書いてる途中で時系列の勘違いに気づいたり、矛盾点を見つけたり
とかで書く気力がなくなったりしたんですが、まぁ取り敢えず書き終えたので投稿
月を見上げて一人泣いていた
人ではないと追われ、逃げた先で待っていたのは困惑と悲しみ
だから怨みを募らせた
悪かったのは、この世全てと疑わずーー
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4回戦が始まり、ライルが一番最初に行ったのは対戦相手の確認ではなく廊下にあったアリーナへの転移術式の確認だった
しかし、その罠があった場所には既に術式は撤去されており、痕跡すら残っていなかった為、それを仕掛けた者への手掛かりは見つからないまま終わる事となる
その後、対戦相手の名前を確認しアリーナへと向かった
「邪魔だ」
暗号鍵を探す中、目の前……否、目に入ったエネミーを片っ端から全て、己が錬成したハルバードを使い倒していくライル
キャスターはそれをフォローしながら静かに見ていた
ライルの魂の見た目は綺麗に整ったままだが、キャスターは知っている
綺麗に整えられている外見とは裏腹に見えない内側は怒りまたは憎しみに染まっているという事を
それはまるで、かつての……
「見つけた」
辺りにエネミーが居なくなるとライルも少し視野が広がったのか先程通り過ぎた場所にあった暗号鍵を見つけることが出来た
荒御魂の如くアリーナ内を暴れまわるライルを見て怖気付いたのか、遠くから観察しているのか、或いはそもそもアリーナに来ていないのか対戦相手と接触する事なく探索は終わった
今回の対戦相手の名前は初めて聞くもので接触してくる気配もない為どんな相手なのかも分からなかった
日本人のような名前だった為、普段のライルであれば、それっぽい外見の人物を探してみる事はしただろうが、今のライルにそこまで考える余裕がない状態である
この日のアリーナ探索を終えるとライルは自室には戻らず校舎の見回りを始めた
ライルと一成の決戦を邪魔したアサシンとそのマスターを探す為だ
独断で岸波さんを襲った緑色のアーチャーとは違う、明確にマスターの意思と命令で襲ってきた
ならば奴は明確な敵だ
放課後の殺人鬼、そう呼ばれているルール破りのマスターがいるとは噂で聞いていたが、ライルは襲われたとしても問題ないと思い警戒していなかった
その結果が三回戦の出来事である
「ふむ……」
校内を見回しても手掛かりを見つける事は出来なかった
今ある情報としては、放課後の殺人鬼がアサシンクラスのサーヴァントのマスターであると言う事と声からして男だったという事だけで、姿は見ていなかったので見つけるのも簡単ではないだろう
ただ、新しく気づけた事はあった
考えてみれば当たり前の事ではあるが、校舎内の人の数が明らかに少なくなっている
そしてうろうろしていれば嫌でも視界に入ってきた憎たらしい顔の赤い女テロリストの姿も見えなければ、嫌でも聞こえていた嫌味ったらしいアトラス院の錬金術師の声も聞こえてこない
二人とも3回戦で敗退したのだろうか
或いは柳洞一成と同じように……
ライルには関係のない事で、むしろその方が今後の戦いは楽になる可能性は高い
しかし……
(いや、考えてもしょうもない事だな)
犯人をとっちめて聞き出せば良い、とライルは結論付けた
言葉にすれば簡単な事だが、実際は犯人探し自体が難航している
結局、この日は犯人探しになんの進展もなかった
ライルは毎日かかさずに通っていた食堂にも行く気にもなれず、大人しく自室に戻り睡眠をとる事にした
アリーナで散々暴れて疲れが出たのだろうか、寝つきは悪くなく、ライルは深い眠りにつく事となる
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愛しい人がいて
幸福な日々がそこにはあった
あの人の為に何か出来る事はないだろうか
最初はそんな思いつきから始まった
今思えば、それが終わりへの始まりだったのだろう
自分に出来る事は何かと考えて食事中にふと思いついたのが料理だった
料理をした事がある訳ではないけど、お握りくらいなら自分でも出来そうだと思ったのだ
女中の目を盗んで初めて作ってみたお握りは、酷い物で
