Fate/EXTRA 太陽狐と月兎   作:淡雪エリヤ

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いつも通りキャスターと共に朝食を食べ終えたライルは、図書室へと向かおうと廊下を歩いていた。

そしてその途中で、何やら困った様子の岸波白野を見掛ける。

知り合いでなければ無視していたライルだったが。

知り合って間もないとはいえ困っている知人を無視するのは、気持ち的に良いものではないと思ったライルは岸波に声をかけた。

話を聞くとワカメ頭の少年、名前は間桐慎二のサーヴァントの真名を調べようとしたところ。

図書館にある間桐慎二のサーヴァントに関係する書物が全て隠されてしまったらしく、調べようにも調べられなくなっているようだ。

 

「なんというか発想が子供じみてるけど……まぁ真名を隠すには良い手ではあるな」

 

ただ、そこまでするのなら、わざわざ隠さないで自分で所持しておけば良いのに……とライルは思ったが口には出さなかった。

 

「まぁ君の友人を結果的に煽ってしまったのは俺だろうし。しょうがない……一緒に書物を探す事は出来ないけど、相手の真名を探るヒントにくらいは教えるよ。

まぁ俺も君の相手の真名を知ってる訳じゃないけど」

 

間桐慎二のサーヴァント、クラスはライダーと呼ばれていたからライダーであろう。

あのような格好をしていてライダーのクラスであれば、海賊かそれに準ずる何かだろう。

仮に海賊だったとして、性別が女である海賊で有名どころは、男装海賊メアリ・リードとアン・ボニー、後は海賊王女アルビダなどが挙げられる。

 

「まぁ二人だからこそ有名なアンとメアリーの片割れだけを召喚したのであれば大した相手では無いだろう。そんなサーヴァントを召喚して自信満々な態度なのはちょっと考えられないし違うだろう」

 

では、ライダーの真名はアルビダなのかと岸波は問うが、ライル否定した。

 

「多分、それも違う。アルビダは、海賊とは言え元王族だ。だが、あのサーヴァントからは王族の気品というか威光というか……まぁ抽象的なんだけど、そういうったものがまったく感じられなかった。

んんと……岸波さん、君はレオナルド……レオナルド・B・ハーウェイを見た事があるか?」

 

突然の問いに岸波は肯定するように頷いた。

どうやら見た事があるどころか何度か会話をした事があるらしい。

 

「簡単に言えばレオナルドと比べて、あのサーヴァントにはそう言ったものが感じられなかった。

あのサーヴァントは根っからの海賊だろうな」

 

結局は候補が消えただけで振り出しに戻ってしまったのではないのかと岸波は思ったが、ライルが真に伝えたかったヒントはここからであった。

 

「有名どころの女海賊は全部違うだろうってことはさ、あのサーヴァントは女海賊じゃないってことなんじゃないか?」

 

ライルの発言に岸波は疑問符を浮かべる。

 

「つまり、全てが史実通りではないってこと。例えば……性別とかね。

俺に言えることは、このくらいかな。サーヴァントだって一目しか見てないし。

あとは君のサーヴァントに聞くといいよ」

 

言いたい事を言い終えたライルは、別れを告げてその場から立ち去ろうと歩き出す。

後ろから岸波が礼を言う声が聞こえたがライルは振り向かずに手だけ振ってその場をあとにした。

 

それからアリーナへと向かったライルだったが、マリーと鉢合わせることもなく決戦の日を迎える。

 

 

///////////////

 

 

「ライルスフィール・フォン・アインツベルン、マリー・マクシミリアン

扉はひとつ、再びこの校舎に戻るのも一組。

覚悟を決めたのなら闘技場の扉を開こう。

両者、前へ」

 

くつくつと今にも嫌な笑みをこぼしそうな顔をして神父は言う。

闘技場への扉が開かれると、ライルは少し迷いながらも足を踏み入れた。

ライルにここで戦わずして引き返すという選択肢はない、そして負けるつもりもない。しかしそれは

 

(いや、そんな事を考えても、しょうもないか……)

 

「ごきげんよう、ライルさん」

 

「こんにちわ、マリーさん」

 

「浮かない顔ですわね」

 

躊躇いながらも足を進めたライルを見てマリーが言った言葉にギクリとする。

 

