やはり俺の魔物の王を決める戦いは間違っている。   作:ホッシー@VTuber

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LEVEL.95 彼らは未来の楽しみのために決意し、面倒事に巻き込まれる

「はぁ……」

「もう……そんなに嫌なの?」

 バレンタインデーイベントまで残り3日となった土曜日。俺とサイは駅に向かって歩いていた。その途中、何度もため息を吐いている俺を鬱陶しく思ったのかサイが少しだけ不満そうに質問して来た。

「嫌に決まってんだろ……」

「ハチマンは荷物を持つだけでいいんだよ? さすがにチョコ買って来いとか言わないから」

「それでも浮くだろ。今日とかめっちゃ女子いるだろうし」

 バレンタインデーまで約1週間。準備もあるだろうから一番混んでいるのではないだろうか。そんな日に女に紛れる腐った目の男とか怪し過ぎる。やばい、通報される。

「じゃあ、メグちゃんと一緒に行動したら? こいび――うん、ハチマンは私と一緒ね。あら不思議! 妹の我儘に付き合うお兄ちゃんの完成です」

「おい、何言いかけたんだ。そして、世間からしたら俺たちは兄妹には見えん。完全にチョコで釣られた幼女とチョコで幼女を釣った変質者だ」

「ねーねー、おじさん! チョコ何買ってくれるの? ついて来たら買ってくれるんだよね!」

「止めてくださいお願いします」

 パートナーを犯罪者に仕立て上げないで下さい。俺の手を握ってニコニコ笑っていたサイはすぐに無垢な幼女の演技を止めて呆れたように息を吐く。

「ハチマンはちょっと自意識過剰すぎ。はっきり言うよ? 今日の女の子たちは戦士です。勇者です。冒険者なのです。そんな人たちがハチマンを気にすると思う?」

「……しないな」

 俺を気にするならより良い獲物(チョコ)を探すだろう。今後の人生に関わるのだ。サイの言うように今日の彼女たちは戦に赴く戦士なのだろう。まぁ、大海のように義理のために戦場に行かなければならない人もいるだろうけど。大海、頑張れ。遠くから応援しているぞ。

「あ、おーい!」

 その時、前方からティオの声が聞こえた。視線をそちらに向けるとこちらに手を振るティオとその隣に立つ大海を発見する。変装して来いと言ったからか、大海はサングラスとマスクを装備し、髪をポニーテールにしていた。今までストレート姿しか見たことがなかったのでちょっと新鮮だ。だが、俺たちと会った途端、サングラスとマスクを外すのは止めなさい。誰が見ているかわからないんですよ。

「こんにちは、八幡君。久しぶりだね」

「うっす……何でここに?」

 待ち合わせは駅だったはずだ。どうしてこんなところにいるのだろうか。

「駅すごい混んでたのよ。ほら、駅の近くに大きなショッピングセンターがあるじゃない? 皆そこに行くみたいで」

「C・oneな」

 どうやら、戦士たちはこぞってC・oneに向かっているらしい。おそらくその混みようを見て駅前で待ち合わせしていたら合流できないと判断した彼女たちはわざわざ迎えに来てくれたらしい。

「でも、そんなに混んでるならC・oneやめる?」

 ティオや大海と挨拶を交わしたサイが皆にそう問いかけた。荷物持ちとは言え、一般人の俺が戦場に突撃したら死んでしまう。死ぬにはまだ早すぎる。兄として小町の嫁入りまでは生きなければならない。あ、でも小町は結婚しないから俺不死身だわ……なんか前にもこんなこと思ったような気がする。

「そうね。チョコの材料さえ買えればいいから大きな場所じゃなくてもいいのよね」

「じゃあ、こことかどう?」

 そう言って大海が携帯をサイとティオに見せる。事前にチョコの材料が買える店を探していたようだ。

「へっくしっ!」

 俺は付いて行くだけなので携帯でも弄ろうかとポケットに手を突っ込んだ時、思わずくしゃみをしてしまう。不意打ちだったので手で押さえることができず、俺のくしゃみを聞いたサイたちが一斉に俺の方を見た。

「あ、ごめんなさい。寒かった?」

「いや気にすん――くしゅっ」

 心配そうに聞いて来た大海に首を振って言うがタイミング悪く2発目のくしゃみが出てしまう。いや、違うんです。マフラーの毛が鼻に入っただけなんです。だからサイさん、大海さん、『もう強がっちゃって』みたいな顔しないでください。

