スズ・クラネルという少女の物語   作:へたペン

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Chapter07から直接つながる『少女』が看病されるお話。


Chapter08『看病のされ方』

『初めまして。いえ、お久しぶりかしら。あなたが大嫌いで【心理破棄(スクラップ・ハート)】と呼んでいるモノよ。『スズ・クラネル』がいつもお世話になってるわね。体調不良のせいでお茶も用意できないけど、よろしくしてくださるとありがたいかしら?』

 

「君がスズに無理をさせたんだろう」

『心外ね。私だって無理はしてもらいたくないのよ? でも私は所詮【スキル】だから、こうやって体を借りるか出力調整しかできないのよ。そこのところ、勘違いしないでもらえるかしら』

 突然のことにヘスティアは混乱しそうになったが、ひとまず消し去りたい【心理破棄(スクラップ・ハート)】を名乗るモノへの怒りは抑え込んで情報を整理する。

 

 【スキル】の中には自動的に発動するものや能動的に発動するもの、条件で発動するものと様々だが、意志を持って所持者を操る【スキル】なんて聞いたこともない。

 聞いたこともないが、スズは悪ふざけでこんなことをする子でもないし、許可されていない『神の力(アルカナム)』を使用した神は天界に強制送還されてしまうので、他の神の悪ふざけでもないだろう。

 

 一番しっくりくるのは【スキル】による二重人格化。

 もしくは二重人格の部分を【スキル】化させてしまったかだ。

 

 スズは心が壊れるほどの『何か』を体験した。

 それは【スキル】発現前からの冒険者になろうとした理由から察することができる。

 その『何か』の出来事から『解離性同一性障害』を引き起こし、その部分を【スキル】化させてしまった。

 そう考えると後者の方が納得いく説明だろう。

 

 

『話すことがないのなら『スズ・クラネル』のために横になりたいんだけど』

「君はボクのことを怒らせたいのかい、【心理破棄(スクラップ・ハート)】君」

『ベルが来てしまうから怒鳴るのは勘弁してもらいたいわね。『スズ・クラネル』にとってもベルにとってもそれは不幸なことよ。『私』が無害とは言えないけど、心配しなくても『スズ・クラネル』は無事回復することと、『私』も『スズ・クラネル』のこと想ってあげてることを伝えたかったのだけれど、これでは逆効果だったかしら?』

 

 大好きなスズの体を勝手に使われているのは気に食わないが、存在を隠さずに出てきてスズの現状を知らせたことを考えるとわざわざ噓を言うメリットはない。よほどこの【心理破棄(スクラップ・ハート)】の性根が腐っていない限り噓はないはずだ。相手が『人間』なら噓を見抜けるのだが【スキル】である【心理破棄(スクラップ・ハート)】からは文字通り何も感じることができない。

 

 スズの魂は今穏やかに眠っているだけなのだ。

 

「今は君の言葉信じるけど、絶対君なんか消してやるからな」

『ええ。『スズ・クラネル』を幸せにして『私』を消してくれることを祈ってるわ。あ、これ、皮肉じゃなくて本心だから、そこも勘違いしないように。あとそうね、『私』が眠ったら『スズ・クラネル』を一度起こして、飲み水を飲ませてあげてくれないかしら。汗で水分を失ってあまりよろしくないコンディションよ。でも『スズ・クラネル』の優先順位的には、まずはベルに落ち着いてもらいたいところだろうけど。まあなんにせよ、ここが限界よ。これ以上は『スズ・クラネル』に『悪夢』を見させてしまうから寝させてもらうわね』

 

「お、おい!」

 パタンとスズの体が後ろに倒れたので慌てて支えて布団をしっかりと掛け直してあげる。

 結局聞きたいことも聞けないまま【心理破棄(スクラップ・ハート)】に言い逃げされてしまった。

 

 だが収穫がなかったわけではない。

 少なくとも【心理破棄(スクラップ・ハート)】は『スズ・クラネル』という表の人格を大事に思っている。

 スズの心を壊したと思われる『悪夢』からスズを守ろうとしており、体調にも気遣ってくれているのは、最後の最後に早口で物事を伝えて眠りについたことを考えると間違いないだろう。

 

 それがわかってもなおヘスティアは気に食わなかったが、今は【心理破棄(スクラップ・ハート)】の言った手順で物事を解決していくしかない。

 

