やはり俺の魔物の王を決める戦いは間違っている。   作:ホッシー@VTuber

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LEVEL.96 彼は誰にも悟られることなく右手に血を滲ませる

「キヨマロたちが、狙われてる?」

 サイがナゾナゾ博士にそう聞き返した。今、高嶺たちは複数の魔物に狙われているらしい。だが、それは敵の作戦であり、仲間である俺たちが助けに入るのならまだしもナゾナゾ博士がわざわざ俺たちに連絡を取る理由がないのだ。

「ッ……もしかして!」

 その時、ティオが目を見開いて叫んだ。何か思い当たる節でもあるのだろうか。

『そう、恵君やティオ君には話したが清麿君たちを狙っているのは千年前の魔物たちだ』

「千年前の、魔物?」

 聞き覚えのない単語に思わず、呟いてしまった。魔物の王を決める戦いは千年に一度、行われる。千年前とはつまり、『前回、この戦いに参加した魔物』なのだろう。しかし、この戦いのルールに『魔本を燃やされた魔物は魔界に強制送還される』というものがある。千年前の魔物が人間界にいるわけがないのだ。

『サイ君は見たことがあるだろう? あの石版じゃよ』

「っ! まさかあれに千年前の魔物が封印されてたってこと?」

『うむ……サイ君があの石版から感情を感じ取ったのも頷ける。そして、とうとうその封印が解かれてしまった。その数、40。奴らは今回の戦いに参加している魔物たちを一掃する気だ』

 彼の言葉に俺たちは息を呑む。すでに今回の戦いに参加している魔物の数は40を切っている。そんな中、新たに40体もの魔物が現れ、複数で1体の魔物を狙えばどうなるか? 決まっている。今回の戦いに参加している魔物はすぐに全滅してしまう。もしかしたらサイが合同誕生日パーティーを開こうと提案した時、千年前の魔物たちのことを思い出したのかもしれない。

『千年前の魔物は手強い相手だ。きっと危険な目に遭うと思うが――』

「――サイ」

 ナゾナゾ博士は切羽詰ったような声でそう言った。タイミング的にギリギリなのだろう。申し訳ないが悩んでいる暇はない。俺はナゾナゾ博士の言葉を遮り。鞄に手を突っ込む。そして、中に入っている魔本に触れながらサイに声をかけた。ここから高嶺たちが住んでいるモチノキ町まで結構な距離がある。普通に向かっていては間に合わないかもしれない。

「……」

「……ん? どうした?」

 周囲に見えないように本に心の力を込めているとサイが目を見開いて俺を見上げているのに気付いた。大海とティオも俺を見ている。

「ハチマンが……真っ先に動いた……」

「え? 驚くとこ、そこ?」

「だって、ねぇ?」

「う、うん……」

「吃驚したわ」

 サイが二人に同意を求めると大海もティオも頷く。魔本の輝きが一気に弱くなった。せっかく溜めたのにどうしてくれる。

『八幡君?』

 サイたちの様子がおかしいことに電話越しでもわかったのかナゾナゾ博士が俺の名前を呼んだ。自然と全員(ナゾナゾ博士は電話の向こうだが)の視線が俺に集まる。何か言わなければならない空気を感じ取り、ため息を吐く。

「まぁ……なんだ。あいつらは、仲間なんだし。放っておくわけにもいかんだろ」

「ハチマンが……デレた!?」

「デレた言うな」

 いや、本当にやめてください。大海も成長した我が子を見るような微笑ましい眼差しを向けないで。

『……ハハ。君らしくないね』

 確かに数か月前の俺だったらきっとサイに引っ張られる形で助けに向かっていただろう。だが、今の俺は違う。仕方なくではなくそれを当たり前だと思っている。まさか俺が『自分から仲間を助けに行く』なんて過去の俺には想像もできないだろう。

「ティオ、本の準備をして」

 自虐的な笑みを浮かべていると大海が自分のパートナーに指示を出した。ティオもすぐに頷いて背負っていた鞄から魔本を取り出す。どうやら、大海たちの魔本はティオが持っていたらしい。

「八幡君の言う通りよ。仲間なんだもの。助けに行くに決まってる。それに危険な目に遭うのはいつだってそうだった」

 そう言った大海は俺を見て笑う。ああ、そうだ。遊園地で初めて共闘した時だって、ハイルと戦った時だっていつもピンチだった。千年前の魔物が手強いからと言って躊躇するほど俺たちは臆病者じゃない。これまでの戦いで培った経験が背中を押してくれる。

「だから安心して。ガッシュ君と清麿君は必ず助けるわ」

『っ……』

「力を合わせましょう! きっとこの戦い、ナゾナゾ博士、キッド、あなたたちの働きにかかってる!」

 千年前の魔物は複数人で襲い掛かってくるだろう。なら、俺たちも数を集め、対抗すればいい。そうすれば少なくとも数の暴力で蹂躙されることはないはずだ。だからこそ、仲間集めが重要になる。その役目に最も適しているのはナゾナゾ博士だ。

『……ああ、任せておきたまえ。そちらも頼むぞ』

 そう言ってナゾナゾ博士との通話が切れた。時間がない。急いで高嶺たちのところへ向かおう。

「さてと……ハチマン、どんな作戦思い付いたの?」

「……え? 八幡君、何か思い付いてたの?」

 サイの質問に答える前に大海が目を丸くした。思い付いていなかったら魔本に心の力は溜めないと思うのだが。

「とにかく今は時間がない。一刻も早く高嶺たちと合流するぞ」

「でも、ここからモチノキ町まで結構な距離よ? 上手い具合に電車があればいいけど」

「いや、交通機関は使わない。サイにお前たちを高嶺たちのところまで運んで貰う。幸い、サイの術は一度唱えてしまえば効果が切れるまでどんなに俺から離れても消えないからな」

