Fate/EXTRA 太陽狐と月兎   作:淡雪エリヤ

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最初に書きたかったものと少しずつ変わっていく恐怖……




4-3

監督役NPCから全マスターに対して緊急の召集がされ、ライルもそれに従い招集場所にまで足を運んだ

早く着きすぎたのか、まだ数人しか来ていないようだったが、その中に見知った顔を一人だけ見つける

 

「おや、お久しぶりですね。ライルスフィール」

 

「確かに久しぶりだな、レオナルド」

 

「なにやら不機嫌なご様子ですね」

 

「まあね……。お前の兄貴どうにかならんのか」

 

「アハハ! なるほど、兄さんに手酷くされたという事ですか」

 

ライルにとっては笑い事ではないが、レオナルドの反応から彼自身は何も関わっていない事がうかがえた

 

「兄さんにちょっかいを出されて無事でいられているのは流石と言うべきでしょうね」

 

「流石と言われてもな……結局、してやられてるから賞賛は受け取れない」

 

結局このまま何もできなければ聖杯戦争での負けが決まってしまうので、無事とは言い難い

 

「それで、どうにかならないのかと聞いてきたんですね」

 

「まぁな」

 

「結論から言いますと、どうにもならないですね」

 

「だろうな」

 

「御察しの通り、兄さんは僕の命令で動いている訳ではありませんから。一言二言兄さんに物申す事は出来ますが意味は無いでしょうね」

 

兄弟仲の良し悪しとか、そういう問題ではないのだろう

ユリウスの記憶を見たライルはそう判断した

断片的な記憶だが、そこから想像すると普通の兄弟として育ってないのは確実である

 

「例えるなら、アーサー王伝説のマーリンのように、王の命令ではなく自身の意思で王の為になる事をしていると言った所でしょうか」

 

「レオそれは正しくありません」

 

今までライルとレオの会話を黙って聞いていたガウェインが珍しく口を挟んできた

 

「あのようなロクデナシと同類扱いされるのはユリウスが可哀想かと」

 

「彼の魔術師がどのような人物だったのか少し気になりますが、ガウェイン貴方が言うのであればそれが正しいのでしょうね」

 

「まぁレオナルドが言いたい事は何となく分かった」

 

ユリウスはレオの命令ではなく、自分の意思の元で動いている

その理由を何となくライルには想像できた

 

 

 

 

「マスター諸君、集まったようだな」

 

岸波白野が入ってきたのを確認すると、監督役NPCの言峰は声をあげた

おそらく今勝ち残っている最期の一人が岸波白野だったのだろう

辺りを見渡すと、遠坂凛やラニ=Ⅷの姿は見えない

残りの対戦数から簡単に計算すると16人居なければいけない

だが、集まった人数は10人ちょっと

さらに言峰より奥に1組マスターとサーヴァントらしき姿も見えるが、それでも16人に満たない

おそらくユリウスの手によって殺されたマスターもいるので人数が欠けているのだろう

 

「一体、何が目的でこんなことを……」

 

集まったマスターの内の誰かが言峰に問いを投げかける

それは誰もが知りたかった疑問だった

 

「諸君、君たちもそろそろ単純な決闘だけでは飽きてきたと思ってね。本戦から外れて、わたしから少し違う趣向を用意させてもらった」

 

言峰は、後ろにいる1組のピエロのような格好のマスターと槍を持ったサーヴァントを指し示して言葉を続けた

 

「この二人は予選の時から度重なる警告を無視し破壊活動を続けてきた」

 

「警告? 食事を寄越してきたの間違いではないかコトミネよ」

 

挑発するように笑う槍を持ったサーヴァント

 

「聖杯戦争の監督役として彼らにペナルティを与えねばならない。ただ、ここで私が彼らを処分してもつまらないのでね、集まったマスター諸君とハンティングゲームをしてもらう」

 

「つまりアイツらを倒せって事か?」

 

