魔法少女リリカルなのは ~若草色の妖精~   作:八九寺

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よし、10月内に間に合ったぜ……

この話を書くために東京へ取材に行ってきました(趣味9割・取材1割


48:甘味屋巡りデート

48:甘味巡りデート

 

 

 ヴィータに電話をした翌朝、久しぶりに休日を貰った僕は屋敷の外へと繰り出していた。

 

「わりー、待たせたか?」

「んん、少し前に来たところ」

 

 待ち合わせ場所にしてた駅のモニュメントで、僕は昨夜の電話相手であるヴィータと落ち合っていた。

 彼女の服装はいつも通りゴスパンク(と言うらしい)っぽい感じの白黒基調の服に、赤いベルトと靴が良いアクセントになっている。

 

「じゃ、行こっか」

「おぉ!」

 

 二人揃って歩き出す、向かう先は――――甘味処である。

 

 以前電話の際にアイスが好きだと言っていたヴィータを、僕が食べ歩きに誘ったのだ。

 まぁさすがにアイスだけじゃお腹が痛くなるので、『甘いもの』ということで落ち着いたのだけれども。

 

 『『…………ぐぬぬ』』

 『『…………ぐふふ』』

 

 並んで1軒目に向かいだした僕らを見つめる人影が有ることに気がついたのは、少し後の事になる。

 

 

 ◇◇◇

 

 

「どらやきの皮って焼きたてで食べると、あんなにギガうまだなんて初めて知った」

「そうでしょ? 僕も初めて食べたときは衝撃だった」

「焼きたての皮に作りたてのバターをちょっと乗せて、甘さ控えめのアンコを乗せて一口……そこに牛乳を流し込むとか、どうあがいたってギガうま間違いなしだろ!」

 

 昼前の軽食のつもりでヴィータを連れて行ったのは、僕の知る店の中でも一度は食べて欲しいメニューのある某店だった。

 駅から少し離れた路地にぽつんと佇むそのお店は、老舗の和菓子屋さんが経営する喫茶店だ。

 

 少し近くの和菓子屋さんのほうで作られた焼きたての皮を熱い内に喫茶店の方に持ってきて、アンコとバターを添えてパンケーキ風に出してくれるメニューなのだけど、午前中の早い時間限定のメニューなのだ。

 

「そういやアタシがウサギ好きってなんで知ってんだ?」

「ん? そうなの?」

 

 店のレジの所に置いてあった、兎型の店名や電話番号が書かれた名詞みたいな物を大切そうにお財布へとしまっている。

 

「何だ、じゃあ偶然か。店の名前も皿も『うさぎ』だからすげぇなぁと思った」

「うさぎ好きなのか……じゃあ次行く所が決まった」

 

 僕は頷くとヴィータの手を取る。

 

「お、おい?」

「たぶんヴィータが気に入る……と思う」

 

 僕はそれだけ言うと、1軒の店にヴィータを連れて行くのだった。

 

 

 ◇◇◇

 

 

「……ダメだ、私はこんな可愛い――――」

「えい」

 

 苦悶するヴィータの口に皿上の一口大のお饅頭を放り込む。

 

「――――なんでギガうまなんだよぉ……」

 

 苦悶の表情と美味な甘味により浮かびかけた笑顔がごっちゃになり、何とも形容し難い顔になるヴィータを眺めつつ濃いめの緑茶で一息をつく。

 

 

 この店の名物、その名も『兎饅(うさまん)』。

 兎を模した一口大の紅白饅頭である。

 

 

「――――はふ」

 

 幸せそうに頬を押さえながら饅頭を頬張るヴィータを眺めつつ、熱い緑茶を流し込んで一息つく。

 

「ん? どうかしたか?」

「いや。こんな風にのんびり気楽に居られて落ち着くなぁ……と思って」

「何だよ、そっちの“ご主人様”や“同僚”とかいうのとは仲悪い訳じゃないし、今みたいに外出することもあるだろ」

 

