天(そら)別つ風   作:Ventisca

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移動回です。
地味に乗り物にはこだわっていますが、伝わればうれしいです。



第弐拾弐章 第五師団鎮守府連隊区中央駅より

 朝は『敷島』の言った通り早かった。

早朝六時前に『天津風』は彼女に起こされ、朝餉の準備を手伝うように言われた。

まもなく六時になり、提督も起床してくると、三十分と立たずに食事を済ませるよう言われた。

朝からカレーとは少し豪勢だが、それしか食べるものがないのでとりあえず胃に納める。

 「さあ、身形を整えてください、マルハチマルマルには駅に到着しておかなければなりません」

『敷島』は既に寝間着から着替えており、勲章略章階級章を全て取り払ったこざっぱりした格好になっている。

提督も『敷島』に手伝われ第一種軍装に着替え、軍帽を被った。

だが普段提督は軍帽を被らないので、『天津風』は少し似合わないように思えてならなかった。

『天津風』もここに来たときと同じ正装に着替え、いつでも出発できるよう大きなボストンバックに二人分の荷物をまとめていた。

準備している最中、提督が少し気兼ねないような素振りをしているように感じた。

 「どうしたの?」

せせこましく準備を進める『敷島』を横目に、『天津風』は提督に歩み寄る。

 「ちょっと気が進まなくてね」

提督は、両手で大事に持った30センチ大の木箱を開けた。

中には海軍の刻印が押された『十四年式拳銃』と予備弾倉が、クッション代わりの木屑に乗せられていた。

 「首都に行くんでしょう、そんなもの必要あるの」

提督に聞くと、提督は『敷島』を示した。

 「首都は、聞くところによると治安が悪いらしいんです。あんまり大きな声では言えませんが…」

 「あれじゃだめなの?」

『天津風』は提督の軍刀を示した。

 「あれは身嗜みみたいなものだよ、使えないことはないが拳銃が必要になるような実戦には向いてない」

提督は十四年式のホルスターをベルトに巻き、気は進まないながらも、ちゃんと弾倉の中を確認してホルスターに収めた。

 「ちょっと不安になってきたわ」

『天津風』も、出発の時にもらった短剣と剣帯を腰に巻く。

荷物に弾薬が追加されたので、荷札に「火薬有 注意サレタシ」と追記した。

ボストンバックは提督が持ち、提督の軍刀は『天津風』が両手で大事に抱える。

『敷島』は戸締りを確認し、最後に内玄関の鍵を閉め、出発した。

車に乗る必要はなく、歩いていける距離に、外線に繋がる軍管轄の駅がある。

今日乗る夜行はそこから出発するらしい。

葉桜の下り道をゆっくり歩き、目下の街を目指した。

海沿いには大きなクレーンや工廠のトタン屋根が目立つが、海に軍艦の姿はない異様な光景だった。

内海ではひたすら漁船が行き交い、ここが国で二番目の軍港であるという事実を忘却させる。

すれ違うのは、セーラー服を着た海兵だが、徽章は『隊戦陸軍海』とある者ばかりだ。

第一種軍装を見るなり、十数メートル先からずっと敬礼してくる者もいた。

 「えらくおおいな」

提督が呟いた。

 「どうしたんでしょう。私も存じ上げません」

『敷島』が答えた。

陸戦隊は二列縦隊で士官に先導され、丘の上の海軍宿舎に向っているようだ。

こんな風景でも賑わっている部類の街らしく、軍の施設のない地区はそれこそ人通りが無いと提督は語る。

目下に煤と黒煙を巻き上げる蒸気機関車の操車場が見えてきた、炭水車を持つタイプの機関車が五両ほど、内部の客車や貨車を移動するための小さな機関車が二両見えた。

黒々と使い込まれた石炭車や貨車が雑然と並ぶ中、小奇麗な客車の編成が異彩を放っている。

 「あれにのるんだな」

提督は一目瞭然と決め付けた、現に軍人が乗りそうな編成はあれしかない。

白色の帯が引かれた一等車だけが五両連結され、先頭に空調のための短い電源車が接続されており、最後尾は普通の編成らしく車掌兼荷物車が連結されていた。

