文字通りダンジョンでスズは暴れていた。
いつものスズのように守りを固めて堅実に反撃するのではなく、攻撃の一環として盾を使い攻めて攻めて攻め続ける。
珍しく五匹もコボルトがまとまっていたが、先制で一匹、反撃で一匹、さらに襲い掛かるのを【ソル】で一匹、同時に来た二匹を薙ぎ払いでいっぺんに吹き飛ばしてトドメに一匹と、結局その戦闘でベルは動けなくなったもう一匹にトドメを刺して全部の
『【
そう呟きながらもゴブリンを二匹撲殺どころか惨殺する。
昨日ベルが潜った時ここまで楽には倒せていなかったし、力や敏捷の【基本アビリティ】はベルの方が高いはずだ。
「簡単に倒してるけど、何かこつとかあるの?」
『そうね、しいて言えば経験の差かしら。知識としてだけなら武術の心得もあるし、ベルだって効率よく的確な順番で
好き勝手に
仕舞には視線から気配を察知するだの、わざと隙を見せて攻撃を誘うだの、得意げに、すごいんだから褒めてもいいのよ、と言わんばかりに横目でちらちらとベルのことを確認しながら説明しつつ
どこかひねくれてるところもあるがやはりこのスズも寂しがり屋で愛情に飢えているようだ。
「スズはやっぱりすごいね。だけどケガしないように気を付けてね」
『ええ。わかってるわ。ストレス発散のためとはいえ『スズ・クラネル』の体を使ってるのは十分承知よ。体力配分やケガにはこれでも気を使っているから安心しなさい』
「そうじゃなくて。いや、それもあるけど、今のスズにも傷ついてほしくないかなって。詳しい事情は僕にはわからないけど、今のスズにもケガとか無理とかしてもらいたくないから」
『そう。気を付けるわ』
また目をそらした。
しかも眉を少し顰めている。
おそらく嫌がられたのではなく、よほど恥ずかしかったのだろう。
寂しがり屋だけど照れ屋なようだ。
ダンジョンに潜っているだけなのにどんどん新しい妹のことがわかってベルは嬉しくなってくる。
『それにしてもリスポーンが遅くて稼ぐには向いてないわね。二階層に行きましょうか。エイナにも適正だと言われてるし問題ないでしょう。イレギュラー対策も完成させたいところだし』
「完成させたいって……もしかして魔法?」
『ええ。本来『スズ・クラネル』のサポートが私の本分なのよ。即席の【ソルガ】は少し調整ミスをしてしまったけれど、なかなか『スズ・クラネル』は優秀でね。既に術式の無駄を改良しているみたいなの。だから私のお役目を取られないよう『スズ・クラネル』が作ろうとしていた内一つだけど、その術式はおおよそ完成させているわ。後はそうね、ベルがピンチにでもなってくれたらお披露目してあげられるかもしれないわね。ピンチになることを期待しているわ』
「ピンチになることを期待されるのはちょっと」
『貴方は英雄に憧れる男の子なのだから、冒険をせずに一体何をするというの? 私を守ってくれるのでしょう、アルゴノゥト君』
今まで恥ずかしがらせてきたことへの反撃とばかりに、不敵な笑みを浮かべながら恥ずかしい台詞と【スキル】名を思い出させてくる。
スズが体験したことはこのスズも知っているようだ。不意の反撃でベルの顔が一気に上気する。
『ベル君、可愛い』
さらにここでヘスティアが言った言葉も放って追い打ちを仕掛けてきた。恥ずかしさのあまりのたうち回るベルを見下ろして満足そうに「ふふ」と軽く口元を緩ませる。
『さて、ダンジョンでのおふざけはこのくらいにしましょうか。まだざっと計算しても二〇〇〇ヴァリス程度。プレゼント代や借金に加えて、オーブンも欲しいし、出来ることならシャワーではなく湯船に浸かりたいわね。温泉はこの街にはないのかしら。極東文化も取り入れられているから有ってもよさそうなのだけれど』
「スズは極東に詳しいんだね」
