やはり俺の魔物の王を決める戦いは間違っている。 作:ホッシー@VTuber
ティオから物語のあらすじを聞き、何とか形にできそうだと判断したところで一度、電話を切った。一色から『話し合い、結構時間かかりそうなのでコンビニで会議用のお菓子を買っておいてください』と由比ヶ浜に連絡が来たからだ。詳しい話は後でするということにして俺たちはコンビニに向かい、適当にお菓子を買って会議に挑んだ、のだが。
「確かにその考え方はありだと思うんだけど二校合同でやることに意味があると思うんだよね。別々のことをやるとシナジー効果も薄れると思うし、ダブルリスクなんじゃないかな」
「そうかもしれないですけど、こちら側としてはこんな感じでやりたいなって思っていまして。ほら、お客さんも一つの企画だけ見るより別々の企画二つを見れた方が楽しめると思いませんか?」
定刻通りに始まった会議は海浜総合高校生徒会長の玉縄と総武高校生徒会長の一色の一騎打ちになっていた。いや、もうすごいね。他の人も困惑しているようだし。
まず、会議が始まってすぐ玉縄は追加予算のシェアを提案した。しかし、そこへ一色が演劇案を出したのだ。今まで意見など出していなかった一色からの提案だったので玉縄も驚いていたが、すぐに現状プランの幕間に演劇を組み込む折衷案を提示。だが、一色も負けじと現状プランの金銭面が解決されていないことを指摘し、音楽と演劇の二部構成を提案した。つまり、海浜総合高校との合同企画を廃止し、各学校で別の企画を用意して発表すると言ったのだ。その結果、何としてでもよくわからないシナジー効果を得たい玉縄と何としてでも個別でやりたい一色が対立することになってしまった。
「まぁ、そうなるわよね」
「ああ」
一色と玉縄がにこやかに言い争っているのを見ながら隣に座っている雪ノ下と頷き合う。俺たちが生徒会メンバーだったとしても海浜総合高校との対立を選択する。あいつらと手を組んでもどちらの得にもならないのだ。総武高校は海浜総合高校の提案に相槌を打ち、流され、海浜総合高校は総武高校に否定されないように意見を出し、褒め、企画を練り続ける。それの繰り返し。無限ループ、というやつだ。
「演劇って言うのはすごくいいと思うんだよね。だからコンセプトに立ち返って音楽と演劇のコラボレーションとかそう言う方向で行くのも一つの考え方だよね」
「はい、一つの考え方だと思います。でも、今から台本作ってそれに合わせて音楽を取り入れるのって無理じゃありません? 予算もほとんどないわけですし」
「なら、それについて考えてみようよ。そのための会議なんだし」
「いいえ、この会議は“そんなことのために”開かれた会議じゃないですよ?」
いつものように玉縄が笑いながら言うが、それを一色が真正面から叩き潰した。まさか今の会議を全否定されるとは思わなかったようで海浜総合高校メンバーは目を白黒させる。俺も思わず、一色の方を見てしまった。そして、気付く。
(こいつ……もしかして、怒ってるのか?)
