やはり俺の魔物の王を決める戦いは間違っている。 作:ホッシー@VTuber
「うっはー……想像以上にすごい術だったね」
キッドの砲撃を体一つで受け止めたガッシュを見てサイが苦笑しながら呟く。それに対して俺はただ頷くことしかできなかった。魔物の攻撃呪文って一番弱い術でも人間が直撃すれば気絶するレベルなのにそれを真正面から受け止めてはじき飛ばすとか人間じゃない。うん、人間じゃなかったわ。普通に魔物だった。だが、それでも傷一つないのはおかしい。
「『ルク』だったっけ? 肉体強化の因子」
「……あー、そうか。『ラウザルク』の『ルク』か」
いや、それにしたって肉体強化の術如きで攻撃呪文をはじき飛ばせるのか? こっちの『サグルク』ならまず無理だが。
「それだけ強力なんでしょ? 『サグルク』なんかと比べた駄目だよ」
「自分の術なんだからそう言ってやるなよ……俺は好きだぞ、『サグルク』」
「呪文を好きって言われても嬉しくありませーん。サイちゃん大好きって言ってくださーい」
「サイちゃん大好き」
「私もハチマン大好き……まぁ、真面目な話、強力な分、私たちの呪文とは違って効果時間はかなり短いみたい」
そう言えば一度目の『ラウザルク』は数分で消えてしまった。俺たちの呪文は心の力を込めればある程度、効果時間を延ばすことができる。
「残り時間は?」
「うーん、一回目の発動時間から考えると――」
「「「あと30秒」」」
偶然にもサイ、高嶺、ナゾナゾ博士の声が重なった。え、なんでみんな計算できるの? まだ一回しか唱えてないし、きちんと計測してないよ? 俺がおかしいの? 数学が赤点だからできないの? あれ、待てよ。それが本当だとしたら年齢不詳の幼女に数学で負けていることになるのだが。数学は捨てているとは言え、何気にショックだな。
「『ガンズ・ゼガル』!」
精神的ダメージを受けているとナゾナゾ博士が呪文を唱え、キッドがエネルギー弾をガトリング砲のように連続で放った。標的は高嶺。ああ、そうか。30秒と言っても『ラウザルク』状態のガッシュから逃げ切れるとは思えない。だからこそ、高嶺を狙い、ガッシュに庇わせて時間を稼ごうとしているのだ。高嶺もそれに気付いたのか悔しそうに顔を歪ませる。おそらく今までのダメージが蓄積しているせいで素早く動くことができないのだろう。
「清麿には怪我一つ負わせぬ!」
叫びながらガッシュは高嶺の前に割り込み、次々に砲撃を手でさばいていく。だが、これでガッシュは動け――。
「……進んでるな」
「うん、進んでるね」
小玉とは言え、砲撃をはじき飛ばしながら前進できるとは誰も思わないわ。高嶺も目を見開いて唖然としているし、ナゾナゾ博士も冷や汗を掻いているし。だが、すぐに魔本に心の力を溜め始めた。次の作戦に移行するらしい。
「『ラージア・ゼルセン』!」
術が発動するとキッドの両手が一つの巨大な拳に変形し、射出された。数で無理ならパワーで勝負と言ったところか。射出された拳はガッシュの何倍も大きい。質量も相当なものだろう。高嶺がガッシュの名前を叫び、勝利を確信したのかナゾナゾ博士の高笑いがここまで聞こえた。そして、ガッシュは巨大な拳と激突し、吹き飛ばされ――。
「ヌォアアアアアアア!!」
――ずに受け止めた。後ずさりすらしていない。高嶺たち3人は目の前の光景に目を飛び出さんばかりに丸くしている。
「あ、あはは……嘘ぉ」
さすがのサイもこれには驚きを隠せないようで顔を引き攣らせていた。誰だって驚くわ。
「清麿……指示を……早く、勝つための指示を!」
「っ……よ、よし、その腕を逆に利用するぞ! 奴らに向けて投げつけ、その腕の影に身を隠しながら接近しろ!」
高嶺の指示通り、巨大な拳を投げ返したガッシュがその陰に隠れながらナゾナゾ博士たちに接近する。さすがに『サウルク』状態のサイより劣るが、それでも十分速い。それに対し、ナゾナゾ博士は何故か大笑いし、キッドが半泣きになって喚いている。真面目にやれよ。結構、ピンチだぞ。ひとしきり笑った博士はもう邪魔でしかない拳を消す。そして、やっとガッシュが目の前まで迫っていることに気付き、悲鳴を上げた。
「キッドの全身を掴め!」
少し前に上半身と下半身を分離されたからか、ガッシュはキッドの腕と腰を掴んだ。これで分離は出来ない。
「ハハハ、そう来ると思っていたよ! 相手を捕まえた状態で至近距離からの直接攻撃! だが、私には奥の手がある。最後に笑うのは私なのだよ! 『ギガノ――」
『ギガノ』。つまり、強力な術が来る。それがわかったのか。ニヤリと笑った高嶺は口を大きく開けた。
