Fate/EXTRA 太陽狐と月兎   作:淡雪エリヤ

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「クハッ! 何があったか知らないが、この間とも違う少しはマシな面構えになったじゃねえか」

 

決戦当日、決戦場にて対戦相手であるランサーは開口一番に言った。

 

「確かに、迷いまたは悩み。今はそれが瞳から消えている」

 

ユーリの口から出たのは漫画でよくある、そんな月並みな言葉だ。

 

「すごい、眼を見ただけで、そんな事が分かるんですね。こんなとこに来ないで占い師でもやったらどうですか? お似合いですよ」

 

「ふむ。君の見立て通り、私にも占い師などという事をしていた事があったな。今は軍で精神医を生業にしているのだがね」

 

「そ、そうなんですか……」

 

挑発のつもりでライルは言ったのだが、見当違いの結果になってしまった。

精神医、確かに言われてみれば、ユーリはそのような風貌にも見える。

 

「しかし、占って運命を知る事が出来ようと、運命が変えられる訳ではない。変わらないからこそ運命なのだから。そして人の心情が分かろうと必ずしも癒せる訳でもない。精神医をしているが救えなかった者は幾人も居た」

 

「だから……」

 

だから、この男は月にやって来たのだろう。

しかし、ユーリが何故、この聖杯戦争に身を投じたのか、そんな事はライルにとって必要のない情報である。

 

「そう、私は私の力不足によって救えなかった者がいる事が許せないのだ。しかし研鑽をしている時間にどれだけの救われぬ人々が出て来る?」

 

「そんな事は知りませんよ。それ以上は言わないで良いです。僕には関係ないし、時間の無駄だ」

 

相手の事情を知った所で、得する事はない。

いらぬ感情を持って悩むなど、もう懲り懲りだ。

 

「そうだな、ホムンクルスである君に言った所で何にもならないか……いや、ホムンクルスであろうと人間であろうと意味の無い事には変わらないか」

 

話はそれで終わった。

あとは開戦を待つのみ。

開戦の合図などはない。

どちらが先に動くかどうか、ただそれだけだ。

もちろん、カウンタータイプのキャスターが先に仕掛ける事はない。

幸いな事に、今までしたライルの誤った指示は本来の戦い方と離れた物であった。それ故にキャスターの本来の戦闘スタイルを相手は知らないのだ。

 

「クハッ! 今度は何を狙っているか知らねえが、先手は撮らせてもらおうか」

 

ランサーがそう言って地を蹴るのを見ると、ライルもランサーに向かって走り出した。

 

「ほう、マスターのお前が前に出るのか?」

 

ライルは自分の髪の毛を抜くと、それをハルバートに変化させランサーへと振りかぶる。

だが、それは軽々と避けられてしまった。

 

「クハッ! 動きはてんで素人だな、武器に振り回されているようじゃ当たら……チッ!」

 

ランサーは喋りながら、ライルへ槍を突き刺そうとしたが、見えない壁に弾かれ失敗する。

 

「ふむ、キャスターからの後方支援か」

 

「いや、マスター。どうも今のは違うみてえだがな」

 

ユーリの推測をランサーが否定する。

 

(勘が良いやつめ……)

 

仕組みが分かった所で易々と突破出来る物では無いが、不意打ちで宝具の真名開放を使ってくるような相手だ油断は出来ない。

ライルは当たらないと分かっているが構わずランサーへとハルバードを振るう。

やはり、その攻撃は避けられたり槍でいなされたりして当たらない。

当然、ランサーからの返しの攻撃も来るが、その全ては『是、十二の試練』によって弾かれる。

 

「拉致があかねえ」

 

痺れを切らしたランサーは文句を言いながら、ライルから距離を取ろうとする。

ライルは追撃しようとハルバードを突き出した。

それを今度は避けずに槍で迎え撃とうとするランサー。

 

「炎天よ……奔れ!」

 

「クソが、キャスターか……ぐぁっ!」

 

地面から現れた炎柱が槍を振るおうとしたランサーを呑み込んだ。

そして、ライルが突き出したハルバードは弾かれる事なくランサーへと直撃する。

そのままライルはもう一度、ハルバードを振りかぶる。

 

「一度退け、ランサー」

 

その場を離れる事を指示するユーリ。

 

(無駄だ)

 

キャスターの呪術が直撃したのだ。その効果により暫くの間は動けまい。

ライルの振るったハルバードは、思い通りにランサーへと当たり……

ーー直後、ライルの意識は暗転する。

 

 

 

 

「私が夫とするのは、炎を恐れぬ、私を打ち負かす事が出来た真の勇者のみ!」

 

乙女は高らかに宣言した。

これほど凛々しく勇ましい女を私は見た事がなかった。

 

あぁ……なんと、美しく気高き戦姫か……なるほど王が執心する訳だ。

 

あれに挑むは男のサガと言うもの

 

 

 

 

(今のは、あの時と同じ?)

