やはり俺の魔物の王を決める戦いは間違っている。 作:ホッシー@VTuber
――友達がいて、遊んで、笑い合って。本当にこのまま……いつまでもこのまま……こんな幸せがいつまでも続けばいいと思っていた。いつまでも、このまま……
千年前の魔物。千年前の戦いで『石のゴーレン』と呼ばれる魔物の術を受け、生きたまま本と共に石にされてしまった魔物。魔界に帰ることもできず、標本のように固められ、千年の時を過ごした。
(くそっ……)
そんな魔物を連れたパティが公園で遊んでいた俺たちを襲って来たのだ。敵の数はパティを抜かして3体。
――キヨマロ、これを調べる時は慎重にね……その魔物の絵はただ彫られてるだけじゃない。その絵は“魔物”そのものだから。
不意にサイの言葉を思い出した。彼女は感じ取っていた、こいつらの負の感情を。
「『ザケルガ』!」
ガッシュの口から放たれた貫通力の高い電撃が黒い魔物に直撃する。しかし、ほぼゼロ距離で受けた黒い魔物は数秒ほどで何事もなく立ち上がった。千年前の魔物は今まで戦って来た魔物よりも遥かに頑丈だった。
「ガッシュ、こっちだ!」
すぐに狭い道を指さして駆け出す。3体同時に相手するのは分が悪すぎる。しかも、『ザケルガ』の直撃を受けても倒れるどころか怯みもしない相手だ。真正面から戦っても勝ち目はない。
「『ガンズ・ビライツ』!」
天使を彷彿とさせる魔物が光線をいくつも放つ。まずい、追い付かれ――。
「ぐぁああああああああああああ!」
「清麿!」
光線の直撃を受けた俺は絶叫しながら地面に倒れてしまう。すぐにガッシュが駆け寄って来るが、痛みで体を動かすことができなかった。
「ガ、ガッシュ……俺を、担いで走れ……早く」
「ウヌ!」
敵の呪文を受けたせいで走れなくなってしまった俺をガッシュが担いで狭い道を走る。
「逃げたわよ! とっとと追い詰めてとどめをさしなさい!」
それを見たパティが千年前の魔物たちに指示を出した。俺の狙い通りに。ある程度惹きつけた後、ガッシュに降ろすように言って俺たちを追って来る魔物たちの方を見た。
「3体相手なら……もうこれしかない」
一直線に並ぶこの道なら左右に逃げることはできない。後ろに下がってもこいつなら届く。こいつでまとめて吹っ飛ばしてやる。
「『バオウ・ザケルガ』!!」
呪文を唱えると雷の龍が魔物たちへ放たれた。こいつは幾度となく強敵を喰らって来た。だから、今回だって――。
「『ダイバラ・ビランガ』!」
「『ギガノ・ガランズ』!」
――しかし、雷の龍へ向けて放たれた2つの術を見て思考が停止した。龍と2つの術は正面から激突し、共に消滅して行った。
「そん、な……」
体に力が入らなくなり、俺はその場に倒れてしまう。『バオウ・ザケルガ』は他の呪文とは違い、“ある程度心の力を消費しなければ放てず、消費した分だけ威力が上がる”攻撃呪文だ。しかし、『バオウ・ザケルガ』を放った後、俺は戦闘不能になってしまう。起死回生の諸刃の一撃。
「どうやら……最大の術もやぶれちゃったようね」
今にも手放してしまいそうな意識を必死に繋ぎ止めているとそんな声が上から聞こえる。視線をそちらに向けると腕を組んだパティが勝ち誇った顔で俺とガッシュを見ていた。その後ろには千年前の魔物たちとそのパートナーの人間。
「だ、まれ……まだ……まだだ……」
こんなところでやられるわけにはいかない。俺はガッシュを優しい王様にすると決めたのだ。言うことの聞かない体に鞭を打って本を体で隠した。
「強がるのね。本を体に隠すだけで精一杯なくせに」
「ヌゥウウウ!」
その時、ガッシュが俺を守るように両手を広げながらパティの前に立ちはだかった。ああ、そうだ。俺もガッシュもまだ諦めていない。絶対に生き残ってやる。たとえ、この体がボロボロになってもこの本だけは守ってみせる。