「そのままそいつを全力で遠くへブン投げろおおおおおおおお!」
「何いいいいいいい!?」
「ヌノァアアアアアアアアア!」
「うええええええええええええぇぇぇぇぇ――」
その後すぐキッドは星になった。キッドの泣き声はそれはそれは見事なドップラー効果だった。
「ハハハハハ、さすが世界屈指の天才児、高嶺清麿君。呪文の効力を120%活かした見事な作戦だった……そして、その作戦に120%応えた魔物、ガッシュ・ベル。君たちは強い! いやぁ、まいったまいった! 今日は私の完敗だ! また会おう!」
「待たんかい」
キッドが投げ飛ばされた後すぐ逃げ出そうとしたナゾナゾ博士を高嶺が肩を掴んで捕獲した。俺とサイも3人の元へ歩み寄る。そして、サイは騒いでいる高嶺とナゾナゾ博士を放置してガッシュに話しかけた。
「ガッシュすごかったよ。まさかあれ受け止めちゃうとは思わなかったもん」
「お疲れ」
「ウヌ、ありがとうなのだ」
よっぽど勝ったのが嬉しいのかガッシュは笑顔で頷く。
「俺たちが勝ったら本や魔物について何でも教えてくれる約束だよな」
「あ、ああ……そうだったな。教えるから本は燃やさないでおくれ」
「……わかった」
どうやら、高嶺とナゾナゾ博士の交渉も終わったらしい。ナゾナゾ博士はコホンと一つ咳払いをして人差し指を立てた。
「確か、ビック・ボインの胸のサイズが知りたいんじゃったな?」
「サイ、キッド探して来てくれないか?」
高嶺がサイにそうお願いした。キッドを探し出して何をするつもりなのでしょうかねぇ。ナゾナゾ博士も不穏な空気を察したのか顔を引き攣らせる。
「冗談じゃ」
「じゃあ、探して来るね」
「本当に勘弁してください」
年齢不詳の幼女に深々と頭を下げる老人なんか見たくなかった。とりあえず、話し合いを始める前に近くの木の下に移動して座ることにした。
「さっき君が気付いたように基本的には魔物の中に眠る力が目覚める度にそれは呪文として本に現れる」
「ん? 基本的には? 例外があるのか」
「ああ、君の隣にな」
ナゾナゾ博士の言葉に高嶺は俺とサイを見る。どうやら、あの件は俺たちだけの現象らしい。
「どういうことだ?」
「俺たちの場合、サイだけじゃなくて俺の時も呪文が発現したんだよ」
「それは……八幡さんが成長した時ってことか?」
「さぁ……サイがピンチになってどうしても救いたいって思ったら出て来た」
正直、俺もよくわからない。あの時は必死だったし。後、サイさんや、隣で頬に手を当てて照れるんじゃない。こっちまで恥ずかしくなるわ。
「まぁ、八幡君たちの件は置いておこう。私も調べたが同じ現象が起きた者はおらんかったからな。さて、さっきの話だが、たやすくないぞ? 眠っている力は何かのきっかけがないと目覚めんからな」
「ああ、それはわかる。今回もそうだったからな」
「よろしい。成長と言っても戦いに勝てば呪文が増えるわけではない。魔物が心の成長を果たした時……そして、何か大切な物に気付いた時、その力は目覚める。今回のガッシュ君のようにな」
「ウヌ!」
今までずっとふざけていたのでどうなることかと思ったが、思ったよりも真面目に教えてくれた。サイも意外そうにしているし。どんだけ信用ないんだよ、ナゾナゾ博士。いや、ないけど。
「他にも残りの魔物の数を知らせるなど本の役割はいくつかあるが……これらはさほど重要ではない。問題は『人の心に反応するという本の機能』。そして、『魔物に眠る底知れぬ力』……この二つが最大の謎だ」
「そうかな?」
そこでサイが会話に割り込んだ。
「確かに人の心に反応するのはわからないけど……魔物に眠る底知れぬ力に関しては何となくわかるよ」
「何?」
「だって、私たちは“魔物”だよ? 人間とは違う力を持ってても不思議じゃないでしょ? 魔界じゃいつでも術は撃てるし」
「……待て。魔界ではいつでも術を撃てるのか?」
思わず、聞き返してしまった。初耳だったのか、ナゾナゾ博士も興味深そうにサイを見つめている。
「うん。人間界じゃパートナーがいないと術を撃てないけど、魔界だったら普通に使えるよ? さすがに街中で攻撃呪文を使う人はいないけど」
「ほう、貴重な魔界の様子か……もっと聞かせて欲しいところだ」
「あー……ごめん。あんまり覚えてないの。ティオ……私たちの仲間の魔物の方が詳しいと思う」
覚えていない。サイはそう言った。確かガッシュは魔界にいた頃の記憶がない。だが、彼女が記憶喪失だったと聞いた覚えはなかった。じゃあ、なぜ?
