スズ・クラネルという少女の物語   作:へたペン

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ヘスティア様がヘファイストス様にお願いするお話。


Chapter07『神の宴』

 神々の宴。

 それは気ままな神がやりたい時に開く気まぐれな神らしい社交場である。

 

 今回の主催者である「俺がガネーシャだ!」な挨拶を聞き流した後、ヘスティアは豪華な食事にも目もくれずに神友であるヘファイストスの姿を探して会場である派手なホールを歩き回る。

 

「二次元くらいハイエースしたっていいだろ!」

「貴様それでも見守る会の会員か!」

「鬼畜! マジお前鬼畜!」

「らぶらぶちゅっちゅが最高だろ常考」

「いや剣姫との百合百合だろ。猫ちゃん憧れてるらしいぜ。勿論受けな。フヒヒ」

 途中でいつにもまして変な会話をしてる神々を見かけてしまう。

 

「お前達何を言っている! 二次元は自由だ!! 好きな発想をしていいんだぞ! 現実では優しく愛でて見守り、二次元では己の欲望を爆発させろ!! 二次元はいいぞ二次元は!! 実によくなじむ!! お兄ちゃんとの温泉旅行から鬼畜物まで貴様らの為に描いてきてやったぞ!! 存分に味わうがいい!! お土産にストラップやマグカップもある!! さあ宴だ!! 好きな物を持っていくがいい!! 我等の至高は子供達の笑顔!! それを汚さず欲望を満たすのだ!!」

「「「「エロス、貴方が神か」」」」

「俺はガネーシャだ!」 

 

 あまりにも馬鹿らしい会話をしていたので近づきたくなくなり、ヘスティアは別の場所を探すことにする。

 

「あらヘスティア、久しぶり。宴に来たとしても日持ちするものをタッパーにつめているんじゃないかと心配したわ」

「ヘファイストス! 会いたかったよっ!!」

 するとヘファイストスの方から自分を見つけてくれて、嬉しくて思わず飛び込んでしまった。

 

 ヘファイストスはそれを抱き留めて「元気そうでなによりだわ」と微笑んでくれる。

「だけど、もう貴女には一ヴァリスも貸さないわよ」

「失敬な。お金はもう借りないよ。食事だってボクの可愛い子供が美味しいものを毎日作ってくれるんだ。そんな貧乏くさい真似なんかするもんかっ!」

「ならせめてもう少しましな服を着てきて欲しかったけど……。でも良い髪飾りしてるじゃないの」

「へへへ、いいだろ。ベル君とスズ君がボクにプレゼントしてくれたんだぜ!」

「ただ養われているのは相変わらずなのね」

 ヘファイストスは軽く頭を抱えて大きくため息をついてしまっていた。

 

「ボクだってヘファイストスが紹介してくれたバイトだけど、これでも頑張ってるんだぞ。ほらこれ、泣き付いて借りちゃったお金。用意してくれた家具の分はわからなくて入ってないけど、全部ボクが稼いだお金なんだ」

 ベルとスズのおかげで生活費は安定しているので、ヘスティアが稼いだバイト代はヘファイストスに返すために貯めていた。

 

 それなりに重いヴァリスの入った巾着袋の中身を見て、ヘファイストスはよほど衝撃をうけたのかぽっかりと口を開けてしまっている。

 

「ヘスティア。熱はない? 本当にしっかり食事をしているの?」

「してるよ! ヘファイストス、ボクが恩を仇で返すような神に見えるかい?」

「そこまでは思っていないけど、とにかく何とかやっていけているみたいで本当に私は嬉しいわ」

 ヘファイストスが嬉しそうに安堵の息をついた。

 どうやらかなりヘスティアのことを心配してくれていたらしい。

 

「ふふ……相変わらず仲がいいのね」

「え、フ、フレイヤ?」

 ヘファイストスとやり取りをしてる中、美の女神フレイヤがヘスティアに微笑んできた。

 

 その美貌だけで下界の子供達も神すらも虜にしてしまう美の神。

 【ロキ・ファミリア】と並んで、いやオラリオの頂点に君臨する【ファミリア】だ。

 唯一のLV.7である最強の冒険者が所属している【フレイヤ・ファミリア】の主神フレイヤは、その姿を見せるだけで男女問わず下界の者を骨抜きにしてしまう為、滅多にバベルの最上階から降りてくることはなく、こうして神の宴に顔を出すことすらない。

 

 

 そんなフレイヤがなぜ今目の前にいるのだろう。

 それも大きな袋を抱えて。

 

 