 

ライルの意識が戻ると、目の前には態勢を立て直したランサーが槍を構えていた。

意識が飛んだのは一瞬だけだったようだ。

 

「クハッ!今のは呪詛の影響だな。キャスターの警戒が薄かった俺の落ち度だ、すまねぇマスター」

 

「いや、それは私も同じだ。だがやはり厄介なのはホムンクルスの方か」

 

いきなりの事でライルは戸惑ったが戦いの最中だ。

相手側に、呑気に話をさせている程の余裕を与えて得する事などない。

再びライルはハルバードを構えると、ランサーへと駆け出す。

 

「確かに小僧は厄介だが……やりようはある」

 

ランサー近づいたライルはハルバードを振るう。

ランサーはそれをまた避けようとはせず、持っていた槍を手放すと、空いた両の手でハルバードを掴んだ。

 

「なっ!」

 

「クハッ! どういう仕組みか知らねえが、直接攻撃出来ないなら、こうするまでよ!」

 

そう言ってランサーは、掴んだハルバードをライルごと上方へと放り投げた。

それは、ライルも知らなかった『是、十二の試練』の抜け穴だった。

『是、十二の試練』は、あくまで対称へのダメージを無効化する概念礼装だ。

それ故に、身体的なダメージさえ無ければ危害を加える事が可能であったのだ。

投げられたライルはハルバードを手放し体操選手さながらの着地をすると、ランサーは既に槍を手にキャスターの元へと走り出していた。

 

「呪相……」

 

キャスターは既に迎撃のため札を手に呪術の準備をしている。

 

「防げランサー」

 

「キャスター、風だ!」

 

ユーリの出した指示を聞くと、ライルは間髪入れずにキャスターへと指示を出す。

そしてそれと同時にライルも走り出した。

 

「……密天。気密よ集え!」

 

ユーリの指示によりランサーは防御の態勢になるが、防御をすり抜ける風の呪術の前では無意味。

ランサーは風に切りきざまれ再び呪詛の影響で動けなくなる。

その隙にキャスターは宝具であろう鏡をランサーへと叩きつける。

同時にランサーへと走り寄ったライルはハルバードを叩きつけた……

 

 

 

 

「なんなんだ、あの女は! 自ら出した条件だったというのに、何が不満なんだ!」

 

私の仕える王は燃え盛る炎の壁を越え見事、女を打ち負かした。

だと言うのに、女はまるで悲しい事でもあったかのように憂いている顔をしていた。

 

「あのような女は信用できねぇ。そう思わないか友よ」

 

「すまない……」

 

「クハッ! そうだな、こういった事に疎いお前に言っても仕方のない事だったな英雄殿」

 

「すまない……」

 

愚痴を溢した私に対して我が友である英雄が溢した謝罪。

その謝罪の意味を知るのは、まだ先のことだった。

 

 

 

(……またか)

 

呪詛の影響が切れて、動けるようになったランサーは距離を取るようにライルとキャスターの側から離れていった。

 

「戦うすべに関しては分かっていたが、戦い方に関しては今までと違うのが厄介だな」

 

「厄介なのは、どうやら主だけではなかったか。しかし今のも対処法がない訳ではない……今の内に微量だが回復をしておくぞランサー」

 

回復のコードキャストが使われるのを、ライルがただ見ている訳もない。

 

「キャスター! 妨害を」

 

「はい。炎天よ……奔れ!」

 

しかしキャスターの投げた札はランサーへと届かず途中で小さく火柱が上がって直ぐに消えた。

火柱が消えた場所には槍が突き立っていた。

ランサーが投げた槍が、札を地に縫いつけるように刺さっだのだろう。

 

「クハッ! そう何度も喰らう無様を晒す訳にもいかんのでな!」

 

木の葉のように軽く小さな札を貫けるほど、投擲精度が正確なのが見てとれる。

 

「ご主人様、あの槍は……」

 

「武器について何か気付いた事が?」

 

「はい、あの槍は、私の呪術の呪詛を吸収していました」

 

「吸収?」

 

確かに先ほどの呪術はいつもの炎柱ではなく、小さな火柱だった。

当たらない事を見越してキャスターがギリギリで出力を抑えたからだと思ったが、そうでは無いらしい。

 

「あの槍の柄は何らかの呪具のようなものかと」

 