「それは……気のせいだよ」

 

何を躊躇っているのか、それを口にすることは出来なかった。

 

(間桐慎二に遊び感覚じゃ勝てないとか言いながら……結局、中途半端な決意なのは俺も同じか)

 

「まぁ、無理もありませんわ。私も貴方と同じ気持ちなのですのよ」

 

「え?」

 

「何故、愛し合う二人が戦わないといけないのか……あぁ運命とはこんなにも残酷ですのね」

 

「まだ続いてるのかよ、それ」

 

敗者がどうなるのか忘れたように、或いは元々負けるつもりはないように呑気なマリーのもの言いに呆れるライルだった。

しかし、それが逆にライルの躊躇いを消した。

 

(そうだ、そもそも聖杯さえ手に入れば、ここでの生死など関係なくなる。要は無駄なことを考えずに勝てば良いんだ)

 

それに元々考えないようにしていたことである。ならば同じように考えないようにすればいいんだ、とライルは思い至った。

 

「フハハ! 迷いが消えたな少年よ。そうだ、それで良い。舞台に乗る役者がそんなことでは、折角のステージも台無しになってしまうからな!」

 

「では、行きますわよ」

 

マリーが命令を下す。

 

「あぁ、来るなら来い」

 

「いかがいたしますか、御主人様」

 

「今のところ昨日話した通りアーチャー相手には後手で頼みます、キャスター」

 

キャスターの使える呪術の効果を考えると先手で攻撃をするより、後手で守りやカウンターをする方が向いているとライルは考えた。

つまりは相手の行動に合わせて戦うということだ。

普通であれば、そんな戦い方をすれば勢いに押され勝てないだろうが、キャスターの場合は相手の行動を見て素早く判断さえ出来れば押し返すことができる。

おまけに相手はアーチャーである以上、動作と攻撃に多少のタイムラグがあるから、判断がしやすい。

そう考えたからこその戦法だ。

 

「アーチャー相手には、か……フハハ! マリーよ、お前の催しは見事な成功を収めたようであるな!」

 

「当然ですわ。私の書いた台本ですもの」

 

「フハハ! マリーよ、お前は役者より劇作家に向いているのではないか?」

 

「ならば主演、脚本、監督すべて私の劇を作るだけですわ!」

 

「いったい何の話を……」

 

マリーとサーヴァントの会話の内容を理解しきれずライルは困惑の言葉を口にする。

しかしその声は相手のサーヴァントの声によって掻き消される。

 

「では、幕開けと行こうぞ!」

 

そう言って相手のサーヴァントは腰に差していたレイピアを抜いた。

 

「なっ!?」

 

そして、そのままキャスターへと韋駄天の如く走りよってくる。

 

「キャスター! 近づかれないように距離を……いや、防いで下さい!」

 

「フハハ! 遅いぞ!」

 

相手のサーヴァントが突き刺してくるレイピアをキャスターは鏡ではたいて防いだ。

叩かれて空を刺すレイピアを素早く引き戻し再びキャスターへと突き出す。

そして、それをキャスターは鏡ではいて防ぐ。

状況はそれの繰り返しであった。

ライルが見たところ、俊敏のステータスはキャスターの方が勝っているので、今のところ持ち堪えているが防戦一方で拉致があかない。

 

「すみません、キャスター。そのまま後退しながら凌いで下さい!」

 

弓を使っていたからアーチャーだと勘違いしていた。

剣を使うアーチャーがいるのだから、弓を使うアーチャーではないサーヴァントがいてもおかしくないのだ。

その早合点で見事に不意をつかれて判断が間に合わなかったのは自分の所為だ。

その状態をキャスター自身でどうにかできるのなら既にしているだろう。

自分の所為でこうなったのだから、どうにかするのも自分だ、とライルは考えた。

 

「降霊再現-ナ……ラ………」

 

消え入るような声でライルは呟きながら、自分の髪の毛を抜くと、抜いた髪の毛がハルバードへと質量を無視した変貌を遂げた。

自身の身長を越えているハルバードをライルは軽々と持つと、敵のサーヴァントと一緒に後退してきたキャスターの方へと走り出す。

キャスターの近くまで行くと地面を強く蹴り飛ばし跳躍し戦っている二騎のサーヴァントを飛び越える。

 