『里から出ない引きこもりなお母様のワガママで色々な文化を取り入れていただけよ。火の山が近かったから天然ものも近くに多かったし。銭湯もあったわね。それなのにもっと大きなのに入りたいと言って里よりも大きな人工温泉を作ろうとするあたり、神よりも神らしい気まぐれで気ままな人というか……騎士のたしなみと言いつつも何も考えてないというか、そんなお母様を慕っていた里の皆も本当にバカなお人好しだったと思うわ。私も含めてね』
口調は同じままで、どこか寂しげだけど、いつものスズのように穏やかな表情で思い出を語る。
その後そっと目を閉じて、自分の感情を押し殺すようにまた不愛想な表情に戻す。
『まあなにはともあれ、『私』が出ていられる内に荒稼ぎはしておいて損はないわ。『スズ・クラネル』の時ではそんな荒稼ぎ精神衛生上よろしくないもの』
「今のスズは大丈夫なの?」
『ええ。恐怖は私の担当ではないし、
普段のスズは頑張りすぎて無理しそうで心配なのに対して、こっちのスズは好戦的すぎて無茶をしそうでさらに心配になってくる。
それでもストレス発散に付き合ってと頼まれてしまった以上、大丈夫そうなところまでならとことん付き合ってあげないとと思った。
それに、こっちのスズはいつものスズのことを思って行動していると思うし、暴れまわっているもののなんだかんだでベルのことを頼りにしてくれているのか、しっかり移動の時はベルの足並みに合わせて進んでくれている。
立ち止まれば立ち止まってくれるし、試しに急いでみるとそれに合わせて駆け足になる。
だから初めての二階層でも好き勝手やりたい放題ということはないと思うので、そこまで心配する必要はないかもしれない。
『なに、そんなに私が歩幅を合わせてるのが気に入らないの。もしかして『もう全部お前一人でいいんじゃないかな』とか思ってしまったのかしら。もし不快にさせたなら謝るけれど』
「いや、スズってやっぱり優しいなって」
『ヘスティアといい、貴方といい、もう好きにしなさい』
スズが大きくため息をついて、またそっぽを向く。
優しいと言われてきっと嬉しかったのだろうなとベルは勝手に解釈しておいた。
「好きにか……」
『衣服を脱げ、とか。奉仕しろ、とか言うのであれば、私は貴方を軽蔑しなければならなくなるわ』
「言わないよそんなことっ!!」
『知ってたけど、さっきのお返しよ。それで言いたいことは何?』
「やっぱりスズとスズだと区別がつけにくいと言うか、僕の頭がこんがらがると言うか。呼び名を変えて区別しようかなって思うんだけどどうかな?」
そう言うとまた呆れたようにスズがため息をついてしまった。
『今日は緊急事態でストレス発散を『私』が代わりにやっているだけであって、ここまで『私』が長時間表に出ていることなんて本来あってはならないことよ。そんな相手の呼び方なんて考えてどうするつもり。最初に私が言った通り『もう一人のスズ』でいいと思うのだけれど。安易に『ちゃん付け』で区別でもするつもりかしら?』
「でもこうやって話してが出来るんだから何かないかなって。僕にとってスズはスズだけど、どっちも大切なスズなんだけど、ほら、なんだか説明する時だってややこしいし」
『そういうことならそうね……私自身は元の家名を自分として、『スズ・クラネル』をあの子にしてるけど、元の家名で呼ばれるのはあまり好ましくないわ。『スズ・クラネル』のトラウマを刺激しかねないし。そうね、どうしても呼びたければ『スクハ』とでも呼んでもらえるかしら。ただ、『スズ・クラネル』の時に呼び間違えても私は一切責任を取らないわよ?』
「大丈夫。スズはスズでも、スズとスクハは雰囲気が違うし絶対に間違えないよ」
ようやく伸ばした手を掴んでもらえた気がした。