「刃の部分ではなく?」

 

「はい、柄の部分です」

 

以前、ランサーがキャスターの呪術を防いだ時に呪いがどうこうなんて言っていた覚えはあった。

しかし刃の部分で防いで、槍全体か或いは刃の部分がそうだも思ったが、キャスターの見立てでは柄の部分のようだった。

 

「クハッ! そんな事まで見破れるのか! 流石は呪術なんて碌でもないモノを使ってるだけあるな」

 

「鏡、見てみます?」

 

「いいや、自虐も含めて言ったのさ。俺は英雄なんかじゃないんでね、寧ろ逆だ。お前もだろ? 獣の耳に東洋風の着物に呪術なんて組み合わせ、候補が多いが……いずれも好き勝手して国を傾けるような碌でもない女ばかりだ」

 

勝手な物言いだ……。

 

どうして少女が月を見上げて涙を零したのかライルは知っている。

 

そして、涙の後に女が何をしたのかライルは知らない。

 

いや、仮に知っていたとしても、ライルの反応は変わらなかっただろう。

 

「よく知りもしない相手に、酷い言い様だな。少なくても俺にとってキャスターはこれ以上ない魅力的な女の人だけどね」

 

「ご、ご主人様……」

 

あの夢での献身的に奉仕する姿も、深い関わりがあった訳でもないのにマリー(他人の恋)のことについて叱ってくれた事も……

 

「クハッ! そりゃ女に惑わされている人間と同じ物言いじゃねぇか」

 

「無駄話は、そこまでだ。回復は終わった。決戦場において、セラフの邪魔は無い。一息に決めるぞ」

 

「あいよ、マスター……」

 

寒気。

無様にもアリーナで気を失った時と同じ感覚がした。

ランサーの槍に集まる視認できる程の赤黒い瘴気。

矛先はライルに直接向いている訳ではなく、キャスターに向いているのだが、やはり脚の震えが止まらない。

脳裏に浮かんでくる死のイメージ。

燃えている故郷の光景。

あれはきっと、そう言う物なのだろう。

 

「愛だの恋だの下らねぇ」

 

みるみるうちに槍が纏う瘴気は禍々しく増大していく。

あんなもの直撃してしまえばひとたまりも無い。

言葉通り決着を付けにきている……射線上に入って『是、十二の試練で』防ぐ事は出来なくても威力を緩和させる為に行かなくてはいけないのに……震えは止まらず足は動かない。

 

「そんな国を滅ぼしかねない碌でもねぇ愛だ恋だって感情を持ち込んでくるから……女ってのは最悪なんだ」

 

「………」

 

"ワタクシは貴方の事が好きですわ!"

その想いが碌でもない……と……

 

「……フハ…」

 

足は動かない。

だけど……

 

死ぬのが怖い?

そんな恐怖の中、アイツは勝てと言って声をあげて笑ったのだ。

まだ死ぬと決まってもいない自分が、それを笑飛ばせぬ道理はない。

そうだ、まだ腕は動かせる。

 

「フハハ!」

 

「ご主人様?」

 

割って入れぬのなら、そもそも撃たせなければ良い。

 

「フハハハハ! 何を言うかと思えば、モテない男が拗らせただけではないか!」

 

ライルの手には、マリーから貰った銃型の礼装が握られていた。

 

「降霊再現」

 

使い方は、ライルの中の魂が知っている。

 

「アポロン……」

 

「急げランサー、何かしてくるぞ!」

 

鳴り響く銃声。

ランサーに向いていた銃口は上を指しており、射出された光弾の射線上にランサーの姿はない。

 

「クハッ! 反動でずれたか? 残念だが準備は終わった。決めさせて貰おうか。復讐に狂う(デッドライン)--」

 

「いや、待てランサー! 上だ!」

 

「……バレエッ!」

 

ライルの叫びを合図に、ランサーの頭上に打ち上げられた光弾から光の矢が降り注ぐ。

 

「クソが!」

 

ランサーの目から見て、降り注ぐ光の矢は英霊の攻撃と遜色ないモノだった。

どうにかして対処しなければ確実に深手を負う。

そう判断して宝具の真名解放を中断し、その場を離れようとしたが……

 

「呪相・氷天」

 

そこに一枚の札が飛来する。

 

「氷天よ……」

 

ランサーが真名解放を中断したおかげでライルは、自分にかかっていたプレッシャーがなくなった事に気付く。

それと同時に足の震えが治ったライルは地を蹴り動き出した。

 

「降霊再現」

 

「……砕け!」

 

氷の呪術によってランサーの足は凍りついて、その場から離れられず、降り注ぐ光の矢を凌ごうと槍で捌き始めた。

 

