魔法少女リリカルなのは ~若草色の妖精~   作:八九寺

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内定ほすぃ


29:一夜明けて

29:一夜明けて

 

 

「――――んー……ぁ」

 

 窓から差し込む朝日に目が覚める。

 頭を振って眠気を覚ますと、腕を見やった。

 

「……大丈夫」

 

 透けているようなことはなく、見た目は健康そのもの。

 触ってみると実体もある。

 だけど意識をこらしてみれば、自分の体が自分のものでないような、なんとも変な感じが体全体を覆っているのがわかった。

 

 アリサ達に気づかれなければいいや。

 そう自分を納得させる。

 

「……ジーク、起きてる?」

「アリサ? うん、起きてる。入ってきていい」

 

 僕の言葉が終わるか終わらないかといった辺りで、扉を開けたアリサがベッドの横までやってくる。

 制服を着てるから、これから学校なんだろう。

 僕は横たえていた体を起こす。

 

「おはよ、ジーク。体調はどう?」

「ぼちぼち。寝たらかなりよくなった」

 

 柄にもなく小さく胸をはったりして、問題ないことをアピールする。

 

「よかった。朝ご飯、食べられそう?」

「ん、食べる」

「ちょっと待ってなさい、持ってこさせるわ。鮫島~!」

「お待たせしました」

 

 呼ばれた瞬間に、鮫島が台車を押して部屋に入ってきた。

 執事ってホントすごい。

 台車の上には小さな鍋が乗っている。

 

「栄養補給が第一かと思いましたので、白粥でなく卵粥にいたしました。鰹ダシと塩で薄く味を付けておりますが、物足りないようでしたら醤油を付けておきますので、適宜調味してください」

「鮫島、ありがと」

 

 土鍋と小皿、そしてレンゲ。

 一式が並べられ手早く並べられ、パカっと土鍋の蓋が開けられる。

 

 仄かな塩の匂いと目にやさしい柔らかな黄色にがうれしい。

 その上に少し散らされた、三つ葉の緑が目に鮮やかだ。

 

 このダシの匂いに心が安らぐのは、こっちの世界に馴染んできた証拠なんだろうか? この世界の調理技法や、繊細な調味方は学ぶべきところが多い

 鮫島に小さく頭を下げて礼を言う。

 

「いえいえ。これが食べられるようでしたら、お昼はお肉と野菜をたっぷり入れた煮込みうどんにいたします。……フォークはご入り用ですかな?」

「大丈夫、問題ない」

 

 麺類を箸で食べるのはもう大丈夫。

 卵豆腐とか玉コンニャクなんかはまだまだ要練習だけど。

 

「ありがとう、鮫島。あとは私がやるから、仕事に戻って良いわ」

「かしこまりました」

 

 すっ、と音もなく鮫島が退室した。

 ううむ、体の軸もブレず、見事な足運び。

 

「じゃ、いただきます」

「あ、私がやるわ。怪我人なんだから大人しくして世話されてなさい」

 

 お粥をよそろうと手を伸ばすと、それをアリサが制した。

 レンゲで土鍋内を軽く混ぜ、小皿に移してくれる。

 護衛としては論外なんだろうけど、アリサが言い出したことを反論するのは宜しくない。

 

 そこまでは良かったのだけど、小皿とレンゲを僕に渡してくれない。

 その二つを持ったまま何かを葛藤するような表情を浮かべたかと思えば、顔を赤くする。

 顔を赤くしたかと思えば、そのまま『いやいやいや』ばかりに首を左右に振り出す。

 

「……アリサ?」

「お、女は度胸! これは看病だからおかしくないわね、うん!」

 

 それって『男は度胸、女は愛嬌』じゃなかったかな?

 僕が心の中でそう呟いてるうちに、アリサはアリサの内で何か折り合いをつけたのか、力強く頷く。

 

 レンゲでお粥をすくうと、僕の前に突きだした。

 

「ほ、ほら。あ、あ~ん」

 

 明後日の方向を見ながら顔を真っ赤にしてつき出されたレンゲは、フルフルと小さく揺れている。

 

「さ、さっさと食べなさいよ! 看病、これは看病なんだから何にもおかしく無いんだから!」

「……熱そう」

 

 口の中に入れるには、そのお粥は熱すぎる。

 

「そ、それくらい我慢しなさいよ……しょ、しょうがないわね」

 