「あら? 呪文が尽きてもまだ戦うの? 涙ぐましい友情ね。でも、同情はしないわよ。魔物は当然だけど……人間の方も情けや感情は持ってないから」
パティはそう言いながら指を鳴らすと魔物の1体がガッシュを羽交い絞めにした。だが、それよりも彼女の言葉で気になる部分があった。
「おまえら……やはり本の持ち主にも何かしたのか?」
「あ、やっぱり気付いてたの? 千年前の魔物たちの本を使える人間はとっくに死んでいる。それなのにこの人たちは本を使いこなしている。不思議よね」
「ふん……それより気になったのは、こいつらの戦い方だ。魔物はもとより人間の方も戦いに全く迷いがない。『バオウ・ザケルガ』を出しても恐れるどころか反撃してきやがった」
千年前の魔物たちが復活したのは最近のことだ。それを考慮すると千年前の魔物のパートナーは戦闘慣れをしていないはず。千年前の魔物が強いからと言って『バオウ・ザケルガ』を前にして一切恐怖せず、反撃に出られるとは思えない。
「もちろんよ。この人たち、戦うこと以外の感情は一切持ってないもの」
「……何?」
「この人たち全員、ロードの力で心を操られてるの」
「……どういう、ことだ」
俺の質問にあっけらかんとした様子でパティが答えた。その言葉の意味を俺は理解できなかった……いや、理解したくなかったのだ。心を操られている? それじゃまるで“あの子”のようじゃないか。
「いいわ、話してあげる。千年前の魔物を蘇らせたロードは彼らに本の持ち主を与えるために人を集めたの。“可能性のある人”を、ね」
こちらの様子に気付いていないのか、彼女は得意げに笑って語り始めた。
「千年前の持ち主はすでに死んでいてもその子孫は残っているわ。そこでビョンコが必死になってその子孫を探し出した。その数は本の数の10倍以上! もちろん、子孫だからって必ずしも本が使えるわけじゃない。だから……一人一人実験を行ったの。でも、ほとんどの人は本を読むことさえできなかった。実際に術を出せた人は皆無だったわ。カッチリと歯、歯……えっと、歯――」
「……歯車か?」
「そう、歯車が完全に合わなかったのよ」
「その歯車をどうやって合わすことができたんだ?」
何となくわかっている。でも、確認せずにはいられなかった。勘違いであって欲しかったから。
「ロードの力よ。あいつの心を操る能力で心と本のズレを無理矢理合わせたの。多少の失敗はあったようだけど上手くいったわ。あいつは『心の形が似ていればあとは波長を合わせてやるだけだ』って言ってた。そのついでに戦うこと以外の感情をなくしたのよ」
――私が……やったんでしょ? 私が……みんなを傷つけたんでしょ?
「ほら、人間の中にも戦いを嫌がる人もいるでしょ。それに臆病な人や情け深い人……そういう人でも戦闘マシンになって貰わなきゃいけないじゃない? だから、戦うことに邪魔な感情をなくしたの。そしたら……ほらご覧の通り、あなたたちも簡単に跪くぐらい強く――」
「だまりやがれちくしょうが!」
「お主ら、自分が何をしておるのかわかっておるのか!?」
パティの言葉を遮って俺とガッシュは絶叫していた。ああ、怒りでどうにかなってしまいそうだ。心の力が残っていたら魔本は禍々しい光を放っていたに違いない。そう思ってしまうほど俺は怒っていた。
「な、何よ、あなたたち……動けないくせにまだ、私に……たてつく気? そんな状態で……術だってもう出せないんでしょ? 怖くなんか」
「ふざけんじゃ……ねぇぞ!」
「ッ!?」
震える声で強がっていたパティだったが俺の声に肩を震わせた。しかし、そんなことどうでもいい。俺は『バオウ・ザケルガ』の反動で動けなくなった体に力を込めた。
「人の心を操って……」
ああ、そうだ。俺は――俺たちは知っている。
「戦いたくねぇ奴も……無理矢理戦わせている、だと?」
――魔界に優しい王様がいてくれたらこんなつらい戦いはしなくてよかったのかな……?
