やはり俺の魔物の王を決める戦いは間違っている。 作:ホッシー@VTuber
後4~6話で千年前の魔物編に行けるかもです。
高嶺たちとナゾナゾ博士の戦いから数日後、とうとう冬休みが終わってしまった。もし、今魔物との戦いに巻き込まれてしまったら魔本の輝きは従来の半分以下になってしまう自信がある。そんな俺とは対照的にクラスメイト達はがやがやと騒いでいる。インフルエンザが流行っているのか数人ほど休んでいるが、久々の再会だ。積もる話もあるのだろう。だが、これほどまでクラスメイト達が浮足立っている原因はそれだけではない。
「はぁ……」
俺は朝のSHRで配られたプリントを一瞥し、ため息を吐いた。
『進路希望調査票』。今までにも何度か実施されたものだが、担任の話によるとこれが二年生最後のものらしい。こんな紙切れ一枚で三年の文理選択最終決定がなされるのだ。そして、嫌でも高校二年生の――この時間が終わることを意識させられた。正直言って今は魔界の王を決める戦いのせいで自分の将来のことなど考えられない。まぁ、成績的な意味で文系一択なので悩む必要はないのだが。
「ヒッキー」
そんなことを考えていると不意に後ろから聞き慣れた声が聞こえた。振り返ると可愛らしい財布を持った由比ヶ浜が立っていた。
「おう。どうした?」
「この前のお金、返そうって思って」
「あ? お金?」
「ほら、ゆきのんの誕生日プレゼント買いに行った時の」
そう言えば、あの時、サイを追いかけるために数人の野口さんをテーブルに叩きつけたような気がする。律儀にも返しに来たようだ。
「はい」
「ああ……って、何で3枚?」
「あの時、隼人君が払ってくれたから」
由比ヶ浜の言葉に思わず、葉山の方に視線を向けてしまう。何故か葉山グループの人たちはこちらを見ていた。何でこんな注目されているのだろうか。このまま突っぱねても面倒になりそうなので素直に受け取り、財布にしまう。おかえり野口さん。放課後、君たちは数冊の単行本と交換されるだろうけど。
「ヒッキーは進路どうするの?」
野口さんたちを返しに来ただけではなかったのか由比ヶ浜が俺の机の上に置いてあるプリントを覗き込みながら問いかけて来た。
「文系一択」
「あー……そう言えばそうだったね。あたしも文系かなー。理系とかわけわかんないよねー。何だっけ……すいへー?」
「……せめてリーベまで覚えていてあげろよ」
まぁ、由比ヶ浜の場合、理系よりも文系の方がマシという感じだろう。日本語も怪しいけど。
「あ、そうそう! 今日、部室でゆきのんの誕生日会するからね! 勝手に帰っちゃ駄目だからね!」
「はいはい、わかってるっての」
サイも楽しみにしているのだ、勝手に帰るわけがない。サイも昨日からうきうきした様子で青いリュックサック(出会った当初のリュックサックはあの時に壊れてしまったので新しく勝った物)にお菓子類を詰め込んでいた。サイにとって誕生日は特別な物だからな。
俺が頷いたのを見て満足したのか由比ヶ浜は手を振りながら葉山たちの元へ帰って行った。さて、授業の準備でもしますかな。
「お誕生日おめでとー!」
「おめでとさん」
「ユキノ、おめでとー!」
「おめでとうございますー」
部室に響くお祝いの言葉。それらの言葉をかけられた雪ノ下は照れているのか、居心地悪そうに身を捩った。今朝、由比ヶ浜に言われたように予定通り、部室で雪ノ下のお誕生日会が開催された。お誕生日会と言ってもケーキとお菓子を食べるだけだが。
「あ、ありがとう……そ、そのお茶とかあった方がいいのかしら」
「それなら私がやるよ。主役は椅子に座ってて」
「え、ええ……」
席を立ちかけた雪ノ下をサイが笑顔で止め、紅茶の準備を始めた。かちゃかちゃと食器が鳴る音に混じって隣から感心するような声が漏れた。
「へー、雪ノ下先輩、1月3日がお誕生日だったんですねー。因みに私は4月16日ですよ、先輩」
「聞いてねーよ……」
いつの間にか雪ノ下のお誕生日会に参加している一色。ちゃっかりケーキも貰っているし。4等分するつもりで買ったケーキだったが、5等分になってしまったので少し小さく感じる。そもそも生徒会の方はいいのだろうか。他の人に仕事押し付けて来ていそうだ。こいつならやる……っていうか、仮に仕事がないのなら部活に行けよ。一応、サッカー部のマネージャーだろ。
「はい、お茶どうぞー」
小さくため息を吐いていると紅茶の準備ができたのかサイは1つずつ机の上に置いた。その数は4つ。ここにいる人数は5人。
「……あ、あのー? 私の紅茶は?」