 一匹食べたことで吹っ切ったのか、二匹目三匹目と食べ進めるヴィータを眺めつつ

 

「それはそうだけど、やっぱり心の片隅では仕事の事を考えちゃうから」

「……なんていうか、子供らしくない悩みだなぁ」

 

 ヴィータの言葉に苦笑する。

 

「ヴィータとこうして居られる時間、なんというかこう……素の自分で居られるからとても気楽」

「……アタシも最近ジークとこうしてる時間、嫌いじゃねーです」

「なぜにいきなりですます調」

「うっさい笑うなバカ」

 

 こちらと目を合わせようとせず、そっぽを向いてそんな事を言うヴィータに、何というか心が安らぐのを感じるのだった。

 

 

 ◇◇◇

 

 

 兎饅を食べ終えた後、腹ごなしに周辺を散策している最中にショーウィンドウのガラスに反射する背後の風景に視線を走らせる。

 

「……んー」

 

 しばらく前からこちらを捉える視線に気づき、確認してみれば建物の陰からチラリと覗く若干色合いの異なる金の髪をした二人組が。

 ……アリサもフェイトも何してるのだ。

 

「……あー、その、ジーク、ごめん」

「どしたの急に?」

「…………なんか、アタシの身内がアタシ達を尾行してるっぽい」

「……へ?」

 

 前を見つめたまま小声でささやくヴィータのいきなりの発言に、変な声が出る。

 

「出かけるときにジークと二人でって話をしたら、『我が家のヴィータに悪い虫が!?』とか言い出して……着いてこないように言ったんだけど、さっき後ろを見たら見覚えのある姿が……ごめん」

「……んん、僕もごめん。なんかウチのご主人と同僚も着いて来てるっぽい」

「は……!?」

 

 僕の言葉にヴィータが目を見開く。

 

「……よし、撒こう」

「いや、そう簡単に()くって言ってもそう上手くは――――」

「――――大丈夫、こう見えても見張りを撒くのは得意」

 

 この世界にくる前、屋敷を抜け出し、街に遊びに行っていた頃のやり口を思い出す。

 敵に追われるのは勘弁願いたいけど、身内の尾行を撒くのはやってみると存外に面白いのだ。

 

「――――来て」

 

 軽くヴィータの手を繋いで先導し、手近な曲がり角を曲がって追跡者からの視線を切る。

 ここでのコツはアリサ達からは目視できず、ヴィータ側の尾行からは目視できる位置を取ることだ。

 ヴィータ側の追跡者はともかく、僕側の追跡者にはフェイトが居るからには“さーちゃー”とやらで追跡されている可能性が高い……が、今回はソレを逆用する。

 

 ちらっと後ろを見てみれば、サングラスにマスク、ハンチング帽を被った如何にも怪しい二人組が慌てたように顔を引っ込めたのが見える。

 あれがヴィータ側の尾行者だろう。

 

 手始めにアリサ達向けに対応する。

 街の上空を巡航させていた鋼線細工の鷹型使い魔を数羽に対し、フェイトの魔力で作られたサーチャーの捜索を指示し――発見。

 破壊はせずに1羽の使い魔を鋼線に戻して魔法陣に編み直し、それを基点に幻惑の魔法を発動、これで二人は『居もしない僕たちの幻覚』を追って迷走を開始、誘導する。

 こちらはコレでOK。

 

 続いてヴィータ側の追跡者だ。

 相手がこちらを見失わないように加減をしつつ、適当に歩く間に上空の使い魔を通して周辺一帯のリアルタイムの俯瞰図を確認して、ちょっとだけ思案する。

 

「ん、よし。ヴィータ、僕が声を掛けたら後ろを見て?」

「お、おう?」

 

 二組の追跡班の位置関係を確認しつつ、丁字路に差し掛かる。

 丁字路をまっすぐ、信号のない横断歩道を渡って近くの建物の陰に入り停止した。

 

「……先ほどの丁字路をご覧下さいませ」

「すっげぇ……! どうやったんだアレ?」

 