「その通りだとも。獲物は違反者であるマスター・ランルーとそのサーヴァント・ランサー、ヴラド三世」

 

会場に驚きの声がどよめき始めた

ランサーの正体に対して驚いたのではなく、ランサーの正体をアッサリとバラした監督役NPCに対してである

黙って見ていたライルもこれには驚いた

 

「この2人を見事に仕留めたマスターに報酬を与えよう」

 

「報酬っていったい何だそれは。これは本線と関係ないルールだろうリスクに見合ったものだろうな!」

 

名も知らないマスターは怒鳴るように言峰に質問を投げかける

それに対して言峰は淡々と答えた

 

「そうだな、君たちが今躍起になって探っているもの……四回戦対戦相手の真名および戦闘データの情報開示というのはどうだね」

 

言峰の回答に何人ものマスターが息を飲んだ

ヴラド三世を仕留めれば対戦相手の情報を得て対策が取りやすくなり決戦での戦いが楽になる、逆を言えば対戦相手がヴラド三世を仕留めてしまったら自分の情報が相手にバレてしまう

情報を得る為そして情報を守る為に戦わなくてはいけないと焦っているのだろう

しかし呆れているマスターも何人かいる、ライルもその中の1人だった

 

「見合ってないな」

 

この場から帰ると宣言する為にライルは言葉を並べ始めようとした

 

「ほう、何か不満でも」

 

「四回戦の為だけに、これから先戦うかもしれないヤツらに手の内を見せなきゃいけないのは明らかに釣り合っていないだろ?」

 

仮にヴラド三世を仕留めて、四回戦の対戦相手の情報を得て勝利したとする

しかし五回戦目の対戦相手はヴラド三世と己がどう戦ったのかを見て知っていて対策が取られる可能性が高くなり戦いづらくなる

五回戦に勝利したとしても六回戦七回戦も同様だ

言峰がヴラド三世の真名を暴露したインパクトで判断力が鈍ったマスター達はライルの言葉に納得し落ち着きを取り戻した

 

「参加すること自体がデメリットでしかない」

 

「ククク……なるほど、では報酬だけでなく参加賞も用意しよう」

 

「参加賞があっても……」

 

結局リスクは何も変わらない、そう続けようとしていたが

被せられた言峰の言葉にライルは黙るしかなかった

 

「今後の戦いにおける暗号鍵の取得を一つだけ免除しよう」

 

「っ……」

 

「何やら、対戦相手ですらならない無関係なマスターに暗号鍵を奪われたという間抜けなマスターがいるらしいのでね」

 

(流石は監督役か……俺の事情まで知ってるのか)

 

ライルとしては、ハンティングゲームなんかより暗号鍵の事を何とかしたかった為に、早くここから帰ろうと思っていたのだが

それを解決できるのなら話は別だった

 

「暗号鍵の必要数が減ればアリーナ内での衝突は最小限に抑えられるだろう。それに一度二度と戦い方を見られただけで勝てないようではそもそも聖杯戦争に勝ち残るなど到底出来ないと思うのだがね」

 

「良いだろう、その挑発乗ってやる。それに暗号鍵集めなどチマチマした事も面倒だと思ってたしね」

 

あくまで暗号鍵が奪われた間抜けが自分ではないというような態度でライルは啖呵を切った

事実、その間抜けがライルだと気づいたのは奪った張本人であるユリウスとニコニコと笑っているレオナルド1人だけだった

ユリウスは当然の事ながら苦い顔をしているに違いないとライルは思ったが、どうやら姿を変えているようで、どこの誰がユリウスなのか分からなかった

 

「コトミネよ、我らが他のマスターすべてを返り討ちにした場合、報酬はどうなるのだ」

 

「今までのペナルティの白紙、分解処分の取り消し。対戦相手がいなくなれば君たちが自動的に聖杯に近づくことになる」

 

「イイヨランサー、モウ、ランルー君オナカペコペコダヨ。ヒトツクライハ、スキナモノアルカモシレナイシ」

 

