体を拭いて着替えて番台のところまで戻り、女の子のスズは身だしなみを整えるのに時間かかるだろうなと、ベルはソファーに腰掛けながら待つ。
「露店の兎。飲み物は10ヴァリスだ」
「あ、タワシ様。スズが戻ってきたら一緒に飲みたいので今はまだ大丈夫です」
「そうか。時に露店の兎」
「はい、なんでしょう」
「兎は性欲の強い生き物と他のモノから聞いていたが、発光するとは初めて耳にしたぞ。風呂の岩が変態がいると騒ぎ立てて煩い。読書の邪魔だ。発光するのであれば自分の巣穴でしろ」
その言葉にベルは思いっきり吹き出した。
絶対にこの神は飲み物を吹かせる為に飲み物を勧めて今の話題を振っただろう、と不愛想でもどこかにやついているように見えてタワシも神なのだとベルは実感できた。
「の、覗いたんですか!?」
「岩が騒いでいると言ったはずだが。ワシにとって人も物も全て下界のモノ。『神の力』を使わずとも懐いているモノの声くらい手に取るようにわかる。ワシの存在意義は人に尽くし、人を楽しませること。ただ見ても意味はない。楽しみ楽しませる。それがワシだ。もうすぐ屋台の猫も来るだろう。こんな話題しか振れないが、暇つぶしにはなっただろ」
タワシはそう言って本にまた目を移すと、ちょうどスズが脱衣所から出てきた。
どうやら不器用なタワシなりのやり方で時間つぶしに付き合ってくれたらしい。
「ベル。いつも待たせてごめんね」
「うんん。気にしないでいいよ。飲み物何か飲む?」
「うん。タワシ様、飲み物何がありますか?」
スズの問いかけにタワシは本をそっと閉じてカウンターに置いてスズの方に顔を向ける。
「冷えたものならば牛のミルクとコーヒーミルク、後はイチゴミルクだけだ。牛乳である意味は特にないが極東の風習だからな。嫌なら我慢しろ。ハーブティなど洒落た温かい飲物は扱っていない。白湯やワシの粗末な番茶でよければ、湯呑みを持参しているのならば無料で譲ろう。健康と美肌に気を使うなら冷たい物よりも温かい飲物を勧める。湯呑みの貸し出しは2ヴァリスだ」
「私はイチゴミルクがちょっと気になるのでそれをお願いします。ベルは?」
「僕は普通のミルクでいいかな」
スズが20ヴァリスを渡すと、タワシはそれを棚に仕舞った後に床下を開け、その中にある魔石冷蔵庫からビンを二本取り出す。
魔石冷蔵庫の収納スペースすらも床下にすることで、何とか狭い土地でも銭湯として楽しんでもらおうと工夫しているのだろう。
でも、おかげで飲み物が売っていることも、壁に銭湯の利用方法と一緒に張り紙が一枚あるだけでわかり難く、飲み物あること自体気が付かないかことが多そうだ。
何よりも目の前に物がなければ宣伝効果が一切なく、ついつい飲みたくなったりもしないので売れ行きもすこぶる悪いと思われる。
湯船でスズと話していた女性冒険者が言っていた通り、このタワシはものすごく商売には向いていなさそうな神だった。
それでも弱小ながらも長く続いているらしいので、根気強いなとそこは感心してしまう。
「あ、甘くて美味しい」
「普通のミルクもなんだか甘いよ。でもなんだろうこの甘さ……」
「ミルク自体は安物だからな。少し味付けでごまかしているのは許せ。邪道だが、経済難で高等なものを仕入れる余裕もなければ売れ行きも悪い。客自体も数えるほどの冒険者しか来ないからな。極東では民衆も入りに来てくれたのだが、異文化交流とは中々に難しい。漬物石のように腰を据え、じっくりと文化になじませようとしたのだが…上手く行かないものだな」
タワシは軽くため息をついて、また本を手に取り読み始める。
「空きビンはカウンターに置け。湯を満喫したようで何よりだ。気が向いた時にまた来るといい」
「はい。また明日も来ますね、タワシ様」
スズはもうここに通うのを日課にすることに決めているようで、笑顔でタワシに手を振って別れを告げている。
タワシは「ふむ」と相変わらず必要なこと以外はあまり喋らないし不愛想な顔のままだが、常連客が増えてどこか嬉しそうな表情をしているように見えた。
§