「どこかのお店に入って話そっか」

「あ、じゃあ、私の行きつけのお店でいい?」

 1月初旬に由比ヶ浜と行ったあの店のことだろう。あの時は陽乃さんとばったり遭遇したせいで大変な目に遭ったな。

「なんで行きつけのお店があるのよ……別にいいけど」

 呆れたように呟いたティオだったが反対ではないらしい。俺と大海も頷いたのでサイの行きつけの店に行くことになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ、あったかーい」

「もっとしゃきっとしなさいよ。これからが大変なのに」

 お店に入った俺たちはさっそく温かい飲み物を頼み、体を暖めていた。特にサイは買い置きさせて貰っているピーナッツを貰い、満足そうにだらけている。そんな彼女をティオが注意していた。

「ふふ、サイちゃん楽しそうね。八幡君は来たことあるの?」

 わいわいとはしゃいでいる魔物娘(まものっこ)たちを眺めていた大海が質問して来る。

「1月初めに1回だけな」

「あ、もしかして雪ノ下さんの誕生日プレゼントを買いに行った時?」

「……何で知ってんだ?」

「『ユキノの誕生日プレゼント買いに行く』ってサイちゃんからメール来たの。ものすごく嬉しそうにしてたから」

 サイはあまり物事に興味を示さない。特にイベント系は悟っていると言うか、最初から期待していない。だが、誕生日だけは違った。おそらくサイが誕生日を得たあの出来事がよほど嬉しかったのだろう。

「そう言えば、八幡君の誕生日っていつ?」

「8月8日。因みにサイと一緒だ」

「そんなに嬉しそうに言わなくても……8日?」

 最初は苦笑を浮かべていた彼女だったがすぐに聞き返す。何か問題でもあったのだろうか。もしかして俺の名前が8月8日に生まれたから『八幡』と付けられたのがばれたのか。

「へぇ、8日なの? 恵と近いわね」

 その時、サイと話していたティオが話に割り込んで来た。ああ、そういうことね。サイも興味深そうに大海を見ているし。誕生日好きね、君。

「えっと、8月12日なの」

「おー、近いね。すごい偶然!」

 確かに近かった。きっと彼女も夏休みのせいで誰にも誕生日を祝って貰えなかったのだろうな。そんなわけないか。むしろ、仕事関係で祝って貰ってそうだ。撮影が終わった後にサプライズでケーキ出て来る奴。

「あ、そうだ! なら、今年の誕生日は3人まとめて祝おうよ! 皆呼んでさ!」

「「「……」」」

 サイの提案に俺たちは思わず、口を閉ざしてしまう。あと半年。短いようで長い時間だ。果たしてそれまで俺たちは生き残っていられるのだろうか。俺はサイを守れるのだろうか。

「……駄目、かな」

 俺たちの表情を見た彼女は不安そうに目を伏せる。明日どうなっているかわからないことぐらいサイだってわかっているはずだ。それでもサイは俺たちの合同誕生日パーティーを提案した。

「……そう、だな」

「八幡君?」

 俺が真っ先に頷くと思わなかったのか大海が意外そうな表情を浮かべた。俺らしくないことぐらいわかっている。だが、弱気になったところで生き残れるわけではないし、未来に楽しみがあった方がモチベーションも上がる。それに――。

「やろう。サイの頼みだし」

 ――サイがやりたいと言っているのだ。俺が断るわけがない。

「ハチマンにとって人生初の誕生日パーティーだね」

「おい、なんで知ってんだよ。出会ってまだ1年だぞ」

「……そうね。やりましょう、合同誕生日パーティー」

「ええ、ガッシュ達も呼んで盛大に。これでもかってぐらい祝ってあげるわ!」

 俺たちのやり取りを見ていた大海とティオも笑顔で頷いた。ああ、だから生き残ろう。絶対に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あー……」

 両手の荷物を持ち直した後、気の抜けた声が漏れた。あれからすぐにチョコの材料を買いに行ったのだが、欲しかった材料がなかったり量が足りなかったりと1つの店では買い切れず、数件の店を梯子する羽目になったのだ。荷物は重いし、店まで遠いし、寒いし、女子の目が痛いし、散々な目に遭った。

「八幡君、大丈夫?」

 俺の隣を歩いていた大海の問いかけに無言で頷く。ここまで来たらさっさと買い物を済ませた方が早い。因みにサイとティオは買い物リストを見ながら話し合っている。まだ買うんですか?

