やはり俺の魔物の王を決める戦いは間違っている。   作:ホッシー@VTuber

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原作ではナゾナゾ博士との戦闘はナゾナゾ博士初登場の次の日ですが、この作品では1月に入ってから戦います。ご了承ください。
なお、今回は原作にあるお話です。台詞回しや削った台詞が多々ありますのでご注意ください。


LEVEL.88 天才ゆえの過ちと期待に応えられる素直さ

「はぁ……寒い」

「はい、お茶」

「おう、サンキュ」

 隣に座っているサイからお茶が注がれた魔法瓶の蓋を受け取り、啜る。あー、あったけぇ。半分ぐらい飲んだ後、蓋をサイに返す。彼女もお礼を言った後、お茶を飲み、ふぅと白い息を吐いた。無駄にエロい。

「ハチマンはどう思う?」

「あ? 何が?」

「どっちが勝つかって」

 そう言ったサイの視線の先には高嶺とガッシュがナゾナゾ博士とキッドに対峙していた。まだ戦いは始まっていないが、いつ始まってもおかしくない。まぁ、そんな空気の中、お茶を飲んでいる俺たちはおかしいのだが。

「さぁな。高嶺たちとは一回、共闘しただけだし、ナゾナゾ博士たちなんかどんな戦い方をするかも知らないし。お前は?」

「私も同意見かな……でも――」

 サイの答えを聞く前に唐突にナゾナゾ博士が魔本に心の力を溜める。それを見た高嶺も心の力を溜めたがその差は歴然。ナゾナゾ博士の魔本から放たれている光は高嶺のそれよりも大きかった。彼もそれに気付いたのだろう。目を大きく見開き、呪文を紡ぐ。

「『ザケル』!」

「『ゼガル』!」

 ガッシュの電撃とキッドの砲撃が激突するも案の定キッドの術が電撃を打ち破りその余波が高嶺たちを襲う。

「――少なくともキヨマロたちは苦戦すると思うよ」

 魔法瓶からお茶を注ぎながら彼女はそう結論付けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 数時間前、いきなり高嶺たちの家にやって来たナゾナゾ博士はキッドを縛っていたロープを解いた後、何もなかったかのように話を始めた。

「戦いに来た」

「それはさっき聞いた……この前のしもべたちは?」

 しもべ? 俺たちのところに来た時はいなかったが。サイの方を見るが彼女も知らないらしく、不思議そうにしていた。

「MJ12は緊急任務で火星に行ったんだよ!」

 ナゾナゾ博士の代わりに目を紅くしているキッドがドヤ顔で答える。あー、これはあれか。また嘘吐かれたパターンか。

「ね? 博士!」

「ハハハハ、その話はウソなんだ。彼らはアメリカに帰ったよ。役目も終えたしね」

 ナゾナゾ博士の言葉を聞いたキッドは目と口を大きく開け驚愕し、高嶺は何とも言えない表情を浮かべていた。まぁ、その気持ちはわかる。サイも苦笑しているし。

「じゃあ、お前らが戦うのか?」

「当たり前だ。この戦いは魔物同士が戦うものだ」

「いや、俺たちのところに来た時は戦わなかったろ」

 思わず、会話に割り込んでしまった。あの時は魔本の秘密と何か起きた時に協力して欲しいというお願い、サイのパスポートの偽造について話しただけだ。

「八幡君たちはもう十分強いからね。私たちでは勝てないのさ」

「……どういうことだ?」

 目を鋭くさせた高嶺。しかし、ナゾナゾ博士とキッドは顔から笑みを消そうとしない。

「だって、博士。この人たちは弱いんだよね?」

「ああ、それは本当だよ。この人たちは本についても、魔物についても、何も知らないからね」

 その発言に思わず、隣にいる高嶺を見てしまう。おそらくナゾナゾ博士が言っている『本や魔物について』とは先日、俺たちと話し合った魔本に関する話だろう。だが、さっき呪文の法則性を簡単に見つけた高嶺ならとっくの昔に知っていてもおかしくないはずだ。

