この帝都は完全な創造とかいうのではなく戦時中東京をお手本にして、一応地図も書いています。
町の状態は戦後、雰囲気は戦争末期という感じです。
帝都を取り囲む壁や、主動力が蒸気とかいう設定は、例の甲鉄城のなんとかを参考(パクリ)にしています。
あの設定にロマンを感じました(小並感)
帝都に入ってからいうもの、全員が全員黙ったままで、しかも帝都中央駅というところについてからも皆降りないでいた。
窓の外は両方とも駅舎があり、帝都を見渡すことはできない。
痺れを切らし誰かが口を開くと思っていたか、車内の時計が八時半を示してもなお誰も何も言わない。
『天津風』自信、何か喋りたくて仕方がなかった。
喋るのが好きというのは無いが、幾分静かすぎるのが問題だ。
だがこの沈黙は突然切り払われた。
「移動の準備ができました、皆さん外へ」
例の憲兵が車内に呼びかけた。
ここの憲兵は誰もこうなのかとやはりここでも不安が大きくなる。
外に出るなりまず感じたのは、口を塞ぎたくなるほどの空気の澱み具合だった。
顔を顰めるほどではないが、変わり具合に違和感を感じざるを得ない。
そして見回して気づいたのが、この時点ですでに人気を感じないということだ。
帝都というくらいだから、いくらなんでも人がたくさん居て、さぞ活気のある事だろうと期待していたが、またも外れた。
そして、駅舎の外に出てようやくこの駅舎がレンガ造りだったことに気づいた。
街並みを見渡せば、まるで民家にトタンを張り付けたような粗末な外見の建物ばかりだが、見上げれば高さ20メートルほどのビルではないかと驚く。
そして取ってつけたような窓が最上部まで一列に並んでいるという建物が乱立している。
「これが帝都?、廃墟の間違いじゃないの?」
「余計なことを言うな……。俺もそう思う」
提督は最後に付け加えた。
駅前のただ広いだけの広場にでると、待っていた車に分乗した。
六人乗りの何かよくわからない車に、総督、提督、『敷島』、准将、『天津風』と乗せられ、准将が助手席に座った。
一人前に陸軍の紋章がついているが、黒い以外何ら特徴のない車で、国産か外国製かも見当がつかない。
「軍省へ向かえ」
准将はそれ以上言わず、それ以来車内の会話は途絶えた。
国会議事堂前の通りに入ると、多少は空が開けたが、大して見たい空でもなかった。
ここは帝都で一番大きい通りで、この通りに全ての主要な国家機関の施設が立ち並んでいる。
半径2000キロの領空の真ん中だからできることだ。
逆にここまで国の弱点を集中できるのは、この国がどれだけ他の国家から隔離され、強大であるかを物語っている。
それもこれも、国連のお墨付きがあるからで、無かったら問答無用で今頃いろいろな国とドンパチやってることだろう。
まもなく、陸軍海軍合同の軍部省合同庁舎に到着した。
ここは軍人だけとはいえまともに人の通りがあり、多少は都らしくなっている。
准将一人が、車を待たせて庁舎に入って行ってしまったが、どうやら想定外の客について取り繕ってくれていたらしい。
外に出るなり総督は四方八方から敬礼を浴びた。
絡み付く僥倖の視線を振り払いながら、庁舎の中には居ると、入り口の係員をスルーして二階フロアにあるという准将のオフィスに向かった。
内装は南方司令部とさほど変わりはない、違いと言えばかなり埃っぽいというだけだ。
階段上がって廊下行き止まりのところに彼女のオフィスが構えてあった。
階級が高いだけあって、仕事のほぼすべてがデスクワークになっているようだ。
そういうのを嫌う将官は結構居て、二割くらいが前線指揮官として留まるケースも少なくない。
彼女はその逆だ。
オフィスは、すぐ移転という事もあって、机と向かい合わせた大きなソファーが一組、そして本棚しかない。
「まあ腰掛けてください、少し段取りがあるので」
彼女が何の理由もなくここに寄るわけがないので、みんな文句を言わず黙ってソファーに座った。
ひたすら柔らかいソファーに思わず『天津風』は寝そべってみたくらいだ。
段取りが必要なのもわけない、なにせ将官クラスが三人『敷島』も合わせれば四人だが、それがまとまって動くのだからそれは段取りの一つや二つは必要だろう。
いくら高官とはいえいきなり押しかけるのは双方のためにならない。