「ベル君!! もう入ってきて構わないよ!! スズ君落ち着いたみたいだから!!」

 ヘスティアは大声でベルを呼びながらコップに水を注いでいるとバタンとものすごい勢いでドアを開けてベルが戻ってくる。

 

「神様! スズは!?」

「やっぱり疲れが溜まっていたみたいだね。今寝付いたところだけど、水分とらせてあげないといけないから優しく起こして水を飲ませてあげてくれないかな?」

 そうベルに水を渡すとベルはスズの体を優しく布団ごしにゆすっている。

 

「スズ……スズ……。大丈夫?」

「ん……ベル……?」

「うん。僕だよ。水、飲めそう?」

 ベルは無理しているのに気づけなくてごめんと謝るのを我慢して、ただ優しくスズに語り掛けている。

 

「んっ……。ごめんね。ちょっと無理そうかな。体を起こすの……手伝ってもらってもいいかな…」

「気にしないで。もしも僕が倒れてもスズは同じことしてくれるでしょ? だからおあいこだよ」

「うん。ありがとう、ベル」

 スズはベルに起こしてもらいながらゆっくりと水を飲ましてもらっている。

 

 昨日までのベルならきっと真っ先に謝っていて気まずい空気になっていただろうに、たった一日で【経験値】関係なしに人はここまで強くなれる。

 

 不変の(じぶん)とは違う。

 だからいつかきっとスズの心の傷である【心理破棄(スクラップ・ハート)】だって変わったり消えたりしてくれる。

 

 

 

 

 

 でも、もしも『解離性同一性障害』が

 【心理破棄(スクラップ・ハート)】というスキルを作り上げているとしたら。

 

 

 

 

 そこまで考えてヘスティアは自分が出した結論を首を振って否定した。

 

「スズ君の様子はどうだい?」

「また眠ったみたいです。すみません神様。スズに無理させちゃって」

「ギルドの医務官が気づかなかったんだ。きっと帰ってから緊張がほぐれて一気に疲れが出てしまったんだろう。だから気づけなかったのはボクも同じさ。ベル君、これからのことなんだけど」

 さて、どうしたものかとまだ考えていなかったので、そこでヘスティアの言葉は止まってしまう。

 

「スズは寂しがり屋だし心配性で、なによりも優しいからきっと僕がダンジョンに行く限りスズもダンジョンに行こうとすると思います」

「そうだね。しっかりスズ君のこと見てあげられてるじゃないか」

「ずっと助けられっぱなしでしたから。だから二人でダンジョンに潜っている時間を減らしてスズの体力調整してあげようかなって思ってるんです。収入がかなり減っちゃうと思いますけど、スズが無理するのは嫌ですから、その」

 

「その先は聞くまでもないだろ? ボクはベルとスズ君がいれば幸せなんだ。たとえまた貧乏ぐらしになっても、三人で元気に暮らせるなら下水道にだって住んでも構わないさ」

「下水道はちょっと」

「たとえ話だよたとえ話! だからベル君。君がスズ君を大切に思っているのと同じくらい自分を大切にしてくれ。ボクは二人が大好きなんだ」

「大丈夫ですよ神様。僕は神様やスズを路頭に迷わせたりなんかしませんから。まだ僕は頼りないけど、まだまだ僕は弱いけど―――」

 真っ直ぐで綺麗な瞳だった。

 

 

「僕は、僕が大好きになったみんなの幸せを守れるように頑張りますから。だから安心して下さい、神様」

 

 

 真っ直ぐで綺麗な夢だった。

 本当に地上の子供達は変わりやすいんだなと、ヘスティアの頬は嬉しさに緩み、とくんと胸が高鳴るのを感じた。

 

 

§

 

 

 いつも通りベルは朝五時に起きたが、スズが心配だから昨日のようにダンジョンに向かわずに、ヘスティアとスズを起こさないように気を付けながら、夜中付きっ切りで看病していたのであろうベッドに上半身をうつぶせにして座りながら寝ているヘスティアに自分の使っていた毛布を掛けてあげ、スズの額に乗っている乾いたタオルを濡らして絞った新しいタオルに代えてあげる。

 