 ティオの呟きを否定して近くの路地に向かう。さすがにこんな道のど真ん中で呪文を唱えるわけにはいかないからな。サイたちも俺の後を追って来る。

「え、えっと……つまり?」

 路地に入った後、大海が作戦について聞き返して来た。ちょっと急ぎ過ぎて説明が疎かになっていたかもしれない。

「つまり、私がメグちゃんとティオを担いでキヨマロたちと合流するってこと」

 しかし、サイはすでに理解したようで俺の代わりに説明してくれた。今の内に呪文を唱える準備をしよう。まぁ、魔本を開くだけなのだが。

「その間、八幡君は?」

「俺は交通機関を使って向かう。これもあるしな」

 片手で持っていた荷物を軽く掲げた。さすがにこれを持ちながら移動すると時間がかかってしまう。全員で移動して遅くなるならいっそのこと守りの術が使える大海たちを高嶺たちと合流させた方がいい。

「それは駄目!」

 だが、すぐに大海が首を振って叫んだ。いきなりだったので驚きのあまり肩を震わせてしまう。え、何か駄目なところあった? 結構いい作戦だと思うのだが。

「私たちが離れてる間に八幡君が狙われたらどうするの!?」

 ああ、確かにそれは考えていなかった。千年前の魔物が高嶺たちだけでなく俺たちも狙っている可能性があったか。

「サイ、近くに魔物の反応は?」

「ううん、ないよ。千年前には魔力隠蔽を使える魔物はいなかったはずだから安全だって言っていいと思う」

「だってさ」

「……千年前の魔物は手強いって言ってたわ。八幡君がいないとサイちゃんの術は使えないのよ?」

 もちろんそれぐらいわかっている。わかっているからこそ……この作戦を思い付いたのだ。

「サイなら……俺がいなくても戦える。とにかく今は合流することを優先したい」

「でも!」

 それでも食い下がろうとした大海だったが今の状況を思い出して口を閉ざした。

「大海、いいか?」

「……うん」

 渋々と言った様子で頷く大海。その原因が俺なので少々罪悪感を抱くが頭を軽く振って切り替える。

「詳しい作戦を言うぞ。大海とティオをサイが担いで全速力でモチノキ町に向かい、サイの魔力感知を頼りに高嶺たちと合流してくれ」

「全速力って……どれくらい速いの?」

 何故か体を震わせながらティオが問いかけて来た。そう言えば大海たちは文化祭の時にサイに運ばれたことがあった。怖かっただろうな、あれは。

「とりあえず、前よりは速い。空飛ぶし」

「そ、空!? 空飛んで行くの!?」

「ああ。まぁ、『サフェイル』は安全だから気にすんな」

 『サフェイル』の補助効果に『サイ及びサイが触れている物に対する風圧を無効』と『寒さ軽減』がある。もし、それがなかったら飛行時、風圧による窒息死あるいは凍死してしまうだろう。

「じゃあ、そろそろ行くぞ」

「え、ちょ、ちょっと待ちなさいよ!」

「はーい、ティオ黙っててねー」

「あ、は、放しなさい! 放して!」

 サイが大海とティオの腰に腕を回して軽々と持ち上げる。あー、そうか。ティオは高いところが駄目だった。だが、今は緊急事態である。我慢して貰おう。

「八幡君」

「ん?」

「……気を付けて」

「……お前らもな。『サフェイル』」

 俺が呪文を唱えるとサイの背中から半透明の2対4枚の羽が生えた。更に心の力を溜め、次の呪文を唱える。

「『サグルク』」

 『サグルク』の副産物である肉体強化でサイの飛行スピードも僅かにだが上昇する。『サグルク』の本来の効果を使う時は来るのだろうか。

「『サウルク』」

 今回の要である速度を上げる呪文を唱え、準備は完了した。3つの呪文の重ね掛けなら数十分は持つはずだ。今回の場合、呪文の掛け直しができないので効果が切れたらそれまでだが。

「ハチマン、行って来ます」

「ああ、行って来い――うおっ」

 サイと軽く言葉を交わした直後、凄まじい風が俺を襲う。サイが飛び立った時に生じた風だ。すぐに上を見上げるがすでに彼女たちの姿はない。

「……行くか」

 さて、これからどうするか。さすがに群青色に輝いている魔本を持ったまま、移動するわけにもいかない。

「……はぁ」

 仕方ない。上手く荷物で魔本を隠しながらタクシーに乗ろう。俺はため息を吐いた後、魔本を“少しだけ血がこびりついた右手”に持ち替えた。




八幡の考えた作戦の欠点
・八幡が狙われた場合、対処できない。
・サイが術を使えない。

上の問題はサイが安全だと判断したので問題なしとなった。
下の問題は”八幡がいなくてもサイならどうにかできてしまう”ので問題なしとなった。









今週の一言二言


FGOでクリスマスイベが始まりましたね!今回は全力全霊で周回しますよー!
……と、意気込んでいたせいなのかな。ボックスガチャ30箱開けるまで邪ンヌ礼装落ちてくれませんでした。FGOクリスマスイベ6時間耐久周回生放送しましたが、その6時間では落ちてくれませんでした。
後、イシュタルさん来ません。きっとうっかり別のガルデアに行ってしまったのでしょう。もし、イシュタルさんをお迎えで来た方がいましたらそのイシュタルさんは私のカルデアに来るはずだったイシュタルさんだと思いますのでご連絡ください。迎えに行きます。



先週の一言二言で語った『オルタ』という単語の意味を間違っていたようです。正しくは『変化』や『もう一つの』、『代わりの』という意味だそうです。勉強不足です、すみませんでした。
あぁ、にわかだとばれてしまう! いやああああああ!

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