「なんと!」

 

驚きの声を上げた相手のサーヴァントの声に向かってハルバードを伴い振り返る。

当然ながら、サーヴァントの速さに追いつけるはずもなく回避されてしまう。

しかし、それでキャスターへの攻撃は止めることができたのだ。

 

「キャスター、風で追い討ちお願いします!」

 

「はい! 気密よ集え」

 

ライルの攻撃は避けることができたが絶え間なくキャスターの投げた札がきたことにより避ける余裕がなかったサーヴァントは防御の構えをとる。

しかしそれはライルの思惑通りの行動であった。

札はサーヴァントに触れる直前に消え、そこへ風が流れ込んでいく。

やがて風はサーヴァントを取り巻くように回り始める。

風の勢いは激しくなり旋風へと変貌し、サーヴァントを切り刻んだ。

 

「キャスター、これ以上の追撃はなしで大丈夫です。今のうちに距離をとりましょう」

 

「はい、御主人様」

 

キャスターの使った呪術の効果は相手の防御を無視してダメージを与え防御の行動をした相手にスタン効果を与えるものである。

つまり相手のサーヴァントは短い間だが動けない状態の筈だ。

短い時間でも距離を開くには十分である。

ライルは持っていたハルバードを捨てるとキャスターと共に相手のサーヴァントから離れる。

ライルが捨てたハルバードは、地面に落ちると同時に砕けて消えていった。

 

「フハハ……驚かせてくれる。まさかマスター自身が直接攻撃してくるとはな」

 

「ら、ライダー、一度下がりなさい!」

 

ライダー、焦ったマリーは己がサーヴァントをそう呼んだ。

つまり、あのサーヴァントの真のクラスはライダーということになる。

 

「それはできんな、マリーよ」

 

「な! ふざけていますの!」

 

「いいや、違うな。単純に身体が動かんのだ。おそらく、そういった類の魔術だったのであろう……フハハ!」

 

「それならそうと早く言いなさい! 『cure();』」

 

マリーがライダーに向かって状態異常を回復させるコードキャストを使ったことによりスタン効果が本来よりも早く治ってしまったが、ライルとキャスターはマリーとライダーからは十分な距離を取ることができた。

 

「それよりもマリーよ」

 

「それよりもって、なんですの!」

 

「朕のクラスを明かしたということは、始めるということで相違ないな?」

 

「え? クラスを……あ、あぁそ、そうですわ!」

 

その様子を見ていたライル。

 

「あの反応は絶対うっかり言ってしまっただけだよな」

 

「はい。私もそうかと思います」

 

「しかしライダーのあの口ぶり何か仕掛けてくると思いますから、警戒を……あと、すみませんでしたキャスター」

 

「はい? 何がですか?」

 

「えぇと……詳しくは後で謝ります。それはそうとライダーが何かして来るみたいです」

 

抜いていたレイピアを元の場所に戻したライダーはライルとキャスターに向き直し、堂々とした立ち姿で高らかに宣言をし始める。

 

「既に気づいているであろうが、我が名はルイ! フランス皇帝である!

またの名を太陽王!」

 

やはりか、とライルは思う。

クラスがアーチャーではなくライダーであったこと以外は概ね予想通りだった。

 

「クラスはライダー! 朕が乗るのは馬でもなければ、戦車でもない!

朕が乗るのは至高の舞台! 舞台に乗り舞台に乗せる、それが朕をライダー足らしめる由縁である。

フハハハハッ! さぁ共に歌い踊ろうぞ

では、誘おう朕が作りし珠玉の至宝

『魔法の島の歓楽(パレー・ド・ヴェルサイユ)』へと‼︎」

 

ライダーが叫び終えると同時に景色が一変する。

そこは今なお現存する王宮、ヴェルサイユ宮殿その場所であった。

 

「さぁ聞くが良い。朕こそが至高の太陽王ぞ!

すなわちこの場において、朕こそが国家である!」





ほんとうはこの回で1回戦をおわらせようとしていたんですが、色々あって分割することに……
次回で1回戦終了予定。

それはそうとfate/goも無事(?)に始まりましたね。
リセマラするか迷ったんですがタマモキャットを普通に引いたのでリセマラは止めておきました。
バーサーカーは強いね(イリヤ並感)

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