「ん……」

「寝てて大丈夫だよ。ダンジョンまだ行かないから」

 うっすらと目を開けるスズの頭を優しく撫でてそう言ってあげると安心したのかそのままゆっくりと目を閉じた。

 

 まだスズの体温は高い。

 まだ辛そうなスズをダンジョンに連れていけないので、スズには今日一日しっかり休んでもらおう。

 お金は今日一日くらいダンジョンに行かなくてもまだまだ余裕はある。

 でもエイナに相談したいことがあるしプレゼントにはお金がいる。

 だからベルは状況次第では一人でダンジョンに挑むつもりでいたが、二人を不安がらせないためにも二人が起きてからしっかり話し合って、ヘスティアがスズの看病できるようならダンジョンでお金を稼ごうとベルは思った。

 

 二人が起きる時間までまだ時間があるのでスズのことを度々見てはタオルを代えながら、音を立てないように気を付けて地下室の掃除を始める。

 スズが熱を出したことで洗われず流しに水漬けされただけの状態のお椀を洗い、ヘスティアが出しっぱなしにしていた本をとりあえずテーブルの上にまとめておいて棚のホコリをはたきではたいた後に床を箒で掃いて最後に雑巾を掛ける。

 

 それでもまだ六時前で、二人が起きる様子はない。

 本を読む趣味もないベルは何をしようと暇を持て余すことになった。

 家族になったとはいえ女性の衣服……特に下着なんかを洗うのはまだ抵抗があるので洗濯はできない。

 買い物に行こうにもまだ店が開いていない。

 楽しく会話をする相手は今は眠っている。

 

 本を読む趣味もないベルはどうやって二人が起きるまで時間をつぶそうか悩んだ。

 やはり洗濯だろうか。

 昨日ヘスティアが脱がしたスズの衣服は、勝手に綺麗になる白いコート、『純白の究極(アルティメット・アンド・)無限前掛け(インフィニティ・ホワイト)』はそのままクローゼットの中にしまい、残りは洗面所の籠に入れていたはずだ。

 

 女の子の衣服の洗い方なんて知らないがたぶんお湯で洗って干せば大丈夫だろうと人生初になる異性の衣服を洗濯することを決める。

 

 

 

 ――――僕は今日、初めて冒険をする。

 

 

 

 ごくりと息を飲み込み、二人が起きないかちらちらと後ろを確認しながら洗面所にそろりそろりと近づいていくところで、別にやましいことしようとしているわけじゃないだろ僕のバカとベルはぶんぶんと大きく首を横に振り、恐る恐ると籠の中をのぞき込むと真っ先にスズのものだと思われるショーツが目に飛び込み立ちくらみがする。

 

 

 冒険者は冒険をしてはいけない。

 妹のものでも女性の下着であることは変わりなく、僕にはまだ早かったよおじいちゃんと戦術的撤退を試みる。

 

 

 無事挙動不審な姿を見つからずにソファーまで戻ってこれたベルは、何をやっているんだろうと自分自身に大きくため息をついた後、スズの額に乗せているタオルをまた冷たい水につけて絞ってから乗せ直してあげる。するとまたうっすらとスズが目を開けて横になったままベルをおぼろげな瞳で見上げた。

 

「ベル……今何時?」

「六時半だよ」

「……そっか。朝ごはんつくらないとね……」

「今日は僕が作るよ。食べられそう?」

 そう聞くとスズは少し考え込む。

「おかゆは……小麦は買ってなかったよね。味付けはいいから、昨日みたいにパンを細かくして……ミルクと一緒にトロトロになるまで煮て。パン粥にしてもらってもいいかな……?」

「わかった。ちょっと待っててね」

 言われた通りにパンを細かく切って鍋でミルクと一緒に煮る。

 

 トロトロの目安はわからないが喉に通りやすいかなと思ったところで火を止めてお椀に移す。

 麦粥と同じような感じだとしたらこのくらいだろう。

 少しだけ味見をしてみるとミルクの甘味がしみ込んだとろけかけのパンはとても美味しかったが、出来立てのせいで冷まさないと舌を火傷してしまいそうだ。

 

「できたよ。体、起こすね」

「うん。ありがとう」

「あーんして」

 スズの上半身を起こしてあげて、スプーンでパン粥を掬ってふーふーと息を吹きかけて冷ましてあげてからスズの口に運んであげる。

 