「ないけど? ケーキを食べられるだけマシでしょ?」
「せ、せんぱーい……」
「知らん」
俺の袖を引っ張る一色を一蹴して紅茶の一口だけ口に含んだ。うん、美味い。雪ノ下が淹れた紅茶と同じ茶葉を使っているはずなのに何故かサイが淹れた方が美味しく感じる。
「ハチマンのには愛情たっぷり入れておいたから」
「ああ、それで」
なるほど、確かに雪ノ下の淹れた紅茶には入っていない成分だ。隠し味は愛情です。
「てか、何でお前いるわけ?」
涙目になってケーキを食べている一色に質問する。因みにすでに他の3人は一色の存在を忘れたように談笑していた。
「えー、だって今の時期生徒会やることな――」
「はい、ハチマンあーん」
「あーん」
「話の途中でいちゃつかないでくださあああああい!!」
「イロハうるさい」
俺の膝の上でサイがギロリと一色を睨んだ。甘えんぼモードのサイの邪魔をした彼女は『ぴぃ!?』と悲鳴をあげる。
「落ち着け。お誕生日会の途中だろ?」
「あ、そうだった。ユキノ、ごめんね」
「いいえ、気にしてないわ」
優しく微笑んだ雪ノ下は黒猫のマグカップを机に置き、持ち手の先端が猫の肉球を模しているティースプーンで優雅に紅茶を混ぜている。気に入っていただけたようで何よりです。
「少しは気にしてくれても……あ、いえ何でもないです」
何となく一色の立ち位置がわかってしまった。それから数十分ほどお誕生日会は続き、すっかり紅茶も冷めてしまった頃、そろそろ奉仕部の活動に戻ろうという話になり、雪ノ下は平塚先生がどこからか拝借して来たらしい古いPCを引っ張り出し、起動させた。古いせいか立ち上がるまで時間がかかる。それを待っている間に雪ノ下が鞄をごそごそとやり始めた。そして、いそいそと眼鏡ケースを取り出すと無言で眼鏡をかける。ものすごく見覚えのあるそれを見てすぐに目を逸らした。
「あれ、ゆきのん眼鏡?」
いち早く気付いたのは由比ヶ浜だった。すると、サイや一色も眼鏡姿の雪ノ下を興味深そうに見始める。
「ええ……これも誕生日プレゼントだったのだけど」
「へ? でも、あたしがプレゼントしたのってミトンと靴下だよ?」
「こっちはマグカップとティースプーン……そう言えば」
サイが答えに行きついてしまったのか俺の顔を見上げた。思わず、顔を逸らしてしまう。
「私の眼鏡を買うって言っておいてちゃっかりユキノの眼鏡も買ってたんだね」
「いや、その、ほら、あれだったから」
「あれってどれですか……」
一色の呆れたような声に言葉を詰まらせてしまう。まさか俺が選んだプレゼントだったとは思わなかったのか、雪ノ下もそっぽを向いていた。サイは俺の太ももを抓っている。超痛い。
「そう、だったの……」
「あ、ああ」
「……」
「……」
「付き合いたてのカップルですか! 見てるこっちの背中がかゆくなります!」
一色さんやめて! サイの手に力がこも――いたたたたたたたたたた! 千切れるから! 千切れりゅうううううう!
「でも、ゆきのんって目が悪かったの?」
「……これブルーライトカットなの」
「ぶるーらいと?」
「パソコンを長い時間見ていても目が疲れにくくなる眼鏡ね」
「へぇ……ちゃーんとユキノのことを考えて選んだんだねー、ハチマン?」
必死にサイの背中をタップするが力を抜く気配はない。これ本当にヤバい奴。あれ、景色がどんどん滲んでいく。
「……はぁ、もういいよ。誕生日だもんね」
目のダムが決壊する寸前でサイはため息を吐いて手を離す。危なかった。抓られただけで泣くとかダサすぎて不登校になるところだった。
「あ、立ち上がったよ。さぁ、今日もお仕事がんばろー!」
空気を変えるために由比ヶ浜が声をあげ、雪ノ下はPCを操作し始める。さて、どんな依頼が来ているのやら。
「……ハチマン」
「ん?」
俺の胸に背中を預けていたサイは小さな声で俺を呼んだ。何か小言でも言われるのだろうか。
「……ごめんね。当たっちゃって」
「……気にすんな」
サイはヤキモチ焼きですぐに手が出てしまう。でも、自分が悪いことをしたと思ったらちゃんと謝れる子だ。落ち込んでいるサイの頭に手を乗せる。それが『許す』のサインだ。
今週の一言二言
10月中に朗読動画を完成させて某動画サイトに投稿する予定だったのですが、完璧に間に合いません。ほ、ほら! インターンシップやその報告会があっててんやわんやしてたから!
パンプキンナイトさん、どうしてそんなに式さんばっかり攻撃するのん?
なんでオジマンに直死撃つ前に式さん死んでしまうのん?
パトラさん、なんでバスター宝具なのにパンプキンナイト一掃できないのん?