Fate/EXTRA 太陽狐と月兎   作:淡雪エリヤ

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「お前が相談だと?」

 

セイバーの相談に乗るという言葉に、最初に反応したのはマスターである田中だった。

 

「悪い事は言わない。そのまま購買に向かうのが有意義だぞ。こいつに相談したところで説教が始まるだけだ」

 

「マスター以外に説教なぞせん。弁えておるわ、阿呆め。純粋に相談に乗ってやろうと言っておる」

 

ライルからしてみれば、セイバーはほぼ初対面のようなものだ。

そんな相手からいきなり相談に乗ると言われ、言葉に詰まる。

そして意外にもライルよりも先に口を開いたのはキャスターだった。

 

「一体、なんのつもりですか?」

 

キャスターは、今までに見たことのないような鋭く細めた目でセイバーを睨んでいる。

いつもは静観しているキャスターが会話に口を挟んだ事にライルは驚いた。

 

「睨むな、睨むな。言ったであろう。負けられては面白くない。だから憂いを取り除こうと思ったまでの事よ」

 

身がすくむような眼光を意にも介さずセイバーは答える。

 

「何故、私達が負けるのが面白くないと?」

 

キャスターの視線は依然と険しいまま。

 

「そんなこと決まっておろう。お前を……」

 

「無駄話はそこまでだ、セイバー」

 

キャスターの問いに答えようとしたセイバーを田中は止めるように遮った。

セイバーの真名に関する事を喋ろうとでもしたのだろうか?

 

「無駄話とはなんだマスター! また口を挟みよって……」

 

「良いかよく聞け。悩みの相談なんてものは道案内みたいなものだ」

 

「なんだいきなり」

 

「道案内ってのは、目的地を知らない相手にされても余計に迷うだけだ。悩みの相談も同じ。行きつく先が分からなければ悩みは増すばかりで何の役にも立たない。道案内と違う点は正解の場所が人それぞれで一つではない事だろう。ならば悩み相談なんてするだけ無駄だろうし、そもそも他者の言葉などいちいち間に受けていたらキリがない。答えなら自分で見つけるべきだ」

 

「な! 俺の言う事を全否定しているではないか!」

 

「その通りだ。英雄も偽善も正論も、邪魔であれば俺は否定する」

 

「俺の前で抜け抜けと言いよるわ、この阿呆めが」

 

「何とでも言え。元来、人間とはこんなもんだろ。なあ?」

 

そう言って田中はライルに同意を求めた。

確かにそうかもしれない。とライルは思った。

生前に知り合った人はそういった人間が多かった。

しかしそれは生前のライルには出来なかった事でもある。

偽善も正論もライルが否定できるものではなかった。

 

「そう言えば、お前はホムンクルスだったか。悪い、同調を促されても困るだろう」

 

「いや、そんな事は……」

 

「まぁ……覚悟も信念も、有ろうが無かろうが勝つ時は勝つし負ける時は負ける。俺が証拠だ。そしてお前も一回戦を勝ったから此処にいる。馬鹿な高説など捨て置けば良い。必要なのは何を思い何をしたいか、その自分の意思だけだ」

 

田中はそう言うとライルに背を向けて、階段を登り始めた。

 

「柄にもなく語ってしまったが……かなり恥ずかしいな……」

 

「阿呆めが、それも立派な信念だというのに気付かぬのか、我がマスターは」

 

去り際に呟いた言葉はライルの耳にも聞こえていた。

不思議な少年だという印象が残った。

初めて会った時は敵意丸出しだったのに、今はアドバイス(?)をしてくれた。

 

(高説など捨て置けば良い、か……)

 

要は無駄な事で悩む必要はないという事だろう。

道案内と言う例えも妙にしっくりときた。

行くべき場所は決まっているのだ。

それなのに無駄な寄り道で迷っていたのだから……

 

「ホント……しょうもないな」

 

どういう意図で田中やセイバーが助言をしてくれたのかは分からないが、今度きちんと礼をしなくてはいけないな。

そんな事を思いながらライルは購買へと足を運んだ。

 

「え? ロールケーキは売り切れ?」

 

無言でムシャムシャと食べていたのを見て、食べてみたくなったが売り切れているのではしょうもない。

ライルは売れ残っていた焼きそばパンを買って自室へと帰り1日を終えた。

 

 

 

 

懐かしい夢を見た。

 

前世の、それも幼い頃の遠く古い記憶。

 

惑星記録装置が知り得ない少年だけが知る並行世界の記録。

 

夢の中で幼い頃の自分は、何気なく父へと問いを投げかけていた。

 

"何故、自分は他の人と違うのか?"