「……ふむ」

 

己がマスターの返答に頷くとヴラド三世は自身の槍を地面に叩きつける

 

「善し!善し!善し!乗った!」

 

「うるさ……」

 

煩わしげに呟いたのは黒髪碧眼の少年

 

「我が槍に貫かれたい者は前に出たまえ!」

 

「どうするよ、マスター」

 

「メリットが皆無だ、そんな事に時間を使うほど余裕はない」

 

以前ライルに田中と名乗った少年は己のサーヴァントに淡々と事実を告げる

実際、対戦相手のサーヴァントの事は対戦相手のマスター以上に知っていた

暗号鍵に関しても既に2つ揃っている

今後の対戦の暗号鍵集めが楽になると言えど、そもそも今回の対戦が勝てるかも分からないのに遊んでいる余裕など田中には無かった

 

「あのような悪鬼を斬り伏せる事こそが俺の本分なのだがな。まぁマスターに従うさ」

 

桃色の着物姿のセイバーは田中の方針に従った

 

「おい、アレは岸波のアーチャーだ」

 

その場にいるマスターの誰かが言った通り、岸波白野のサーヴァントであるアーチャーがヴラド三世に向かって矢を放っていた

それを皮切りに何騎かのサーヴァントがヴラド三世に向かって攻撃を仕掛け始める

勿論、啖呵を切ったライルもだ

 

「キャスター風の術だ」

 

ライルのように暗号鍵免除の為、或いは対戦相手の情報を得る為にハンティングゲームに参加するマスター

田中のように参加の価値を見出せず、或いは自身の戦い方を秘匿するために傍観に徹するマスター

その場は、そのように二分された

 

「炎の術で牽制」

 

一対一であればライル自身が前線に出て戦うつもりだったが、流石に人の目が多い中でそれをするつもりはない

それに下手に近付けば流れ弾で『是、十二の試練』のストックを減らす恐れもある

 

「活きの良いのが集まっているのは良いが、こうも数が多いと……煩わしい!」

 

ヴラド三世の怒鳴り声と共に地面から無数の棘が飛び出して、遠距離から攻撃を仕掛けていたサーヴァントに襲い掛かる

ライルの近くにいたキャスターは『是、十二の試練』により守られたので気にせずに攻撃を続けた

岸波白野のアーチャーはその場から飛び退いて、追ってくる棘に白と黒の双剣を投影して応戦した

その他の中には防ぎきる事も躱しきる事も出来ずに攻撃を受けるサーヴァントもいた

 

「多人数戦に対応できるのか……」

 

人数差を鑑みると明らかにヴラド三世は不利な筈なのだが、誰も彼もが極力情報を周りに与えまいと出し惜しみしている所為で戦いは拮抗している

キャスターの攻撃も本人に攻撃が効かないと判断するとすぐに棘を攻撃ではなくキャスターの術が自分に当たらぬように壁として使い、対応される

一方、その様子を見た岸波白野の指示によりアーチャーは弓を捨て双剣での近接戦闘へと移行した

それでも優勢は何も変わらない

 

「僕が出ましょう」

 

今まで静観していたレオナルドが一歩だけ前に出る

ただそれだけで場の空気が変わった

和らいだのではなく、更に重く……

 

「このまま聖杯戦争の進行が止まってしまうのも困りますので……ガウェイン」

 

ガウェインが剣を構える、その時に発生したほんの少しだけの金属音

騒がしかった筈のその場に小さいその音が響き渡る

 

「アラアラ、ガウェイン卿ガ出テキチャッタヨ」

 

先程まで余裕を見せていたヴラド三世のマスターであるランルーもガウェインの登場に緊張を隠せないようだった

 

「モウ、アレ使ッチャッテモイーヨ」

 

「御意のままに」

 

騒がしかったヴラド三世が一転し、静かに呟く

その雰囲気に誰もが宝具を使われると察した

岸波白野を含む前線で戦っていたサーヴァントのマスター達は、それぞれのサーヴァントに直ぐに下がるように伝える

 