何でもないことを話しながら教会の地下室まで戻って、スズが寝間着に着替えるまで待ってからベルも部屋に入る。
おかえりと言ってくれるヘスティアがいないせいもあり、いつも温かかったはずのこじんまりとした部屋が、すごく寂しく感じてしまった。
さらに、いつもホームでは三人一緒だったこともあり、ダンジョンではいつも二人きりなはずなのに、夜に狭い部屋で二人きりという状況をベルはついつい意識してしまう。
いつでも【
「神様、いつ帰ってくるんだろう」
もうスズがベッドの上でどこか寂しそうに布団にくるまりながら座り、布団越しに膝を寂しそうに抱きしめている。
「すぐ帰ってくるよ。神様が帰ってきたらおかえりパーティー開いてあげないとね」
「そうだね。何作るか明日考えておこうかな」
「スズの料理は美味しいから僕も楽しみにしてるよ」
「ありがとう。期待に応えられるように頑張るね」
スズはそう笑って、胸元でぎゅっと拳を握りしめて両腕で小さくガッツポーズを取ってみせる。
「それじゃあベル。おやすみなさい」
「うん、おやすみ、スズ」
スズが横になるまで見守ってから、ベルは魔石灯の出力を最小まで落とし、ソファーで横になって毛布を被る。
いつもスズに合わせた消灯時間で早寝早起きは慣れていることだが、この日は妙に眠気がしない。
『二人きりの夜』というどうでもいいフレーズが頭から離れずに、ついついスズの方に意識が向いてしまう。
妹なのに、まだ小さい子なのに、僕という奴はとベルは必死によこしまな思いを振り払おうとするが、どうしてもスズが気になってしまう。
不意に「ベルにならどんなことされても大丈夫だよッ!!」「恥ずかしくてもベルが嬉しいなら我慢、するよ?」という、一週間くらい前に、スズが顔を真っ赤にさせながらも言ってくれた言葉が、頭の中で何度も何度も繰り返された。
これは非常に不味い状態である。
いつも一緒にいるヘスティアがいないので、ベルを止められるものはベル自身の自制心だけだ。
時計の針の音と自分の心臓の高鳴りがとても大きく聞こえて、スズの呼吸音までもが聞こえてきた気がした。
意識はしてしまっても、心優しく異性の前では上がり症のベルは実際に行動を移すことはない。
ないのだが、気になりすぎて眠れない。
長い間悶々とよこしまな思いを消し去ろうとすると、布がこすれる音とベッドが少しきしむ音が聞こえてきた。
おそらくスズが体を起こしたのだろう。
トイレだろうか。
「ベル……ベル……」
「ひゃい!?」
意識していたスズに体を揺すられてベルの心臓が飛び跳ねそうになった。
「ご、ごめんねッ! そんなにビックリするとは思わなくて…」
「だ、だ、だ大丈夫だよ。それよりもスズ、どうしたの?」
いつものスズなら夜中に目が覚めても、トイレに行きたくなっても、寝ている人を起こすような真似はせずに、周りを気にして音を立てないよう気を付けながら用事を済ますはずだ。
少なくともベルはそう思っている。
何かあったのだろうか。
魔石灯の出力を上げようと立ち上がろうとすると、「そのままでいいの、ごめんね」と静止を掛ける。
「いつも神様と一緒に寝てたからね……その……いいかな?」
「いいかなって?」
「……一人じゃ寂しくて……その……ベルに一緒に寝てもらいたいの……。ダメ、かな……?」
きっと魔石灯がついていたらお互いに顔を真っ赤にさせていただろう。
聞き取る相手によってはものすごい勘違いをされてしまうような言葉だ。
「……よくわからないけど……一人で眠るの、すごく怖くて……。ごめんね…変なことで起こしちゃって……」
わずかな灯りしかない暗闇に目が慣れてくると、スズの体が震えているのが見えた。
スズはきっと震えている自分の姿を見られてベルを心配させてしまうのが嫌で、灯りの出力を上げさせず、ベルにはそのまま横になっていてほしかったのだろう。
「スズはまだ子供なんだから、もっとワガママ言ってもいいんだよ」
スズの頭を優しく撫でて、手を引いてベッドまで連れていき、一緒に横になってあげる。
「……ありがとう……ベル……」
