スズ・クラネルという少女の物語   作:へたペン

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物事が徐々に変わり始めるお話。


Chapter02『物事の変わり方』

「……結局何だったんだ、あのミノタウロスとゴライアスは?」

 スクハと無事話ができ、宴会も楽しく続いていた中、ふとヴェルフがエールの入ったジョッキを置き、周りの客に聞こえないよう小さな声でそう呟いた。

 

 前者は道中追いかけて来た漆黒のミノタウロス、後者は『安全地帯(セーフティーポイント)』で生れ落ちた漆黒のゴライアス。

 どちらも前代未聞の事態で、こうやって穏やかに杯を交わせていることが奇跡ではないかと思えるほど今回のダンジョンでは『異常事態(イレギュラー)』が立て続けに起こった。

 

「スズ様を狙う『闇派閥(イヴィルス)』の残党のこともありますし、リリは原因や対処法が判明するまで中層に赴くのは控えた方が良いと考えております。勿論、ベル様とスズ様……特にスクハ様が中層に赴いても大丈夫だと判断した場合、リリは何が起こっても大丈夫なよう万全の準備を整えるつもりではありますが」

 リリが『闇派閥(イヴィルス)』の残党の含めて安全な階層でしばらく様子見をしようと提案してくれた。

 

 そう提案した上で、また中層に向かうようなら準備をしてついてきてくれるというのだから心強い言葉である。

 本当にリリには頭が上がらなくなってしまいそうだとベルは頼りになる仲間に口元を緩ましてしまうのだった。

 

「りっちゃん、るーさん、しーだよ。思うところは沢山あると思うけど、上級冒険者は耳が良いからそう言う話はホームかダンジョンで、ね?」

 そんな中、スズが赤色の蜂蜜酒の入ったグラスを置き、人差し指を立てて「しー」っと静かにするようにと話を打ち切りにはいった。

 

 この件に関しての情報漏洩はギルドに罰則を課されてしまう。

 なのでスズの言う通りこの話はホームやダンジョンなど自分達しかいない空間で行なった方がいいだろう。

 

「そうですね。何にせよ今回の件の罰則(ペナルティ)は大きかったですが、ベル様とスズ様の戦いを見たあの場にいた冒険者からは変な因縁をつけられることもないでしょう。それだけでリリはほっとします」

「冒険者も職人も嫉妬はつきものだが、ぐうの音も出ない程実力差見せつけてやれば陰口叩く程度に収まるもんさ。あれだけ大暴れしたんだ。突っかかって来るバカはそういないだろ」

 リリがにこやかに笑い、ヴェルフがからからと笑いながらベルの背中をパンパンと叩く。

 その後はアレがすごかっただの、普通あんなことできないだの、ヴェルフの祝いの席の筈が二人してベルとスズのことを褒めちぎってくれた。

 

 

 中層の『安全階層(セーフティポイント)』であるリヴィラの街の住人に認めてもらえたのは、冒険者として活動するうえで大きなアドバンテージだ。

 ほんの小さな一歩だが、また少しだけ憧れの対象であるアイズに冒険者として近づくことができたかと思うと、褒められて照れくさくもベルは嬉しさに口元を緩ますのだった。

 

 

 そんな楽しい空気を壊すように、一人のパルゥムの男がベル達の席に近づいて来ては、バンっと勢いよくテーブルに掌を叩きつけて来た。

 ベルは何事かと驚き目を見開き、リリとヴェルフは何かを察したように「バカがいらしたようですね」「そうだな」とあきれたように溜息をつく。

 そんな呆れ顔に構わず、ごくりと唾を飲んで覚悟を決めたかのような顔でパルゥムの男は口を開いた。

 

 

 

「何だ何だ、どこぞの兎が『レスクヴァの巫女様』を散々利用しておきながら主役気取りか? 血縁者でもないのに血縁者気取り、周りをだまくらかして巫女様を利用する横暴。オイラはもう我慢ならないね!」

 

 

 

 パルゥム特有の高めの少年声が宴会で賑わう酒場中に響き渡り、他の客の視線が、店員の視線が、その場に集中する。

 【ファミリア】の徽章である金の弓矢に輝く太陽を刻んだエンブレムを堂々と肩につけ、言い放たれた言葉にベルの頭が一瞬真っ白になった。

 