今まで何度か違和感を感じる度に手を伸ばしていいのかわからなくて、いざ手を伸ばしても掴んでくれなかった『スクハ』がようやく手を掴んでくれた気がして嬉しかった。
『そう。貴方がそう思うならそうしなさい。さすがに貴方達のお人好しかげんには慣れたわ。でも、これだけは言わせてもらうわね。もしも『私』と『スズ・クラネル』のどちらかしか選べない状況になったら、迷わずに『私』を切り捨てなさい。『私』は消えても『スズ・クラネル』のどこかに残るけど、もしも『スズ・クラネル』が消えてしまえば、残るものはただの壊れきった『私』だけなのだから。そこのところは肝に免じておくことね』
スクハが何を思ってそんなことを言ったのかはスズの事情を全く知らないベルにはわからない。
でもベルは大切な者を全部守るために英雄になりたいのだ。
何一つあきらめたくないから、そんなものへの答えは初めから決まっていた。
「その時は両方助けるよ。約束する」
『呆れた。本当にワガママな英雄願望ね。期待はしてないけど、応援だけはしてあげるわ』
相変わらずスクハにはため息をつかれてしまったが、そんなスクハの頬はかすかに緩んでいるように見えた。
§
『心配性のエイナが適正というだけあって拍子抜けね』
「僕はいきなりひやひやさせられたんだけど」
二階層に降りてしばらく歩くとゴブリン二匹とコボルト四匹の混成部隊に正面から遭遇して、スクハが『適当なの二体任せた』とだけ言ってバックを投げ捨て突撃。
慌ててスクハを追いかけてスクハに攻撃しようとしていたゴブリン一匹とコボルト一匹を何とか倒した頃には何事もなかったかのようにバックを取りに戻っていて、それでいてそんなことを言いながらため息をつかれたのだから、確かにこんな大胆な戦闘方法は早く敵を倒せるが精神衛生上よろしくないとベルは苦笑してしまう。
『私は五匹くらいなら受け持てるし、今の貴方は二匹くらい楽に倒せるでしょう。何か問題でも?』
「ナニモゴザイマセン」
『よろしい。この調子で行くわよ。
「
『
「今の数って少なかった?」
『さあ、たぶん二階層にしては多かったのでないのかしら。でも
そんな会話をしているとスクハが天井に張り付いている全長一六〇Cはあるヤモリ型の
『体力は間違いなくゴブリン以上だけど、毒や炎を吐かないトカゲに何の意味があるのかしら。でもそうね、大きくて目立つけれど、伸し掛かれたりでもしたら今の【基本アビリティ】だと身動きが取れなくなるから、不意打ちには気を配ってあげなさい。階層も近いし一階層や階層移動中にだって襲われるかもしれないのだから』
「スクハだって気を付けないと」
『私は『スズ・クラネル』以上に敏感だからそうそう後れを取ることはないわ。むしろ私のせいであそこまで過剰に警戒しているんじゃないのかしら。だから私が表に出ている限り心配無用よ。貴方はただ『スズ・クラネル』の心配をしてあげてればそれでいいの』
まるで自分のことはどうだっていいというような態度に、ベルは少しむっとしてしまう。
スクハだって知ったからにはもう家族なのだ。
どうでもいい存在なんかではない。
それにスズの時の記憶も持っているのだからスズが表の時だって、ずっと一緒にいる家族だ。
スズの体やスズのことを心配しているが自分のことは無頓着なスクハにむっと来たのだ。
「って、スクハ上ッ!!」
気づいた時には遅かった。
ゼリー状の紫色をした液体がダンジョンの天井からスクハめがけて降り注いだのだ。
スクハはその奇襲に気付くのが遅れたがベルが叫びきる前から降り注ぐ液体を避けようと勢いよく後ろに飛びのく。
しかし液体の範囲は広く、離脱に間に合わずにスズの右手が液体に飲まれた。
二階層から四階層に出現する低級の