「だって、この会議はクリスマス合同イベントを成功させるための会議なんです。私たちが楽しむためにイベントをするんじゃないんです。イベントに来てくれるお客さんや参加してくれる子供たちを楽しませるためのイベントなんですよ」
――そもそも俺たちが何かしたいかじゃないんだよ。これは来場するゲストを楽しませるイベントだ。俺たち主体になったらただのお遊びになる。
俺が言った言葉を彼女はどのように受け止めたのだろうか。ただ言えるのはそう言った一色の目は真っ直ぐ玉縄の目を見ていた。
「それにさっき気付きました。それで、生徒会メンバーで話し合ったんです。時間もない、予算もない、人手もない中、どうやってお客さんたちを楽しませるかって。先輩方にも手伝って貰ってやっと形になって……私たちは“遊び”でやってるわけじゃないんですよ。シナジーだとか、コラボレーションだとか言ってる場合じゃないんです。そんなこと言ってる時期はとっくの昔に終わってるんですよ」
「い、いや、でも……それだと一緒にやる意味が」
「はい、ありません。だって、貴方たちは遊びでやっているんですから。真剣に取り組み始めた私たちの邪魔をしないでください」
こうして、総武高校と海浜総合高校のクリスマス合同イベントは二部構成となった。
「せ、せせせせんぱーい……ど、どうしましょー!」
「……いや、お前が勝手にやったんだろうが」
会議室の空気が絶望的に重い中、何とか由比ヶ浜がお互いの仲を取り持ってくれたおかげでクリスマス合同イベントそのものが中止になることはなかった。一色も慌てて向こうの学校に謝罪していたが、あまり効果はなかったように見える。まぁ、一色の言葉を聞いて『自分たちが楽しむためのイベント』になっていたことに気付いたようで玉縄たちも何とも言えないような雰囲気になっていたが。
「あああああ! やばいですやばいです! なんで私あんなことー!」
「ま、まぁまぁ。落ち着いて」
「結衣せんぱーい……」
講習室で泣き喚いている一色とそれを宥めている由比ヶ浜を放置し、他の生徒会メンバーと俺と雪ノ下は早速具体的な企画を立てていた。
「演劇をやるって言ったけど物語は決まってるのか?」
「いえ、まだそこまでは……」
俺の問いかけに書記ちゃんが申し訳なさそうに首を横に振る。あの短時間でそこまで企画を練られるわけないと思っていたのでいいのだが、そんなに縮こまられるとこっちが申し訳なくなる。八幡怖くないよー。
「それより先方との連携が取り辛くなったのが痛い」
「うぐっ」
副会長の言葉に一色が胸を押さえた。いや、一色は悪くないと思う。正論だったし。だから、もう少し時間を置けば大丈夫だろう。その時間がないわけだが。
「あたしが連絡係するよ。さっき話してみたらあっちも反省してるみたいだったし。イベント自体は成功させたいから変なこともして来ないと思うよ」
「あぁ、結衣先輩が天使に見えますぅ……」
一色の中で由比ヶ浜の好感度が上がっているようだ。しかし、まさか一色があそこまでするとは思わなかった。何か理由でもあるのだろうか。
「……その、前先輩が言ってくれたじゃないですか。『俺とめぐり先輩が認めたすごい1年』だって」
聞いてみると由比ヶ浜に泣きついていた一色は顔を俯かせて話し始める。だが、俺はすぐにそれを遮った。
「いや、それはただの建前って言うか……そんな感じで売り込もうとしただけで」
「わかってますよ。あの時、先輩とは初対面……みたいな感じでしたし。でも、他の人はそう思わないじゃないですか。だから、もし合同イベントが失敗したら先輩にもめぐり先輩にも迷惑かけちゃうなってわかって。それで生徒会の皆さんにお願いして、あんな感じになっちゃいました」
『まぁ、それも副会長に言われて気付いたんですけどね』と自虐的な笑みを浮かべる一色。生徒会室で行われた会議で彼女は生徒会長としての覚悟を決めた、ということなのだろうか。どうやら、今回のイベントで一色は予想以上に生徒会長レベルを上げたらしい。ちょっと暴走してしまったが、それも経験値となって彼女の中で生き続けるだろう。
「……そうか。なんかすまんな」
「いえいえ、そのおかげであんな面倒臭い会議も終わったんですし! 先輩たちのためにも私、頑張っちゃいますよー!」
「なら、一色さん、先方に予算と時間の配分を確認して来て貰えないかしら?」
