やはり俺の魔物の王を決める戦いは間違っている。   作:ホッシー@VTuber

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待ちに待ったぼーなすとらっくです。
満足していただけるかわかりませんが頑張って書きました、まる


ぼーなすとらっく2 クリスマスは人の思考を惑わせる

 クリスマスまで残り数日に迫った今日、八幡君に頼まれて私とティオは千葉までやって来た。そう言えば、サイちゃんとは数日前に顔を会わせているが八幡君に会うのは久しぶりだ。メールのやり取りはしているものの、八幡君はあんまり自分のことは書かないからほとんど私の話を聞いて貰っているだけだ。それを少しだけ寂しく思う。会ったら何を話そうか。うん、まずはサイちゃんと仲直りできたことを祝福しよう。サイちゃんも嬉しそうに報告しに来てくれたことだし。八幡君も喜んでいるに違いない。

「……恵」

「ん? どうしたの?」

 冬の夕方ということもあり、マフラーとモコモコのコートを着たティオに呼び止められて立ち止まった。何かあったのだろうか。早く行かないと約束の時間に遅れてしまう。

「何か、ご機嫌ね……撮影も完璧だったし」

「だって、NG出しちゃったら遅れちゃうから。ティオがいないと作業が進まないって言ってたもの」

「……まぁ、そう言うことにしておくわ」

 呆れたように言ってティオは私を追い越して先に行ってしまう。慌ててティオの後を追った。

「もう、何の話?」

「こっちの話。後、それでいいの?」

「何が?」

「変装よ、変装! 八幡に言われてたじゃない。ばれたら大騒ぎになるから変装を徹底しろって!」

 ティオの言葉に思わず、首を傾げてしまう。八幡君の指示通り、変装して来ているからだ。

「変装って言ってもサングラスとマスクだけじゃない! もっと何かあるでしょ! 覆面とか!」

「覆面被ったら完全に不審者よ……それにあまり厳重に変装すると『何か隠しています』って感じでばれそうじゃない?」

「だからって冬にサングラスもおかしいわよ。サングラスは夏にかけるものでしょ!」

「夏より冬の方が紫外線強いから目を保護すると言う意味では冬にサングラスをかけた方がいいのよ?」

「そんな豆知識、今は関係ないのよおおおおおお!」

 頭を抱えて絶叫するティオ。ちょっと回りの人の目が痛いので止めて欲しい。

「ほら、早く行きましょ? 時間もないし」

「ああああああああ……八幡になんて言い訳しよう」

「俺が何?」

 後ろから声が聞こえ、振り返るとコートを着た八幡君が立っていた。集合場所までもう少しあるのにどうしてここにいるのだろうか。

「遅かった迎えに来た。それにしても……ティオ、これは?」

「私も頑張ったの! でも、なんか今日の恵、浮かれてるって言うか、何と言うか」

「……ばれないように祈るしかねーな」

 何故か私の方を見ながら2人はため息を吐く。何か私やらかしちゃった?

「まぁ、いい。早く行こう」

 そう言って八幡君は歩き出してしまう。確かにすでに夕方なので話を聞くだけと言っても台本を作るらしいのでそれなりに時間はかかるから急がなくてはならない。保護者がいるとしても夜まで子供を連れ回すべきではない。まぁ、ティオは子供と言っても魔物の子だが。

「ティオ、頑張ってね」

 今回のイベント(他の学校と協力してクリスマスにイベントをすることになったらしい)は失敗できないと言っていた。それがサイちゃんのためであるとも。今回、私は役に立てないから応援しよう。