手を米粒塗れにして握ったお握りは、形も悪く塩さえふっていない、ただの米の塊で人様に見せられる物ですらない
しかし諦めて片付けようとした所に、自分と同じく女中の目を盗んでつまみ食いにやって来たあの人は、それを捨てるのは勿体ないと食べてしまった
後から考えてみればお世辞だと分かるが
やはりこんな美味しい物を捨てるのは勿体ないと笑顔で言うものだから
それがとても嬉しくて私は女中に頼み込んで料理を教えてもらう事にしたのだ
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「こりゃまた凄い形相だなライルよ」
「あっおい、話かけんなセイバー」
日が変わってアリーナ探索をせずにライルはまた放課後の殺人鬼を調査していた
そんな中、声をかけてきたのは黒髪碧眼の少年がマスターであるセイバーだった
「田中とセイバーか、勝ち残っていたんだな」
「あっ、あぁ……悪運だけは強くてな……まぁそれも今回で終わりだろうが」
「ほれみろマスター、普通に会話はできるだろう」
「ん?」
セイバーの言葉に疑問符を浮かべたライルを見て、セイバーは説明し始めた
「いやなにライルお前、随分と荒んでるのでな。マスターが触らぬ神に祟りなしとかほざきよるから、声を掛けてみたまでよ」
「馬鹿かお前、何でそんな事説明すんだよ」
「馬鹿はお前だマスター。お前がそんなだから話し相手がすくないのだ」
「どうせ最終的に俺も含めて誰も彼もいなくなるんだ、話し相手なんて作った所で何になる」
「どうして俺のマスターはこうも悲観してばかりなのだ」
いつもと同じようにグダグダと言い合いをしている二人に付き合う義理はないとライルはその場を離れようした
その時、会話の矛先はいきなりライルへと向く
「俺のマスターもライルを見習って欲しいものだ。なぁライルよ」
「はぁ……俺を見習うって」
「あぁ、そうだ。悲観しかしていない俺のマスターより、色々悩んだり……そして怒ったりしているライルの方がよほど人として健全であろう」
「それは茶化しているという事で良いのか」
セイバーの言葉にライルは流石にムッとした
怒っている相手に怒ってるのか?と聞くって事は煽りとしか思えない
セイバーのマスターである田中は、だから辞めておけって言ったのにとぼやいていた
「すまんすまん、そのような意図はない。話の流れでな。まぁなんだ、今度は何を怒っている」
まったく悪びれた様子のないセイバーに苛立ちが増すが
しかし、このセイバーに怒りを向けても時間の無駄であるとライルは察した
少しだけ落ち着きを取り戻したライルはダメ元で放課後の殺人鬼の情報を聞くのも悪くないと考えつく
どうせ他に手がかりもないのだ
「放課後の殺人鬼について何か知っているか?」
「む、なんだその何とかの殺人鬼とやらは?」
やはり聞いても無駄だったか、とライルはその場をそのまま去ろうとすると……
「ユリウスの事か」
田中の呟きにライルは足を止めた
「ユリウス?」
ライルにとってそれは初めて聞く名前であった。
「あ、あぁ……ユリウス、ベルなんちゃらハーウェイ」
「ハーウェイ?」
いきなり出てきたライルにとって意外な名前に困惑する
「それも知らないのか……」
とある界隈では有名な名前ではあるが、アインツベルンは西欧財閥と敵対してる訳でもなければ、協力している訳でもないのでレオナルドという次期当主の事は常識として知っていても、影の部分は何も知識として与えられていない
「そいつが放課後の殺人鬼とどう関係が?」
「いや、そのユリウス自身が放課後の殺人鬼の正体なんだが」
「えっと……ハーウェイってレオナルドと同じハーウェイ財閥関係の人物って事だよな?」
「そのレオナルド・ピスタチオ・ハーウェイの兄だよ」
レオナルドのミドルネームはピスタチオではなくビスタリオなのだが、そんな間違いはどうでも良くなるほど、出てきた情報にライルは混乱した
ライルにとってハーウェイはレオナルドという完全無欠の優等生であり、まっすぐで綺麗な王様というイメージだった
「ユリウスは弟のレオナルドをこの聖杯戦争で勝たせる為に聖杯戦争に参加した西欧財閥の殺し屋だ」
「次期当主の兄なのに殺し屋なのか?」
「そこら辺の事情を俺に聞かれてもな……というかマジで知らないとなると、やはり俺の思い違いか……」
