バトルスピリッツ アナザースターター   作:謙虚なハペロット

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いつもの遅くなりました。
やはりこう…どういうデッキ使わせるか迷うと時間が経つのが早いこと。
そして今回、茶番がながくなってしまったため2分割となります。


Step.01-a『気に入らないのよっ!』

 

 私の人生…と言ってもたかだが16年程度だけど、何かと厄介事に巻き込まれることが多いと思う。

大概幼なじみの深緒が何かやって、羽月が私のところに来て、私が何とかする。…別に気にしちゃいなかったけど、今回は事情が違う。私から関わったんだ。

…しかもどうでもいいと思っていた、バトルスピリッツに。

 

 

「あの三人は帰ったよ。出禁食らってね」

「…そうですか」

 

 初めてではないけど、本腰入れての対戦ってのは初めてだったから何だか気疲れしてしまった。

 

「疲れたかい?」

「…まぁ」

「とにかくすまなかったね。厄介事を押し付けてしまって」

「いえ…。ほっといたら、二人がヤバかったんで」

「ふふっ。クールな見た目に似合わず、友達想いなんだね凛々君は」

「…どうも」

 

 お店の隅っこで話してるのは名前の知らない美人さん。私があそこで首を突っ込まなければ、この人が対戦して追っ払ってたんだって。

 

「…そういえば、お姉さんの名前…」

「ああ、名乗るほどじゃないよ」

「…はあ」

 

 カッコつけてるのか名乗る気は無いようだ。…ナチュラルに抱くように肩に手を置くのは何なんだろうか。

 ああ、深緒と羽月はさっき助けた女の子と、早苗って娘と仲良くバトスピをしている。

 

 

「よし!今だ!」

「うん…!アタック!」

「ぐはぁ!また負けたぁ!」

「早苗ちゃん2連敗だね」

「て、手加減よ!手加減!」

「手札事故しといて手加減とは…」

 

 

「早苗の相手までしてもらって悪いね」

「…あのやかましい娘って、お姉さんの何なんです?」

「バッサリだねぇ。早苗は私の従姉妹だよ」

「従姉妹…」

「似てないだろう? 誰の影響受けたのかねぇ」

 

 似てない、のかな。目許とか、顔立ちとか少し似てる感じがする。

…ああ、そういえばデッキ返さなきゃ。

 

「あの、これ…」

「ん? ああ。それはあげるよ」

「え、でも…」

「いいのいいの」

「…私、これに興味ないし」

「ふむ。光るものがあるんだけどなぁ」

 

 光るものって言われても、やる気が無いなら意味は無い。

それにこれは誰かに渡るものだったようだし、私みたいのが持っていたら、その人に失礼だ。

 

「…返しますね」

「う〜ん、残念だ」

 

「そうよ、それが良いわ!」

 

 デッキを返そうとしたとき、突然早苗が話に割って入ってきた。両手を腰に当て毅然している。

 

「おい早苗」

「麗ちゃんは黙ってて。やる気が無い凛々には相応しく無い!私がデッキを貰うから!」

「ならどうぞ」

 

 色々面倒な事になりそうだったからさっさと手渡す。

さっきのだって、中身を知っていたみたいだし、私より上手く扱ってくれるだろう。

 

「え…」

「だから何で言っといて尻込みすんの…」

「こ、ここは『勝てたら返す』とか言うところでしょ!?」

「何でよ…」

 

 この娘の感覚がイマイチ解らない。

私に何を求めてるのか、何がしたいのか全く理解できない。

 

「………」

「私、帰るから。深緒、羽月。明日また学校でね」

「あ、うん」

「凛々ちゃん…」

「えっと…、ありがとうございました」

「ああ。迷惑掛けたね」

 

 荷物をまとめてお店を後にする。

何となく、深緒と羽月の表情が寂しそうに見えた気がした。

別に、バトスピが嫌いな訳じゃない。合わないだけ。

 

 

 

「ちょっと!待ちなさい!」

 

「…っ!」

 

 日が傾き夕日が照らす帰路の途中、聞いたような喧しい声に突然左肩を掴まれ止められた。——瞬間、掴んだ手を捕まえ捻り上げる。

 

「ぎっ!? あ゛だだだだ…!」

「っ、早苗…?」

「痛い、痛いって!」

「ご、ごめん…」

 

 私を呼び止めたのは早苗だった。捻り上げた腕をすぐさま解き謝る。

でもいきなり肩を掴まれたら誰だってこうしてしまう。

 

「ったく、何なのあなた!」

「それはこっちの台詞だよ…」

 

 さっきだって突然乱入してきたと思えば相応しく無いだとかデッキを貰うだとか…。

 

「とにかく。…あの二人、深緒さんと羽月さん?あなたの友人でしょ?」

「まぁ。幼なじみだけど」

「なら!何で悲しい顔させるの!」

 

 やっぱりそうだったか。

…まさかそれを言いに追ってきたっていうの?

