魔法少女リリカルなのは ~若草色の妖精~   作:八九寺

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少々間が空きましたが、無事に更新です。

そう言えば、日間ランキングで、本作が7位にはいりました~
週間だと(この更新の時点で)30位ですね。

そしてUAも20000を突破~
お気に入りも400名を突破~
総合評価も5000pt越え~

と、確認した瞬間に自身の目を疑いました^^;

皆様のご愛顧、まことにありがとうございます。


20:夕暮れ時の訓練模様、そして温泉旅行へ

20:夕暮れ時の訓練模様、そして温泉旅行へ

 

 

夕焼け空、茜色の雲、そして――――

 

「い~や~!?」

 

――――その空に響き渡るアリサの悲鳴。

 

「頑張れアリサ、僕はアリサを応援している」

 

――――空中を逃げまわるアリサの背後を、複数の半透明な弾丸が風を切って追いかける。

 

「ムリ、ムリだから! これまでもムリだと思ったけどこれはホントにムリだから!?」

「だいじょぶ、それだけ弱音を吐く暇があったら何とかなる」

 

――――そんなアリサの真正面から背後の物とは別群の弾丸が挟み撃ちを狙って急襲する。

 

「いいいぃぃやぁぁぁぁ!?」

 

悲鳴を上げながらも正面からの弾丸を、自身に当たるものだけを的確に選び、手に握る魔杖で地へと叩き落す。

 

当然だ。一瞬でも躊躇していたら、あの場で前後から弾丸に挟み撃ち。

後ろのじゃなく、前から向かってくるものに挑んでいったのは、なんともアリサらしいけど。

 

ここ数日の内に飛行魔法の基礎を教わったアリサは、危なっかしくも徐々に飛行技術を上達させていた。

 

空中と地上での戦闘における違いは、攻撃の来る方向だ。

地上では自身の足元を中心に半球状――地中と言う例外はあるにしても――、だけど空中の場合足元を含めた全方位から攻撃が来る。

 

今やっている訓練は、空間把握能力ととっさの判断力を身に付けるモノ。

 

2発分の物体で始めたこの訓練も、今では既に30を優に超える弾丸がアリサを追い回している。

 

 

そろそろ日も完全に(かげ)ってきて視界も良くないから、訓練を切り上げようと――――

 

「いったぁ!?」

 

――――声をかけようとした所でアリサに着弾。

 

 

その拍子に飛行魔法が解かれ、アリサが地面へと急降下……というか落下する。

普通だったらこんな簡単に飛行魔法が解けたりはしないんだけど……うん、もう少し厳しめに訓練しよう。

 

「……っと」

 

咄嗟に飛び出して、アリサを空中で抱きとめる。

さすがに墜落したら危ないし。

 

「じ、じ、じ、じ、じ――――」

「――――痔? 辛いらしいけど、僕は違うよ?」

 

生きているのが辛くなると聞いたことがある。

恐ろしい病だ。

 

「ちがーう!! ジーク! お姫様抱っこ!? お姫様抱っこナンデ!?」

「……アリサ、何処か頭うった?」

「……ちょ、ちょっと取り乱しただけよ」

 

何だその取り乱し方。

 

「それとも『親方! 空から女の子が!』っていいながら受け止めたほうが良かった?」

「……ちなみにそれを貴方に教えたのは?」

「んむ、鮫島に教わった」

「あぁ、私もう最近鮫島がなに考えてるか分からないわ……」

 

……むぅ、アリサが力なく笑ってる。

とりあえず、アリサとともにゆっくり地上に降りる。

 

「……えっとね、ジーク……私、重くない?」

「……それは今の抱っこと何か関係が?」

 

……体重と今の抱っこは関係ないと思う。

 

「いーから! 答えなさい!」

「ん、……もうちょっと筋肉付けて重くならないと、打ち合った時に弾き飛ばされちゃうかも」

「……アンタに聞いた私がバカだったわ」

 

何故かアリサに溜息を吐かれた、助けたのになんて理不尽な……。

僕はひとつため息を吐いた。

 

「まぁいいや。アリサ、ちょっと動かないで」

「ふぇ!?」

 

腕に抱えているアリサの額に、僕の額をコツンとぶつける。

アリサが身じろぎしないまま顔を真っ赤にし、表情だけ百面相状態に。

最終的に、真っ赤なまま目を閉じた状態で落ち着いた……どうしたのだろう?