スズはぎゅっと前と同じようにベルの胸に顔を埋めてベルに抱きついた。
ベルはそんなスズを赤子をあやすように、頭と背中をぽんぽんと優しく撫でて寝かしつけてあげる。
ここまでだけならいい話なのだが、スズの為にと思って頑張ってみたものの、スズが取り乱している間は何とかしてあげないとという気持ちでいっぱいで平気だったのに、スズが寝付いて心の余裕が出来た途端、再びベルの男としての葛藤が始まる。
最高の抱き枕を得ても、余計に眠れなくなってしまった。
結局この日、ベルはあまり眠れず悶々とするのであった。
§
寝不足を隠してその日もダンジョンに潜っていた。
本日から始まるスズの技術講座はいたってシンプルかつスパルタなものだった。
まず口頭で説明しながらゴブリンやコボルト相手に数々の攻撃のいなし方、相手の攻撃の勢いを利用した相手の体勢の崩し方から、どこをどう力を加えれば少ない力で効率よく攻撃をそらすことができるのか、人型対策用に相手が抵抗しようとした時の力を利用して相手を投げ飛ばしたり関節を固めて動けなくする技術などなどを見せてくれる。
その次にゆっくりベルに攻撃してもらって、やられた側がどうなっているのかを体験してもらい、次に受けの実施を一回丁寧に教えてくれる。
スズを吹き飛ばしたり投げ飛ばしたり、体を密着させたりすることにベルは抵抗を覚えたものの、ゆっくりやるし受け身はとれるから大丈夫だよと丁寧にできるまで、何度も何度も繰り返し、ある程度出来るようになったらスズが攻撃内容を宣言して、手加減しているもののそれなりの速度で攻撃を仕掛け無事それをいなせたら次の段階へ。
ベルが受けられず無様に吹き飛ばされてしまったら涙目で謝られて心配されるが、振り出しに戻る。
実に分かりやすい天然スパルタだ。
練習用の木製の短刀と木刀でやりあっているので痛いだけだが、当たると痛い目を見るだけでなく、スズを涙目でしばらく謝り続けてしまうから、嫌でも覚えなければいけない超スパルタだ。
問題を一問間違えたら振り出しに戻ってやり直しさせられるエイナのスパルタ講義を参考にしているであろうスパルタ訓練は、必死さのかいもあって、実戦で使えるレベルとは言えないものの原理だけは何とか叩き込まれた気がする。
これをどんな攻撃が来るかわからない
「そこまで気にするものかなぁ」
「前衛が攻撃を支えられないのは問題だから。せめて敏捷か耐久だけでももう少し伸びてくれれば、魔法剣士を続けられるんだけど……」
「自分に合った相手と全力で戦った方が【
「そうだと思うけど……ベルの足引っ張りたくないし、後衛が一番いいと思うよ?」
急成長するベルに合わせてスズは考えているのだから、それこそスズに合わせた階層でゆっくりやっていけばいいのではないかと思ってしまう。
「【魔法】で盾とか出して耐えるとかはどうかな。これなら耐久関係なしにスズの伸びのいい魔力で何とかなりそうじゃない?」
「雷の盾か……。私もそれは考えてたんだけど、【魔法】は精神力を使うから、いざって時の切り札にはなりそうだけど、戦線維持は難しいんじゃないかな。それなら【範囲魔法】や強力な【単体魔法】に精神力を使った方が効率がよさそうだし。でも、盾はもうすぐ完成しそうなんだよ。これなら後方からもベルを庇ってあげられるし!」
ちょうど話し中にゴブリンが襲い掛かってきていたので、スズは手をそのゴブリンに向けてかざす。
「【雷よ】」
スズの目の前に半径3Mほどの黄金に光り輝く円形障壁が出現した。
円形障壁はバチバチと放電しており、襲い掛かろうとしていたゴブリンが障壁にぶつかる。
すると円形障壁の輝きがその瞬間だけ増し、ゴブリンが電気に焼かれながら勢いよく錐もみし、後方に吹き飛ばされていった。
身を焼かれて勢いよく吹き飛ばされたゴブリンは地面を転がり動かなくなる。
「か、カッコいい!」
「指定したターゲット以外が接触したら電撃が炸裂するようにしたんだ。まだ自分の近くにしか展開できないけど、座標指定をもっと上手くできれば、後衛から前衛に盾を掛けてあげることができると思うよ」