「美味しい。なんだかベル、お母様みたい……」

「お母さんポジションはボクのポジションだぞ、スズ君」

 ヘスティアが体を起こして眠そうに目をこすりながら大きな欠伸をした。

 

「おはようございます神様。今神様のごはんも作りますね」

「おはようベル君。スズ君。それじゃあボクがお母さん役を代わるよ。はいスズ君、ふうふうしてあげるからあーんするんだ!」

「おはようございます……神様。ずっと付き添っていてくれたの……嬉しかったです……。また、お言葉に甘えさせていただきますね」

 そうスズは今できる精一杯の笑顔で気持ちを返して、これまたものすごく嬉しそうにスズの口にふーふーして冷ましたパン粥を運ぶヘスティアの姿を少しの間見守り、ベルは「やっぱいいね家族って」と頬を緩ませながら自分とヘスティアの分の朝ごはんの調理に取り掛かる。

 

「じゃあ……ベルはお父様……?」

 そこで熱で頭が思考力が低下しているのかスズが突然にそんなことを言うものだから、それが不意打ちすぎて思わずベルはヘスティアと同時に吹いてしまう。

 危なく野菜を刻もうとしていた包丁で指を切ってしまうところだった。

 

 ヘスティアみたいな包容力のある可愛い子が奥さんで、スズみたいに優しくこれまた可愛い子が娘な家庭を想像してしまい、いいなと思ってしまうが邪念を振り払うために慌てて首を横に振る。

 ヘスティアは神様なのだ。

 行き場のないベルとスズに手を差し伸べてくれて家族を与えてくれた神様なのだ。

 そんな自分の欲望にまみれた妄想で汚していいわけがない。

 恐れ多いとパンパンとベルは自分の頬を両手ではたいて僅かに残った邪念も振り払う。

 

「僕はスズのお兄さんだよ」

「お兄さん……か。里の人みんな慕ってくれてたけど……すごく幸せだったけど……。私、一人っ子だったから、実は憧れてたんだ……。お兄様かお姉様がいたらおもいっきり甘えられたかなって。えへへ」

 スズは思考力が落ちているせいか、遠慮なく『甘えたい』という本心を口にしていた。

 

「今はボクがお母さんで、ベル君がお兄さんだ。だから遠慮せずに甘えて、今日はゆっくりお休み」

 ヘスティアは食べさせた後、そう言ってスズ横の額を合わせて熱を測る。

「まだ熱は下がってないんだから今日はダンジョンは休むんだよ。ボクもバイト休みもらうから」

「でも……お金稼がないと……」

 

 お金を稼がないとヘスティアにプレゼントが渡せない。

 そう言いたげにスズがベルの方を見る。

 

「大丈夫だよスズ。元気になったら明日からまた頑張ろう。だから今日くらいおもいっきり甘えてワガママを言ってもいいんだよ? その方が僕も安心できるし、スズが甘えてくれたら僕も嬉しいかな、なんて。あ、神様。朝ごはん簡単なものですけどできましたよ!」

「ありがとうベル君。ベル君の言う通りさ。無理してもいいことなんて一つもないんだぜ。ご飯食べ終えたらちょっとおばちゃんに休むこと伝えに行ってくるから、しっかり休んでるんだよ?」

 ヘスティアがテーブルにつき、一緒にパンと残りの野菜で作ったサラダを食べる。いよいよもってスズが買った食材が底を尽きてきたので今日は買い物もしないといけなさそうだ。

 

「それでボクはさっき言った通りだけど、ベル君はどうするんだい?」

「エイナさんに相談ごともありますし、エイナさん……アドバイザーになってくれた人と相談して一階層を少し探索出来そうだったら今日の夕食代くらいは稼ぎたいと思ってます。食材ももう底を尽きてますし、少なくとも買い出しは行っておかないといけませんから。なので神様が帰って来てからギルド本部に顔を出しに行きますよ」

 

 無理をすると二人に心配を掛けてしまうのはわかっているから、エイナが無理だと断言したなら悔しいところはあるが一人でダンジョンに潜る気はなかった。

 でも、出来ることならスズを神様を、大好きなもの全部を守るためにも強くなりたかったし、ヘスティアだけではなくスズにも何かプレゼントをしてあげたらスズも喜んでくれるのではないかと、冒険者用の装飾品を取り扱っている店でベルは少ない知識を振り絞って考え付いたのだ。