機関車の姿は無く、まだ出発前という感じだ。

操車場の先には、電信柱や信号に囲まれた駅舎の影からホームが伸びているのがわかる。

かなり大きな駅で、二階建ての上に時計塔が建てられていた。

さらにその先には9900形蒸気機関車が蒸気を吹かして出発の時を今か今かと待っている。

御召列車に使われる18900形ほど大型ではないが、七両編成を引くにはもったいない機関車だ。

 「総督は昼にお見えになるので、それまで“駆け込み乗車”の手続が必要です」

『敷島』が面倒そうに言い捨てた。

それもそのはず、提督が乗ろうとしている列車は先週から組まれていた列車で、それも陸軍が臨時徴用した編成だからだ。

無い石炭の中から良質な石炭を寄せ集め、乗員や車掌も國鐡からわざわざ引き抜いたものらしい。

乗客は尉官以上ばかりで、そのうえ総督まで乗るので、客車の点検も相当手間をかけている。

 「とりあえず駅舎に入らないと」

『敷島』は下り坂の途中から真横に曲がり、少し急な階段を下り始めた。

下りた先には直接ホームへ乗り入れることができる渡り場があり、三組のレールを跨いでホームへ続いていた、もちろん踏み切りなど無い。

左右を遠く見渡して近づく車両が無いか確認すると、小走りで線路を横切った。

ホームに上がるとまだ人影は無く、ひとまず駅舎に改札から入った。

すぐに『敷島』が事務所に立ち入り、旅客の追加を進言した。

事務所の中に居た二人の若い車掌は彼女の姿を見るなり椅子から飛び上がり、慌てて帽子を被って外に出てきた。

そして提督を見るなりまた驚いて、特段畏まった対応になった。

丁重に事務所の応接室に迎え入れられ、氷の入った御冷を出され結局座っているだけだった。

提督は階級や所属、行き先などを普通に聞かれたが、『天津風』の対応に困ったらしく、ずっと敬語で話しかけられる本人も困った様子だ。

そしてここからが特別で、将官クラスになると「誰と同乗したくないか?」まで聞かれた。

特にそんな者は居なかったが、提督は見せられた乗客リストに気になる役職を見つける。

『次期南方司令部駐屯軍司令官』

南方司令部は今は提督が一時的に全権を握っている。

以前は南方だけでも六個の泊地に分けられ、六人の提督がそれぞれ最高指揮官だったが、今年から変わって陸軍も自らの指揮官を設けるようになったらしい。

この頃陸軍の独自路線が顕著だが、世間一般からすれば珍しい動きではない。

予算を鬩ぎ合う陸海軍の指揮官が違ったところで、当然だとしか思われない。

だが、戦うのは海軍で、陸軍は治安維持の役目に甘んじている、それを良しとしない者が多いことも知っているが、それは長い間暗黙の了解とされていた。

今年大きく動き出した海軍簪年艦隊に呼応して陸軍も何か事を起こそうとしているのではないか。

現時点で提督は単純にそう思った。

 「近々部下になる者がいる、同乗させてくれ」

 「はい、了解しまいた」

若い車掌は名簿に鉛筆で書き込み、三十分ほどかけて乗車の手続が終わった。

『敷島』の言っていた駅への到着時刻から一時間後、駅周辺が慌しくなってきた。

応接室から見える駅前のロータリー広場には、盛んに軍の車が出入りし、物々しい警備体制を構築していく。

六台の黒い車から四人ずつ海軍憲兵団の下士官が降り、ロータリーと駅の軒先を覆うように並んだ。

全員が下士官用のサーベルと拳銃を持っている。

総督が来るまでまだ三時間ほどあるが、よく考えれば陸海軍のトップという役職で挿げ替えの利かない不自由な役職上こうなってしまうのだろう。

それに引き換え当の本人は手厚い警備を毛嫌いしていた。

 「あ、あの。何か欲しい物はございますか?」

やけに退屈そうだった『天津風』を見かね、若い車掌の一人が声をかける。

真向から敬語を使われ『天津風』は緊張したが、堂々と足を組んで座る提督に習い、平然と自分の要望を通した。