「……頑張るのは恵かもしれないわよ」

「へ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、ああ! め、メグちゃん!?」

 速攻でばれました。

 八幡君の後に続いて講習室に入った瞬間、椅子からずり落ちた一色さんが叫んでしまったのだ。八幡君とティオは最初からこうなることがわかっていたように肩を落とす。

「めぐちゃん? 会長、あの子のこと知ってるのか?」

 顔を引き攣らせている一色さんに不思議そうに首を傾げている男子生徒。一色さんの隣に座っていたから副会長なのかもしれない。

「あの子じゃなくて保護者の……そう言えば、サイちゃんの友達の保護者って言ってたようなッ」

「一色、落ち着け。お前、一回会ってるだろ」

「いきなり芸能人が目の前に現れたら誰だって吃驚しますよ!」

 『芸能人』という言葉に講習室にいたほとんどの人が目を見開き、私を見る。やばい、どうやって誤魔化そう。そもそもすでに誤魔化せる状況じゃないような気がする。

「えーっと……大海、恵です」

 サングラスとマスクを外して挨拶すると講習室は混乱の渦に飲み込まれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「だから、このシーンはカットしちゃ駄目! 絶対駄目なんだから!」

「いや、カットしないと矛盾が出るんだっての」

「それを何とかするのが脚本でしょ!?」

 私の正体がばれた後、何とか落ち着かせて台本作りが始まった。しかし、あまり進んでいない。どうやら、ティオは『魔物と人間の恋物語』の大ファンのようで凄まじい拘りを見せたのだ。

「ああ、もう! そこは――」

「お、大海さんっ……ちょっと、いいですかァ!」

「っ! は、はい!」

 喚き散らしているティオを見ていると時々、声が裏返っている副会長さんに話しかけられて肩を震わせてしまう。今、講習室では2つの会議が開かれている。片方が八幡君、ティオ、雪ノ下さん、一色さん、書記さんの台本組。そして、それ以外の人のその他組。私はその他組のアドバイザーと言うよくわからない立場にいる。その他組の会議を見ていてちょっとだけ気になることがあったので聞いてみたら会議に参加して欲しいと頼まれてしまったのだ。今日は何も役に立てないと思っていたのでちょっとだけ嬉しかったりする。

「えっと、衣装のことなのですが、これ、どう思います?」

「うーん……演劇やる時って舞台以外暗いし、ちょっと距離もあるから小さい小道具は見え辛くなっちゃうかも。だから、もう少し大きくするかいっそのこと失くしちゃったほうがいいかもしれない」

「なるほど……わかりました」

 私のアドバイスを聞いて副会長は頭を下げてすぐに小道具を消去する。今回の演劇は子供たちが演じるそうなのでシンプルなのがいいと思う。ごちゃごちゃしていたら演劇に集中できないかもしれない。子供たちも満足に演技出来ないかもしれない。

「ん?」

 その他組の会議を見ている途中であんなに騒いでいた台本組が静かになっていたことに気付く。チラリとそちらを見ると全員が難しい顔をしていた。

「どうしたの?」

「あ、恵……それが」

 気になってティオに話しかけてみれば主人公――ゼツの設定に悩んでいるらしい。一応、鎧の騎士にしようと決まったのだが、問題は衣装だった。

「さすがに段ボールの鎧はダサいよねって……」

「あー……」

 他の子はシンプルな衣装を着ている中、たった1人だけ張りぼての鎧を着ているのはとても浮く。しかも、ゼツ役はサイちゃんに決まっている(まだ交渉はしていないらしい)のでそれを八幡君が許すとは思えなかった。実際、段ボール騎士案を速攻で否定したらしい。

「どこからか借りるのはどうですか?」

「金属の鎧をか? どこで取り扱ってるか分からん上、金もかかる。無理だな……と言うより、どこの馬の骨が着たかわからない鎧なんかサイに着させるかよ」

「そんな不機嫌そうに話さないでくださいよ! サイちゃんのことどんだけ好きなんですか!」

「これに関しては妥協しない」

「決め顔で言わないでくださあああああい!」

 八幡君の肩を掴んで揺らしながら一色さんが叫ぶ。本当に切羽詰っているらしい。それにしても鎧か。たとえ、鎧を借りられると言っても子供サイズの鎧は取り扱っていないような気がする。それこそ特別に作って貰わないと――。

