やはり俺の魔物の王を決める戦いは間違っている。 作:ホッシー@VTuber
出来る限り修正しましたが、後日また修正するかもしれません。
なお、LEVEL.86についていくつか意見を貰いました。
そこで私の考えを活動報告にまとめたのでお手数でなければそちらを確認し、意見をいただければ幸いです。
『ガウルク』。
『ドルガルル』。
『ガル・ガ・ガルルガ』。
『ギガノ・ガソル』。
『ギガノ・ドルガルルガ』。
『ギガノ・バル・ガルルガ』。
『ディオガ・ガルジャ・ガルルガ』。
サイの携帯に送られて来たメールに書かれていた呪文を書き出す。呪文の数は俺たちが6つ、高嶺たちが5つに対し、7つ。呪文の多さが勝敗を決めるわけではない。だが、実際に俺たちは彼女の呪文を見たから言える。俺たちが出会って来た魔物の中で一番強かった、と。
「そんなに強かったのか……」
「ああ、特に最後の呪文がやばかった」
『ディオガ・ガルジャ・ガルルガ』。ハイルの背後に巨大な骸骨を召喚し、その骸骨が消滅効果付きの鎖をいくつも投げつけて来る呪文だ。消滅効果だけでも十分驚異的なのに数も多く、コントロールも利く。対処法はこちらも攻撃呪文で迎え撃つぐらいしか思いつかない。
他にも自身の速度を上げる『ガウルク』。
ドリル状の弾を放つ『ドルガルル』。
体を回転させながら相手に突進し、翼を広げて衝撃波を放つ『ガル・ガ・ガルルガ』。
エネルギー体の巨大な剣を出現させる『ギガノ・ガソル』。
『ドルガルル』の上位互換である『ギガノ・ドルガルルガ』。
ハイルの両手から敵に当たる直前で一箇所に集まる軌道を描く8つのレーザーを放つ『ギガノ・バル・ガルルガ』。
そして、先ほども言った鎖の呪文『ディオガ・ガルジャ・ガルルガ』。
どれも攻撃呪文のない俺たちには厄介な呪文だった。もし、大海たちがいなかったら俺たちは簡単にやられていたかもしれない。
「それでどうだ? 何か法則性は見つかったか?」
「そうだな……まず、この『ドルガルル』と『ギガノ・ドルガルルガ』」
この短時間で呪文の法則性を見つけたのか高嶺は指でノートを叩く。
「『ギガノ・ドルガルルガ』は単純な『ドルガルル』の上位互換。つまり、この二つの違いが上位互換を示す因子なんだと思う。今回の場合だと『ギガノ』か『ガ』」
ノートに『ギガノorガ』と書き、矢印で『上位互換?』と記した。そして、その下に高嶺たちの呪文である『ザケル』と『ザケルガ』と書く。
「次に『ザケル』と『ザケルガ』。『ザケルガ』は『ザケル』より貫通力のある呪文だ。ハイルって子の『ガ』と俺たちの『ガ』が同じ意味の因子なのかわからないけど『ガ』には貫通性能の意味があると思う。そう言えば、ハイルの呪文は実際に見たか?」
「あー……確か見たと思う」
「『ギガノ』の方は見たけど『ドルガルル』の方は見てないかな」
ハイルと戦ったのはもう数か月前の話である。『ドルガルル』はサイと合流する前に使ったのかサイは見ていないらしい。
「違いはあったか?」
「両方ともドリルだったのは覚えてるけど違いは大きさぐらいだったような気がする。すまん、あんま覚えてない」
「いや、仕方ないさ。随分前のことだろうし」
最初からあまり期待していなかったようで高嶺は笑顔でフォローした後、『ザケル』と『ザケルガ』の下に『ギガノ・ガソル』と『ギガノ・バル・ガルルガ』を追加した。
「ここで問題になるのが『ギガノ・ガソル』と『ギガノ・バル・ガルルガ』だ。共通点は『ギガノ』。つまり、この『ギガノ』は『ギガノ・ドルガルルガ』固有の因子ではなく、汎用性の高い因子ってことになる。じゃあ、『ギガノ』の意味なんだけど……」
そう言いながら『ギガノ・ドルガルルガ』、『ギガノ・ガソル』、『ギガノ・バル・ガルルガ』と横並びに書いた後、『ギガノ・ガソル』と『ギガノ・バル・ガルルガ』の間に縦線を引いた。
「『ギガノ・ドルガルルガ』、『ギガノ・ガソル』と『ギガノ・バル・ガルルガ』には違いがある。それは何だと思う?」
「技の形状かな。『ギガノ・ドルガルルガ』は大きなドリル。『ギガノ・ガソル』は大きな剣。でも、『ギガノ・バル・ガルルガ』はレーザー攻撃だった。まぁ、大規模な攻撃っていう共通点はあるけど」
高嶺の問いかけにサイが答える。即答されるとは思わなかったのか、彼は目を丸くした後、頷いた。
「最初『ギガノ』は武器系の呪文を大きくさせる因子だと思ったんだが、『ギガノ・バル・ガルルガ』は武器系の呪文じゃなかった。ここで重要なのがハイルの説明文にあった“上位互換”」