 「そうね、甘いものが食べたいわ」

少し困った顔をしたが、車掌はすぐ用意するとその場を立ち去った。

 「俺も頼めばよかったな…」

提督が残念そうに『天津風』に呟く。

 「なにいってんの、そんなのいちいち言うと世話かけるでしょう。私のあげるわよ、何が出てくるかわかんないけど」

 「それはありがたい」

“甘いもの”と言ったが、甘いものの原料ともいえる砂糖は完全配給制で、米や肉に次ぐ貴重品だ。

何が出されるか全く見当もつかない。

 「はい、すいません。おまたせしました」

車掌は息を切らすの抑えて、『天津風』の前に菓子を冷茶を出した。

 「あら、ありがとう」

『天津風』に微笑みかけられ車掌は深くお辞儀を返しただけだったが、車掌は満更でもない顔をしている。

 「おい、それブランデーケーキじゃないか。えらく上等なものをだしてくれたな」

提督の言葉に恐縮そうに軽く礼を返した。

 「総督が来られるとのことだったので、店に頼んで一箱用意してもらいました。中将閣下もご要望でしたらご用意いたいますが」

 「ぜひ頼む」

提督が改まって頼むと三分とせずに用意してくれた。

 「ありがとう、もう世話はいらんよ。休んでてくれ」

 「失礼します」

車掌が出て行くと物珍しそうに『天津風』はブランデーケーキを眺め回す。

それもそのはず、このブランデーケーキは多量に砂糖やブランデーを使用するため、恐ろしく高価かつ入手し難い菓子だからだ。

一般人はなおさら軍人でもお目にかからない上等なもので、ここ数年提督ですら見ることの出来なかったものだ。

 「でも天津風、ブランデー大丈夫か?」

真っ白い受け皿に二つ乗せられた四角いブランデーケーキには、名前の通りブランデーが入っている。

 「…多分、大丈夫っ」

そう言い切って『天津風』は丁寧に和紙で包まれたケーキを取り、紙を開けてまず一口食べた。

砂糖が少ないの誤魔化すために甘めのブランデーを使ったらしく、辺りにフルーティーな甘い芳醇な香りが漂う。

ブランデー自体も、そんなに癖のある酒ではないがアルコール濃度が高く、それを直接ケーキに染み込ませているため、口に合わないときは過度に出るだろう。

『天津風』はいっきに「はむっ」っと半分ほど食べた。

しばらく考えたような顔をして、よく味わって喉を通す。

 「……意外といけるかも」

 「マジか」

見かけによらず『天津風』はブランデーケーキを食べる事が出来た。

ここ最近で提督が一番驚いた事かもしれない。

 「これは美味い…!」

しばしブランデーケーキに舌鼓し、最後に冷茶で口直しをする。

だが、『天津風』の様子が少しおかしくなってきた、提督からすれば予想の範疇である。

五分とせずにアルコールが体中に回り、彼女の顔は火照ったように赤くなっている。

 「おいおい、大丈夫か」

虚ろな目をしている『天津風』に提督は声をかける。

 「んん~、大丈夫大丈夫ぅ」

口元が緩み、完全に酔った様子だ。

ふわふわした調子でこれまでにないほど可愛らしく見えるが、このままにしては置けない。

 「これはいい…。じゃない、こりゃいかん」

提督は見かねて事務所で休んでいる車掌に水をもらいにいく。

戻ってくる頃には、両肘掛に頭と足を乗せて寝ている始末だった。

 「ここまで悪いとは思い至らなかった」

提督は急いで『天津風』を起こしてとりあえず水を飲ませる。

腕で抱きかかえ、提督の座っていた大きな二人掛けソファーに寝かせた。

 「はにゃ~…」

『天津風』はとにかくアルコールに弱いということが分かった。

性格が表面に出ずに、ただただ可愛いだけになっている。

 「これはどうしたものか」

無邪気な笑みで眠る『天津風』を横目に、あとどれくらいで酔いが醒めるか考えた。

ブランデーケーキ二つでここまで酷く酔うとは想像もつかなかった。 

これは酔いが醒めた後が辛そうだ。

 「あと二時間で総督が来る、それまで何とか起きてもらわないと…」