「あ、そう言えば……」

「何か思い出したの?」

「ほら、CDジャケットの写真撮影の時の衣装さんが『鎧がー』って愚痴ってたの覚えてる? 何だったかしら……確か、特注で作った鎧衣装が無駄になったとか何とか」

「……そ、それよ! 恵、それしかないわ!」

「何の話だ?」

 腕を組みながら聞いて来た八幡君に衣装さんが特注で作成した鎧衣装の扱いに困っていたことを話す。

「何で扱いに困ってるんだ?」

「何かの企画で使うはずだったんだけど、急にその企画がなくなったらしいの。着るはずだった子役が金属アレルギーだったらしくて別の衣装に変わったみたい」

「恵、その衣装さんの名刺貰ってたわよね!? 何とか鎧借りられないか頼めない?」

「俺からも頼む。面倒だとは思うが電話してみてくれないか?」

「……わかったわ。ちょっとだけ待っててね」

 私だって少しでも役に立ちたいのだ。電話をかけて頭を下げるくらいのことなら喜んでやる。鞄から名刺が入ったフォルダを取り出しながら私は講習室の外へ――。

「待て待て待て! そのまま出るなって!」

「恵、ちょっと今日は本当にどうしちゃったのよ!」

 ――出ようとしたらティオと八幡君に止められてしまった。そう言えば、サングラスとマスクを外したままだった。

「ご、ごめんなさい」

 謝りながらサングラスとマスクを装着し、今度こそ講習室の外に出て電話をかける。何としてでも鎧を貸してくれるように頼まなくては!

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ……」

 恵が外に出た後、私は思わず、ため息を吐いてしまった。今日の恵ははっきり言って浮かれている。いや、浮かれていると言うより気合いが入っている、と言うべきか。

「全く……アイドルの自覚ないのかあいつ」

「いつもはしっかりしてるんだけどね……」

「あ? じゃあ、何で今日、あんなに抜けてるんだ?」

「気合いが空回りしてるのよ」

 少し前まで八幡とサイの仲がぎくしゃくしていたのは知っている。それを私たちにはどうすることも。それを恵は気にしていた。無理もない。ぎくしゃくしてしまったきっかけが起きた時、恵はその場にいたのだ。詳しい話は聞いていないけれどサイが傷ついた時、恵はその場にいて彼女を慰めたらしい。でも、それしかできなかった。それをずっと気にしていたのだ。

 そして、問題は私たちの知らない間に解決してしまった。嬉しそうに仲直りしたことを話すサイを見て私は嬉しい反面少しだけ悔しかった。仲間が――友達が苦しんでいたのに何もできなかったから。私でさえこんな気持ちを抱いているのだ。恵が頑張ろうとするのも頷ける。その結果があれだが。

「八幡君! 照明とかも借りれそうだけどどうする?」

 講習室の扉が勢いよく開き、サングラスとマスクを付けた恵が嬉しそうに八幡に問いかける。あの変装の下には恵のニコニコ顔が隠れているのだろう。

「あー……どうする、一色」

「照明、ですか。そうですね……借りるだけ借りちゃいましょうか」

「じゃあ、お願いして来るね」

 再び恵が外に出て行った。あんなに嬉しそうにしちゃって。そんなに八幡の役に立てるのが嬉しいのだろうか。あれだけ露骨なのにまだ自分の気持ちに気付いていないのが驚きである。『仲間』というレッテルのせいで『恋心』と『友情』を勘違いしているのかもしれない。

「あ、そうだ。ティオ、少し頼みがあるんだが」

 その他組に照明の件を伝えに行ったいろはを見送った八幡が私に話しかけて来る。因みに雪乃と書記さん(何故か名前で呼ばれないので知らない)は台本についてまだ話し合っていた。