「さっきそこで会ったのよ。久しぶりーっ、て話しかけたら、じゃあ一緒に会場回りましょうかって流れに」

「ヘファイストス、それは軽すぎじゃないか? まあ君の【ファミリア】も有名だから底辺のボクからはなんとも言えないけど」

「お邪魔だったかしら、ヘスティア?」

「そんなことないけど……ボクは君のこと、苦手なんだ」

「うふふ、貴女のそういうところ、私は好きよ?」

 そういうフレイヤが苦手なのだ。

 

 美貌に権力も加え、この食えない性格である。

  嫌悪感をいだくとかそういうことは一切ないのだが、あまり関わりたくないのが本音だ。

 

「おーい! ファーイたーん、フレイヤー! ……このドチビがああああああああああああああ!!」

 笑顔で手を振りながら、ヘスティアの大嫌いなロキが現れたかと思うと、なぜかヘスティアの元にものすごい勢いで走ってきた。

 

 ロキが理由もなく、いや無乳なロキが幼いのに巨乳なヘスティアに嫉妬して突っかかってくるのはいつものことだが、今日は初めから巨乳に完全敗北したような血の涙を流しながらやってきたのだ。

 

「なんなん!? その格好なんなん!? どんだけ貧乏なん!? もっとましな格好できへんの!? そんなんでしっかり子供達にご飯食べさせてあげられてんの!? このドチビがっ!!」

 ロキの姿を目にした時ヘスティアは「貧乏くさい奴を笑いにきてやったでー」くらいのジャブをロキが繰り出してくるかと思ったのに、なぜだか心配してくれているような感じがした。

 

 でも血の涙は流している。

 

「ろ、ロキ。君は頭でも打ったのかい!? ボクの心配なんかするキミじゃないだろ!?」

「誰がドチビなんかの心配なんかするアホォッ!! いいからまともな生活できてんか答えんかいっ!!」

「も、もちろんさ! ぼ、ボクの子供達はとても良い子達でね。スズ君が毎日ボクやベル君の為にご飯を作ってくれて、それがとても美味しいんだ」

「『おっぱいぶるんぶるんしたお前なんか大っ嫌いだっ!!!! ちくしょうめええええええええええええええええええっ!!!!』」

 突然ロキが血の涙を流したまま走り去ってしまった。

 

「無乳ロキが戦わずして負けた!?」

「あー、無乳神様も会員だからね。知っちゃったんだろ」

「『完全勝利したロリ巨乳』」

 いったい何だったのだろうか。

 

 なぜだか数人の神々がヘスティアのことを見て『爆発しろ』と嫉妬めいたことを呟いている。

 

「本当に丸くなったわ、ロキ……」

「丸くなったというか……小物を通り越して『総統閣下』にしか見えなかったんだけど……」

 呆れているヘファイストスに今のロキの方が可愛いし危なっかしくないとフレイヤが微笑えむ。

 

 フレイヤが言うにはロキは今の子供達が大好きでだいぶ変わったらしい。

 大好きな子供達の為なら不変の神だって心だけは変われるのだ。

 だからこそこの無駄で不自由だらけな下界がとても美しく見えて素晴らしく感じられるのだとヘスティアは思っている。

 

「じゃあ、私も失礼させてもらうわ。戦利品も手に入れたし、確認したいことは聞けたし……」

「あらそう。珍しい面々が揃ったのに残念ね。ずっとその袋が気になってたんだけど、それが戦利品? また男から貢物でもされたの?」

「そんなところね。食べ飽きちゃったここにいる男よりも、ずっと私を満足させてくれると思っているわ。ガネーシャには感謝しなくてはね」

 どこか満足そうに笑い、フレイヤが珍しく優雅に歩くのではなく少し小走り気味に去って行く。

 

 ロキといいフレイヤといい一体どうしたのだろうか。

 

「で、あんたはどうするの? 私はもう少しみんなの顔を見に回ろうかと思うけど、帰る?」

「帰らない。借りたお金を返したり、近況報告をしたい気持ちももちろん大きかったけど、ボクはヘファイストス、君に相談ごとと頼みごとがあって来たんだよ」

 その言葉に機嫌がよかったヘファイストスが眉を細めた。

 

「今までだって散々頼っておいておこがましいと思っている。それでも地上でのボクはただ子供達を見守ってあげることしかできない、養ってもらうことしかできないへっぽこな神だ。そんなボクのことを子供達は一緒にいてくれるだけで幸せだって言ってくれるけど、ボクも子供達になにかしてあげたい。力になってあげたいんだよ! ボクに出来ることなら、ボクだけに負担が掛かることならなんだってする! 借りだって今日みたいに返すから! どうか話を聞いて欲しい!」

 