液状の体を利用して様々なところに身を潜め、獲物を待ち、不用意に近寄った獲物を体内に捕獲してじわりじわりと栄養源にする『一般人』にとって恐ろしい
『【
液体を雷撃で焼こうと剣を持つ右手から【ソル】を放つが液体はそれを避けるようにうごめき、スクハのコートの中に潜り込む。
『ッッ!?』
武器を投げ捨ててまで衣服の中に侵入してくるバブリースライムの進行を手で押さえこもうとするがスライムの進行は止まらない。
外から見ても分かるほどコートの中をスライムが激しく蠢いているのがわかる。
大変なことになっている。
大変なことになっていてすぐにでも助けなければならないのに、大変なことになりすぎていてどうしたらいいのかベルには全く分からなく、『ッ』『ァッ』と頬を上気させながら大変な声を漏らすスクハに何をしてあげたらいいのか全く思いつかなかった。
もう少し下の階層に出現する上位の
勢いよく体当たりされたらコボルトに殴られるのと同じくらい痛いが『恩恵』を授かった冒険者にとってそれはさほど脅威ではないのだ。
動けなくなったところまで追い詰められて完全に取り込まれ窒息死させられない限り、そうそう一匹のバブリースライムにやられることはないのでまだ命の危険ではないのだが、スクハとスズの体は明らかに別の『危険』にさらされている。
兄として男として大切な人が『危険』にさらされるのはよろしくない。
絶対にダメだ。
慌ててベルは羞恥心を捨てて、赤面しながらもスクハのコートを剥いでバブリースライムを取るのを手伝ってあげようと近づくと、ものすごい剣幕で睨まれてしまう。
そんな意地を張っている事態じゃないと訴えかけても、まさかの涙目による無言の圧力を掛けられてしまう。
どうしろと。
『ッ……ノッ、いい加減にッ!!』
蠢く液体が首や膝先まで広がったあたりで、スクハは胸のコートの隙間に右手を突っ込み勢いよく『ソレ』引き抜く。
その手には魔石の欠片が握られており、液体は灰となって消えていった。
顔を上気させたままスクハは激しく呼吸を乱している。
こんな時なんて声を掛けてあげればいいのだろう。
謝ればいいのだろうか。
何を言ってもスクハが傷ついてしまいそうで、ベルが言葉に悩んでいるとスクハが涙目のままベルを睨みつける。
『忘れなさい』
「は、はい?」
『いいから忘れなさい。体内には侵入されてないから忘れなさい。今すぐ忘れなさい。『スズ・クラネル』のためにも忘れなさい。今すぐに。いいわね』
「そ、それはいいけど……えっと、スクハ大丈夫?」
『な に が』
ずかずかとスクハが進んでいく。
八つ当たりとばかりに
おそらくもう一度この件に触れたらベルもああやって焼かれてしまうのだろう。
でもスクハも不意打ちを受けることがあるのは覚えておかなければいけない。
特にスクハは不愛想無感情を装っているが意外と感情的だ。
スズ以上に気を配ってあげないといけなさそうである。
一度スクハを落ち着かせるためにも換金に戻り、さらにたまりにたまったストレスを発散するために二層を二往復するころには、ようやくスクハの機嫌が顔を見て喋ってくれる程度に戻ってくれた。
本日の稼ぎは整備代を差っ引いて八〇〇〇ヴァリス以上と、スズと慎重に潜っていたのと比べて倍以上の荒稼ぎで、サポートが主だったベルの防具や体すらくたくたになるほどの大暴れだった。
§
『なんとか時間内に発散しきったから寝るわ。『スズ・クラネル』は二人でダンジョンに潜ったこと『だけ』は覚えてると思うから、そのヴァリスでヘスティアへのプレゼントを二人で買に行きなさい。くれぐれも『私』の存在をほのめかすことや、ダンジョン内での出来事には触れないように。いつも通りダンジョンに潜ったのにお金があるのは、昨日貴方が頑張って稼いだからよ。いいわね。後は忘れなさい』
「な、なにが?」