彼女も提督の動きを知って気を聞かせているのだろうが、本来そうされるべきものがされていないので、提督は彼女がしなければこういう当たり前のこともしなかっただろう。
「提督、ちょっとお話しを伺ってもよろしいでしょうか?」
彼女は提督の真後ろに立って、薄暗く語りかけた。
「どっちの提督だろうか?」
「とぼけないで」
准将がご立腹なのは誰しもわかることだ。
まあ怒られる理由がいくつもあるので、本人以外からしたら不思議でもなんでもなかった。
「中将殿は、宿のご予約はされていましたか?」
「ノーコメントで」
「はぁ?」
『天津風』は唸るような声を上げた。
「……、一応帝都の一番端ですが海軍さんの料亭宿に一本連絡を入れておきましたので、そちらを当たってください」
「どうにかなるとおもっていたんだが、やっぱりどうにかなった…」
冷たい視線を受けていることに気づき、提督はそれ以上口を開かなかった。
「やっぱりあなたはどうしようもないですねぇ!」
「なんて他力本願な…!」
「余計な所ばっかり似てきたな」
『敷島』『天津風』総督の順で次々と控えめな罵詈雑言を浴びせられた。
まあ彼らしいといえば一番彼らしい。
これから世界をどうこうする大仕事を目の前になんてマイペースなんだと『天津風』は痛感させられた。
逆にこれが彼のいい所と取る以外考えの変えようがない。
「単に君にのおかげだ、とりあえず礼を言おう、准将」
「はぁ…。まあ、礼には及びません、将来の部下ですから」
愛想笑いを浮かべながら、准将は再び電話のベルに呼び出された。
「面倒見がいい彼女でも、あとひと月もすれば愛層を尽かすと予言します」
『敷島』が子笑いしながら提督に冗談を飛ばした。
半分冗談になってない。
「彼女の根性はそんなもんじゃないだろう、ことが終わるまで付き合ってもらうよ。なんせ陸軍唯一の味方だからね」
少なくとも提督の言っていることは正しいだろう。
庁舎にはいって陸の方々からいい顔をされた覚えがない。
「おいおい、それはまだ早いんじゃないか?」
総督が冷静に会話を展開する。
「世界を救うって話ですか?」
「いや味方と認めることだ、だれが世界を救おうと関係ない」
総督らしい、器の大きな言葉だった。
総督のいう事は甚だ正しいと言わざるを得ない。
人を疑うというのは多少の罪だろうが、そうしないと生きていけないのがこの世界だ。
彼女が味方を名乗るなら、それを信じるしかない、だからそれをまず疑って、それが嘘である可能性を探る。
これが提督にできることだ。
「女性は基本信じるのが俺の信条でね、あんたもそうだろ?総督」
「私は妻が死んでから女性と言うものが分からなくなった。お前が掘り返すつもりがなくて言っているのはわかるが、この事を言う以外私にはできない」
一瞬で場が凍り付いた。
『敷島』が『天津風』の肩を叩いて言った。
「初耳なんですけど…」
「なにが初耳なのかわかりませんよ、どっちですか」
「女性がわからないってとこですよ。彼は異性の扱い上手いんですよ?、私も口説き落としましたし」
「私はそれが初耳で一番驚くことです…!」
共に驚嘆しながら、しばし黙って聞いていた。
「まあ、裏切られたなら、それまでだ。男(われわれ)なんてそんなもんだろう」
「……まあ、気をつけろよ良かれ悪かれ、彼女は大物だからな」
会話を切るように、彼女は受話器を置いた。
「段取りは整いました、移動しましょう」
彼女は改めて、マントを羽織った。
だが、その陰に不穏な鉄の輝きを提督は見た。
拳銃?かもしれないが、彼女がここで拳銃を取ってもなんら疑うことも質問をする資格もない。
なぜなら此処は彼女たちの城だからだ。
だからこそ、彼女はこうして誰かにバレかねないような恰好で銃を持ちだしたのかもしれない。
どちらにせよ、今はなにもどうすることもできない。
しかし、総督の言葉の重みを改めて知らされた。
「まずはどこに行くの?」
雲行きの怪しい提督の顔を察して、『天津風』が喋りかけた。
「私の段取りなら、まず海軍の参謀本部に凶報を知らせなければならない。いやな役割だが」
ここで『天津風』は初めて感じ取った。
提督の言葉の通り、すでに自身の段取りでは進まなくなっている、彼ら(陸軍)の手の上に乗ってしまっている、そう感じた。
だが、ここで何をすることもできない。
提督の言う通り、まず彼女を信じることにした。