 

アリサの奇行を観察しつつ、一方でアリサの状態を接触した額を介した探査の魔法で確認する。

腕がアリサ塞がってるから、接触状態で精査魔法っと。

一応僕の作ったコートの上からの着弾だったし、そこまでスピードが出ていたわけでもないから怪我はしてないだろうけど……念のためだ。

 

「……ん、特に打撲もなし」

「…………は?」

 

案の定、特に怪我も無い。僕は一安心して額を離した。

目を瞑っていたアリサが、変な声を上げつつまぶたを開ける。

 

「いや、だから、さっきの訓練で着弾してたけど怪我がないかの確n――――」

「――――……ふんッ!」

「あ゛ぅっ!?」

 

『ゴン』とひどい音が僕とアリサの額から鳴った。

脈絡も無く放たれた頭突きには、さすがの僕も対処できず、へんな声を上げる羽目になった。。

 

「……いった~」

 

頭突きをしたほうのアリサは、涙目でこっちを見ながら恨みがましい声を上げている。

 

「なぜにいきなり僕へ頭突きを?」

「まさかありえないとは思ったけど、乙女の純情を踏みにじった罰よ!」

 

取り合えず、空に浮かばせていた半透明の弾丸……半分くらい水の入った500mlのペットボトルを、放置しておいた籠に回収する。

それとは別に、冷やしておいたスポーツドリンクのペットボトルを手元まで浮かせてそのままアリサに渡し、彼女を腕から降ろす。。

 

「ん……、飲み物ありがと」

「問題ない、弟子の健康管理は師匠の義務」

「…………はぁ…・・・。(弟子の気持ち――想い――も察してくれたら完璧なのに)」

「んむ? 何か言った?」

「なんでも無いですよーだ」

「?」

 

アリサの言葉に、僕は首を傾げる。

 

「そろそろ晩御飯の仕度(したく)も出来るころでしょ。体のほこり落としたいから、軽くシャワー浴びてから行くって鮫島に伝えといて」

「了解」

「よろしくね。じゃ……行きましょ!」

 

アリサが僕の手を握ると、足早に歩き出す。

さらに空いているほうの手の指を、『ひょいっ』っと一振りするとボトルの入った籠が浮きあがり、僕たちの後をついてくる。

 

んむんむ、見事なものだ。……それにしても――

 

「何で手、繋いでるの?」

「……気分よ、気分!」

「そ。気分なら仕方ない」

 

辺りが薄暗くてはっきりとはしないけど、何だかアリサの顔が紅い。

……怪我は無かったはずなんだけど。

そんな事を思いつつも、僕は素直にアリサに引かれて歩き続ける。

 

僕たち二人は連れ添って、そのまま屋敷へと戻るのであった。

 

 

◇◇◇

 

 

「――――というわけで、私は今週の連休に友達達と温泉旅行に行くから」

「……で?」

 

時は変わって夕食後、アリサが教鞭をとる語学(日本語)の時間、何の脈略も無く放たれたその言葉に僕はそう返すしかない。

 

旅行の件は既に知らされている。

デビッドさんによると、同行するアリサの友人のご家族の方々は非常に腕が立つそうなので、護衛の必要は無いそうだ。

まさか旅行先まで行って、ジュエルシードがらみの騒動に巻き込まれはしないだろう、きっと。

 

「だーかーらー! 今ならまだ予約できるから、一緒に行こうってコトよ!」

「……だーかーらー、……僕の事はどう説明するの」

 

正直な所、理由は幾つか有るけど僕がアリサと一緒にこの旅行に行くのは宜しくない。

アリサの友達の……すずか?――ミィの件の現場になった家の人だ――嬢の方の家族もこの旅行に参加するらしい。つまり、僕と面識のある忍さんも来ている可能性が非常に高い。

 

……たんとーちょくにゅーに言うと、僕は前回のミィのとき、会話の途中で結界に巻き込まれた。

つまりあの場にいた忍さんと恭也からしたら、僕は目の前からいきなり消えた不可思議人物に他ならない。

 

 

…………会ってしまった時、僕はどう説明しろと?

 

 

……危ない橋は渡りたくない。

 

それ以前に、アリサからしたら僕はあの時あの現場にいなかったことになってるのが、この件を更に複雑にしてしまってる原因だ、ちょっと後悔。

 

「だ、だから海外からの留学生だとか、理由の付けようなんて――――」

「――――それはそれで、『何処の学校に通ってるの?』って聞かれたら終わりだと思う」

 

アリサの家に……ほーむすてー?しているとしたら、常識的に僕はアリサと同じ学校に通ってないとおかしい。

ほーむすてーさせている家族の子と一緒の学校じゃないっていうのは流石に変だと思う。

 

見ず知らずの国に来て、言葉も碌に分からない人を知り合いのいないところに放り込むとか……どんな拷問だろ?