 

「…二人には申し訳無いとは思うけど、見てるだけでいいから」

「………」

「私の代わりに早苗が二人の相手してもらえたらいいかな」

「っ…!」

「早苗、カード強いんでしょ?なら……」

 

 二人が笑う顔は見ていたい。けど私じゃ無理だ。

 

「…あんたねぇ!!」

「っ!」

 

 凄い剣幕で胸倉を掴まれて迫られる。

 

「あんたのその、世の中知ってますみたいな澄まし顔が気に入らないのよっ!! 凄まじくっ!!」

「…だから何」

「親友を、幼なじみに寂しい想いさせといて、気取ってんじゃないっての!! 馬鹿じゃないの!?」

「………」

「…はっ、私に二人を盗られたとでも思ってるの?」

「……あ?」

「今のあんたに凄まれたって恐くも無いわ。そういうの、ふて腐れてるって言うの知ってる?」

「…好き放題言ってくれるじゃん」

 

 黙って聞いてれば…。

 

「怒るってことは自覚ありってことね」

「あんたに何が…!」

「解りたくもないし知りたくもない! ん!」

「っ!」

 

 突然離したと思ったら胸元に何か押し付けられたため思わず受け取る。…デッキケースだ。

 

「文句あるならこっちで言いなさい!」

「えぇ…」

「え〜じゃない!あんたのその捻くれた性根を叩き直してやるわ!」

 

 素人相手に同じ土俵でやらせるとかどうなの…。

 

「明日は学校が終わったら少し用事があるから、それまでにマシになっておきなさい!」

「………」

「ちゃんと自分の口から、教えてくれって頼むのよ!」

「………」

「用事が終わったら深緒さんか羽月さんに連絡入れるから、首洗って待ってなさい! それじゃあね!」

「ちょ…」

 

 言いたいだけ言ってすたすた帰ってしまった…。勝負を受けるなんて一言も行ってないのに。

 

「……ふて腐れてる、か」

 

 ああ言われた瞬間、苛立ったのは本当だ。本当にむかりとした。

……言われっぱなしじゃ、終われない。

 

 

 

 

 

「ただいま」

「お帰り〜。…どうしたの?」

「…何でもないよ。それより、お昼戻れなくてごめん」

「ううん、大丈夫よ」

 

 連絡を入れたとはいえ、姉さんとの約束破ってしまったのは申し訳無い。だから今日の料理当番は代わろう。

我が家は父親がいなくて、お母さんが働いてくれているため朝昼夕と一日いない。そのため自然と私と姉さんの家事スキルは上がっていったり。

 

「何が良い?」

「う〜ん。凛々が作ってくれたものなら何だって良いな〜♪」

「じゃあキャベツの切れっぱしとかでいいね」

「あー嘘嘘!いじわる無しよー!」

「…ふふっ」

 

 からかうのはそこそこにエプロンを出してテキトーに何か作ろう。

 

「……姉さん」

「ん〜?」

「………」

 

 姉さんに散々バトスピなんて〜とか言っておいて、今更虫がよすぎるだろうか…。

 

「……何でもない」

「………」

 

 

 

「…はぁ」

 

 結局夕飯が食べ終わっても話せなかった…。私こんなコミュニケーション苦手だったっけ? ……苦手だった。小さい頃、初めて深緒と羽月と会った時も丸で話せなかったんだっけ。

部屋に戻ってベッドに倒れ込む。…こんな精神的に疲れたのは初めてだ。

 

「………」

 

 視線が机に置いたデッキケースに合う。

鮮やかな赤に金色のマーク、究極シンボル?だっけ。それが印刷されたもの。

 

「………」

 

『…はっ、私に二人を盗られたとでも思ってるの?』

 

 盗られた? そんなこと、思ってない。

深緒にも羽月にも、ちゃんとした友人ができるなら何も文句は無い。……無いんだ。

 

『親友を、幼なじみに寂しい想いさせといて、気取ってんじゃないっての!! 馬鹿じゃないの!?』

 

 そんなことさせた覚えは無いし気取ってもいない。……馬鹿みたいなやつに馬鹿って言われると腹が立ってくる。

 

『今のあんたに凄まれたって恐くも無いわ』

 

 …私があんなやつにムキになったって?