『よろしい。物わかりがいい人は好きよ。また『私』が出ることにならないようしっかり『スズ・クラネル』の面倒を見るように。いいわね?』
「大丈夫だよ。もうこんなことにならないようにしっかりスズを支えてあげるから。それじゃあまたねスクハ」
『……本当にわかっているのかしら。まあいいわ。また逢えたら会いましょうベル・クラネル』
スクハはそう言ってゆっくりと目を閉じて、目を開けると、スズはきょろきょろと周りを見回してた後に、夕焼け空を見て首をかしげた。
「あれ?」
「どうしたの、スズ」
「あ、うんん。なんでもないよ。ごめんね、こんな時間まで付き合わせちゃって。神様や商店街の皆に心配掛けちゃったね。ベルにも…たくさん心配掛けちゃった」
スズにとってジャガ丸くんの店を飛び出して泣いてしまったのはつい先ほどのことなのだろう。
「気にしないで。きっと今も心配してくれていると思うから、心配してくれたみんなにありがとうって言いに行こうか」
「うん。ごめんね。それといつもありがとう」
スクハがストレス発散をしてくれたおかげなのだろう。
心配させないように無理して作った笑顔ではなく、スズはいつもの笑顔で頬を少し赤らめながらそう言った。
商店街に足を運ぶと、スズが無事見つかったことをみんなして喜んでくれた。
なんでもあの場にいて時間が空いていた人は長い時間探し周ってくれていたらしい。
なんでも最終的にはヘスティアが「ベル君なら必ず見つけてくれる」と皆を説得して解散させ、バイト時間が終わっても二人なら必ずジャガ丸くんの店まで戻ってきてくれると信じて待ち続けてくれていたようだ。
ベルは先に皆にスズが無事なことを皆に伝えてからダンジョンに潜ればよかったと申し訳なく思った。
でも、スクハは明らかにスズの知り合いのいる商店街を避けるように裏路地からバベルを目指していたので、今思えばスクハはスズと全く違う雰囲気である自分の姿を商店街の皆に見せて、スズの印象を変えてしまわないように人目を気にしていたのだろう。
ヘスティアが「無事でよかったよぅ!!」と涙と鼻水を垂らしながらスズのことを抱きしめているのを見て、さらに申し訳なくて胸が締め付けられる痛みに襲われたが、スクハのワガママに付き合ってダンジョンに潜ったのも、きっと間違いではなかった。
でも、伝言でもいいから誰かにジャガ丸くんのお店に伝えてもらえばよかったと後悔もしている。
大切なもの全部を守るのは本当に難しい。
だけど、このヘスティアの涙を見て、締め付けられる胸の痛みを感じて、弱い自分への悔しさと同時に、もっと頑張らないとという気持ちも奮い立たる。
今はまだ弱くてもいい、時間が掛かってもいい、時には立ち止まったり迷ったりすることもあるかもしれない。
転んでしまうこともあるかもしれない。
みっともなく泣きわめくこともあるかもしれない。
それでもベルは憧れたものになりたいと思った。
ならなくちゃと思った。
今の自分より明日の自分が強くなるように頑張って、頑張り続けて、いつか大切なもの全部守り通すというワガママが許されるほどの英雄になりたい。
心の底からそうベルは想い続ける。
帰り道、秘密にしておきたかったけど、少しでもヘスティアとスズを元気づけてあげたかったこともあり冒険者用の装飾品屋に寄った。
スズが予約してくれていたヘスティアへのプレゼントと、昨日スズには内緒で予約した小さな鐘のついた魔除けの首飾り。
魔除けの首飾りは
スズが欲しいものが『オーブン』以外わからなくて昨日エイナに相談したところ、隠密には不向きだけど敵を引きつける壁役としての安定度を増しつつ綺麗な音色でお手軽な値段。
何よりも鐘のついた装飾品ということでエイナに紹介された一品だ。
髪飾り五〇〇〇ヴァリスと魔除けの首飾り一〇〇〇ヴァリス。