「あ、そうそう。それでさっきの話なんだけど。多分、こうやって魔物同士を戦わせることで魔物の子を成長させようとしてるんじゃない? ほら、ライオンも子供を崖から突き落とすって言うし」
「それは、何の目的で?」
「さぁ? 『王たる者、誰よりも強くなくてはいかぬ!』みたいな感じなんじゃない? 私もそこまでわかんないや」
ナゾナゾ博士の問いかけにあっけらかんとした様子でサイが答えた。そこまで興味がないのだろう。
「……なるほど。うむ、なかなか興味深い話だった。教えてくれてありがとう。さて、そろそろキッドを探しに行かねばならん。ここで失礼させて貰うぞ」
「ま、待った! もう一つ!」
立ち上がったナゾナゾ博士を高嶺が止めた。他にも何か知りたいことでもあるのだろうか。
「何かな?」
「あんた……何故、俺たちに教えてくれる? 今日の戦いはまるで俺たちを育てようとしているようだった」
「……物知りというのは人にその知恵を披露したがるものさ。それに――」
「――八幡君たちには前に言ったが、悪しき者が今、徐々に力を集めている。いつか私がそやつらとぶつかるような時、君たちのような心強い仲間が欲しかったからかもしれん……では、また会おう」
そう言って、ナゾナゾ博士は颯爽と去って行った。
「悪しき者、か。八幡さん、何か知ってるか?」
「……世界各地で神隠しが起きてるんだとよ。あと石版がうんたらかんたら」
「石版、だと?」
どうやら、高嶺も生きている石版について何か知っているらしい。確かサイの言っていた石版は高嶺が見つけて来た物だったか。
「……教えてくれてありがとう。神隠しについて調べてみる。何かあったら教えてくれ」
「ああ、わかった」
「キヨマロもインフルエンザ気を付けてね。流行ってるみたいだから」
今朝のテレビで見たニュースを思い出したのか、サイが高嶺に忠告した。ああ、だから体が冷えないように温かいお茶の入った魔法瓶を入れて来ていたのか。
「ヌ? サイは私の心配はしてくれぬのか?」
「だって、ガッシュならインフルエンザにかかっても遊んでそうでしょ?」
「そ、そんなことないのだ! 私だって風邪を引くぞ!」
「何の自慢だよ……どうする? 会議の途中だったけど」
ジト目でガッシュに言った後、高嶺が聞いて来る。いや、おたく傷だらけですけど。その状態で話し合いとかできないでしょう。
「そうだった! ハチマン、『サルフォジオ』!」
サイも高嶺が傷だらけなのに気付いて慌てて立ち上がり、高嶺の背後に回った。しかし、高嶺は冷や汗を流しながら首を横に振る。
「……い、いや別に大丈夫だぞ? これぐらい慣れっこだ」
「『サルフォジオ』」
「だ、大丈夫だって。な? ほら、こんなに元気だから……や、やめっ――」
すっかり傷もなくなった高嶺だったが、さすがに疲れたのか今日はここで解散することになり、俺とサイは家に帰った。
今週の一言二言
パトラさんのバスターカードのモーション完全にマイケルにしか見えません。
ムーンウォークからのポゥッ!
あ、はがねオーケストラ始めました。面白いですね、はがオケ。ゆかマキ目的で始めましたが、ゲームも面白くてハマりました。