提督は困った様子で頭を抱えた。

 一時間ほどすると『天津風』は目覚めたが、そうとう酔いが酷かったらしく二日酔いのような状態だ。

『天津風』は確かに士官だが、年齢はまだ二十に届いていないだろう。

外見で判断するしかなかった車掌に落ち度はないが、本人を信じすぎた提督には十分に責任がある。

 「ううぅ…」

『天津風』は真っ白な手袋を取って頭に手を当てた、頭痛が酷いらしく座っているのがやっとだ。

 「やっぱりブランデーケーキは早すぎたか……」

 「そんなことないわ!ちゃんとおいしかったもん!」

 「そうか、それならよかった。だが体に障っては元も子もないぞ」

自分を気遣ってくれる言葉に、自分の子供らしさを痛感させられる。

それに身体的に子供だった事が今回分かったので、『天津風』は余計にしょんぼりしていた。

 「いいから早く酔いを醒ましてくれ」

 「はい…」

『天津風』はとりあえず椅子に座って安静していることにした。

総督が来るまであと一時間ほどしかない、特別何をするわけでもないが粗相があっては申し訳ない。

提督は外の様子を見る。

さっきの三倍くらいの人が外でごったがえしている、もうそろそろ来るようだ。

まもなく五台の車両隊がロータリーに入ってきた。

駅員総出で出迎えをしているらしく、駅舎内は静かだ。

うって変わって外はファンファーレこそ鳴らないものの豪華な出迎えだ。

中央の車から総督が将官に囲まれ出てきたが、すぐに中に通される。

将官たちに案内され、応接室に通されると、ドアが開く頃合を見て提督は立ち上がった、『天津風』にはそのまま座っているように言った。

 「おつかれさまです、総督。今朝はどちらに?」

ドアの外に将官達を残して総督が入ってきた。

 「めんどくさい限りだ。北方のゴタゴタに本土の軍まで巻き込もうとしている」

総督は太陽を恋しがるように一番窓側に座った。

昼だというのに総督は汗一つ浮かべていない、空調の効いた部屋に居たため少しの暑さが恋しいのだろう。

 「大陸はだいぶきな臭いですね、まだ紛争状態ですか」

 「ちょっとした陸軍の反感勢力じゃないんだ、どう考えても後ろ楯がある。話を聞いた限りではな」

総督は疲れた様子でテーブルに出された冷茶を飲み干した。

今度は将官が入ってきて、例のブランデーケーキが出される。

 「こいつのせいか?彼女のそれは」

 「ええそうです、察しが良くて助かります」

提督は肩を竦めた。

 「これで艦娘の謎がまた一つ解けたわけだ。“彼女達は酒に弱い”ってね」

総督は小笑いしながらフランデーケーキを頬張る。

 「不甲斐無い限りです…」

『天津風』は出された水をもう一杯飲み干した。

 「かまわんかまわん、若い証拠だ。それになによりこうしていると君が艦娘であることを忘れそうになる」

総督は『天津風』に暖かい笑みを向ける。

『天津風』はただ微笑み返すしかなかった。

 「出発までまだ時間がある、ゆっくり体調を戻してくれ。秘書艦になにかあったらコイツが困るだろう」

 「なにもできませんよ、お手上げです」

大げさに提督は頭を振った。

 「そういえば敷島はどうしたんでしょう」

総督が一服ついた時を見て提督が聞いた。

 「あれは世話焼きな所があるから、また何かしてくれているんだろう。本当に何も世話は要らないんだがな」

 「死んでもらっちゃこまるんですよ、特に私はね」

急に真面目な顔になって総督は横に置いたブリーフケースから書類を取り出した。

提督に見せることは無く、自分で読み返すだけだったが、提督には粗方その内容が分かった。

 「お前がなんで首都に行くのかは大体分かっている、お前があっちこっちに連絡を入れてるのも全て聞いている」

 「そのうえで、お留めにならないんですか?」

今度は総督が肩を竦めた。

 「このブランデーケーキ、けっこうキツイな」

 「?」

提督が思わぬ切り替えしに首を傾げる。