 先ほどの丁字路を見てみれば、二組の追跡者が曲がり角でぶつかる姿。

 なんて事はない、幻覚を追いかけていたアリサ達と実際の僕たちを追いかけていたヴィータ側の尾行者、二組が曲がり角で出くわすように調整したのだ。

 

 ぶつかった衝撃でフェイトのマルチタスクが途切れたのか、サーチャーの反応が消えた。

 破壊する手間が省け、好都合とばかりにサーチャーに対する認識妨害の結界を展開する。

 

 頭を下げあう尾行者を後目(しりめ)に次の目的地へと向かう。

 

「なぁなぁ、ほんとにアレどうやったんだ?」

 

 『魔法で上手い感じに誘導して』とは言えないので、ちょっと思案して答える。

 

「……まぁ、これでも執事だから」

「『執事』ってスゲーな!」

 

 心なしかキラキラした視線を向けてくるヴィータに、なぜか僕は面映(おもは)ゆくなるのだった。

 

 

 ◇◇◇

 

 

 ――――からりん♪

 

 ランチには少し遅い時間、僕は通い慣れた扉を開け、冷房の冷気が心地よい店内に入る。

 毎度おなじみ、『喫茶翠屋』だ。

 

「あらジーク君、いらっしゃいませ。……そっちの子は初めてかしら?」

「ん、忍さんこんにちは」

「……はじめまして、八神ヴィータ、です」

 

 ちょっと上目遣いで自己紹介するヴィータ。

 最近知ったことだけど、割とヴィータは初見の年上の人に対して人見知りだ。

 

「ふふ、初めまして。私は月村忍、このお店のアルバイトね。それにしても――――」

 

 面白い物を見たと言わんばかりに『うふふ』と笑みをこぼす忍さん。

 

「――――ジーク君も隅には置けないわねぇ」

 

 忍さんの視線の先を見てみれば、尾行を撒いたときから繋ぎっぱなしの僕たちの手。

 

「――――っ!」

 

 同じく視線の先に目を向けたヴィータが、頬を仄かに赤く染めた。

 

「えっと、これは(ちが)くて、アタシとジークは友達だから」

「あぁ、私も恭也とそんな風に手を繋いでデートを――――」

 

 ヴィータの話を切かずに自分の世界に入ってしまった忍さんに、“ゆらり”と厨房の方から彼女の背後に現れた影が頭をお盆の平たい面でポカリと叩く。

 

「――――忍。お客さんをからかう前に席にご案内しろ。ようこそジーク君と……ヴィータちゃんだっけか、忍が迷惑掛けたな」

「いや、そんなこと、ねーです」

 

 僕の背中に半分隠れてにヴィータが話す。

 

「なら良かった。じゃあいつもの席にどうぞ」

「あ、今日は桃子さんは居ますか?」

「うん? 厨房の方に居るけど呼ぼうか?」

 

 その言葉に首を横に振る。

 

「いえ、それなら後で大丈夫です。昨日の夜に頼みごとをしたのでそのお礼を言おうかと思って」

「そうか、とりあえずジーク君が来たことは伝えておこう」

 

 頷いて席へと移動し、メニューに手を伸ばしたヴィータに一声掛ける。

 

「デザートは昨日の内に頼んであるから、何か軽い物だけで大丈夫だと思うよ」

「さっきの頼みごとがどうたらって奴か?」

 

 察しがよくて助かる。

 

「今日の本命はココ。ヴィータは間違いなく気に入る」

「やけに自信ありげだな……オッケー、ジークを信じる」

「ん、信じて」

 

 気に入られない可能性を微塵も疑うことなく、僕は断言するのだった。

 

 

 ~ 数分後 ~

 

 

「ふぉおおおおおおおお!?」

「ふふふ、召し上がれ」

「いただきます!」

 

 正方形、4×4の16マスに区分けされた白磁の皿に彩られた16色の氷菓――――翠屋パティシエ高町桃子謹製のジェラート盛り合わせである。

 