調子に乗り始めた一色に雪ノ下が冷たい微笑みを向ける。おお、怖い怖い。
「そ、それは……またの機会に」
さすがに今から先方に聞きに行くのは嫌だったのか一色が由比ヶ浜の後ろに隠れてしまう。それを見た俺たちは思わず、笑ってしまう。雪ノ下も冗談だったのか微かな笑みを浮かべていた。
「あはは、それじゃあたしが確認して来るね。えっと、予算とイベントの開催時間だっけ?」
「……誰か付いて行ってあげてくれないかしら」
「じゃあ……私が」
雪ノ下のため息交じりにお願いに書記ちゃんが手を上げて立候補する。会計の人は今、現在までの経費精算をしているし、副会長もこれから具体的な企画を練るために必要であるため、一番仕事がないのは書記ちゃんだったのだ。議事録なんて誰でも書けるからな。いや、由比ヶ浜には無理か。
雪ノ下の様子を見て使えない子扱いを受けたとわかり、落ち込む由比ヶ浜とそれを慌てながら宥める書記ちゃんを見送った俺たちは本格的に会議を始めた。
「それで演劇の具体的な内容なんですが……とりあえず、物語から決めた方がいいですよね?」
自主的に進行役をし始めた一色が俺たちに問いかける。確かに配役を決めるにしても大道具を用意するにも物語を決めていなければ話にならない。他の人もそう思ったようで各々、頷いていた。
「じゃあ、物語を決めましょうか。えっと、クリスマスイベントだから――」
「――すまん。ちょっといいか」
そこで俺は会議を中断させる。ここからが正念場だ。
「先輩? 何か意見があるんですか?」
「意見と言うか……お願いだ」
『お願い?』と首を傾げる一色を横目に立ち上がって講習室の扉を開け、外で待たせていた人を中に招き入れる。
「その子は?」
「こいつは鶴見留美。今回、クリスマス合同イベントにボランティアで参加してくれた小学生組の1人だ」
「よ、よろしく……お願いします」
年上ばかりの空間だからか留美は緊張しているようで声を上ずらせていた。
「その子が、何かあったんです?」
「実はな――」
困惑している一色を含めた生徒会メンバーに留美の依頼を説明する。もちろん、事前に留美には許可を取ってあるし、サイの過去についても話さなかったが。
「つまり……仲直りしたいけど、相手の子は会う気がなくてどうにかしたい、ってことですか」
「だいたいはな。その相手の子……サイなんだけど、ちょっと事情があってな。説得するだけじゃ駄目なんだ」
「あ、サイちゃんだったんですね。うーん、確かにあの子ってちょっと他の子とは違う感じがしましたもんね。それでその依頼と演劇に何の関係が?」
「ああ、その演劇にサイと留美を参加させて仲直りさせたいんだよ。一応、そのための作戦も考えてある」
「作戦、か。具体的には?」
腕組みをしたまま、副会長が質問して来た。今のところ、留美の依頼を拒否するつもりはないらしい。普通だったら『こんな忙しい時に他の奴の悩みを聞いている暇はない』と言って聞く耳を持たないのだが、嬉しい誤算だ。
「ああ、とある物語を演じさせる。そうすればサイは聞いてくれるはずだ」
「……それだけ?」
「それだけだ。まぁ、そのために色々仕掛けとか用意したいんだが、数時間前に思いついたばかりだからな。もう少し考えたい」
「あ、もしかして今回の演劇にその物語を使ってくれってことですか?」
首を傾げている副会長の横で一色が答えに行きついた。
「そうだ。ただ、クリスマスって感じじゃないから今回のイベントにそぐわないんだよ」
「どんな物語なんです?」
「人間と魔物の恋の物語だ。話の内容は知ってるがタイトルは知らない。俺も人伝で知ったからな」
「うーん、恋の物語ですかぁ……それをアレンジするのってありです?」
「……いいのか? 奉仕部の依頼なのに巻き込んで」
まさか協力してくれるとは思わず、つい聞いてしまった。ただでさえイベントを成功させるために神経をすり減らすのに余計な物まで背負うことになるのだ。だから、どうやって説得しようかあれこれ悩んでいたのだが。
「だって、先輩のお願いですよ? 聞くに決まってるじゃないですか。それに奉仕部はれっきとした部活動です。それを生徒会がサポートするのは当たり前ですよ」
『ね?』と他の生徒会メンバーに目配せする一色。それを受けた彼らは笑顔で頷いてくれた。色々と悩んでいたのにあっさり上手くいったせいで拍子抜けしてしまう。
「あ、ありがとうございます!」