「ん? 何よ」

「サイのクリスマスプレゼント選ぶの手伝ってくれないか? 何送っていいのかわからん」

「それぐらい――」

 いや、待て。これはチャンスではないか? クリスマス間近のこの時期に2人きりで買い物とか良い感じの雰囲気になりそうである。うん、そうしよう。

「――なら私じゃなくて恵に頼んだ方がいいかもしれないわ」

「大海に?」

「ええ、恵はセンスいいから。きっと素敵なプレゼントを選んでくれると思う」

「でも、アイドルと買い物とかばれたらやばくね? 『子供のクリスマスプレゼントを買いに行きました』って説明しても意味ないだろうし」

 その説明だと余計誤解されそうだと思うけれど、今は関係ないので無視しよう。

「ばれた場合でしょ? きっとばれないわよ。遊園地でもばれなかったし」

「あー……何でサングラスだけでばれないんだろうな。不思議で仕方ないわ」

「何の話?」

 電話を終えた恵が不思議そうに聞いて来た。チラリと八幡に目配せをする。それで察したのか目を逸らす。いや、察したなら言いなさいよ。

「八幡が恵に頼みがあるんだって」

「ちょっ……」

「頼み? 何?」

 頼られるのが嬉しいのか恵はご機嫌な様子で首を傾げる。

「あー……えっと、クリスマスプレゼント買いたいから一緒に買いに行ってくれないか?」

「……え?」

 まさかクリスマスプレゼント選びを頼まれるとは思わなかったのか目を白黒させる恵。

「別に嫌だったらいいし、仕事もあるだろうからな。無理にとは――」

「――無理じゃない! 全然行きます!」

「お、おう……そうか。なら、頼むわ。いつ行く? 希望とかあるか?」

「この後行けばいいじゃない。明日から恵ものすごく忙しいから今日以外、時間ないわよ?」

 すかさずフォローを入れる。仕事のせいでデートを潰したくない。それに夜の街を2人で歩けば絶対にいい雰囲気になる。今の季節、街はイルミネーションで輝いているのだ。

「あー、クリスマスだもんな。じゃあ、帰りに3人で――」

「あああああ! ゴールデンタイムに入るアニメの予約忘れていたわあああああ! 遅く家に帰ったらアニメ見られないわあああああ!」

 余計なことを口走りそうになった八幡を遮って叫んだ。危ない。ここで私も一緒に買い物してしまったら完全に子供連れの夫婦になってしまう。確かにそれもなかなかいい感じになりそうだが、今回の目的は恵に自分の気持ちに気付いてもらうこと。2人きりではならないのだ。

「あれ、ティオその時間いつもバラエティー番組見てなかったっけ?」

「あ、そ、れは……そう、ガッシュ! ガッシュに教えて貰って今日、見ようと思ってたのよ! だから私を家に送った後、2人で買い物行って来て! ね!?」

「そ、そう? なら、しょうがない、かな?」

 2人きりで買い物、という言葉に反応したのか恵が照れくさそうにはにかむ。これできっと2人の仲も縮まるはず!

 どこに買いに行くか話している恵と八幡を見ながら人知れず、私は笑みを浮かべる。

 しかし、この時点で計画が破たんしていたことに私は気付いていなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……」

「あ、おかえり。どうだった?」

「あ、あああああ……やっちゃったぁ」

「……あれ?」

 そのことに気付いたのはソファに倒れ込み、クッションを抱えて悶えている恵の姿を見た後だった。結局自分の気持ちにも気付いていないみたいだし。まぁ、悶えた後、嬉しそうに笑っていたので何かあったらしく、無駄ではなかったようだ。でも、何があったのだろう? それが少しだけ気になったクリスマスだった。




私だって(八幡君の)少しでも役に立ちたいのだ。電話をかけて頭を下げるくらいのこと(八幡君の助けになる)なら喜んでやる。

この文章を書いた後、カッコ内の言葉を付けたしたら完全に……ね?



プレゼント選びの時のお話はどこかの本編にて。



次回、新章突入。

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