 そんな理不尽な。体が丈夫な僕だって、熱い物は熱いんだよ。

 アリサはそういいながらも、息を吹きかけて冷ましてくれた。

 改めてレンゲが突き出される。

 

「あ、あ~ん」

「……あむ」

 

 レンゲからお粥を食べる・

 美味美味、流石は鮫島。

 ダシの利き具合と塩加減が絶妙だ。

 

「美味しい?」

「ん、美味しい」

「そう、まだまだあるからちょっと待ちなさい」

 

 1度やって何か吹っ切れたのか、今度はちゃんと冷まして差し出してくれた。。

 

「あ~ん」

「あむあむ」

 

 結局、アリサは最後まで甲斐甲斐しく僕にお粥を食べさせてくれたのだった。

 

 

◇◇◇

 

 

 鮫島に食器類を下げさせたアリサが、僕と一緒に食後のお茶を飲んでいる。

 んむ。和食の食後は、やっぱりほうじ茶が一番だと思う。

 

「ジーク、念のため聞くけど、今日は一日安静にしてるのよね?」

「その予定。何かベッドで出きる事してる」

「そ、ならいいわ。これから学校だけど、私が帰ってくるまで今日は大人しく寝てること」

「ん、ジュエルシードが発動しなければそうする。……ちゃんと杖と戦装束は持った?」

「もちろん」

 

 アリサはそう言って腕を一振り。

 次の瞬間アリサの手には杖、制服の上からは戦装束が着込まれていた。

 

「おー、早い早い。上出来上出来」

「ふふん、もっと誉めなさい」

 

 満更では無さそうに、腰に手を当てたアリサが胸を張る。

 

「アリサ凄い、優秀、才能の塊。だから明日からはもっと訓練を厳しくしてあげる」

「ちょ、それはやめて!?」

「大丈夫、基礎は出来てるから、今以上に厳しくしても死にはしない」

「何やらせる気なのよ!?!?」

 

 アリサの表情が見事にひきつっていた。

 

「――――お嬢様、そろそろ出発いたしませんと間に合わなくなってしまいます」

 

 ひょっこりと扉から顔を覗かせた鮫島の言葉に、アリサがハッとした表情で時計を見やる。

 

「うっそ、もうこんな時間!? じゃ、行ってくるわ!」

「いってらっしゃい」

 

 手を振ってベッドからアリサを見送る。

 

「ん――――」

 

 小さく息を吐いてベッドの背もたれに体を預ける。

 今日は体を動かさないで、ここで大人しくしていよう。

 

 

◇◇◇

 

 

「坊ちゃん、御加減は如何ですかな?」

「ん、割と良好」

 

 太陽が真上にあがった頃、ノックの音とともに鮫島が顔を覗かせた。

 僕は膝の上で開いていたノート、幾つかの本を閉じて万年筆を置く。

 

「それはよかった。昼食をお持ちしました、一緒にいただきませんか?」

「ありがと、鮫島」

「お気になさらず、ジーク坊ちゃん」

 

 小さな手押し車にサンドイッチを乗せて部屋に入ってくる。

 動けずここで暇にしている僕を気遣ってくれたんだろう、本当に頭が下がる思いだ。

 

「ふむ、お勉強ですかな?」

「ううん、違う」

 

 鮫島とサンドイッチを摘みながら、ノートを見せる。

 

「これは……ラテン語ですかな?」

「ん」

「……日本語より先にラテン語をマスターされたので? いえ、それはともかく何が書かれているのです?」

「ん。魔法。この世界の歴史や文化を紐解いて、魔法にあれんじ?してる」

「……申し訳ございません。私は魔法に関してずぶの素人ですので、もう少し分かりやすく説明をお願いできますか?」

 

 その意見はもっともだ。そう思って、分かりやすい説明をするため言葉を選ぶ。

 

「……魔法って言うのは色々と形に違いはあれど単純な物。いろんな物に意味を見いだして、それを魔力で形にすればいい、それが魔法」

「ふむ、抽象的ですな」

「言葉で説明するのは難しいから、仕方ない」

 

 曲がりなりにも自身で魔法を使ったアリサなら分かってくれると思うんだけど、そうでない鮫島に説明するのは難しい……。

 八つ眼のある蜘蛛はどんな風に世界が見えているか、そんな質問を人間に聞くようなものだから。

 

「……たとえば『血管』、鮫島は血管にどんなイメージがある?」

「体内に血を運ぶ役割……でしょうか」

「ん、そう。僕は体内での血の通り道である血管に、“循環”って意味を見いだして、ソレ自体を魔法にしてる。

つまり、僕の血管そのものを魔法陣にしてると思ってもらえればいい」

 