 

 血縁者でないことを知っていたことや周りに知らされたことについては思うところはあるものの重要とは感じなかった。

 周りをだまくらかして巫女様を利用する横暴、その言葉が何度もベルの頭の中でリピートされる。

 周りを騙した、というのはわかる。

 血縁者だと嘘をついていたのだからそう言う発想にいたるのも無理はないし、ベル自身何だか嘘をついて気が引けたところはあった。

 それでも本当の妹だと思ってスズのことを大切に思っている気持ちは本物だ。

 大切な妹であるスズのことを利用したことなんて一度もないし、とんだ言いがかりである。

 

 

 

「下っ端の『鍛冶師(スミス)』にガキのサポーターもあやかってるんだったな! 巫女様は優しいから利用されていることにも気づかないなんて、なんて可哀相なんだ!」

 さらに矛先をヴェルフやリリにまで向けて来た。

 パルゥムの男が何がしたいのかわからない。

 わからないが、ベルは仲間を傷つけるような言葉を容認したくなかった。

 

 

 

 珍しくも問答無用で雷を放ちそうなスクハが出てくる様子はない。

 スズは困ったように眉を細めていた。

 ベルの握りこぶしに力がこもる。

 

「流石にその言いがかりは無理あるだろう。ベル、スズ、酔っ払いのたわごとだ。気がすむまで言わせてやれ」

「ベル様、無視してください。スズ様もお気になさらず」

 冒険者同士のいざこざが大変なことは18階層で体験したばかりだ。

 特に相手は堂々と【ファミリア】のエンブレムを身に着けている。

 いざこざが大きくなり【ファミリア】同士の抗争になることだってあるから軽い挑発は聞き流すべきである。

 

 

 

 

 

 

「なんなら馬車の記録を見せてやってもいい! 調べれば兎が別の馬車から来たことなんて直ぐにわかる! なのに問題にならないよう兄妹ということにして小さな教会で二人暮らし。純粋無垢な巫女様にどんなことを教えていたかなんて考えたくもないね! おっと、主神が主犯だったか? 威厳も尊厳もない貧乏神に利用されている巫女様を可哀相だとは思わないか!?」

 

 

 

 

 

 

 だけど二度もわざわざスズを心配するような素振りでスズが傷つくようなことを言って、ベルとスズに行き場を、家族を与えてくれたヘスティアのことを侮辱した。

 ベルは自分のことならいくら言われても我慢できるが、こればかりは我慢できない暴言である。

 仲間が制止する間もなくベルは椅子を勢いよく飛ばして立ち上がるも、無意識にスズを必要以上に怯えさせたくないという気持ちが優ったのか怒鳴り声ではなく、静かに「取り消せ」と怒りの声を上げた。

 怒りに満ち溢れたベルの鋭い眼光がパルゥムの男を射抜く。

 

 静かなその声により酒場は完全に静まり返り、その怒りの感情に射抜かれたパルゥムの男は腰を抜かして身をガクガクと震わせながら怯え切った瞳でベルのことを見上げている。

 何か言おうと口をパクパクと動かしているが中々声が出ない様子で、謝罪の言葉を待ったまま見下ろすベルはただただ怒りに満ちた瞳でパルゥムの男を見下ろしていた。

 

 

§

 

 

 まさかベルがここまで怒りをあらわにするとは思わなかったリリだが、どうこの場を収めるべきか冷静に見定めようと他の客の反応にも目を配っていく。

 

 面白がってみていた者や、何事かと見ていた者、色々な人がいるだろうが、スズが嫌がるようなことを言っても誰も口出ししないことから、『白猫ちゃんを見守る会』などの、いわゆる『白猫信仰』と言っても過言ではない層の客はいないと考えていい。

 職人達や冒険者達が普通に酒を飲みバカ騒ぎする酒場という認識が一番正しいだろう。

 

 一番大事なところとして、『悪意』に恐怖心を抱く節のあるスズだが、今回は恐れを抱いている様子はない。

 今の状況に困惑し、胸元で両手を握りしめながら眉を落としているものの、呼吸は落ち着いているし体を震えさせてもいない。

 

