やはり俺の魔物の王を決める戦いは間違っている。 作:ホッシー@VTuber
……でも、こんな美味しいイベント(ディスティニーランド)を見逃せるはずがなかった!
私もいい加減、サイのかわいい姿とかかわいい仕草とかかわいい行動とかいろいろ書きたかったんや! あんなに暗い?お話しばかりで色々とたまっていたやああああああ!
……ということで、ディスティニーランドのお話し、結構引っ張ります。2~3話ですかね。
クリスマス編完結をお楽しみにしていた方は申し訳ありません。できるだけサイのかわいい姿を書いたつもりなのでそれで許してください。
翌日の土曜日。俺とサイは電車に揺られていた。もちろん、ディスティニーランドに行くためである。
「うわぁ……」
俺の隣で窓から外を見ているサイが嬉しそうに声を漏らした。それにつられるようにそちらに目を向けると丁度、ディスティニーリゾートの景色が飛び込んで来る。ここからでも白亜の城や煙を上げる活火山のアトラクションが見えて不思議とわくわくして来た。俺もまだ少年の心を持っていたのか。
「ハチマンハチマン! お城!」
「おう、そうだな」
俺の袖を引っ張って笑うサイ。うん、わかったからとりあえず静かにしような。電車の中だからね。他の乗客の迷惑になるからね。
「ほら、サイ。そろそろ着くからこれ付けろ」
暖房が効いていたので外していたウサギさん耳当てをサイに装着する。それでもサイは窓の外から目を離さない。仕方ないのでマフラーも俺が装備させた。防具は装備しないと意味ないからな。
「ハチマン!」
「ん?」
「楽しみだね!」
そうやって俺に満面の笑みを向ける。その笑顔が見られただけでここに来てよかったと思えた。いや、まだ着いてもいないんだけどね。
舞浜駅に到着し、今にも飛び出して行きそうなサイの手をしっかり掴んで集合場所に向かう。集合場所と言っても改札のすぐ目の前だが。このままではサイに引きずられながら入場してしまいそうなので急いで他の人を探す。
「ヒッキー、サイー、やっはろー!」
ずりずりと靴底から音を立てつつ、踏ん張りながら周囲を見渡していると不意に声が聞こえる。そちらを見ると由比ヶ浜が大きく手を振っていた。その隣には雪ノ下の姿もある。わかったからいい加減手を振るのをやめなさい。後、こんなところでその挨拶もやめてください。
「ユイー、ユキノー、やっはろー!」
「……おっす。早いな」
隣から聞こえた挨拶を無視して2人に話しかける。集合時間よりも早く着いたのですでにいるとは思わなかったのだ。
「5分前行動は社会行動の基本よ」
「そうそう、ゆきのん早かったよねー。あたしも早く着いたつもりだったんだけどその時にはもうゆきのんいたもん」
まぁ、ここには雪ノ下の好きなパンさんもいる。それほど楽しみだったのだろう。そんなことを考えていると俺の視線に気づいた雪ノ下は腕を組みながらそっぽを向く。
「……電車が混むのが嫌だったのよ。それにしてもサイさん。とても楽しみみたいね。誰か好きなキャラでもいるのかしら? パンさん?」
「あんまりキャラはわからないけど、楽しみ! 前、“メグちゃんたちと遊園地に行った時”も楽しかったから!」
「「……」」
サイさんや、その情報を今伝える必要はあったのかな。二人の視線が一瞬にして鋭くなったような気がする。
「……へぇ、仲間って一緒に遊園地にも行くんだー?」
「あれかしら? 信頼関係を築くための親睦会みたいなものかしら?」
「いや、それは……」
「あ、せんぱーい!」
言い淀んでいると後ろから救世主が現れる。前にいる部員仲間から逃げるように振り返るとコンビニにでも寄っていたのか小さなビニール袋を持った一色と苦笑を浮かべている葉山。そして、その後ろでわいわいと話している三浦、海老名さん、戸部の3人。あれ、なんかよくわからない人が4人もいる。
「あ、そうだ……ヒッキーごめん。なんか今日のこと優美子に話したら一緒に行くってきかなくて。いろはちゃんも隼人君を誘ってたみたいだし」
思い出したように謝罪する由比ヶ浜。まぁ、昨日の段階で一色に他の人を呼んでもいいか聞かれていたから何となく予想はしていたが、まさかここまで大人数になるとは思わなかった。
「……まぁ、人が多い方がクリスマスイベントの取材の撮影とか捗るし、いいんじゃないか?」
俺たちがディスティニーランドに来たのはサイに話を聞くのとクリスマス合同イベントの取材のためだ。前者はともかく後者は人が多ければ多いほど意見や参考資料も増える。人選はともかく。
「っ……う、うん。そうだよね。うん」
何故か由比ヶ浜は狼狽えながら何度も頷く。雪ノ下も意外そうな表情を浮かべてこちらを見ていた。