 ノートにペンを走らせて『血管⇒循環⇒永久(疑似的な不老不死)⇒回復』と書き連ねる。

 『専門的な話になるんだけど――――』そう僕は前置きして話を続けた。

 

「魔術的に“円”や“循環”する物には、『永久』や『破壊と再生』、『無限性』って意味を見いだせる。この世界でもそんな感じの物はない?」

「……エジプト神話や北欧神話などに登場する『ウロボロス』などですかな?」

「イメージが掴めたならそれで大丈夫。僕はその中から『永久』って意味を寄せ集めて、ソレを『永久=不老不死』に認識を置き換えて常時発動の回復魔法にしてるの」

「なるほどなるほど……実に興味深いですな」

「逆に血管じゃなく、流れる“鮮血”の“赤色”に意味を見いだす魔術だっていい。捉え方によって魔法は無限に形作られる物だから」

 

 『血→赤色→火炎』、『血→液体→凝固(武器なりなんなり)』色々と書き連ねて、少しでも分かりやすいように説明する。

 興味深そうに頷きながら、鮫島は僕の話を聞いてくれる。

 

「で、話を最初に戻すと、今の僕はこの世界の神話なんかから意味を抽出して、新しい魔法を作ってる最中。アリサには英語の方が都合いいんだろうけど、歴史が浅すぎて、神話や古典を纏めるには不都合。

ラテン語なのは現在でも使える最も古い言語で、歴史があるぶん応用が利くから」

「ラテン語は応用が利く……ですか?」

「そう。本来は神話ごとにその国の言語を使うのが一番、だけどそれだと効率が悪い。だからこんな事をしてる」

 

 今の基本的な筋力強化とかでも十分事足りてるんだけど、(僕は攻撃性の魔法を使えないにしても、アリサ用に)手数が多いに越したことはない。

 調べてみたところこの国、日本古来の神事なんかに由来した神道やら密教とかいうものが有るみたいなんだけど、漢字が難しくてどうしようもなかったので、後回し。

 

 そんな経緯はどうあれ、アリサを戦いに巻き込むんだ。

 打てる手を多くするに越したことはない。

 

「根を詰めすぎて気負いすぎないようご自愛ください。旦那様も私もアリサお嬢様を大切に思っておりますが、同じくらい坊ちゃんのことも大切に思っておりますれば」

「……ありがと、極力気をつける」

 

 ……心配してくれる人がいるって、本当にありがたい。

 

 そんな人たちの思いを裏切らないよう、戦っていこう。

 そう改めて思った昼下がり、親子以上に年の離れた僕たちの食事会での出来事だった。

 

 

◇◇◇

 

 

「ただいまー!」

「おかえりなさい、……今日は真っ直ぐ帰ってきたの?」

 

 勢いよく僕の部屋に入ってきたアリサに、僕は読んでいた本を閉じながら、挨拶と同時に問いかける。

 いつもは習い事があれば学校から直接に現地へ、無くても友達の家に遊びに行ったりするからこういうのは珍しい。

 

 アリサはそのままぱたぱたとこちらまで歩いてくると、そのまま僕のベッドに腰掛けた。

 

「ええ、すずかに『遊びに来ない?』って誘われたんだけど断っちゃった」

「……気を使わせた?」

「気にしないでいいわよ、私がそうしたくてそうしてるんだから。すずかも訳を話したら納得してくれたし」

 

 小さく肩をすくめてそう話すアリサの言葉に、僕は小さく首を傾げて聞いてみる。

 この家にお邪魔させてもらうようになって暫く経つけど、今まで聞いたこともなかった事だ。

 

「……そういえばアリサは僕のこと周りにどう話してるの?」

「ん、ジークのこと? 『海外からお父様の友達の子供』が家庭の事情でホームステイしに来てるって事にしてるわ」

「大丈夫? 変に話題になって、アリサに迷惑かけてない?」

「だいじょーぶよ、『まだ日本語もおぼつかないし、ちょっと人見知りだから』って説明してる。

 これならジークを紹介しないでおけるでしょ?」

 

 アリサはその辺り気配りしてくれるから、本当にありがたい。

 

「ありがと。……それにしても、僕って人見知り?」

「言葉の綾ってやつよ、人見知りとは思ってないわ。ただ――――」

「……ただ?」

 