「その話が本当であれば、教えてくれて本当に助かった」
今までの調査では何にも進展がなかったが、名前だけではなく出自まで知る事ができたのだ嘘でなければかなりの収穫だ
「まぁ嘘じゃないんだけどな……しかし、名前を知らないって事は対戦相手だから調べてるって訳じゃなさそうだが」
「ふむ、そこは殺人鬼などと物騒な名前をしておるし、何かちょっかいを出されたのではないかマスターよ」
目の前の主従の予想は間違いではないのでライルは肯定した
「なるほどな……それじゃ今度は、俺からも聞いて良いか?」
「え? あぁ良いけど」
いきなり来た田中からの質問に驚きつつライルは答える事に承諾する
一方的に質問をして帰るだけでは流石に申し訳がないと思ったからだ
「最悪な事に今回の俺の対戦相手が臥藤門司なんだが」
「ガトーモンジ?」
また知らない名前だった
「まぁ知らないよな。真祖の姫が相手だから今度こそ俺の命はここまでなんだろうが……」
「だから、何故そう悲観的なのだ。もうちょっと俺を信頼して欲しいのだが」
「うっさいドマイナー英霊。話の腰をおるな」
「酷い言い様だが、茶々を入れたのはすまん」
「まぁ前置きは取り敢えず置いといて。今回のお前の対戦相手は一体誰なんだ?」
その質問にライルは言葉が詰まった
「一応、誰が残っていて誰と誰が戦うのか知っておきたかっただけだ、言いたくないのなら言わなくても良いが」
「悪い田中。言いたくないって訳ではなくて、ちゃんと確認していないから、相手の名前が朧げなんだ」
気まずそうにライルは言った
「なんか日本人っぽい名前で、寺っぽい名前だったって事しか覚えていない」
「寺っぽい名前ね……」
「なんなら後で確認して伝えようか?」
「いや、そこまでしなくていい。それじゃ」
田中はライルから背を向けて歩き出すと、最後に一言だけ言い残していく
「葛木って名前の教員NPCを調べてみるといい」
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ライルは田中の助言通り葛木という教員NPCを調べる事にした
それがどういった意味合いなのかは分からないが、話の流れ的におそらく放課後の殺人鬼ーーユリウスに繋がるヒントなのだろう
(とは言え、どうしたものか)
いざNPCを調べると言っても、何から始めたものかとライルは悩む
ライルにハッカーとしての知識や技術はないため直接そのNPCのデータを解析などしてもライル自身には何も分からない
その解析したデータを遠坂凛あたりに見せれば何か分かるかもしれないが、4回戦始まって以降姿を見る事はなくなったのでどうしようもない
(直接話しをしてみるか?)
NPCとはいえ、このセラフのAIはこちらのした質問に対して、普通に答えてくれる時もあれば、たまに嘘をついてきたり、そんなのも分からないのかと馬鹿にしてきたり、まるで人間のような心を持っていると思える行動を取ってくる事をライルは知っていた
実際セラフに管理されているだけで、NPCは電子体となってセラフに来ているウィザード達と構造的には、ほとんど変わらない
違う部分が他にあるとしたら地上に肉体があるかないか、そしてハッカーとしての能力の有無だろう
そんなNPCと直接話しをするにしても、何と声をかければ良いのだろうか
そんなこんなで悩んだ結果、ライルは取り敢えず件のNPCを観察してから、どうするか考えることにした
この日はアリーナにも行かずに葛木を観察していたが、特段おかしな部分は見当たらず
結局、何の収穫も得られないまま1日を終えた
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「どうやら此方の事に勘付いているようだ。あのホムンクルスはやはり危険だな」
「だが、どうするマスター。儂の"一撃"ではあの壁は簡単に突破出来ぬし、あちらもサーヴァントを徹底して霊体化させているのでそちらも狙えんぞ」
「やりようなら他にもある。戦いでの敗北だけが聖杯戦争の脱落条件ではない」
白い髪の少年が去った後、葛木……否、教員NPCを殺しそのロールを奪った男ーーユリウスはその冷たい眼差しを少年が去っていった方向へ向けていた