「ナ…ン……イ……」

 

光の矢が降りやむとライルは、先ほどとは対照的に小さく呟き、ランサーに近付いて髪の毛で錬金したハルバードを大きく振るった。

 

「なにっ!?」

 

ライルのハルバードを振るう動きが先程とは全く違う事にランサーは驚きの声を洩らしながらも、槍の柄でハルバードを受け止めようとする。

槍とハルバードが触れた瞬間、再びライルの意識は暗転した。

 

 

 

 

このような辱めはあんまりだ、と女は泣いていた。

 

女を組み伏せたのは王ではなかったのだ。

 

炎の壁を越え打ち負かしたのも、女を寝所で組み伏せたのも全て力なき王の恋の成就の為に王に扮装した竜殺しの英雄が行った事だった。

 

女は、英雄の妻である王妹との口論の末に、それを観衆の面前で曝露された。

 

そして私は知ったのだ。

 

英雄が姦計により記憶を失い、記憶を失った後に英雄は王妹と婚姻した事。

 

その英雄が記憶をなくす前は、その女と夫婦だったという過去。

 

「私が夫とするのは、炎を恐れぬ、私を打ち負かす事が出来た真の勇者のみ!」

 

その言葉は王や周りの人間達にではなく英雄ただ一人に向けられた言葉だったのだ。

 

だというのに王に嫁ぐ事になってしまった自分に英雄は何も言わず、あろう事かその事に加担していたのだ。

 

「もはや誰かが死なねば収まらぬ!」

 

女は叫んだ。

 

命を差し出そうとしたのは英雄だった。

俺が死ねば収まるのであれば、俺を殺してくれと友である私に頼んできたのだ。

 

「責任を取るのであれば、生きてそれを果たすべきだ。死とは逃げでしかない」

 

ふざけるなと思いながら私は英雄にそう答えた。

 

「あぁ、すまない……その通りだな」

 

私の説得にあっさりと頷いた英雄に私は腹が立ったのだ。

去っていく英雄の背を結局、私は怒りのままに槍で射たのだ。

 

女の望みも英雄の頼みも叶えた。

しかし女は英雄の後を追い自らの命を落とした。

 

結局、誰も救われる事なく……

 

私は殺した英雄から剣と呪われた財宝を奪い。

 

それからの事はあまり覚えていないが……

 

最後は英雄から奪った剣で、王妹によって私の首は落とされた。

 

 

 

 

ライルの振るったハルバードによって槍の柄は砕け、そのままランサーは押し飛ばされた。

 

「その刃……いや剣は……そうか」

 

白昼夢のように見えた記憶の中で英雄から奪った剣と同じ形をしていた。

やはり、あの記憶はランサーのもののようだった。

 

「あんたが誰だかは知らないが……」

 

倒れ込んだランサーに向けてライルは言う。

 

「あんたが炎に挑むべきだったんじゃないか?」

 

「クハッ! さっきから妙な事ばかり脳裏をよぎるかと思えばお前か……クソが」

 

「見たくて見た訳じゃないんだけどな……恋が何だと言っておきながら……いや、だからこそ言ったのか」

 

連続で術式を使った反動でフラフラになりながらも、ハルバードを支えに立ちながらライルは告げた。

 

「あんた……その女の事好きだったんだろ。何が信念だ、意気地なしが!」

 

「クハッ。クハハ……知ったような口を……だが、そうか……やはり俺は…いや……私は、あいつに惚れていたのか」

 

柄の砕けた槍の先に括られていた刃……剣からは、禍々しい瘴気は消えていた。

 

「何を話している!」

 

「クハッ! 気にするなマスター、生意気な口を聞く、あのクソガキくらい潰してやるさ」

 

「だがお前の槍は……いや、槍だけではない……」

 

「いいや、これで十分……これが十全だ」

 

そう言って、腹を押さえながらフラフラと立ち上がったランサーは折れた槍の穂先に括られていた剣を手に取り振り上げた。

 

「そうか……私の落ち度だな。……全力でやれランサー」

 

「言われずとも」

 

「私は、私が出来る最大のサポートをする」

 

そう言って、ユーリは右手をランサーに向ける。

その手に刻まれていた令呪が一つずつ、ゆっくりと消えていく。

 

「邪悪なる竜は失墜し、世界は今落陽に至る」

 

槍の時と違い死のイメージは見えない……。

だが、術の連続使用の反動でライルは動く事が出来なかった。

 

「キャスター……なんとか……防げ」

 

もはや、まともな指示ではなかったが、キャスターは静かに頷いた。

 