「無理しないでね? 辛かったら休憩するから」

「早く終わらせたいからいい」

 イラついていたせいかきつい言い方になってしまう。まずいと思いながら大海の方を見ると案の定、彼女は申し訳なさそうな顔をしていた。

「本当にごめんね……付き合わせちゃって」

「……いや、こっちこそすまん。言い方きつかった」

「ううん、気にしないで。悪いのはこっちだから。あ、そうそう。八幡君って甘いの好き?」

 少しだけ変な空気になってしまったからか話題を変えた大海。だが、何故このタイミングでそれを聞くのだろうか。

「嫌いじゃないけど何で?」

「甘いの嫌いだったらチョコ以外のお菓子あげようと思って」

「……え? くれんの?」

「もちろん」

 バレンタインって母親と妹と妖精さんからチョコを貰う日だと思っていたので驚いてしまう。いや、待て。ドッキリかもしれない。どこにカメラがあるんだ? あそこの茂みか?

「迷惑、だった? やっぱり甘いの嫌い?」

 そんな大海の不安そうな声で我に返る。アイドルからチョコ貰えるなんて思いもしなかったので錯乱してしまった。

「迷惑じゃ、ない……甘いのも好きだし」

 不安そうにしている大海を見て思わず、言葉を詰まらせてしまう。こうやって普通に話しているが相手はアイドル。ドキッとしてしまった俺は悪くない。相手が強すぎただけだ。

「ならよかった。楽しみにしててね。頑張ってつく――」

 その時、大海の言葉を遮るように携帯が鳴った。慌てて大海が鞄から携帯を取り出すが何故か彼女は眉を顰める。

「どうした?」

「知らない番号なの」

「知らない番号? やばい奴か?」

「ううん、仕事関係の電話とかでよくあるから……ちょっとごめんね」

「あいよ。おーい、ちょっと待てお前ら」

 大海が電話に出たのでサイたちに声を掛けて止めた。相当話し込んでいたのか首を傾げながら振り返った2人はすぐに大海を見て立ち止まる。

「っ……なんで私の携帯の番号知ってるのよ!?」

 だが、その後すぐに目を丸くしながら大海が叫んだ。ストーカーからの電話とか? 男と出かけているのを見かけて脅迫電話して来たとかありそう。まぁ、こっちにはサイがいるので速攻で捕まえられると思うが。念のため、魔本に手を触れさせていると俺たちの視線に気付いた彼女はすぐに携帯を操作してスピーカーモードにする。

『スピーカーにしてくれたかい? では改めて……ハハハハハ、私の名前はナ――』

「そういうのいいから」

『……はい』

 どうやら電話の相手はナゾナゾ博士だったらしい。なんで大海の携帯番号を知っているのだろうか。もはや犯罪である。大海やティオの反応からすでに知り合いっぽいし、高嶺たちと同じように振り回されたのかもしれない。

『やはりサイ君がいるとやり辛い……さて、本題に入ろう。今、複数の魔物たちが清麿君とガッシュ君を狙っている。急いで助けにいってくれないか?』

 そんなナゾナゾ博士の言葉に俺たちは顔を見合わせる。また、面倒なことに巻き込まれたようだ。














今週の一言二言


FGOのクリスマスイベで『ジャンヌ・ダルク・オルタ・サンタ・リリィ』というキャラが出る。因みにオルタは『闇堕ち』みたいな意味で、リリィは『若い、幼い』みたいな意味がある。
さて、考えてみて欲しい。ジャンヌ・ダルクは元々普通の街娘だったはずだ。
つまり、ジャンヌ・ダルク・オルタ・サンタ・リリィは

『クリスマスが楽しみでサンタのコスプレをしてしまったただの捻くれた街娘』

だということだ。
……まぁ、実際はギルガメッシュの怪しい薬を飲んだせいで背が縮んだらしいけど、完全にコ○ン君ですやん。可愛いから許します。


あとはがオケでSSRゆかマキ出ません。助けてください。

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