 

 

 サプライズプレゼントを買っておくなら今日しかない。

 出来ることならダンジョンに潜りたいのが本音ではある。

 

 

「ベル……一人で行くの?」

「大丈夫だよ。まだ自分が弱いこと十分わかってるから無茶はしないし、エイナさんと相談して許可が下りても一度報告に戻ってくるから。そうしたら一緒にお昼ご飯食べよう」

 不安そうに眉を細めて見つめてくるスズを安心させてあげようと微笑んで優しく頭を撫でてベルはそう言ってあげる。

 

「そういうことなら止めないけど。本当に無理はしないでおくれよ? それじゃあボクはおばちゃんに知らせてくるからそれまでスズ君のこと頼んだよ」

「いってらっしゃい神様。任せてください」

「……いってらっしゃい……」

 神様が出ていくのを見送ってから、ベルはコップに水を汲んでスズに飲ませてあげる。

 

「ありがとうベル。ごめんね」

「ありがとうだけでいいのに。神様も言ってたじゃないか。遠慮せずにあまえてもいいんだよ?」

「もう甘えてるよ……。出会ってからずっと、頼りにしてるし甘えてる。里にいた頃からみんなに甘えっぱなしだよ、私は」

 甘えたいと言い、それでいてもう甘えていると言う。

 

 きっと、もっと甘えたいのにどこか相手のことを思って遠慮して、昔からいい子で居続けようとしていたのだろう。

 だからそういった遠慮しないで甘えることができる兄か姉に憧れていたんだろうな、とベルは何となくだけどそう思えた。

 

 

「もっと甘えてもいいってことだよ。何かしてほしいことはある?」

「えっと……あるにはあるけど……その、ちょっと無理かな」

 スズがただでさえ熱で火照っている顔をさらに真っ赤にさせて顔をそらしてきた。

「遠慮しなくてもいいのに」

「汗が気持ち悪くて……えっと、着替えとか……その、体拭いてもらいたいとか……。ベルにやってもらうの、私が恥ずかしくて無理だよッ」

「ごごごごご、ごめん! 僕も無理だよ!! それは僕が出かけた後に神様にお願いしてっ!!」

 お互いに顔を真っ赤にして顔をそらして、しばらくしてからそんな自分のことも相手のことも可笑しく思えて、微笑ましく思えて、互いになぜか笑いがこらえきれなくなってしまう。 

 

「神様へのプレゼント早く渡したいのは私も同じだけど、無理したら、やだよ?」 

「大丈夫だよ。無理なんてしない。ずっとスズのお兄さんでいてあげるから」

「そっか……エイナさんにポーションを割らないようにする対策……聞いてね」

「うん。覚えてるよ」

「攻撃受けちゃったことも、どういう状況だったかも、しっかり言ってごめんなさいするんだよ?」

「わかってるって」

「私も一緒にあやまるからって言ったのに、ごめんね。後、お買い物は買い置きのこと考えなくても大丈夫だから――――」

 

「これだと、なんだかスズの方がお姉さんっぽくなってない?」

「あはは、そうだね」

 くすくすとまた二人そろって笑みをこぼす。

 

「ちょっと、また寝るね……。だから、起きれるかちょっと自信ないから、今言うね。いってらっしゃい……ベル」

 返事を返す間もなくスズの瞳が閉じられる。

 

 きっと今までだって無理して起きて、精一杯元気に振る舞っていたのだろう。

 

「いってきます、スズ」

 まだ出かける訳ではないけど、もしかしたらまだ耳に届くかもしれないとベルは耳元で優しくつぶやいた。

 

 しばらく待っているとヘスティアがバイトの休みをもらって帰ってきたので、ベルはスズが汗でぬれた寝巻が気持ち悪いと言っていたことを伝えてから、どちらにしろ一度ホームには戻ってくるので装備を付けずにギルドへ向かう最低限の身支度を整えて、ヘスティアに見送られながらもう一度「行ってきます神様。スズ」と言葉を返してホームを後にした。

 




慢心によりまた分割となってしまいました。
こんな私ですが原作一巻スタートはもうしばらくお待ちくださると幸いです。

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