そんな彼らに留美が頭を下げてお礼を言った。その声は震えている。心強い味方を得て泣いてしまうほど辛かったのだろう。それほどサイと仲直りがしたかったのだろう。それを改めて知った俺は嬉しくなった。大切なパートナーを大切に想ってくれている人がいると知ることができたから。
「それでさっきの件ですが」
「あ、ああ……物語を壊さない程度のアレンジなら大丈夫だぞ。ただ、俺もそこまで詳しく聞いてないからな。後で聞くって約束はしてるけど」
「なら、私たちもそれ聞いていいですか? 多分、その人から直接聞いた方がいいと思いますし」
確かに演劇にするのならばここにいる人たちは物語の内容を知っておくべきであろう。ただ問題はその相手である。
「あー……ティオ――その相手って子供なんだよ。だからここまで来られないと思う。東京の方に住んでるし」
「保護者同伴でも駄目なのか?」
同伴なら大丈夫だろう。だが、ティオの保護者は今大人気のアイドル『大海 恵』だ。そう簡単に仕事を抜けられるわけがない。
「一応、聞いてみるだけ聞いてみてくれませんか?」
俺が難しい顔をしていたのを見て保護者と知り合いだとわかったのか申し訳なさそうに一色が頼んで来る。
「……わかった。聞いて来る」
お願いを聞いて貰っているのは俺たちの方だ。断れるわけがない。携帯をポケットから取り出しながら講習室を出て、大海に電話を掛ける。ティオの話が正しければもう大海の仕事は終わっているはず。
『もしもし、八幡君? どうしたの?』
「今、時間大丈夫か?」
『うん、次のお仕事があるから少しだけなら……あ、ティオに代わる?』
「いや、お前に用事だ」
それからすぐに留美の依頼やその依頼のために『人間と魔物の恋の物語』の演劇をすること、それでティオの話を皆で聞きたいから一緒に来られないか、と聞いた。
『だからティオに話を聞いてたのね。えっと、それって何時くらいからかな?』
「そうだな……だいたい5時か6時くらいか。放課後に会議するから遅めに始まる」
『ちょっと待ってて……うん。NG一本も出さなかったら行けそう』
スケジュールでも確認したのか、大海はホッとした様子で教えてくれた。いや、NGを出さないってなかなか難しいと思うのですが。
「無理はしなくていいんだぞ?」
『ううん、大丈夫。絶対に行くから待ってて。絶対に行くから!』
「お、おう……」
何故か強調して来たので焦ってしまう。サイが関係しているから気合いでも入ったのだろうか。前からサイのことを気にしてくれていたみたいだし。
『あっ……ごめん、そろそろ仕事に戻らないと。詳しい場所とか時間とか後で教えて』
「ああ、わかった。仕事、頑張れよ」
『っ……うん、行ってきます!』
何故か嬉しそうにしていた大海との電話を終え、講習室に戻る。
「どうでした?」
「仕事が上手くいけば来られるらしい。一応、来る前提で準備しておこう」
「わかりました。じゃあ、今は他の話し合いを終わらせておきますか」
「……ねぇ、比企谷君」
生徒会メンバーの会議を眺めていると小さな声で雪ノ下が俺を呼んだ。
「何だ?」
「ティオさんって……あの赤い髪の子よね? その保護者ってことは大海さんが来ることになるのかしら」
「ああ、そうだけど」
「……騒ぎになると思うのだけれど」
「……厳重に変装して来るように言っておくわ」
クリスマスまであと数日。
原作と一番変わっているのがいろはな件について。
あと、感想を読んでハイちゃんを参加させるか悩んでいます。参加させたらもう少し長引いてしまうのでどうしようかと。実はクリスマス編、そろそろ10万字行きそうでだいたいライトノベル1冊分の文量になります。
なお、今回のお話は12月20日のお話になります。原作でこの日に該当する日が月曜日、その次の日に演劇の内容を決めていました。
更にクリスマスイブ当日のお話でイベントの2日前が終業式、その次の日が祝日と言っていたので
月:今回のお話
火:会議
水:終業式
木:祝日
金:クリスマスイブ
しか成り立たないんですよね。
クリスマスが土日なのではないか?と思うかもしれませんが、ディスティニーランドのチケットを貰った金曜日の時点で八幡が『クリスマスまで1週間を切ってる』と言ってるので土日もないかなーと。
……と、このように日付を推理するのが大変だったりする、というちょっとした愚痴でした。