「……あんたや八幡さんは知ってるというのか?」

 そう言った彼は苦虫を奥歯で噛み締めたような表情を浮かべていた。

「もちろんさ。博士は何でも知ってるんだよ」

「いやいや、キッド、今回ばかりはちょっと違うよ。私は何でも知っているけれど、何でもは知らない八幡君でさえ簡単に気付けてしまうほど簡単なナゾナゾだ」

「さらっとハチマンを馬鹿にしないでくれる? 縛られたい?」

「ごめんなさい」

 ピシ、と手に持ったロープを鳴らす幼女に深々と頭を下げる老人。あーあ、あんなに足を震わせちゃって。可愛そうだから殺気をぶつけるのは止めなさい。キッドも恐怖で声すら出さずに泣いているし。いつしか過呼吸とか起こしそうだ。

「ふ、ふふふ……し、知りたいかね? 高嶺清麿君」

「とりあえず、深呼吸しろ。声震えてるぞ」

 挑発されているのにも関わらず相手の心配をする高嶺は本当に良い奴だと心の底から思う。俺なら絶対できないししないだろう。むしろ、もっとやれとサイに指示を出しそうだ。

「すぅ……はぁ……知りたいなら私を倒すことだ。そしたら教えてあげるよ。まぁ、しょせん、君たちに私たちは倒せんだろうがね」

「じゃあ、お手伝いするね! とりあえず、縛ろっか!」

「やめてあげろ」

 もうナゾナゾ博士とキッドのライフ(精神力)はゼロよ!

 結局高嶺たちとナゾナゾ博士たちが戦うことになり、俺たちは手出ししないと約束し、見学させて貰えることになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハハハハ、何をぼーっとしてる? 君が負けたら当然本は燃やさせて貰うぞ! 『ゼルセン』!」

 高笑いと共に呪文を唱えるとキッドの両腕が変化して飛んだ。まさかのロケットパンチである。材木座……じゃなかった、材木屋さんなら喜びそうだ。

「く……『ラシルド』!」

「弱い」

 咄嗟に盾の呪文を唱えた高嶺だったが、それを見たサイが小さく呟く。彼女の呟き通りにナゾナゾ博士が魔本に心の力を込め、術を強化するとロケットパンチは盾を簡単に破壊してしまった。その衝撃で高嶺たちが吹き飛ばされる。

「ガッシュ!」

「ウヌ!」

 だが、すぐに体勢を立て直し、高嶺がナゾナゾ博士に指を差した。切り替えが早い。普通なら動揺ぐらいしそうなものだが。

「『ザケル』!」

 ガッシュの口から飛び出した電撃はナゾナゾ博士たちの足元に落ち、砂煙を巻き上げる。その砂煙に紛れ、高嶺が彼らに向かって突進した。砂煙によって視界が悪くなっているとは言え、単身で突っ込むのは無謀だと思うが。そう思っていたのだが、いつの間にかナゾナゾ博士たちの後ろに回り込んでいたガッシュがキッドの体を掴む。あの距離で背後からの攻撃なら確実に当たる。

「『ザケルガ』!」

「『ゼブルク』!」

 貫通力のある鋭い雷撃はキッドの体が上下に分離したせいで外れた。いや、普通死ぬって。文字通り、体が真っ二つになっているのに何で生きているの? 魔物の体ってスゲー。

「サイならあれどうする?」

 試しにピーナッツ(最初から殻のないタイプ)を食べていたサイに聞いてみる。

「分離した術? とりあえず、上半身だけ盗んで地面に叩き続けながら下半身から逃げる」

 それは一種の拷問だと思います。叩き続けるって何? なかなか聞かない単語だよ?

「ハハハ、よほど本の秘密を知りたいようだね。だが、その程度の力では私たちに勝つのは無理だね」

 キッドの下半身を掴んでいたガッシュを片手だけで放り投げながらナゾナゾ博士は笑う。老人なのに元気だな。

「よかろう。ヒントとしてナゾナゾなら出してあげよう」

「何? ナゾナゾ?」

 出た、ナゾナゾ博士のナゾナゾ。高嶺、止めておけ。絶対ふざけるから。おちょくって集中力を途切れさせるのが目的だから。

「フフフフフ。ナゾナゾ博士の楽しいナゾナゾ」

「オホホホホ。私のナゾナゾ、楽しいナゾナゾ、第一問!」

 そんな俺の心の声は届かず、ナゾナゾ博士のナゾナゾが始まってしまった。

「上は赤色、下は緑色、そんな私のペットの名前はな~んだ!」

「そんなん知るかあああああ! 本とは関係ねーだろおおおお!」

「残念不正解! キッド!」

 ふざけたナゾナゾに不正解した高嶺たちはキッドに殴られ、地面を転がる。それを見たサイが深々とため息を吐いた。あれ、魔物同士の戦いってこんな感じだったっけ? 俺、いつも死にそうだったんですけど。