 真剣なヘスティアの態度にヘファイストスは深くため息をついて、それでも嬉しそうに「ヘスティアもずいぶん変わったわね」と頬を緩ませた。

 

「一応話だけは聞いてあげるわ。言ってみなさい」

「ベル君とスズ君に……ボクの【ファミリア】の子達に、武器を作ってもらいたいんだ!」

 

 

§

 

 

 頼み込んだものの見事に断られた。

 神友の為だからと言って大手【ファミリア】が簡単に武器を渡したら示しがつかないし、愛しの子供達が丹精込めて作った努力の結晶を簡単に渡せない気持ちは子供達の為に頭をさげている貴女が一番よく知っているはずだ、そうわかりやすく理由を説明され、子供達の為に自分でもできることを探してあげなさいと言われてしまった。

 

 【ヘファイストス・ファミリア】のLV.1鍛冶師(スミス)が打った武器もバベルのテナントで扱っていており、それらもしっかりした自慢の子供達の武器だから、バイト代をまた貯めて、そのお金で買ってあげた方が子供達も喜んでくれると子供を諭すかのように優しく言ってくれる。

 

 それでも、これが一番ベルとスズの力になれる方法だと思っているヘスティアは一歩も引かず、神友のタケミカヅチから教えてもらった土下座をし続けて頼み込むこと二日。

 仕事をしている時も食事をしている時も眠っている時も起きた時でさえ、ずっと土下座をし続けるヘスティアにヘファイストスはついに折れた。

 

 神友が痛々しいまでに頭をさげ続ける姿に耐えられなかったのだ。

 ただし何十年何百年掛かってもけじめとしてしっかり対価を返済することと、私事で制作する武器なので【ヘファイストス・ファミリア】の鍛冶師(スミス)ではなく、ヘファイストス自身が制作にあたることになった。

 

 

 今のヘファイストスは当然『神の力(アルカナム)』は使えず、【鍛冶アビリティ】のような特殊能力を武器につける特別な力は一切ない普通の人間と同じ状態だが、天界で神匠(しんしょう)と謳われていた技量から作り出される武具の完成度は【ヘファイストス・ファミリア】の目標であり憧れだ。

 

 そんなヘファイストスが作ってくれるのが、何よりも神友自身が作ってくれるヘスティアはとても嬉しかった。

 

「制作する得物はナイフ一本。これでいいね?」

「杖は確かにヘファイストスの専門外だけど、スズ君は剣も使うんだ!」

「……作ってあげてもいいけど、人間と精霊が鍛え上げた最高傑作を既に持っているじゃないの」

 ヘファイストスの予想外の言葉に一瞬何を言われているのかが分からなくて、ヘスティアはしばらく目をぱちくりとさせた後、ようやく何のことを言われているのかを理解できた。

 

「最高傑作って……君がそこまで言うものなのかい? あれは『無駄にすごい家庭セット』なんだろう?」

 少なくともヘスティアはスズからそう聞いているし、ギルドの方でもそう認識されている。

 

「無駄だらけの贋作でなく、『原物』を見たのは初めだったから遠目から見て驚いたものよ。どうやって持ち出したかは知らないけど、『白猫限定』でいうのなら、あの生きた『得物』より『使いやすい』得物は家には置いていないわ。まだ居眠りしているみたいだけど、一度スイッチが入れば文字通り化けるわよ、あの『鞘』と『柄』は」

 神匠(しんしょう)と謳わられたヘファイストスにここまで言わせる武器に思わずヘスティアはごくりと唾を飲んでしまう。

 

「ヘファイストスは……その、スズ君の里について何かしっているかい?」

「『あの里』については……とことん地味な精霊を慕って集まった集落程度にしか私は知らないわね。『あの里』のことならロキやフレイヤの方が詳しいから、彼女達に聞けばいいじゃない」

「難易度高いこと言わないでおくれよ。ボクはあの二人のこと苦手だし、何よりも二人はトップ【ファミリア】じゃないか!」

「はいはい、なら愛しの子供のことは本人に聞くことね。無駄口叩いてないで、これから制作に取り掛かるからあんたも手伝いなさい」

 スクハが下手な情報は『悪夢』に繋がるからと一切教えてくれないからそれはできない。

 

 スズの故郷についてまたもやわからず、もやもやした気持ちがおさまらないヘスティアだったが、今はいったんその気持ちをぐっと抑え込み、ベルの為に全力でヘファイストスの手伝いに取り掛かるのだった。

 

 




相変わらずのネタまみれの神々でした。
群衆の主ガネーシャさんだから仕方ないんです。仕方がなかったんです!
『白猫ちゃん』による汚染が徐々に拡大しているようです。

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