 

『そういうの、ふて腐れてるって言うの知ってる?』

 

「……あんたに、なにが…」

 

 段々苛々が募ってくる。

あいつの顔が浮かんでくる度、少しずつ。

気付けば起き上がり、デッキを乱暴に取り上げていた。

これを見ると、あいつの真っすぐこちらを見る綺麗な瞳がちらつく。

分からないけど、ああいう人間は苦手だ。

 

『怒るってことは自覚ありってことね』

 

「あんたに私の何が解るっての…!会って数時間だけだってのに…」

 

 

『あんたのその、世の中知ってますみたいな澄まし顔が気に入らないのよっ!! 凄まじくっ!!』

 

「っっっ……!!」

 

 我慢の限界。

ベッドに向けて力任せにデッキケースを投げ付けた。ベッドの上で跳ねてキレイに枕へ落ちた。

 

「私は……!」

 

 自信に満ちてて

 悩み事も無さそうで

 真っすぐに私を見てくる。

 二人ともすぐ仲良くなれた。

 私と真逆にあるようなやつ。

 

 

「っ…。私は、あんたの見透かすような、真っすぐさが気に入らないんだっ!! 凄まじく!!」

 

 

 行き場の無い怒り。…こんなの、ただの逆ギレだ。

 全力で壁を殴る。…痛くはない。だけど凄い音がした。

 

「ふて腐れてるって、そうだよ!!」

 

 また壁を殴る。

 

「深緒と羽月も、私と話すときよりずっと笑ってた!ああ嫉妬だよ!!」

 

 三度壁を殴る。

 

「それよりも!言いたい放題!言って!どっからその自信が来るん…だっ!!」

 

 四度、五度、六度殴り、最後に壁にあの自信満々の憎たらしい顔を思い浮かべ、全力で…殴る。

……凄まじい音はしたが壁は何とも無い。息が荒く久々に大声も全力も出したせいか汗が…。こんなこと初めてだ。

 

「——凛々?」

「っ!?」

 

 …急激に頭が冷えていく。そりゃそうだ。あれだけドタバタやったんだ。これで姉さんに聞こえてなかったら私も人修羅に片足突っ込んでいた可能性もある。

 

「…入るわね」

 

 観念…いや、反省してベッドに座り込む。

 

「…隣、座るわね」

「………」

 

 疲れたせいか返事が出なかった。

…いや、出来なかった。

姉さんに怒られるのは初めてじゃない。けど、こんなしょうもないことで怒られるのは初めてだ。

 

 

「………」

「……っ!?」

 

 

 一瞬、頬を(はた)かれると覚悟して歯を食いしばった…が、来たのは柔らかな感触。……頭を抱える形で抱き寄せられていた。

 

「…ね、姉さん…」

「もう、悪い子ね」

「……ごめんなさい」

 

 あやすように優しく頭を撫でられる。

 

「お姉ちゃんに訳、話せる?」

「……うん」

 

 気が緩んだのか、言えなかったことをたどたどしくも話した。

不良?に絡まれた友人の助太刀に入ったこと。やけに美人な女性にデッキを貰ったこと。…そしてあの馬鹿のことも。

 

「ん。色々あったね」

「…うん」

「…ふふっ♪」

「…姉さん?」

「その、サナエ?って娘。凛々の良い親友になりそうね♪」

 

 っ!? 親友…!? あんなやつと!?

 

「そ、そんなの願い下げだよ…!あんなやつ!」

「んふふ〜♪ お姉ちゃんには未来が視えるのだ〜♪」

「わぷ…、もう、姉さん…」

 

 ぎゅーってされて頭をわしゃわしゃされる。

か、髪が、苦しいから…!無駄に大きいから埋まる!