最初に書いた『ギガノorガ』の部分をペンで叩く高嶺。そして、その下に書いた『ザケル』と『ザケルガ』にペン先を向けた。
「さっき『ガ』は貫通性能の因子だって言ったけど、実際、『ザケルガ』が『ザケル』の上位互換かって言われると違う気がする。『ギガノ・ドルガルルガ』みたいに呪文の規模が大きくなったわけでもなかったし。本当にただ『ザケル』に貫通性能を付加させた呪文だった。威力は『ザケル』よりあるから何とも言えないけど」
高嶺自身もまだはっきりと言えない状態らしく、頭を掻いた。だが、すぐに『ギガノ』とノートに書いて二重丸で囲む。
「つまり、『ガ』は貫通性能の因子だから自ずと『ギガノ』が単純な上位互換もしくは強力な呪文に付く因子になる。これなら『ギガノ・バル・ガルルガ』との矛盾も説明出来る」
強力な呪文に付く因子ならば呪文の形状は関係ない。だが、『ガ』はどうなるのだろうか。ハイルも貫通性能付加については気付いていないみたいだし。
「それは簡単だよ、ハチマン」
高嶺にそう質問するとサイがクスクスと笑いながらペンを手に取ってノートにドリルの絵を描いた。無駄に上手くて吃驚である。
「だって、ドリルって最初から貫通力あるでしょ」
「……あー、確かに」
最初から貫通力のある技に貫通性能を付加しても見た目からは判断しにくい上、貫通性能が上昇していてもそれが『ギガノ』によるものなのか『ガ』によるものなのかわからないのだ。討論するだけ無駄だろう。
「まぁ、完全に推測の域だから正解なのかまではわからないけど『ギガノ』系の呪文を唱えたら強力な呪文が来るって覚えておいた方がいいかもな」
「それだけでも十分だ。それにしてもこんな短時間でそこまでよくわかったな」
「こういうのは得意なんだよ。他にも『サルク』、『サウルク』、『サグルク』、『ガウルク』は全部肉体強化系の呪文だ。全ての呪文に『ルク』が付いてるからこれが肉体強化を表す因子なんだろ」
「「……」」
そう語った高嶺に対し、俺とサイは顔を見合わせてしまう。確かに『サルク』も『サウルク』も『サグルク』も肉体強化の呪文だ。だが、『サグルク』だけは少しだけ違う。肉体強化は本来の効果の副産物でしかないのだ。まぁ、肉体強化はされるのではっきりと否定できないのだが。そもそも本来の効果が使えなさ過ぎて話すのが少々憚れる。サイも『サグルク』を好ましく思っていないようだし。
「ん? どうした?」
「……いや、何でもない。呪文の因子についてはこれぐらいか」
「そうだな……呪文のサンプルがない以上、考えようがないからな。考えることを放棄した奴らもいるし」
そう言った後、高嶺が腕を組みながらガッシュたちの方を見る。途中から話についていけなくなったからかガッシュとウマゴンはお菓子の箱を改造した人形みたいな物で遊んでいた。すぐに高嶺のチョップがガッシュの頭を襲う。
「ヌゥ!? な、何をする!?」
「こっちが必死に考えてんのに遊んでんじゃねーよ! せめて静かにしろ!」
「仕方ないではないか! 清麿たちの話は難し過ぎるのだ!」
「メル!」
それから高嶺とガッシュたちが喧嘩を始めてしまう。あっちが終わるまで休憩でもするか。ほとんど高嶺が考えてくれたものの少し疲れた。
「ねぇ、ハチマン」
少しだけぬるくなってしまったお茶を飲んでいるとサイに声をかけられる。それにしてもサイもよく高嶺の話について来られたものだ。普通、ガッシュやウマゴンのように途中で飽きると思うが……まぁ、実年齢はガッシュ達より上みたいだし、サイ自身、子供とは思えないほど頭がいいので当たり前と言われれば当たり前か。
「何だ?」
「縛る物持ってない?」
「……」
数分後、高嶺に縛る物を借りたサイは窓から出て行った。そして、縛られた状態で大泣きしている見覚えのある魔物を連れて帰って来たのだった。
「パートナーを返して貰えないだろうか」
サイがグルグル巻きにされた魔物――キッドを連れて帰ってすぐインターホンが鳴り、全員で玄関に向かうとナゾナゾ博士が半泣きでそう言った。すぐに高嶺がサイとガッシュ、ウマゴンにつんつんされて泣いていたキッドを持ち上げ、ナゾナゾ博士に返す。優しいな。
「今日は何の用だ?」
「戦いに来た」
高嶺の質問に対し、決め顔でそう言うナゾナゾ博士だったが彼の腕の中で泣いているキッドがいる時点で色々台無しだった。