戦いたくなかったのに無理矢理戦わされ、泣いていた子を。苦しいはずなのに、悲しいはずなのに、消えていく中、笑顔でそう言った子を。
「くそ……やろうが。そんな奴まだいたのか……」
意識は朦朧としているし、こんなに感情を爆発しているのに魔本は光もしない。何とか立ち上がったが、今にも倒れてしまいそうだ。だが、それがどうした。
「負けられねぇな」
そうだ。俺たちはあの子の涙を見て決心したのだ。優しい王様を目指す、と。だから、こんなところで負けるわけにはいかない。
「そんな奴を王にさせるわけにはいかねぇなあああああ!」
「そのとおりだぞ、清麿」
立ち上がった俺にガッシュが賛同し、千年前の魔物の拘束から逃れようと必死に腕に力を込める。
「この者たちに負けてはならぬ。もう二度と……二度とあのような涙を流させてはならぬ!」
「な、何してるの? 千年前の戦士……早く、早くあの人たちを」
叫んだガッシュはそのまま千年前の魔物を投げ飛ばした。それを見たパティが声を震わせながら魔物たちに指示を出そうとしている。
「ガッシュ!」
まだ終わっちゃいない。まだ終わらせない。こんなところで負けていられない。向こうが怯んでいる今がチャンスだ。この術に全てを込めろ。この一撃であいつらを吹き飛ばせ。起死回生の一撃だ。だが――。
「『ザケル』!」
――放たれた攻撃はとても弱々しいものだった。
「……ふ、ふふ。何よ、もう限界だったのね。最後の一撃もまるで力がないじゃない」
腕を交差させて電撃を防いだパティは安堵のため息を吐いた。腕で防げるほど俺たちの攻撃は弱かったのだ。
(くそ……くそっ!)
「ふん、無理なのよ。あなたたちがどれだけもがこうとしょせん無駄なの。千年前の魔物は40近くもいるのよ? 戦力が、大きさが違うのよ! たった二人で強がったって何もできないのよ!!」
「『ガロン』!」
「『ビライツ』!」
「『グランセン』!」
千年前の魔物たちの攻撃が俺たちに迫る。頼む、出てくれ術。俺たちはこんなところで負けてはならないのだ。こんな奴らを王にしてはならないのだ。だから頼む。頼む。頼む!!
「『セウシル』!」
俺たちの周囲に現れたドーム状のバリアが敵の攻撃をはじき飛ばした。パティはもちろん、俺とガッシュも突然のことに目を丸くする。
「これ、は……」
「うんうん。頑張ったね、ガッシュ、キヨマロ」
見覚えのあるバリアを呆然と眺めているといつの間にか俺たちの前に誰かが立っていた。腰まで届く黒髪。戦いやすそうな白いワンピース。そして、こちらに向けている群青色の瞳。
「サ、イ……」
「さーて、どうにか間に合ったことだし……」
俺たちを庇うように一歩前に出たサイは構えた。
右手と右足を前に出して半身に、左手を相手からみえないように隠すような構え方。
「これだけ大暴れしたんだからこっちにも付き合ってくれるでしょ? テストプレイさせてね」
そう言ってサイは凄まじい跳躍力で相手に突っ込んだ。
今週の一言二言
・FGOで第7章バビロニア始まりま――あ、終わりました。師匠の絆が上がりません。先ほどレベル9になりましたが……レベル10、間に合わなそうです。