「他に完成しそうなのはないの?」
「電気による回復も考えたんだけど……疲れが溜まってる今のベルには効果あるかな。後で試してみる?」
「電気で回復まで出来るの!?」
ベルの中で電気と言ったら派手な攻撃魔法のイメージだったのでその意外な効果に驚きだ。
「回復と言っても電気マッサージだけどね。電気で筋肉をほぐしてあげるの。手で直接肌に触れないといけないから、あまり普通のマッサージと変わらないかな。流石にダンジョンで防具を脱ぐわけにはいかないから、家に帰ったらやってあげるね」
「て、手で直接肌!? えっと……それ、ちょっと恥ずかしくないかな?」
意識しているのはやはりベルだけなのだろう。
「ただのマッサージなのに何で?」とスズは不思議そうに首をかしげている。
「神様が帰ってくるまでに出来上がりそうなのはそのくらいで、【範囲魔法】とかはまだ全然ダメだよ。威力と燃費がなかなか吊り合ってくれなくて」
「十分じゃないかな。そんなに急ぐ必要はないんだから」
「そうだね。それじゃあ一度戻ろっか。そろそろ帰らないとお昼すぎちゃうし」
ヘスティアがバイト先に居なくてもジャガ丸くんの屋台に立ち寄るのは習慣となっている。
スズ自身が商店街の人達や冒険者との触れ合い、掛け合いを楽しみにしているので昼は少しジャガ丸くんの屋台でまったりするのは日課なのだ。
いつも通り何事もなく地上に戻り、ジャガ丸くんの露店に行き、またダンジョンに潜り、ホームで夕食をとり、昨日行った銭湯に浸かってホームに戻った。
§
『神の宴』から一日、まだヘスティアは帰って来ないことに寂しさを感じると同時にベルは危機感を感じた。
スズは普段からベルにべったりだが、ヘスティアは毎日スズを抱きしめたり撫でまわしたりとものすごく可愛がっており、その抜けた日常の寂しさをスズはベルに求めているのだ。
相変わらず指摘しないと異性として認識してくれず、それはもうべったりである。
かといって甘えん坊で寂しがりなスズのことを知っているから断るに断れない。
「ベル。それじゃあ服を脱いで。電気治療術式のお試しをしてみるから。痛かったらすぐに言ってね?」
「う……うん……」
ヘスティアに【ステイタス】を更新してもらう時と同じように、上半身裸にされたベルの腰のあたりにスズがまたがる。
スズが寝間着姿のおかげで太腿が横っ腹に直接触れることはなかったが、普段着やラフな格好だったら危なかった。
そう思っているとスズの手がベルの肩を優しく撫で、そこからびりびりと何か気持ちのいい振動が肩の奥底まで浸透する。
「ひゃっ!?」
「ご、ごめんねっ!! 痛かった!?」
「い、痛くはないんだけど……」
味わったことのない電気による刺激と、剣を扱っているとは思えない柔らかい手のひらが優しくベルの体を撫でまわす。
それは気持ちが良いし心地も良い。
それでも未知の刺激と異性に肌を撫でまわされるというダブルパンチがベルの顔を沸騰させる。
「やっぱり結構首や背中……肩までこっちゃってるね。ごめんね、慣れないことやらせちゃったせいで」
肩や首筋、背中のツボを「んっ」「んっ」と一生懸命押しながら気遣ってくれているが、電気とマッサージと声と、たまに電気で刺激するのに集中するために優しく上半身を撫でまわす柔らかい手の感覚が、ベルの体を癒してくれるが脳をとろけさせていく。
仰向けに決してなってはいけない状態に下半身がなっている。
このテントをスズに見せる訳にはいかない。
こんな贅沢普通は一生掛けても味わえないはずなのに、快楽と恥ずかしさと絶望の三つが今ベルのことを襲っているのだ。
腕までマッサージしてもらい、腿にまたがられ腰もマッサージしてくれる。
「気持ちいい?」
「キモチイイデス」
「よかった」
えへへ、と笑うスズに対してとにかく自制心を保つ試練は続く。
当然のようにこの日も眠る時に震えたスズがやって来て、またくっついて一緒に寝ることになり、ベルのように心の強い人間でなければいつ問題が起きてもおかしくない状況だ。
