル君に逃がされる前に、神のナイフと【ステイタス】更新を提案し、ベル君も戦う気満々だったことで、ヘスティア様が疲れで倒れる前に決着がついてしまったことくらいでしょうか。

オッタルさんによるベル君関係の初めてのお使い。あの体型で一人日陰でたたずむ小さな少女に声を掛けなければいけないとかなんて罰ゲーム(笑)
フレイヤ様もフレイヤ様で、ベル君で少しほくほくしたと思ったら、悪い知らせを聞いて一気にずどんと沈んでしまったようです。
それでも懲りずに原作同様ミノさん使いますけど、フレイヤ様だから仕方がないのです。

そしてアイズさんのダメージが地味に大きいです。ベル君頑張れ。超頑張れ!

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