 こんな状況になる前にスクハが表に出て問答無用に【ソル】で相手を焼いていないのは気になるところではあるが、今すぐに心のケアが必要なほど深刻な問題になっていないのは不幸中の幸いである。

 

 

 

 

 次に考えるのは不自然に絡んできたパルゥムの行動理由だ。

 

 

 

 

 荒くれ者の嫉妬や考えを常識で語れと言うのは無理があるが、絡み方がどうにもおかしい。

 『レスクヴァの里の巫女への待遇』という建前を使って自分の妬みを正当化しようとしているだけならまだわかるのだが、ここまでベルに威圧されておきながら謝罪も反論も今だしてこない。

 

 六人席で未だ沈黙を守っている同じ太陽と矢のエンブレムをつけた客の数は五人。

 肩につけられたエンブレムは【アポロン・ファミリア】のものだったとリリは記憶している。

 確か構成員百人以上の中堅【ファミリア】だ。

 

 仲間の粗相を見ながら舌打ちをしつつも止める気配がないところを見ると、先に【ヘスティア・ファミリア】に手を上げさせて【ファミリア】絡みの抗争に持ち込みたいのだろうか。

 

 だが今の『白猫信仰』が根強い【迷宮都市(オラリオ)】でそんなことをすれば無駄に敵を作るだけで、いかに中堅どころの【アポロン・ファミリア】といえどただで済むとは考えにくい。

 今この『迷宮都市(オラリオ)』で『唯一要るレスクヴァの巫女』というネームバリューの強さはギルドに人が殺到するほどなことを【アポロン・ファミリア】が知らない訳がないだろう。

 

 先ほどからパルゥムの男が叫んでいた『ベルとスズが兄妹ではない』という戯言を信じたとして、その情報が【アポロン・ファミリア】を守る盾となりえるか、と言われると微妙なところだ。

 神の気まぐれもまた、リリが想定できる範囲外にある。

 とにかく当初の対処通り、ベルに落ち着いてもらって無視を決め込むのが一番確実ないざこざの回避方法なのは間違いない。

 

 

「心配してくれるのは嬉しいですが、精霊が治める里の家族の在り方に文句がありましたら回りくどく言わずに私に言って下さい。神様とベルのこと、私の大切な友達のことを悪く言うのはやめてください」

 そんな中、スズがゆっくりと席を立ちあがり、少しむっと頬を膨らませながらも「お酒は楽しく飲むものですよ?」と軽い注意をし、腰を抜かしたパルゥムの男に手を差し伸べて最後に微笑んで見せた。

 

 スズのその行動に毒気を抜かれ頭に血が上り過ぎていたことを自覚して冷静さを取り戻したのか、ベルの肩から力が抜け「ごめん、でも神様のこと悪く言われて」と言葉を詰まらせる。

 これなら簡単なフォローでこの場は収まりそうだとリリが内心ほっとした瞬間だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「こ、こ、こ、こんな優しい巫女様に、夜に仕事をさせてるなんて許せるか!? オイラ見たんだっ! 男神とイケない店に入る巫女様を! 神の前で宣言してもいい! お前の神は処女神のクセに子供を売る最低女神だっ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 パルゥムの男は最大級の爆弾と言っていいものを投下してきたのだ。

 下界の者は神に嘘をつけない。

 だが情報をぼやかすことならば可能だ。

 例えばこの『イケない店』というのも、『見た当人がそういう店だと教え込まれていれば』例え『【ミアハ・ファミリア】に男神ミアハとスズが入ったところを目撃した』場合でも、馬鹿らしい話ではあるが噓はついていない。

 もちろん尋問していけばその内矛盾が出てきてただの勘違いだったとわかる事であるが、一度限りの侮辱と辱めとしては最高にあくどい一手である。

 

 こんなあくどい手を使う連中と絶対に関わってはならない。

 相手が自滅したとしてもこちらもロクな目に合わない、そんな部類の連中だ。

 【アポロン・ファミリア】は何が何でも『【ヘスティア・ファミリア】が先に暴力を振るった』と神の前で言う為だけにこんな茶番を仕掛けてきたのだろう。

 舌打ちをしていた他の団員の口元が僅かににやけるのをリリはしっかりと目撃した。

 