 

すると父は答えた。

 

"確かに見た目や体の丈夫さは人と違うかもしれないが、決して特別な存在なのだと驕ってはいけない"

 

再び父へと問う。

 

"なんで皆は自分を特別扱いをするのだろうか?"

 

それに対する返答はこうだった。

 

"医学的に証明されているというのに、村の連中は考え方の古い奴らばかりだ。神の遣いなどと馬鹿な事を言う、お前は神の遣いなんかじゃない。俺の子だ。馬鹿な奴らの言葉なんて真に受けるな。本当に正しいと思った事だけ受け止めて行動しろよ"

 

続けて笑いながら父は言った。

 

"まぁ、あいつらが貢いでくれるっていうのなら、貰える物は貰うけどな"

 

それは、まだ幸せだった頃の記憶。

 

 

 

 

眠りから眼が覚めると、最初に視界に入ったのは教室(マイルーム)の窓から空を眺めているキャスターの姿だった。

何か声をかけようとして、やめる。

憂うような表情で何かを考え込んでいるので声をかけづらかったのだ。

セイバーの事を考えているのだろうか?

キャスターがセイバー睨んでいた目は普通ではなかった。

かと言って恨みがあるような感じではない……ライルには威嚇しているかのように見えた。

 

「おはようございます、ご主人様。お早いですね」

 

「あ、あぁ。おはようございます、キャスター」

 

ライルが起きた事に気づいたキャスターと挨拶を交わす。

 

「恥ずかしい事に、昨日は沢山休んじゃいましたし……」

 

ライルが就寝した時間はいつもよりも遅かったが、眼が覚めた時間はいつも通りだった。

保健室で休息をとったのであまり眠れなかったのだ。

 

「そうでございましたか……」

 

「………」

 

そこで会話が途切れてしまう。

そして、いつも通りの静寂。

思えば、キャスターとは事務的な会話しかしていないような気がする。

いつも自分の言葉を二つ返事で従ってくれている……しかしそれだけだ。

まるで自分の意思など持たないかのように、その有様は英霊(サーヴァント)ではなく、まるで召使(サーヴァント)のようだ。

この部屋で生活を始めてから10日は過ぎているというのに、依然として気不味い雰囲気は変わらない。

最初のうちは強引に気不味さを誤魔化していたが、それも続かなくなってきたのだ。

夢で見る、あの光景の事も……

そろそろ、世間話でも何でも良いから何かちゃんと話すべきだろう。

とは言え、話の種が見つからない。

いや、一つだけあるとすれば、前に聞くのをやめた質問があったか。

 

「あの……」

 

「はい。なんでしょうか?」

 

「キャスターはセイバーと知り合いなんですか?」

 

そして質問してから、その質問も世間話とは離れたモノだと気づく。

これではいつも通りの事務的な会話にしかならないのではないだろうか。

 

「知り合い……ではありません。ただ、前は気の所為だと思ったのですが、あの英霊の魂と似たモノを知っています……」

 

「魂……」

 

それはキャスターが時々口にしている言葉だ。

それが、そのままの意味なのか、別の何かを比喩したモノなのか分からないが……話を変えるには丁度いい話題だ。

 

「その、キャスターは魂が見えたり……とか?」

 

「えっと……はい。ご主人様のおっしゃる通りです」

 

「そうなんだ」

 

「………」

 

「………」

 

ダメだ、会話が続かない……。

普段、普通に話す分には会話が続くのに、会話しようと意識しているからなのか逆に話が途切れてしまう。

何か続く話をしなくては……そう言えばイケ魂だとか、口走っていた事もあった気がする。

 

「魂ってどんな感じなんですか? えっと……やはり、人によって見え方が違ったりするんですか?」

 

「はい。その通りです……外見の美醜と同じように魂にも綺麗だったり汚かったり人それぞれ違っています」

 

つまりは、イケ魂というのは綺麗な魂の事を指しているという事なのだろうか?