「撃ち落とす。『幻想大剣・天魔失墜(ノートゥング)』!」

 

剣から放たれたのは、禍々しい瘴気なとではなく清廉なる黄昏の剣気。

それは真っ直ぐとキャスターへ流れていく。

 

「私を傷つけられると思っているんですか?」

 

呪層・黒天洞

キャスターが使ったそれは、ライダーの光の矢を防いだ呪術だった。

放たれた剣気は鏡の中へと吸い込まれ消えていった。

 

「クハッ! 結局、厄介なのは主従両方だったか……」

 

「そのようだ……負けか……」

 

ランサーの手から剣が落ち、カランと地面を鳴らす。

いや、よく見てみるとランサーの手があった場所には何もなかった。

次にライルがハルバードを叩きつけた腹を見ると粒子となって半分近くが消えていた。

つまり、既にランサーは死に体だったのだ。

 

「……ライルスフィール・フォン・アインツベルン、先日の君の瞳は私の事など眼中にないと物語っていた。仕方のない事だ、私も君の事を人だと認めていなかった、いや認めたくなかったのだから」

 

「何を……言って」

 

「何も出来なかった敗者の言い訳さ、聞くも聞かぬも自由だ。掲示板の前で君を見た時、君は迷いか悩みを孕んだ瞳をしていた。まるで普通の子供のようにだ……認めたくなかったのだ」

 

「クハッ……結局本人に言うのか」

 

「悩んで泣いて笑う。普通の子供がこの戦場にいる事を認めたくなかった。だから君が人を模しただけのホムンクルス、人間ではないと。今日の君を見て、もはや違うのだと思い知った。その身はホムンクルスだとしても心は普通の人間と同じだ……認めたくはないがな」

 

ライルは、ユーリの口からそんな言葉が出てきた事に驚き何も言えなかった。

 

「私は軍医だ、精神医だがな……。人を救う生業をしているのに、人を救う為に月に来たのに……している事は人を殺す事だ。ましてや、ただの子供を殺すなど私には……。お笑い種だな、信念が無かったのは私の方だったというのに」

 

人を殺す覚悟が出来ていなかったのは、ライルだけではなかった。

目の前にいるユーリ・シュライツマンも同じ悩みを持っていたのだ。

遠くから不意打ちで殺そうとしてきたのも……少しでも近くで死を見たくなかったからなのだろうか。

 

「謝罪しよう。ライルスフィール・フォン・アインツベルン。すまなかった、少年よ。君は他人の為に憤る事が出来る立派な人間だ」

 

そう言い残してユーリ・シュライツマンは、粒子となり消えた。

 

「クハッ! 見るな見るな。言い残す事なんてねぇよ……お陰で気付きたくない事まで気付かされちまったしな……ま、気分は悪くねぇが」

 

そう言ってランサーも消えていった。

 

ここに月の聖杯戦争第二回戦が幕を閉じる。

 

(勝った……)

 

勝利の安堵によって、気を張っていたライルは力が抜け、その場に倒れ込んだ。

 

「マスター!」

 

「だ…大丈夫。疲れた…だ……け」

 

そのまま落ち着いた寝息をたててるライルの姿を見てキャスターは安堵した。

 

"少なくても俺にとってキャスターはこれ以上ない魅力的な女の人だけどね"

 

自分への誹謗を庇うように主が言った言葉……悪い気分はしなかった。

反面、ランサーが言った言葉も事実であるが故に申し訳なくもあった。

 

「今は、ゆっくりとお休み下さいまし、ご主人様……」








これにて2回戦も終了。
考えがまとまらず、まとめた結果がアッサリとした先頭。
相手側の描写とかも少しは入れないと、と思い色々書き足したり減らしたり
なのに文字数は今までの中で一番多くなりましたね。

ランサーの真名をライルは最後まで知らずに倒しました。
エクストラのシリーズだと珍しい事ですけどSNだと真名が判明しないで、退場する事もあったので、こんな感じで良いかなって。
因みにランサーの真名に関しては、同一人物でも物語によって設定が違ったりする事が多かったので、様々な出展の設定をごちゃ混ぜにして捏造して作られたライダー以上のオリ鯖ですね。
調べている途中でfgoでチラッと登場していたり……すまない……すまないさん持ってないんだ……すまない……Wiki知識をてきとうに解釈して設定盛り込んだりしました。

次の前書きにステータスでも載せようかと思っているですけど
そもそも前書きや、後書きは読んだ余韻的なものをぶち壊すから、活動報告ってのでやった方が良いのかな?
わざわざ、そっちで言い訳見てくれる人いるのだろうか……(言い訳するなって話ですがww)

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