「串刺城塞‼︎」

 

無数の槍が地面から突き出し逃げ遅れたサーヴァント達を襲う

攻撃を受けてしまったサーヴァントは力を吸い取られたかのように脱力し膝をつく

 

「流石はヴラド三世、吸血鬼らしい宝具ですね」

 

焦った様子もなく、むしろ余裕を持った態度でレオナルドは言葉を述べる

それもその筈だ彼のサーヴァント、ガウェインはヴラド三世の宝具を受けたにも関わらず傷一つ負っていない

 

「この程度の不浄、私には通りません」

 

その様子を見て息を飲んだのはヴラド三世でもランルーでもなく、周りにいた他のマスター達であった

皆で力を合わせて倒すべきなのはヴラド三世などではなくガウェインなのではないだろうかと思ってしまうほど、その強さは圧倒的に感じた

恐るべきことにまだ剣を一振りもしていないのにだ

 

(ガウェインの方が余程レイドボス感があるな)

 

ライルもそう感じているマスターの一人だったが、監督役が見ている中で、そのような愚行を起こす事は出来ない

 

「ここは一時、引きますぞ妻よ」

 

「ハーイ」

 

一番冷静だったのは意外にもヴラド三世だった

状況の不利をいち早く判断して、その場から去っていく

 

「ふむ、追わなくて良いのかね」

 

岸波のアーチャーがガウェインに声をかけた

 

「マスターからの追撃命令が出ていません」

 

厳格な騎士のようにガウェインは主人の命に従っている

 

「岸波白野、僕は……あなたの成長が実に興味深い。化け物退治はあなたに譲りましょう。あなたの力をもっと見たい」

 

圧倒的な力を持つ事を見せつけたレオナルドにそう言わしめた岸波白野に視線が集まる

元々は名も知らない有象無象のマスターであった岸波白野は初めのうちは誰の目から見ても警戒の対象外だった

運良く、たまたま聖杯戦争に参加できただけのマスターそれだけの認識だ

警戒されてたのは、西欧財閥の次期当主レオナルド、そして西欧財閥の殺し屋ユリウス、それに敵対するテロ組織に所属する遠坂、アトラス院のホムンクルスであるラニ=Ⅷ、元魔法使いの一族アインツベルンのホムンクルスであるライル、元軍人であるダン・ブラックモア、アジアゲームチャンピオンの間桐慎二など

そういった過去の足跡を辿り少しでも警戒できる内容のある人物はマークされていた

だが、岸波白野には何もない

その何もなかったマスターが4回戦まで勝ち残っているのだ

あまつさえレオナルドのお墨付きまで貰ってしまった

周りからの視線に晒された岸波白野は、強がりながらもレオナルドに"余裕そうだね"と言葉を返した

 

「そのままお返ししますよ。彼らが向かった先に誰がいるのか気づきませんでしたか?」

 

岸波白野は"保健室"と呟いて焦った様子で逃げたヴラド三世とランルーを追いかけていった

 

「あぁなんて恐ろしいのでしょう。知っていますか、あの二人の行った破壊活動の中には無抵抗なNPCの殺害も含まれているんですって」

 

聞きなれぬ女性の声が偶然ライルの耳に入った

 

(NPCの殺害? いや、だけどあいつは補欠だから大丈夫だろうけど……ヤツらが向かったのが保健室なら……)

 

ライルも岸波白野と同じように逃げたヴラド三世とランルーを追いかけるようにその場を後にした

 

「はん、随分と大きな独り言だな」

 

「まぁ! 私はあなたに話しかけたんですよ、キャスター」

 

「よく言う、俺に話を聞かせるのが目的ではない癖に」

 

小さな子供の姿をしたサーヴァントと尼のような格好をした女マスターは走り去っていくライルの後ろ姿を見ながら会話を終わらせた

 


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