でも、総督と『敷島』がそれを信じているかは分からない、そもそも彼女彼が冗談紛い以外の事をここで言っていない。
二人は、どこか警戒しているのか、それともただいつも通りなのか、まだわからない。
庁舎を出てからは、総督と『敷島』は海軍省のほうで匿ってもらうことになった。
あんな大役を出歩かせては、我々の首が危ないと、他も海軍将官達が止めたのだ。
妥当だろう。
「じゃあ、海軍参謀本部に向かってくれ」
提督は直接運転手に言うことは避け、准将に頼んだ。
「了解しました」
「准将、ついてきていいんです?」
『天津風』が彼女を察して言った。
「大丈夫です、海軍さんは私達みたいにへそ曲がりだとは思ってませんから」
「いや、そういうことではなくて」
会話を尻目に、車は通りに駆け出した。
ここからそう遠くはないらしいが、ここ(帝都)での移動は基本車がいいと、彼女は言う。
五分経つと、レンガ造りの古めかしい建物に着いた。
門の看板には『旧海軍省庁舎』と書いてあるが、ここで間違いないのだろうかと一瞬戸惑うくらいだ。
こんなコンクリートのビルの群れのど真ん中に、やたら広い敷地をとってこんな建物が残っているのがおかしいくらいだが、これも海軍の力というものだろう。
「とっととすませてくる、10分くらい待っててくれ」
提督も何気に准将の事を気にしてたようで、自分だけで行くと言って庁舎に消えた。
沈黙の中、五分で提督が帰ってきた。
「早かったわね」
「まあ、書類渡しただけだったからな」
提督はずっと着たままだった第一種軍装の上を脱いだ。
時刻はまだ午前中だが、小走りでもしていたのかと思わせるくらい提督は暑い様子だ。
「急ごう、予定は詰まっている」
「次はどこでしたっけ…」
准将が記憶を探っている。
「忘れ事とは君らしくないんじゃないか?」
「…あぁ、工廠でしたね。とっとと行きましょうか」
車はそのままに運転手が海軍の士官に代わった。
この士官は、どうやら工廠からの直々のお達しらしく、案内も兼ねて派遣された本人が言う。
「今日はどちらに」
「造機、造兵部を伺いたい」
「了解しました」
工廠は、意味通り軍専属の船を作ったりする所だが、工廠が特殊な点はほかにもある。
機関部や兵装、弾薬まで必要なものを内製できるのが造船所などと違う点だ。
軍艦に必要なものすべてをひっくるめて、一つの工廠を呼ぶ。
もちろん場所は海の近くだが、今は少々事情が入り込んでいるらしい。
道中士官の話に耳を傾けていた、准将も滅多に聞かない話なので静かに聞いていた。
現在は、海軍の一般艦艇は全て主力から外され、戦艦ですら予備役の状態らしい。
その他中型以下の艦艇は、沿岸警備や哨戒、船舶の護衛に充てられている。
そのようなことは身をもって感じたが、海軍が変異した点はここからだった。
工廠は、艦艇の修理や改修も行うが、もはやそれはまともに行っていないらしい。
現在製造されている艦艇の九割が駆逐艦クラスの護衛用艦艇で、そのほか50メートルほどの哨戒艇、駆潜艇、沿岸警備艇がさらに残り一割を占めている。
数十年前までの大艦巨砲主義はどこ吹く風で、中型艦艇ですら、今や艦暦十年以上のものしかないらしい。
この何が変位した点と通じるかというと。
この九割を占める駆逐艦クラスは、いわば戦時標準船と同じようなもので、今しか使うことを考えていない急増品だ。
しかも、そのほとんどが出撃すれば帰ってこない、帰ってきても修復できるような損傷ではない、そもそもそんなことを考えてない艦だからだ。
だから今の工廠は、単純量産、大量生産を念頭に行うただの工場になってしまっているらしい。
もはや、戦艦がドックに並び、巨大艦艇の黒煙がモクモクと漂う活気に満ちたところではなくなっているようだ。
という話をざっくり喋っていたが、途中で話を止めて、そろそろ到着すると士官は言い出した。
車外は背の低い建物しかなくなり、まばらながら木々も生えている。
だが、1キロ先に見えると言われる海は、やはり高さ10メートルほどの壁に阻まれ見ることは叶わない。
それでも、窓を開ければ一日ぶりの海風が舞い込んでくるのがわかった。
背後にビル群を見つつ、鉄骨と煙突が乱立する工廠地帯に入った。
門などは潜ったが、もはやこの工廠が存在するこの帝都自体に、この手の関係者しか居ないので、門番なんてものは居なかった。