 

「ちょ、ちょっと…!」

「あん」

「ふう…。…姉さん」

「なあに?」

 

「……私に、バトスピを教えてもらえるかな?」

 

 

 

━━━━

━━━

━━

 

 

「さて。何からしようか」

 

 落ち着いたところで、頭をリセットさせる+汗を流すためにお風呂に入った後、リビングで姉さんに『バトスピ講座』なるものが開かれた。

私がバトスピを知りたいというのが余程嬉しかったのか、私がお風呂に入ってる最中に深緒と羽月を呼んだようで…

 

 

「深緒と!」

「羽月と!」

沙夜(さや)お姉ちゃんの〜♪」

 

「「「第1回!おしえて!バトスピ講座〜♪」」」

 

「………」

 

「沙夜お姉さん、この、バトスピ講座って何なんですか〜?」

「は〜い深緒ちゃん♪ この講座は、バトルスピリッツ初心者の、凛々ちゃんのために創設された個人授業の会で〜す♪」

 

 ……なんだこの茶番は。

一体うちの何処にあったのか、深緒と羽月は学者が着るような白衣を羽織り、姉さんは姉さんで何故か教師のようなスーツを着ている。更には伊達眼鏡まで装着しているという徹底ぶり。

私はというと、いつの間にか用意されていた机にバトスピの対戦アイテム一式がある席に座っている。

羽月はドライヤーで私の髪を乾かしてくれている。…ありがとう。

 

「わー。お姉さんがその格好で個人授業って言うと、なんかいやらしく聞こえちゃうよー」

「あぁん♪ 女教師と女学生!しかも姉妹という禁断の花園!キャー!」

「早く進めろ」

「「あっはい」」

「凛々ちゃん前かけるよー」

「あ、うん」

 

 

 突然の茶番から始まった勉強会モドキはまず、バトルスピリッツを構成するカードの種類から始まり、各色の特徴、相性、デッキ構築についてと思ったより本格的。

そして授業内容は貰ったデッキのことへ。

 

「凛々はデッキの中身って把握してるかしら?」

「ううん」

「ならまず、デッキを開いて内容の確認からしましょう♪」

 

 デッキを開く。

羽月が補足するには、カードを広げて並べるということらしい。開くっていうのはデッキを本に見立ててのこと。

なるほど、並べれば1枚1枚確認していくより早いか。

 

「同じカードは重ねて、される3枚ならこっち。2枚ならこっち。1枚ならこっちってグループ分けするといいよ」

「ふーん…」

 

 ケースを開けて中のカードを取り出す。

まず見えるのは、相手にトドメを刺した《アルティメット・アーク》。

ぎこちないながらも、皆が協力して分けてくれたからすぐに済む。元々このデッキにあるカードの種類がそれ程無いからでもあった。

 

「えっと。スピリットが5種の13枚ね」

「ネクサスが2種の5枚、マジックが3種の6枚だね」

「ブレイヴが3種の7枚と」

「アルティメットが…5種の11枚。合計42枚か」

 

 深緒が言うには、“構築済みデッキ”という既にデッキが組まれているような簡単な内容のデッキに似ているらしい。

 姉さん曰く『基本的な赤デッキ』。

難しいものは一切無く、ただただ殴る(アタックしまくる)。初心者に良心的な設計のようだ。

 

「ねえ凛々。対戦する早苗ちゃんの実力は判る?」

「ううん。…深緒と羽月は?」

「あー、リンリ…凛々に協力したいのは山々なんだけど、そこを話したら、ねぇ?」

「うん。こればっかりはね」

「まぁそうよねぇ」

 

 相手の知れば勝つ確率は上がるが、3人ともそれはカードバトラーとしての矜持(きょうじ)があるから、他人のデッキ内容をバラすのは躊躇われるようだ。

 

「実際バトルしたって言っても、あたしのサブデッキ使ってだったから、本番で何使ってくるか分からないよ」

「なら、今できることを最大限やりましょうか。深緒ちゃん羽月ちゃ〜ん。あれ、お願いしま〜す♪」

「「あーらほーらさっさー♪」」

 

 謎の掛け声と共に何処から出したのか四角い小さなトランクのようなものを3つ出してきた。…よく見れば中にはギッシリとカードが詰め込まれている。これ、全部バトルスピリッツのカード?

 

「お姉ちゃん、心を鬼にして、厳しくいきます!