 言いかけて、口をつぐんだアリサを促す。

 

「――――ただ、ジークって感情表現が薄いっていうか、滅多に笑わないのよね」

「…………気のせい、だと思う」

「気のせいじゃないわよ。『びっくり』とか『わくわく』、『うれしい』なんかは態度や表情に出るのに、笑顔は私が覚えてる限り数回しかないもの」

 

 僕はひょいっと首をひねる。

 

「数回……あぁ、前にベッドでアリサに押し倒されたときとか?」

「押し倒した言うな!? へんな誤解されるでしょ!?」

 

 ……アリサの記憶力が優秀なのはよく知ってる、たぶん事実なんだろう。

 言われてみれば、その時から笑った記憶がない。

 

『ふにふに』

 

 そんな事を考えていると、いつの間にやら布団越しに僕の膝に跨り、手を伸ばしたアリサに両頬を摘ままれていた。

 

「……なに?」

「え? とりあえず人力で笑わせてみようかと思って」

 

 うにー、とアリサが僕の頬を上下左右にのばす。

 振り払うわけにもいかないので、そのまま我慢する。

 

「……わりゃいひゃなしを聞かひぇるでもなふぃに(笑い話を聞かせるでも無しに)、ふぉういんにふぁらわせるのふぁどうふぁと思う(強引に笑わせるのはどうかと思う)」

 

 ……引っ張られてるせいで、まともな発音すらままなら無い。

 

 というか、アリサは僕の頬で遊んでるんでは無かろうか。

 それとも、これはアリサなりのコミュニケーションなんだろうか。

 

 試しに僕もアリサの両頬をつまんでみた。

 そのまま痛みがない程度にのばしてみる。

 

「ひょ!? にゃにするのよ!?」

「……こみゅにけーひょん?」

「なんへ疑問けぇなのひょ!? ひゃめなしゃいっへ」

「ありしゃがひゃめたらやへる」

 

 僕の視線とアリサの視線が交錯した。

 

「…………(むにむにむに!)」

「…………(うにうにうに!)」

 

 このよく分からないコミュニケーション?は、鮫島が部屋にやってくるまでしばらくの間続いたのであった。

 

 

◇◇◇

 

 

「……ホントに大丈夫なの?」

「鍛え方が違う」

 

 むん、と力こぶを作ってみせる。

 ……というか、今の状態は逆に体が軽いしキレもいい。

 ……僕にとっては好調。だけど生物学的にみると、人間じゃない何かの領域に足を踏み入れている……そんな感じ。

 

 

 閑話休題(それはともかく)

 

 

 僕とアリサ、二人揃って臨戦態勢だ。

 

 僕は戦闘用の外套にたすき肩掛けの要領でP90を左右に1丁ずつ掛けて、両脇下のホルスターにはファイブセブンが同様に1丁ずつ。どちらも対魔盾貫通弾――無論、デビッドさんとの契約通り非殺傷用――だ。

 アリサは僕と揃いの戦闘用外套――前に作った奴だ――に、僕の作った杖。

 

 それもこれもつい先ほど、市街の空を巡回させていた使い魔――この一連の事件の最初のほうに放った鋼の鷹だ。日に一回、僕の元へ魔力補充に来る以外は完全独立状態で街の情報を送ってきてくれている――がジュエルシードの発動する気配を伝えてくれたからだ。

 

 こっちの都合を考えてはくれないんだろうか、まったく。

 

 そんな会話を交わしつつも、現場に向かって走る――――

 

「――――れ、練習はしてきてたけど、怖いわねコレ!?」

 

 ――――屋根の上を、目にも留まらぬスピードで。

 

「アリサが高速飛行できるなら、普通に飛んで向かう」

「怖さ的には五十歩百歩よねソレ!?」

「ん、否定はしない」

 

 一応、僕の手で認識阻害の魔法をかけてあるから人目には付かない。

 屋根の上を走るのにいっぱいいっぱいのアリサに、そこまでさせるつもりはない。

 認識阻害の魔法の持続に気を取られ、民家に激突でもされたら困る。

 

 “ぶつかって壊れた民家”を直すのは僕なのだ。

 アリサ自身は身体強化の魔法もあるから大丈夫だろうし。

 

 そんな会話を交わしながら、情報収集用の膝下サイズの物より数倍大きな、腰下サイズくらいの戦闘補助用の鋼糸の鷹を、追加で何羽も作っては飛ばしていく。

 とりあえず十数羽くらい作って僕らより高空に配置、そして幾羽かを先行させた。

 