「いけません、ベル様!」

 

 LV.1サポーターの身であるリリがベルを止めるすべは言葉しかない。

 それなのに再びあることないことを言われ、ヘスティアとスズを最大限に侮辱されたベルを言葉で止めることは出来ない。

 スズなら止めてくれるかもしれないと僅かな希望を抱くも、幼いスズでも意味が伝わってしまったのか、ショックを受けたのかパルゥムの男に伸ばしていた手はピクリとも動かず表情も固まってしまっている。

 

「足が滑った」

 そんな中、ベルがパルゥムの男に掴みかかる前にヴェルフが先に足蹴りをしふてぶてしくもそう呟きベルを庇ってくれた。

 

 顔を蹴られたパルゥムの男は鼻血を出しながら白目を向き、ぴくぴくと痙攣しながら床に転がり気絶している。

 最善とは程遠いが『【ヘスティア・ファミリア】が先に暴力を振るった』という事実は証言できなくなった。

 ヴェルフの所属する【ヘファイストス・ファミリア】は【アポロン・ファミリア】が手を出せない程大手の商業鍛冶大規模【ファミリア】なので【ヘファイストス・ファミリア】に迷惑を掛けることはないだろう。

 後は【アポロン・ファミリア】がどう動くか次第である。

 

 

 動いたのは細身で長身の男だった。

「我々の仲間が迷惑を掛けたようだが、だからといって言葉でなくそんな野蛮な行為で傷つけた罪は重いぞ」

 茶色い髪に色白の肌、エルフにも負けない美貌。

 周りの客が「ヒュアキントスだ」「【太陽の光寵童(ポエブス・アポロ)】」「LV.3の第二冒険者様かよ」とリリが情報を整理しきる前に呟いてくれる。

 【アポロン・ファミリア】の団長、それがヒュアキントスだ。

 

「そちらから散々と仕掛けるように挑発してきたのではありませんか? 【アポロン・ファミリア】団長、ヒュアキントス様?」

「ルアンは『レスクヴァの里』に憧れを抱いていた。()()()()()が飛び交い、ドブネズミのようなサポーターと共に行動していれば不安にもなる。前科持ちのドブネズミに用はない。目障りだ」

 ベルが自身が傷つけられるよりも他者を傷つけられる方が我慢ならないタイプと判断したのか、それとも元からひねくれた性格なのか。

 団長自ら挑発行為は続けられる。

 

「リリはドブネズミなんかじゃない! 女の子に向かって、神様に向かって、さっきから何なんですか!?」

 流石に立て続けで主神と仲間を侮辱されて、心優しいベルも、心優しいからこそ我慢の限界だった。

 仲間達を庇うように前に出て、ヒュアキントスと向き合い見上げ睨みつける。

 

 

 もうどちらが先に手を出してもおかしくない状態の中、木を蹴り倒す様な音が鳴り響く。

 今度は何事だと客も店員も、そしてベル達も視線を音の先に移すと、そこには椅子に座りながらテーブルを蹴り倒した【ロキ・ファミリア】の幹部ベートがいたのだ。

 思わぬところから思わぬ人物の登場にヒュアキントスの眉が僅かに歪む。

 

「揃いも揃って、雑魚が騒いでんじゃねぇよ。てめえらのせいで不味い酒が糞不味くなるだろうが。うるせぇし目障りだ。消えやがれ」

 

 鋭い目付きと第一級冒険者による威圧感に周囲の人間の顔色は悪くなる。

 建前上あくまで中立の立場としての乱入だが、荒事になることを望まないリリにとってこれとない助け舟であった。

 

「ふん……がさつな。やはり【ロキ・ファミリア】は粗雑と見える。飼い犬に首輪は付けられても鎖をつけていないので意味がない」

「あぁ、蹴り殺すぞ、変態野郎?」

 余程プライドが高いのか、ヒュアキントスは第一級冒険者の乱入にもひるまず、ベルから離れベートと向き合う。

 立ち上がり睨み返すベートの首輪からチリンと鈴の音が鳴るが、張り詰めた空気はそれで和らぐほど軟ではない。

 しばし見据え合っていた彼らだが、流石に【ロキ・ファミリア】と事を構えるのは分が悪いと判断したのだろう、先に引いたのはヒュアキントスの方だった。

 