 今の凛々のデッキは、初心者用のデッキ!構築済みのデッキそのまま!」

 

 無駄にピシッ!と擬音が聞こえてきそうに短い指し棒をこちらに向けてくる姉さん。

 

「基本的なことを押さえたら、難しいことは考えずガンガン攻めて行けばいいの。…話を聞けば、上級者っぽい人に勝ったみたいだけど、厳しく言えばビギナーズラックでしょう」

 

 それは理解できる。

『アタックする順番を間違えた』とか言っていたからそうだと解る。

 

「でも次はそうはいかないかも知れない!相手のデッキも判らない! そこでお姉ちゃん、考えました!」

「……っ」

「凛々のデッキを強化すれば良い!

 そうすればお姉ちゃん株がストップ高になるって! お姉ちゃん大好き!結婚してって!」

「今ので紙屑だよ」

 

 何か妄想を始めた姉を無視し、深緒と羽月の許可を得てケース(キャリングケースと言うらしい)を開けてカードの束を手に取る。…見たこと無いカードばっかり、って当たり前だけど。

 

「さてはてまずどうしよっか?」

「この気持ち悪い犬の代わりになるのが欲しい」

「ここまで嫌われるスラスト・シェパードェ…」

「なら、0、1、2コストのカードだね。…ん〜〜とぉ」

 

 羽月が手際よくケースからカードを取り出し手品か何かのようにカードを広げて流し見ている。いつもおっとりしてる羽月からは想像できないくらい鮮やかな手つきだ。

 

「あはぁぁん♪……あら?」

 

 

「深緒ちゃん、これピックしとくね」

「あいよー。ウィソードだけど…」

「…何か問題が?」

「こればっかりは個人の好き好きだからねぇ。この召喚時効果あるじゃない?」

「んっと…『デッキの上から4枚オープンする。その中の系統:<剣刃(つるぎ)>を持つブレイヴカード1枚を手札に加え、残ったカードは破棄する』…これが?」

「この効果で頼みのブレイヴを引き込めて“デッキを掘れる”し、合体してレベル2なら常時BP5千アップは魅力的なんだけど、万が一“エース”2枚がトラッシュに落ちた場合やブレイヴが無かったときとかがネックなんだよね」

 

 深緒が指したのは《剣輝龍皇シャイニング・リューマン》と、《アルティメット・アーク》の2枚。

このデッキの切り札の2枚だ。

 

「この《炎星斧エルナト》で手札に回収できるアルティメットのコストは5。中堅アルティメットたちを回収はできるけど、エースを回収できないからね」

「よし。なら外そう」

「え? そんなあっさり…」

「不確定より、確実に手札にできるのと交換しよう」

「ならこれとかだね」

 

 カードを物色していた羽が何枚かのカードをこちらに出してきた。…《ネオ・ダブルドロー》と《ネオ・コールオブロスト》。どちらも赤のマジックカードだ。

 

「こっちは、凛々ちゃんの場にアルティメットがいたら3枚ドローできて、こっちはバースト効果じゃないとドローができないけど、メインの効果でコスト7以下の赤のスピリットかアルティメットを回収できるんだよ」

「なるほど…」

「純粋な手札増強か、何らかの効果でUアークや剣輝龍皇が落ちたり破壊されたりしたときのリカバリーか。かな」

 

 …凄まじいくらい頭使うなこれ。

既に深緒流、羽月流の構築がまとまっているんだろうけど、私はまったくまとまらない。提示されたカードを見る度、あれもこれもと入れたくなる。

こんなんでデッキが出来上がるんだろうか…。

 

 

 

━━━数時間後。

 

 時間は日付が変わる時間帯。深緒と羽月は一足先に夢の中。

私はというと、今だデッキとにらめっこ中だ。

 

「二人とも良い寝顔ね〜♪」

「ちょっかい出しちゃだめだよ」

「ふふっ♪」

 

 姉さんは明日に備えて、二人の家から色々取ってきてくれたようで。

二人のご両親からもうちの姉は信頼されているからか、特に何事もなく一式を持ってきた。

 

「凛々も、余り根を詰めすぎないようにね。差し支えちゃうから」

「うん。…でももう少しだけ」

 

 姉さん達のおかげで何とか候補は絞ることができた。あとは、深緒が言ってた試運転?とか言うので微調整をするだけか。

 

「………」

「…凛々」

「ん?」

「明日、頑張ってね」

「…うん」

「それと、人生の先輩として、ひとつアドバイス」

 

「ただ闇雲にバトルしちゃダメよ?」

 

「…?」

 