「では、第二問! 君は本を何だと思っている?」

 あ、意外と真面目に本について教えてあげるのね。ちょっとだけ見直した。まぁ、『もう少し真面目にやりなさい』と言わんばかりにほんの少しだけ漏らしたサイの殺気にビビって咄嗟にヒントを与えたのかもしれないが。こっち、チラチラ見ているし。

「人間の心の力を……魔物が術を出すエネルギーに変えてくれるもの。このようにな! 『ザケルガ』!」

「正解だ、『ゼガルガ』!」

 再び電撃と砲撃が激突する。術と術が均衡し、弾けた電撃が地面を抉り、砲撃の余波が雑草を散らす。

「ならば第三問。その術はどこから生まれる?」

 そんな中、ナゾナゾ博士がナゾナゾを出題する。それは俺たちに出したナゾナゾと同じ。

「……本、から」

 だが、高嶺の答えは俺と違った。

「生まれると本当に思っているのかい?」

 その瞬間、術の均衡が破れ、高嶺たちが後方へ吹き飛ばされる。そして、その時にはすでにナゾナゾ博士は次の術を撃つ準備を終えていた。

「だとしたら不正解だよ。もう一度考えたまえ。『アムゼガル』!」

 高嶺たちの前に移動したキッドの右腕が巨大化し、2人をぶん殴る。殴られた2人は地面に背中から落ち、うめき声を漏らした。術が直撃したのだ。体が頑丈なガッシュはともかく高嶺にはきついだろう。

「君は気付きかけている。もう扉の前に立っているんだよ!」

 高嶺たちが動けないにも関わらず、ナゾナゾ博士は追撃せずにニヤリと笑った。あー、そっか。そう言うことか。ナゾナゾ博士は最初からこれが狙いだったのか。

「天才ゆえの落とし穴にはまってたんだ。初めて読めない本に出会い、目に見えるものしか見えなくなった」

 おそらく高嶺は天才だ。しかも、ただの天才ではない。天才という言葉では足りないが、他に言い表せる言葉がないから仕方なく、天才と呼ばれているだけ。

「そう、逆転の発想だ……本が術を生むのではない」

 しかし、今回それが仇となった。魔本という未知の存在を目の当たりにし、己の物差しだけで測り、間違えた。未知の存在を既知の物差しで測り切れるわけがないのだから。

「魔物の子が本来持つ眠っている力……それが目覚めた時、本に呪文として現れるだけ」

 そして、天才は自分の間違いに気付き、既知の物差しを捨て、目の前で起きた事実を素直に受け止め、冷静に分析し、答えに行きついた。

「……ハハハハハ! ナゾナゾは終わりだ! 『ゼルセン』!」

 楽しそうに笑いながらナゾナゾ博士が呪文を唱えた。キッドのロケットパンチが高嶺たちに迫る。それを高嶺がガッシュを抱えるように横に飛んでやり過ごす。術の直撃を受けたとは思えない。

「すごいね」

 逃げた先は高低差があったのか高嶺たちの姿が見えなくなるとサイが唐突にそう呟く。

「ああ、普通戦いながら謎解きとかできねーわ」

「確かにキヨマロもすごいけどさ……何となくわかるんだ」

「あ?」

 チラリとサイの方を見ると彼女は何も注がれていない魔法瓶の蓋をジッと見つめていた。その表情はここからではよく見えない。

「本当にすごいのは――」

 その時、高嶺たちが逃げ込んだところから光の柱が上がった。あんな光り方、見たことがない。俺たちでも重ね掛けできる呪文全て唱えてもあそこまで光らないだろう。

 

 

 

 

 

「――パートナーの期待に応え、素直に成長できるガッシュだよ」

 

 

 

 

「第六の術――」

 

 

 

 

 

「本当に……羨ましいぐらいに素直でいい子なんだよ、ガッシュは」

 

 

 

 

「――『ラウザルク』!!」

 

 

 

 サイの呟きを掻き消すように空から虹色の雷が落ちた。


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