例えばこんな青春ラブコメ   作:ひょっとこ_

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サキサキかわいいよサキサキ


まぁ、うちのは若干キャラ崩壊入ってますけど。。


ありのままの気持ちで

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ねぇ、比企谷……」

 

 不意に近寄ってきて、耳を甘噛み。直後、吐息のような声を外耳道に直接吹き込まれる。

 くすぐったいその刺激にぶるっと身震いした俺は、呆れと僅かの苛立ちを乗せた視線を下手人のほうへやった。

 

「ねぇ、俺、本読んでんだけど……?」

「ん、見りゃわかるよ」

 

 邪魔してんじゃねーよという無言の抗議は、いっさい悪びれない言葉の下、一刀に切り伏せられた。

 

「お前な……」

「んーっふっふー、比企谷ー、えへへー」

 

 かと思えば、今度は甘えた声音で一連の下手人――川崎が、俺が腰掛けていたソファに同じように腰を下ろし、惜しげもなく身体を密着させてきた。

 耳をピコピコ、尻尾をフリフリさせながら、擦り寄る彼女を拒絶する術を俺は持たない。

 

「お前、実は相当な甘えただったのな……」

「自分でも最近気づいたんだけどね。ほら、あたし、弟と妹しかいないから」

「年長者は大変だねぇ……」

「そう、大変。だから、あんたはあたしを目一杯甘やかすの。いい?」

「へいへい」

 

 密着していた距離をさらに詰めて鼻先を胸に押し付けてくる川崎に、本を持ったままの両腕をそのまま上へ上げて、変なところをうっかり触らないように配慮をする。

 数分間その姿勢のままで膠着状態が続き、そろそろ腕をつりそうな感じがしてきた頃、川崎はやっと顔を上げ、ふにゃぁんと蕩けたような表情をして、口を開いた。

 

「比企谷は、あたしのこと、ぎゅって、してくれないの……?」

「っ……」

 

 ぺこり、と頭の上の猫耳を片方傾げ、それと同じように首も傾げながら、破壊力満点の言の葉で川崎は俺の胸のど真ん中を撃ち抜いた。

 頬が熱を持ち始めたのが自分でも実感できて、たまらずそっぽを向く。

 視線を外されたからか視界の片隅でゆらゆら揺れていた尻尾が、なんとも寂しそうにその身を震わせた。

 

「…………」

「…………」

「…………」

「……ね、比企谷」

 

 ああ、もう。

 わかった。わかったってば。

 こうすりゃ、いいんだろっ……!

 半ばやけっぱちに、俺はしなだれかかってきている川崎を思いっきり抱きすくめた。途端、視界に入っていた猫耳と尻尾が逆立った。

 

「んっ……! 比企、谷……ちょっと、痛い、よ……?」

「わ、わりぃ……」

「んーん。ふふっ、でも、ほら、あったかいね……」

 

 油断しきった隙だらけの顔つきで、へにゃりと、川崎が笑った。

 けれど、やっぱり俺は気恥ずかしさが勝って、頑なにそっぽを向き続けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 結論から言うと、俺――比企谷八幡と彼女――川崎沙希は、男女として交際を始めることになった。

 確固たるぼっち思考を持ちながらも流されやすいことに定評のあった俺にしてはわりと一歩踏み出せた選択だったのでは、とか思うのは、ちょっと高慢に過ぎるかもな。なにせ、川崎がいなければ、俺もこうはならなかっただろうし。

 

 

『――――あんたが……特別、だから……』

 

 

 あんなこと言われて、こうならない男なんて俺は認めない。

 黒のレースのさらに上を行く感動が、俺の中にできあがった瞬間だった。

 けれど、まぁ、実際、稀有なシチュエーションだったし、今になって後悔などはなにもないが、思うところは少しばかりあったりする。

 猫耳のことだ。

 たまに衝動に負けてモフらせてもらって、その都度敏感な箇所なのかそれとも恥ずかしさのせいか、悶えに悶える川崎にこちらも狼狽しつつ、けれどモフるのはやめない、みたいなわりと特殊すぎる空間ができあがっちゃったりするのだが。

 たまに思ったりもするのだ。どうも川崎自身は不便に思ってないみたいだけど、このままにしといていいのかなぁ、みたいなことを。

 

「どうかしたの? なにか考え事?」

 

 本を開きつつ他に思考を流していたからか、俺の膝の上に頭を乗せていた川崎がまったく俺が読書に集中できていないことに気づいたらしい。

 目敏い。が、これ以上は本など開いていても無益かと思い直し、ぱたんとページを閉じ、眼前の机の上に放った。

 

「物を投げないの」

「お前は俺の母ちゃんかよ」

「……ママって呼んでみる?」

「…………趣味じゃねぇし。しかも、その恰好で言われてもな」

「……むぅ」

「今の、拗ねるとこか……?」

 

 難しい年頃らしい。

 

「……で、なに考えてたの?」

「……お前の、その耳のことだよ」

「ああ、これ……。なに、どうにかできないかって?」

 

 首肯すると、川崎は嬉しげに笑った。

 

「それは嬉しいけど、どんな医者も匙を投げたし、あんたにはたぶん無理だよ」

「……かもな」

「うん……。でも、比企谷とこうしていられるんだから、あたし的にはそれだけでこの耳にも感謝できるってもの、かな……」

「そうか……」

「うん、そうなの……」

「……まぁ、俺だけがこれをモフモフできるのも、ある種特権的行為だしな」

 

 言いつつ、なにかを誤魔化すかのような心境で、俺は手近なところでぴこぴこ動いていた猫耳をモフり始める。

 

「えぅっ!? も、もうっ、いきなりはやめてって、いつも言ってるじゃない!」

「次から気をつける」

「……ふん」

 

 でも、俺は思うのだ。

 俺がこいつを世界で最も幸せにしたいなら、その選択をこいつがどう判断するかは二の次に、それくらいの意気込みを持つべきなのでは、と。

 そう、稀代の、と言って差し支えないこの猫耳発生現象を治療できるようになる、くらいの意気込みを。

 

「……さて」

「ん、どうかした……?」

「ああ。さしあたって、腹ごなしをしようかと。食べたいもの、あるか?」

「……里芋の煮っ転がし?」

「…………料理、一緒にするか?」

「……うん!」

 

 なんて、俺にこんなことを考えさせるようになった川崎には、脱帽の一言だなぁと思いましたまる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




少し短めでした。
が、八幡が前向きになれたお話だったんじゃないでしょうかねぇ。。

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