 

「あーもう! 行きたそうな顔して……行きたいの行きたくないの!?」

「……行くわけにはいかない」

 

 

………………とても行ってみたい。

 

温泉とか言うのにも入ってみたいし、この国の郷土料理っていう「和食」も食べてみたいし、この国独自の“和風”っていうのも堪能してみたい。

せんべー布団って何? 畳ってどういうの? 鹿威(ししおど)しってホントに“ッコーン”って音がするの?

 

…………………………うん、とても行ってみたい。

 

 

「…………行くわけにはいかない」

 

大事なことだから二回言った。

 

「…………わかったわよ、これ以上無理には誘わないから(……もう、せっかくジークをすずか達に紹介できるいい機会だと思ったのに……)」

「……ん、わがまま言ってごめん」

 

哀しそうなアリサを見て小さく心が痛んだけど、こればっかりは仕方ない。

 

 

その日の授業は、その少し後にお開きになった……。

 

 

◇◇◇

 

 

「……ねぇ、ホントに一緒に行かない?」

「…………行かない。アリサ、行ってらっしゃい」

 

「むぅ、ジークの分からず屋……。……行ってきま~す」

 

翌朝、僕は玄関でアリサを見送っていた。

ホントは門の所まで送るべきなんだろうけど、車を運転してくるのは月村家の人たちらしいからそうも行かない。

 

待ち合わせ時間ぎりぎりまで僕を説得しようとしたアリサだったけど、しぶしぶといった感じで諦めて出掛けていった。

 

僕はアリサが見えなくなるまで見送ると、自分の部屋に戻ってベッドに飛び込む。

 

「…………むー」

 

……………………何もする気が起きない。

 

1時間か2時間か。

それくらいの間、意味も無くベッドの上でごろごろーとしていると、不意に部屋の扉が『コンコン』と叩かれ二人の人物が入ってきた。

 

「ジーク君、居るかね?」

「失礼します、坊ちゃま」

「……デビッドさんと鮫島、何か御用ですか?」

 

アリサの父上で僕の雇い主のデビッドさんと、いつもお世話になっている鮫島だった。

何か大事な用件かと、僕は姿勢を正す。

 

「いや、用というわけではないんだが……。……あー、そうだ鮫島、最近ちょっと疲れているんじゃないか?」

「ええ、旦那様。最近年のせいか疲れが取れませんで、多少ですが疲労が溜まっているかもしれません」

「……?」

 

話しの導入がいきなりすぎるし、何故か二人とも棒読みな三文芝居。

僕はいきなり目の前で始まった二人の寸劇に首を傾げる。

 

「ふ~む、それはよくないな。我が家に長年仕えてくれている鮫島に、疲労で倒れられでもしたら一大事だ。……おお! 何と言うことだ、ちょうど手元にアリサたちが行った旅館のご招待ペアチケットが!」

「おやおや、期限は今週の連休までですか。使わなければ勿体のうございますな」

 

……なんなんだろう、この台本を丸覚えしたような――――

 

「………………!?」

 

――――瞬間、僕の脳内にとある仮説が浮かび上がった。

 

僕は感情を表に出さないように心がけながら二人の会話を見守る。

 

「しかし困った、残念なことに私はこの連休はどうしても外せない用事が有ってな……」

「左様でございますか……」

 

 

……どきどき

 

 

「おおそうだ、いい案を思いついた!」

「ほう、その案とは?」

 

 

……どきどきどきどき

 

 

「アリサが不在なのだから、ちょうど護衛の仕事がないジーク君と――――」

「――――お供させてもらいます」

 

ダメだった、言い切るまで我慢できなかった。

そんな僕に対し、デビッドさんと鮫島が非常にいい笑顔を浮かべてハイタッチしてる。

最近この二人が主従関係だと、たまに忘れそうで困る。

 

「鮫島、今回の連休の間休暇を与える、ジーク君とともに温泉に行って日頃の疲れを解消して来い。これは当主としての命令だ」

「「承知いたしました!」」

 

こうして僕と鮫島二人、アリサに遅れること2時間半、旅館へ湯治(とうじ)に向け出発したのだった。

 

 

◇◇◇

 




最新話にあわせ、各所を変更中……
そしてそれとは別に、各所へ変更を加えています。

そのせいで、齟齬が発生してる箇所があるかもしれません。
そのような箇所を見つけましたら、連絡いただけると幸いです。

また、ご意見ご感想・誤字脱字・疑問質問などありましたら感想欄からお願いいたします。
感想を餌に、頑張って改訂続けていきますのでw ^^;

では、これからも拙作をよろしくお願いいたします。

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