そのまましばらく車を走らせていると、三角屋根の工場地帯が途切れて、大きなドックが姿を現した。
鉄骨と波板に包まれ、中は全く見えないが、まず人が居ないので特出すべきものではないだろうと全員が判断した。
だが、そんなドックがいくつも並んでいて、ここは廃墟そのものになっている。
その廃墟を通り過ぎると、古い建物の中に、真新しいモルタル製の二階建て庁舎が見えた。
駐車場なんて設ける必要がないほどの広場の端に車をポツンと止めた。
「お疲れ様です、到着しました」
昼近くの真上からの日光が、地面のコンクリートに反射して著しく眩しく風景を塗りつぶしている。
車外の風景は前にドックと海、後ろには庁舎と帝都中心部という二極的な風景になってしまっている。
海には、浮桟橋に多少なり駆逐艦が繋がれているが、人の気配がない。
庁舎背後の工場からは、微かに煙が上がり人の気配を感じさせる。
「ひどい有様だ、五年でこうもかわるものか」
提督は呟いた。
提督は前に来たことがあるようだが、初見の『天津風』も度肝を抜かれた。
この様子なら、南方司令部のほうがまだマシなほうだろう。
この手の施設なら、多少なり人が居て、対空などの兵器もあるだろうが、そんなものここには微塵も存在しない。
目的の庁舎には、入り口に小さく『海軍中央造兵廠予備所』と大理石に刻まれている。
青銅製の薄い扉を開けると、外とあまり変わらない空気が満ちていた。
目の前の階段から両脇に伸びる廊下の窓は全開で、風でカーテンが靡いている。
全体的にが基調とされる内装は、赤い絨毯が欲しくなるほど真っ白で、そこに立つ人はよほど目立つに違いない。
だがその人もあまり見られない。
五人ほどが窓辺で煙草を吹かしているだけだった。
そのまま二階に上がり、すぐ脇の工廠長室に入る。
思った通りの佐官が、奥の椅子に座って煙草を吹かしていた。
階級は大佐のようで、第二種軍装の上着を着ない代わりに、ワイシャツの生地に階級章をピンでとめていた。
現場からの叩き上げらしく、いまだ現場での役職を伺わせる身体的特徴を残している。
「南方から遥々、お疲れ様です」
低くしゃがれた声で、大佐は労をねぎらう。
「五年ぶりだったかな、前まではクレーンの上にいたようだが。出世していてなによりだ」
彼とも多少なり面識があるらしく、互いの立場が変わったことついて言葉を交わる。
そんな世間話は長くは続かず、大佐のほうから本題を切り出した。
「造機造兵に用があるとのことでしたが、いまはこの有様で…」
「欲しいのは、モノよりコレだ」
提督は頭を指した。
「できるだけ力になりましょう」
そして彼は准将に目をやった。
「一応お聞きしますが、陸軍さんですか」
「邪魔ならでていきますよ?」
「お耳に入れてマズいことはお話ししませんから、この場に居てもかまいませんよ。ただ、茶だの菓子だのもてなしはできませんが」
「茶も菓子も出ないなら聞き損だ、とっとと退散する。終わったら外に居るのでお声がけを」
そう言って准将は『天津風』を引きずって出て行った。
「ちょっ、いいんですか?准将」
「いい。別に聞き耳を立てるために来たわけじゃないし、それに今はお前と話がしたい、天津風」
「はぁ」
庁舎の外に出ると、准将は車にマントと上着を置いて、庁舎の陰に隠れるように石段に座った。
ワイシャツには銃のホルスターが胸元で黒く目立ち、少し厚く付いた筋肉が、さらに厳つさを際立たせる。
だが、それ以外は単なる女性の特徴を留め、整った形の胸元や、肩から流した黒い髪、シャツから覗く白い肌は、彼女が軍人であることを否定するかのようだ。
「なに、そんな陰気な話をするつもりはないよ。ちょっと興味があるだけだ、お前たちがどうやって世界を救うのかを」
「そんな詳しくはお話しできませんよ?」
「かまわない、むしろ君のような当事者の言葉で語るべきことが多かろう。あと、敬語は無しで、堅苦しいのは嫌いだ」
まだしばらくダラダラとこんな感じが続きますが、どうかよろしくお願いします。
引き続き読んでくださっている方、ありがとうございます。
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今後ともよろしくお願いします。
蛇足ですが、もう一作書いています。
こちらは全て書き終わってから追々投稿したいとおもいます。