「今日はありがとう御座いました」

「ふふ、良いのよ。お店に並べる分をこの種類作っちゃうと、どうしてもロスが出ちゃうし手間だから」

「それでも、です」

「良いの良いの。可愛い常連さんからのお願いなんだし、私も久々に作れて楽しかったから」

 

 僕は黙って頭を下げた。

 桃子さんが微笑みながら頭を撫でてくるが甘んじて受け入れる。

 

 ちらりと向かいの席のヴィータを見てみれば、16種のジェラートに目移りしつつも幸せそうにスプーンを右往左往させる姿。

 あぁ良かった、気に入ってもらえたみたいだ。

 

「ジーク君も溶けだしちゃう前に召し上がれ」

「はい」

 

 頷いて一口――――うむ、おいし。

 

 くどすぎないそれぞれの素材を生かした甘さに、口に入れた瞬間ふわりと溶けて消える触感。

 ほんとこの世界の調理技術は研鑽され、かつ洗練されていると思う。

 

「おかわりもあるから、欲しかったら言って頂戴ね?」

「おかわりー!」

 

 『桃子さんには頭が上がらない』改めてそう実感する僕であった。

 

 

 ◇◇◇

 

 

「ギガうま……いやアレはテラうまだったな……!」

「僕の本命という言葉に嘘はない」

 

 夕暮れの街を歩きながら、足取りも軽く幸せそうな表情を浮かべるヴィータ。

 今はヴィータの家の近くまで、彼女を送っている最中だ。

 

 そういえば店を出たときに周囲を探っては見たものの、尾行の姿は無かった。

 

「今日は売り切れだったけど、あそこはシュークリームとか他のお菓子も美味しい」

「マジか。ジェラートは無理だろうけど、シュークリームならはやてにお土産に出来るかな?」

「出来ると思う、また今度一緒に来よう」

「おう! 今日はアリガトな、楽しかった」

「ん」

 

 満面の笑みを見せてくれたヴィータに、僕も僅かに微笑みを返す。

 

「あ、ココまでで大丈夫。ジークも気をつけて帰れよな?」

「んむ、わかった。ヴィータも迷子にならないように」

「だーれが家のご近所で迷子になるか」

 

 笑顔のヴィータが指先で僕のわき腹をグリグリしてくる。

 痛くはないけど、こそばゆい。

 

「じゃ、またな~」

「ん、またね」

 

 お互いに手を振って背を向ける。

 あぁ、楽しい一日だった。

 

 “またね”か、いい言葉だ。

 

 最後のヴィータの笑顔を思い出すと、何となく胸の奥が温かくなったような、そんな気がするのだった。

 

 




10月と11月は忙しい…(PB勤務員の宿命

一応細かいところ解説。

> 『『…………ぐぬぬ』』
> 『『…………ぐふふ』』
 前者がアリサ・フェイトペア、後者がはやて・シャマルペアです。
 笑い方の違いで双方の心中を読んでいただけると幸い。

>しばらく前からこちらを捉える視線
 なお、アリサ達が見ていたのはヴィータ、はやて達が見ていたのはジークのほうです。
 それぞれ相手が気になった模様。

>鋼線細工の鷹型使い魔
 久しぶりの登場、海鳴やその近辺を飛び回っております。

>翠屋パティシエ高町桃子
イタリアやフランスで修行してきた(公式設定)
優しい母親で、子供達を甘やかすのが大好き(公式設定)

>「僕の本命という言葉に嘘はない」
わりと珍しい主人公の『ドヤァ』な表情

なお、お互いに魔法関係者だとは現状全く思いもしていません。

今のところ、主人公とヴィータの関係は、仕事(主人公)や主従関係(ヴィータ)を抜きにして付き合えるプライベートの親友。
この距離感がどう変わって行くか、お楽しみに。

では次話もお待ちいただけると幸いです。
誤字脱字、ご意見ご感想お待ちしております。

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