「お互い、ムカー!ってなってガー!ってなってるけど、、相手の考えを理解する努力を忘れちゃダメよ?」

 

「…あんなやつの考えなんて理解したくないなぁ」

 

「ふふっ♪ それができるようになったら、凛々もカードバトラーだね〜♪」

 

「ちょ、抱き着かないでよ」

 

 

 † † † 

 

「よしっ!お休み麗ちゃん!」

「はいお休み。やけに気合い入ってるね」

「もちろん! …麗ちゃん」

「ん?」

「私、親友ができるかも!」

「…へぇ。それは楽しみだ」

 

 † † † 

 

 

 翌日、学校の昼休み。

深緒と羽月とお弁当を突きながらデッキの話。

…昨日までバトスピの濁点すら知らなかった私がこんな話をしているとは、分からないもんだ。

 

「結局あれからどったの?」

「何とか…」

「朝ちょっと見せてもらったけど、なかなか良い感じだったよ」

 

 とりあえず形にはなった…ような。完璧かと言われたら全くそんな事はなく…。不安が残る。

 

「…?」

「? なんか…」

 

 急に廊下辺りがざわざわし始める。廊下側のクラスメイトも何事かと見始めていた。

 

 

「食事中失礼っ!!」

 

 

「っ!?」

 

 教室の扉を勢いよく開け放ち、気合いの入った凛と響き渡る声の主を見て危うく箸を落としそうになる。

 

「いたー!」

「………」

「ちょ、ちょっと!何で顔隠すの! …あ、失礼。お邪魔します」

 

 今はまだ気持ちの整理が出来ていない状態で会いたくないやつが左手に何かを持って現れた。そのため机の教科書で顔を隠して他人のフリをする。フリを決め込む。フリをさせてほしい。

 

「…ふふん♪」

「………」

 

 何でこっちに来る。来るな。

 

「こんにちは。深緒さん、羽月さん」

「ど、ども」

「こんにちは〜。早苗さん、二年生だったんですね〜」

「そう!あなたたちの先輩よ!」

 

 ビシッという擬音が聞こえてくるようなぐらいにこれでもかと左胸の学年バッジを見せ付けてくる。

うちの学校は学年をバッジを表す。学校のイニシャルにリボンに線。

一年のは青のリボンに白線が1本。

二年は緑のリボンに白線2本。

三年は赤のリボンに白線無しでバッジに金縁が追加される。

 

「椅子、借りていいかしら?」

「ど、どうぞ!」

 

 近場にいた篠崎さんの許可を得て、椅子を借りてこちらの卓に入ってきた。

何しに来たんだ一体…。

 

「あのー、一体どんな…」

「強いて言うなら、一緒にお昼を食べようかと」

「…それだけ?」

「本当のところ、今朝偶然あなたたちがうちの生徒だって分かったから会いに来たってぐらいよ」

「そうなんですか〜」

 

 そう言って持っていた包みを開けると、それはお弁当箱だった。

私達のに比べて気持ち大きめ。

 

「ほら凛々もいつまで顔隠してんの」

「そいつが帰ったら」

「もう凛々ちゃん」

 

 昨日の今日でよく顔合わせられるなぁこいつも。深緒と羽月が嫌がってないから無下にできないのが辛い。

だから食べ終わるまでは片手に教科書で壁を作りやり過ごすことにする。

 

「むっ」

「………」

 

「意地でも顔合わせたくないんかい」

「もう少し見てようか」

 

「…ぬん!」

「あっ」

「私と!お食事!しましょうよ!」

「近い、近いから…!」

 

 急に教科書が取り上げられ間近にやつの顔が迫る。私がちょっとでも前に出ようとすればぶつかるぐらい近い。…驚いて思い切りのけ反る。

 

「今更臆したのかしら?」

「顔近いって言ってんの…!」

「ふふんっ。あなた、昨日より良い顔してるわ」

「…はぁ?」

「これは対戦が楽しみね…♪」

 

 この…。

余裕の表情で椅子に座り直すあいつ。調子狂わされっぱなしですごくムカつく。

…私も体勢を直して、ちらっと廊下側に視線を向ける。

すると、何人も扉からこちらをのぞき見ていた。反対側もそうだ。そりゃ二年生が一年の教室に乱入してきて一緒に昼食を食べてれば見られて当然だが……視線の意味が何か違う。

 

「おお! 早苗さん、これは幻のおかず、キンピーラ!」

「最近やっとできるようになったのよ♪ …味は保障できないけど。…凛々!」

「っ!?」

「ちょっと味見してごらんなさい」

「全力でお断り」

 

 そのキラッキラの期待しているのか調度良い毒味役を見つけたかのような目を止めろ。

や、止めろ!差し出してくるな!