「……なんだよ」
「いえ……あなたが何も文句を言わずに承諾するとは思わなかったから」
「別に反対する要素がなかっただけだ。ほら、急がないとサイが待ちくたびれて……サイ?」
しっかり手を繋いでいたはずなのに俺の手の先に群青少女の姿はない。チケットは俺が持っているので中には入れないがお得意のステルスを使えば簡単に入場できてしまう。慌てて周囲の様子を確かめようとするが、彼女はすぐに見つかった。
「……」
「え、えっと……何かな?」
サイは何故かじっと彼の顔を見つめていた。幼女に見つめられるのにはさすがに慣れていなかったのか葉山は困った顔をしている。隣にいる一色も困惑しているようで2人を交互に見ていた。
「……うん。マシになったかも」
そして、彼女は静かにそう呟いてこちらに戻って来る。サイは葉山のことが苦手だったはずだ。それなのに自分から近づいて『マシになった』と評価した。きっと、葉山の何かが変わったのだろう。原因はいくつか思い浮かぶが証拠もない。それに――。
「マシ?」
「……そうか」
サイの言葉を聞いて首を傾げる一色とどこか納得したような――それでいて救われたような表情を浮かべている葉山。本人が納得しているのだ。外野がとやかく言う意味はない。
「……ふーん」
そんな彼を見ていると不意に三浦が俺たちの方を見ながら声を漏らす。その隣には嬉しそうに笑っている海老名さんと俺の存在に気づいて手を振って来る戸部。何かあったのだろうか。
「あ、みなさん揃ったみたいなんで行きましょうか」
俺の元へ帰って来たサイを不思議そうに見ていた一色が手を軽く叩きながらそう提案する。そろそろ行かないと人が増えてアトラクションに乗れなくなってしまうだろう。反対意見は出なかったので皆で入場待ちの列に並び、チケットをパスに引き換えてエントランスゲートから中に入る。
「おぉ……」
サイと手を繋ぎながら広場のような場所へ出ると思わず、声を漏らしてしまった。正面には巨大なクリスマスツリーがそびえ立っており、綺麗なイルミネーションが施されている。夜になればより一層綺麗に見えるだろう。
「すごいね、ハチマン」
「……ああ」
その光景に圧倒される。ふとツリーの向こう側に白亜の城が見えた。あれも計算されているのだろう。じゃなければここから綺麗に城が見えるはずがない。他の人も俺たちと同じように目の前に広がる景色を眺めていたが、すぐに女性陣はクリスマスツリー前での撮影待機列に並び始めた。仕方なく、俺もサイと一緒にその列に並ぶ。
「ハチマンハチマン!」
「っと……なんだ?」
いきなり俺の肩に飛び乗ったサイ。反射的に見上げ、そこに鎮座する俺のスマホを見つけた。そう、巷で流行っている自撮り棒である。まさかサイが自撮り棒を持っているとは思わず、呆気に取られている間にカシャっとシャッターの切る音が小さく響いた。
「どれどれー……あ、ハチマン変な顔」
「お前、それどうしたんだ?」
「コマチに貰った。はい、もう一枚」
「……迷惑になるからまた後でな」
たとえ、サイが俺の肩に乗っていると言っても列に並んでいる間は他の人の迷惑になってしまう。普段の彼女ならそれぐらいすぐに気づきそうなものだが、やはりテンションが上がっているのだろう。
「むっ……そうだね。やめておく」
そう言ってサイは自撮り棒の先端に装着されていた俺のスマホを回収し、ポケットに突っ込んだ。いや、それ俺のスマホ。
そんなことをしている内に俺たちの番がやって来た。写真はパークの人が撮ってくれるらしい。とりあえず全員で一枚撮った後、『女子だけ』や『葉山と三浦と一色だけ』など様々なパターンで写真を撮る。もちろん、奉仕部の4人でも撮影した。でも、なんで俺が真ん中なんでしょうね? 八幡不思議。
「あ、ハチマンとのツーショットも撮りたい」
そろそろ移動するか、と考えていたがサイがそんなことを言ったので最後の1枚は俺とサイのツーショットに決まった。
「抱っこ」
いつものように肩車で撮影するかと思ったがどうやら今回は抱っこらしい。両手を挙げて抱っこを要求している彼女の両脇に手を入れて一気に持ち上げて抱っこした。
「はーい、行きますよー!」
パークの人が微笑ましそうにこちらにカメラを向けて手を挙げる。なんでこういったテーマパークで写真を撮る人はあんなに笑顔なのだろう。
「ねぇ、ハチマン」
写真を撮られるのを待っていると俺の首に腕を回して体を支えていたサイが小さな声で俺を呼んだ。
「ん?」
「……ありがと」
そんな感謝の言葉の後、頬に柔らかい感触。それと同時にシャッターが切られる。
――その写真には目を丸くする俺と顔を少しだけ紅くしながら俺の頬にキスをするサイが綺麗に収まっていた。