それに加えてもう一品新しく、目に留まった白い花を模り。
下部につけられた四つの紐にはいくつもの蝶を模った小さなパーツが付いており、先端には魔除けの鈴がつけられている可愛らしい髪留めの値段は三〇〇〇ヴァリス。
今日の稼ぎがまるまる飛んでしまうが、昨日一昨日稼いだ分がほぼ丸々残っているので生活には困らないと思い、計九〇〇〇ヴァリスの大盤振る舞いとなった。
この場でスズにばれると遠慮して返却されてしまうかもしれないので、会計はベルがやって家に帰ってから渡す手はずなのは昨日の内に店員と相談済みだ。
買うものを追加したことで「お兄ちゃん頑張ったじゃないの。妹ちゃんもお兄ちゃん大好きって飛びついてくれること間違いなしね」と店員に小声でからかわれてしまった。
スズへのプレゼントはバックパックに隠したまま、雑談しているスズとヘスティアの元に戻り、ヘスティアへのプレゼントをスズに手渡す。
「おや、ベル君。スズ君へのプレゼントかい? 感心感心」
「神様。開けてみてください」
スズが満面の笑みで可愛くラッピングされた箱をヘスティアに手渡すと、ヘスティアはきょとんとした顔でしばらくそれを見つめる。
「僕とスズからの、神様へのプレゼントです。開けてみてください」
「なんだい、スズ君が秘密にしてたのはこれのことだったのか。全く本当に二人とも神様孝行で優しい子供達でボクは幸せものだよ。さて何が入っているのかな?」
ヘスティアは箱を丁寧に開けていくと、その中身を見てまた驚きに目を見開いた。
「これって……」
「神様の今使っている髪留めが痛んでいるように見えましたので、えっと」
「ベルと一緒に神様が欲しがってるこれ買ってあげたいなって」
ヘスティアが口元を押さえてポロリと涙をこぼす。
「あ、えっと、もしかして欲しかったのと違いましたか!?」
「私もしかして間違えちゃいましたか!? その、えっと、私がこれを神様が欲しいに違いないって見つけたから、ベルは悪くなくて、悪いのは私でッ」
「そんなわけないじゃないか。馬鹿だな。嬉し涙に決まってるじゃないか。そっか…見てるつもりが、見られちゃってたのか」
ヘスティアは愛おしく髪飾りを優しく抱きしめて「ボクは十分幸せなのに、幸せすぎて幸せがあふれ出ちゃったじゃないか」とポロポロと涙を流しながら嬉しそうに笑ってくれた。
「まったく、いい子達すぎてボクが何してあげたらいいのかわからなくなっちゃうじゃないか。二人でつけてくれるかい?」
まだ店の中で客や店員に見られているのも気にせずに、ヘスティアはボロボロになった髪飾りを解いて、スズが手が届くように屈んでそれを求めた。
ヘスティアの綺麗でさらさらした美しい髪を、二人で左右片方ずつ髪飾りを付けていつものツインテール姿にしてあげる。
「ベル君。スズ君。ありがとう。君達に会えて、君達が最初の
これからも嬉しいこと悲しいこと色々なことが起こるだろう。
この先どんなことがあろうとも、この【
三人はこの時、その想いを共有することができたのだった。
セウト。ようやくプレゼントの髪飾りを駆け足ながら渡せました。
『バブリースライム』は原作にはいない、ゲーム『ウィザードリィ』に登場する低級スライムです。
二階層からの敵追加が一種類だけというのは物足りなかったので出張してきていただきました。その為今作から『パロディー』タグも追加されます。
今後も種類が少ないなと思った階層(ガラリと相手が変わる五階層)はウィザードリィからの出張があると思いますが、今後ともよろしくしていただけると幸いです。
また暇人様とユースティティア様のご感想より、略称がステキだったので、家名も【スキル】名も名乗りたくない【
暇人様、ユースティティア様とてもよい略称をありがとうございました。