「……む」

 

 先行させた一羽から、脳内に警告が入った。

 おそらくはユーノに張られたらしい結界に突っ込んだ僕とアリサ、僕は急制動を掛けて停止する。

 

「ちょ! 止まるなら言いなさいよ!?」

「アリサ、真上に盾型防御魔法」

「っ!!」

 

 脊髄反射もかくやの速さで、アリサが言われた通りに杖を一閃、深紅(ふかべに)色の魔法障壁を展開する。

 展開速度と反応は及第点、修行の成果だ。

 

 僕も同時に展開した魔法盾に、橙色の槍雨が降り注ぐ。

 

「――――ッ! いきなり何だってのよ!?」

「待ち伏せされてた。……上の二人、素直に姿を見せろ」

 

 橙の弾丸を凌ぎきった僕は、空を睨む。

 

「ありゃりゃ、やっぱ無理か」

「…………」

 

 空高き頭上に、姿を隠していたらしいフェイトとアルフ――今日は人型だ――が現れた。

 そのまま高度を落とし、僕たちの進路をふさぐように立ちふさがる。

 

「アルフ、気配と魔力の隠蔽が甘かった。二人とも昨夜ぶり……息災そうで何より」

 

 フェイトはあの至近距離で時空の揺れを食らっていた。

 何か影響が出てるかとも思ったけど、その見込みは外れたみたい。

 破損していた杖も修復が済んでいた。

 

「いや、アタシ的には昨日あんなよく分からない力で、ジュエルシードの暴走を押さえ込んだジークが元気なことにビックリなんだけどさ。……そっちの()は久しぶり、かね?」

「……あ! アンタ温泉の時の!」

「…………」

「……? アルフ、さっきから黙ってるフェイトはどうした。心なしか顔色が悪い気もする」

 

 僕のその言葉にアルフが怒りと無力さ、その他諸々を混ぜて飲み込んだ表情を浮かべ、苦々しげに口を開く。

 

「…………顔色はちょっと、色々こっちにも事情が有ってね。ほら、それよりフェイト、ジークに言うことが有るんだろう?」

「……うん。あの……ね、ジーク、・・・・・・・・・・・・昨日は迷惑かけてごめんなさい」

「気にしてない。あれは僕がすべき仕事の範囲だっただけ」

「……うん、でも私が謝りたかっただけだから」

 

 ……フェイト、なかなか強情。

 だけどちゃんと謝ることを知ってる人間だ、悪い奴じゃない。

 

「ちょっといい?」

「ん?」

 

 攻撃以来、一言も喋っていなかったアリサが口を開く。

 

「ジーク、あの人たちとどういう関係?」

 

 その言葉に僕たち3人は目を見合わせると、全く期せずして同時に口を開く。

 

「ジュエルシードを取り合う敵?」

「アタシのご主人様の敵?」

「私がジュエルシードを集めるのをじゃまする敵?」

 

 見事にハモり、僕たち3人は目を見合わせた。僕は肩をすくめ、アルフは面白いこともあるもんだと言わんばかりに笑顔をこぼす。フェイトは『はうっ』と言うと、恥ずかしげに視線を伏せ、両手で頬を押さえると、ふるふると首を振る。

 

「……敵同士なのに、なんか和気藹々としてるのは気のせい? しかも全員が疑問形? さてジーク、とりあえずあの子たちについてキリキリと喋って貰いましょうか」

 

 そう告げるアリサの顔は笑顔なのだけど、何とも言えない凄みがにじみ出ているのだった。

 




ご意見ご感想、疑問質問は随時受付中です。

ジークの魔法に対する認識とか、分かりやすい表現を心がけましたが、分かりにくい場合は感想欄にて質問等して頂ければ、対応いたします。

>すっ、と音もなく鮫島が退室した。
>ううむ、体の軸もブレず、見事な足運び。

本作の鮫島さんが、段々人間離れしていく件。どーしてこーなった。


>「アリサ凄い、優秀、才能の塊。だから明日からはもっと訓練を厳しくしてあげる」
>「ちょ、それはやめて!?」

育成方針:死線を越えたその先に――――。


> そんな事を考えていると、いつの間にやら布団越しに僕の膝に跨り、手を伸ばしたアリサに両頬を摘ままれていた。

ベッドの上の異性に跨る、自称“れでぃー”の小学3年生女子。

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