 「私も年だ、もうこうして何所其処に顔を見せるぐらいしかできん。そして最近、こうしたゴタゴタもただ鬱陶しいとしか思えなくなってきた」

そう言うと、総督は白髪の目立つ頭を掻いた。

 「らしくないですよ」

 「そう感じざるをえないのだよ。まさか、こんなケーキに気付かされるとはな」

提督は思い悩むように俯いた。

あの意地っ張りの総督が、こうも自分の老いを認めるなんて、考えられない。

 「…何かありましたか?」

提督の質問を総督は無視した、というより答えようとしなかった。

 「お前が今やろうとしていることは正しい、止める理由は無い。ただ、そうなっては私はお前のやろうとすることの障害でしかない。今のうちに虎の威を借っておけ」

 「縁起でもないですよ」

親子らしく二人とも素直に会話をしない、いつものことだが提督は言葉の裏に隠された闇を感じていた。

そしてこのタイミングというのも怪しさを感じた、断じてケーキのせいなどではない。

 「失礼します」

下士官が扉を叩いた。

 「どうした」

提督は時計に目を落した、出発までまだ大分時間があった。

 「すみませんが列車にお乗りいただけますか?」

本人も理由は知らないらしく、歯痒そうな様子だ。

すぐに車掌が追いかけてきて、立ちすくむ下士官を割って入ってきた。

 「陸軍の物資輸送列車がすぐにでも編成されるとの事だったので、とりあえず第四師団管区まで移動していただきます」

 「なら仕方がない」

 「ああ」

二人の将官は自分の軍刀をもって立ち上がった。

以前として『天津風』はふらふらしているので、横に立って支えてあげないといけない。

外に出ると、日が高くなったのが分かるほど気温が上がっていた。

列車は既にホームに来ており、将官の乗る最後尾展望車が、駅の改札前に合わせて停車していた。

 「荷物はすでに載せてありますので、お乗りください」

 「ああ、ありがとう」

先に『天津風』を乗せて、最後に総督が乗り込んだところで、手動ドアを総督が閉じた。

中は客車戦闘の機関車兼荷物車から供給される空調のおかげでちょうどいい温度だ。

執務室と変わりない深紅色の絨毯が床に敷かれ、天井には照明が大量に設けられているが、カーテンの開けられた車内には十分自然光による光があった。

後方には周囲を半周するソファーがあり、まず『天津風』を座らせた。

まだ列車が動き出す気配がないので、車両前部にある、二人の部屋を確認した。

総督はこの車両の一番端の部屋、提督と『天津風』は、この展望室の隣の部屋だ。

車両を三等分する格好で部屋が設けられているので、二つの部屋はかなり大きく、普通のホテル部屋の広さが確保されている。

加えて別車両には食堂やシャワーも完備だ。

だが、この列車自体には二日と滞在しない。

部屋を確認すると、総督は何も言わず先頭車へ歩いて行った。

展望室に戻ると、『天津風』は楽そうにクッションに頭を寝かせ横になっていた。

ホーム側を大きな窓から覗くと、佐官尉官下士官関係なく、急いで列車に乗り込んでいた。

前方の二両目三両目はここのような寝台車になっているので、彼らは主にその車両に乗り込み、突然近づいた出発に備えた。

 「まもなく発射します」

六両目と七両目のつなぎ目から車掌が叫んだ。

最後のほうで敷島が乗り込んできて、この車両に前の車両から乗り込んできた。

 「大丈夫ですか?」

 「ああ、問題ない」

 「あなたじゃないです、天津風です」

 「そりゃどうも」

『敷島』は『天津風』を心配して彼女の隣に座った。

まもなくガタンと列車が動き始め、隣の管区までの一先ずの移動が始まった。




駅のモデルは呉駅です。
ブランデーケーキについては、経験を元に天津風ならこうなるんじゃね?と思って書きました。
列車の編成について先頭から、9900型、電源増設の郵便車、旧客1等車、皇室車です。

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