「興が削がれた。仲間の無礼については近々使いの者をよこす。『レスクヴァの巫女』についての無礼はこちらとて本意ではない」

 ヒュアキントスは仲間に「行くぞ」と声を掛け身を翻し、酒場の出入り口に向かっていく。

 その後に続くように他の【アポロン・ファミリア】団員達は気絶したパルゥムの男を連れて店を出ていくのであった。

 

 

§

 

 

 ベートがヒュアキントスに絡んだのは気にくわなかったからだ。

 何が、と聞かれると数多くあり過ぎて困るところがあるのだが、ねちねちと弱者を責め立て自分が強い気になっているところが特に気に入らなかった。

 

「ありがとうございます、ベートさん」

 小さな体で、小さな足で、早足でとっとことっとことスズがベートに近づき、頭を下げると「えへへ」と微笑む。

「勘違いすんじゃねぇよ。ただ気に入らなかっただけだ」

 ベートは守りたかったものをいつも取りこぼしてきた。

 

 

 

 憧れの両親を、大人達を、妹を、人懐っこい家族同然の部族の仲間を、そして愛した幼馴染も、『恩恵』を授からず低級【ファミリア】になんて劣らないベートの部族は一夜にして『怪物』に蹂躙された。

 生き残ったのはベートだけだった。

 強くなるために、敵を取る為にダンジョンのある『迷宮都市(オラリオ)』で牙を磨いても、敵討ちなんてことをしている間にそこで出来た大切な人をまた取りこぼした。

 強くなっても、強くなっても、大切な者が零れ落ちていく。

 弱い者から順に死んでしまう、そんな当たり前のことが気に入らなかった。

 

 

 

「調子乗ってんじゃねぇーぞ」

 ベルの胸倉を掴み、顔を寄せ『自分のように取りこぼすんじゃねえぞ』と危なっかしいベルに注意をする。

 少し言葉足らずでただ絡んでいるだけのように見えてしまうのはベートの不器用さ故だ。

 

 

 

「それでも、僕はスズを、大切な皆を守ります。どんなことがあっても、絶対に、絶対」

 それでもベルは胸倉を掴まれながらも、言葉足らずの台詞からでも、真っ直ぐベートのことを見つめ返して、身の程知らずの壮大な夢を真っ直ぐな瞳で語る。

 

 

 

 

 

 先ほどのパルゥムが言っていた、ベルとスズが兄妹でないという話はおそらく本当だろう。

 冒険者になりにスズが【ロキ・ファミリア】に訪れた時、スズは一人だった。

 何もかもを失った自分と同じ目で、けれど仮面をかぶったように笑って、けれど自分と違って敵討ちの力を求めに来たのではなく、死に場所を求めてやって来ただけなのが、何となくだがわかった。

 

 だから「死に場所探してんなら他に行け、雑魚が。安全な新しい巣穴探してすっこんでろ」と追い返したのだ。

 

 そんな死に場所を求めてやってきた少女が、死んでしまった幼馴染のように本気で笑って、大切な人に寄り添えるようになったのは間違いなくベルの力だ。

 妹だとか幼馴染だとか恋人だとか言葉だけで証言できる関係なんかよりも、ずっと大きなことをベルは既にやり遂げているのだ。

 実の妹でないという事実が何だと言うのだ。

 

 

 

 

「そうかよ」

 ベルの笑えるほどの身の程知らずな答えにベートは満足して胸倉を放し身を翻す。

 

 自分はベルのような真っ直ぐな形で強くなり、誰かを救うことなんてできないだろう。

 それでもベートは自分なりにもっと強くなって、自分なりに失わないよう足掻き続ける事を改めて決意するのだった。

 

 




ベートさんのところをもう少しうまく表現したかったところではありますが、悩むより前へ。
技量不足に土下座しつつの更新であります。

こんな私ですが今後とも『少女の物語』を見守って下さると幸いです。

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