イケてる魂でイケ魂とかイケメン魂でイケ魂……いや、このキャスターがそんな現代ギャルのような言葉を使うとは考え辛い。

生け魂……いや、活け魂あたりだろうか?

取り敢えず気になるのは、自分の魂はどんな感じなのかだ。

 

「因みになんですけど、僕の魂はどんな風に見えているんですか?」

 

「えっと……その……」

 

と、そこでキャスターが言い淀んだ。

先程まで、言葉に詰まる事なく質問に答えてくれたキャスターが、とても言い辛そうにしているのだ。

それはつまりは、答え辛い質問だったという事なのだろう……。

 

「まさか……凄い歪で醜い……とか…」

 

「い、いえ! そんな事はありません。むしろその逆です、ご主人様」

 

「逆って事は綺麗ってことか……良かった……」

 

自分の事をイケメンだと思った事はないが。

異性に、お前ブサイクだなと言われたら立ち直れる自信はない。

取り敢えず安心……

 

「はい。ですが……」

 

安心……出来ないのは、まぁ知ってた。

言い淀んだのだから、ただ綺麗なだけではないのは想像がつく。

 

「ご主人様の魂は綺麗なのですが……不自然なまでに綺麗に整い過ぎているのです」

 

「不自然って言うと……」

 

「その……まるで魂を弄ったかのような痕跡があるのですが」

 

今度は、ライルが言葉に詰まった。

まったく、身に覚えがないからだ。

キャスターの言を鵜呑みにすると、それはつまり自分の知らない所で魂を弄られていたという事だ。

そして、そんな事が可能なのは……

 

「爺さんの仕業か」

 

それ以外に考えられなかった。

そして、そのライルの考えは間違えではない。

 

「あの……私からも一つ質問いいでしょうか?」

 

「え、あぁ、はい。何ですか?」

 

「先日、ライダーに勝利した時……」

 

「はい」

 

「ライダーが消える寸前に、その魂の一部がご主人様の中に吸い込まれて行くように見えたのですが……あれは一体」

 

「……はい?」

 

一瞬、キャスターの言葉の意味が分からなくなる。

 

「あ、いえ、私の見間違えかもしれません。すみません、お忘れ下さい、ご主人様」

 

ふと、前世でやったゲームの内容を思い出した。

冬木で行われる聖杯戦争、その最終目的は万能の願望機の完成ではなく……"第三魔法ヘブンズフィール"を発動させること

そして、その成就の為にアインツベルンが用意したモノ……

 

「まさか……俺も……小聖杯なの…か?」

 

仮にそうだったとして、この月の聖杯戦争において必要のないモノの筈だ。

なのに爺さんは何の為に自分の身体にそんなモノを……

 

(ってか……フハハハの人が俺の中に入ってるのかと思うと……凄い気持ち悪いんだが……)







fgoの終章レイドとか期限ギリギリでランチ凸る為に種火周回しまくったりとか……
新年でモナリザ復刻で凸る為にまた種火周回したり……年末年始は忙しかったですね。

とまあ投稿が一ヶ月ぶりになった訳ですが、fgoだけが理由でなくて、またもや書いては消しての繰り返しでまったく執筆が進まなかったってのも理由ですね。
前回、中途半端な所で区切ってしまったのが悔やまれる。
大体一話あたり5000文字くらいを目安にして投稿してるので、区切れる所で区切った結果がこれですよ……。
逆に区切らないといつまで経っても次話が投稿できなくなりそうなので、こんな感じで投稿してます。

因みに2回戦もあと二話くらいで終わらせるつもりです。

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