早くヘスティアが帰って来てくれなければベルも不味いかもしれない。
我慢の限界が来るよりも先にベルの気が参ってしまいそうだった。
§
二日目、何とかスズのマッサージのおかげで体の疲れはとれたが寝不足でベルは眠かった。
それでもスズに悟られないように気を付けながら、いつもと同じサイクルをこなして、銭湯から帰って来てもまだヘスティアが戻っていないことにスズ以上に落胆してしまう。
身心共に限界だ。
今のところおとなしくなってくれている【
ダンジョンでくたくたになっても、そろそろ生理現象まで抑えられる自信はない。
体を引っ付けて安らかに眠り、たまに身動ぎするスズの動作で英雄の一撃が爆発してしまったらズボンも布団もスズのパジャマもおそらく大参事である。
『無理すると体壊すわよ。今日は私が『スズ・クラネル』を寝付かせるから、ソファーでゆっくり寝なさい』
そんな悩める男子を救う女神がいた。
だけど、久々に出てきたスクハはなんだかじと目でベルのことを睨んでいる。
「えっと、スクハ?」
『ただ呆れているだけよ。まあ、おかげで十分休めたから助かったのだけれど。『スズ・クラネル』が求める通り家族として側にいてくれたことは感謝するわ。トイレでも部屋の外でもいいから発散してきなさい』
突然スクハにティッシュ箱を渡されてベルの表情は一瞬固まってしまった。
『生理現象だから目の前でしなければ軽蔑はしないわ。存分に人目につかない場所で『剣姫』をおかずに発散しなさい。見えないところでする分には気にしないから』
「そういう心遣いはいらないんですけど!?」
『コンニャクはないわ、あきらめなさい』
「何に使うの!?」
『なにって……な、ナニに決まってるじゃない』
スクハが少し頬を赤めて目を反らした。
それだけで恥ずかしいこと言って自爆しちゃったんだなとベルは察してあげる。
「スクハ、話すのは久しぶりだね」
『こんなしょうもないことを私が出なければならない緊急事態にしないでもらいたいのだけれど。素直に「可愛い妹が抱き枕だぜ、いやっほー」と抱きしめて眠るだけで満足できないのかしら。何ナニを固くして小さな幼気な少女に欲情しているの、貴方は。それでいてその瞬間を楽しまずに寝不足なんて……。貴方、バカなの初心なの男なの死ぬの?』
「うっ」
『それでハーレムなんてどうやって目指すのかぜひとも教えてもらいたいのだけれど。私よりも歪なんじゃないのかしら。そう思うと、貴方のことが心配になってきてしまうのだけれど』
最後には大きくため息をつかれてしまった。
散々な言われようだが、やはりベルのことを心配して出てきてくれたのだろう。
「心配してくれてありがとう、スクハ」
『……貴方、罵られてお礼を言うなんてマゾなの? 寝不足なのだから早く寝なさい』
スクハは頬を赤めてプイと顔をそらしたので、きっとお礼を言われて嬉しかったのだろう。
前出会った時よりもスクハが表情豊かになっていてベルは嬉しく思えた。
『早く寝なさい。それとも何、発散しにも行かないのは私の前で隠れながらするつもりだったのかしら。だとしたら、さすがに軽蔑してしまうのだけれど』
「しないから! そんなことしないから!」
『なら早く寝なさい。私も『スズ・クラネル』のお守をしながら眠るから』
「ありがとう。おやすみスクハ。スズ」
『……おやすみ』
スズの時と同様に、スクハが布団に入って横になるのを見守ってから魔石灯の灯りを最小にしてソファーで横になる。
眠気もあるが、元気そうなスクハの姿にほっとしたのもあり、二日間スズと密着して眠っていたこともあってか、ベルは『二人きりの夜』だということは意識せずすぐに眠ることができた。
明日は
『スズ・クラネル』にとっての最初の祭りが始まろうとしていた。
ベル君は祖父から英才教育を受けているのに、よく我慢できるなと感心する今日この頃。
さすがフレイヤ様が見たことのない魂の持ち主ですね。
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