 

「ほら!」

「い、いらないっての!」

「遠慮しない!ほら!深緒さん、羽月さん!」

「「あーらほーらさっさー♪」」

「み、深緒!?羽月!? この裏切り者おおぉぉっ!?」

 

 深緒と羽月に両腕をとられ、首を固定される。

 

「故あれば面白そうな方へ裏切るのさ!観念しなリンリン!」

「リンリン言うな!」

「凛々ちゃん、食べるだけなんだし食べちゃなよ〜」

「ふふふっ!キンピーラで凛々に指定アタック!」

「ふ、フラッシュ!フラッシュ!」

「残念ながら指定アタックなんだ凛々」

「強制ブロックだから牡牛座と同じくブロックされたら…だよ〜」

「やぁめろおおおおぉお゛ぉ゛ぉ゛っっ!!」

 

 ……抵抗はしてみたが、無駄だった。ムカつくくらい美味しかった。

 

 

「ご馳走さまでした」

「「ご馳走でしたー♪」」

「…ご馳走さま」

 

 昼食も食べ終わり片付けをしていたとき、こちらを見ている早苗の視線に気が付いた。

 

「さて。三人の顔も見れて腹も膨れたし、お暇するわ」

「まだ時間ありますよー?」

「それもいいけど、凛々がいい顔しないからね」

「凛々ちゃーん」

「私のせい…?」

 

 そりゃまぁちょっとはぶすっとしてたとは思うけど、周りの目もあるのだろう。お弁当箱を包み戻る準備をし始める。

 

「鴇峯凛々。放課後のバトル、楽しみにしているわ!」

「………」

「ふふっ。それじゃあ、お邪魔しました。また放課後に」

「また後でー♪」

「どうもー♪」

 

 宣戦布告して颯爽と教室を後にした早苗。

こういうのってどう反応していいのか困る。

 

「…はぁ」

 

「ねぇねぇねぇちょっとちょっと!」

「?」

 

 すると教室の数名がこちらの卓にやや興奮して集ってきた。…な、何?

 

「三人とも藍河(あいかわ)先輩と知り合いなの!?」

「かなり親しかったみたいだし!」

「鴇峯さんなんか超顔近かったし!」

 

 …何? あいつ人気者なの?

あんなのが!?

 

「知らないの? 結構有名なんだよ!」

「竹を割ったような性格!凛々しい顔立ち!それに優しい!一年、二年から結構人気があるんだよ! 三年生はどうかは知らないけど」

「ファンクラブみたいなのもあるみたいだよ」

「…へぇ」

 

 それは知らなかった。…いや別に知りたくなかった。結構嫌ぁなやつに絡まれたと嘆くしかない。

ああいうののファンクラブって、ちょっとしたことで目の敵にされてしまったりするから厄介。中学のときそれを他校で目撃したことがある。

 

「しかも鴇峯さん、先輩とバトスピするんでしょ?」

「しかも『楽しみにしてるわ!』ってフルネームで言われてたし!」

「いや…」

 

 口喧嘩したとかさすがに言えない。

一方的だったし、私の態度が気に食わなかったのも原因だ。

 

千歳(ちとせ)さん、朝比名(あさひな)さんは?」

「あたしと羽月は何回かバトルはしたよ。本デッキじゃなかったけど」

「「いいなぁ〜!」」

 

 そんなにいいのかあいつと対戦するのが。

それから昼休みが終わるまで質問攻めに遭ってしまった。これも全部あいつが悪いんだ…。

 

 放課後。荷物をまとめ帰る準備をしていたとき、深緒と羽月の携帯に着信が入る。着信相手はあの早苗らしく、先にカードショップで待っていろとのこと。

 

「荷物置いて着替えたら行く?」

「制服のままでもいいんじゃないかな? 凛々ちゃんは?」

「なら、着替えてからでいいかな」

「んじゃパパッと準備して行くどー!」

 




茶番が長くなったのは、これもすべてキャラクターたちが喋りまくるせいなんだ…。(謝罪)
理由付けが長くなってしまったとも言います(開き直り)
後半に続きます。

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