やはり俺の魔物の王を決める戦いは間違っている。 作:ホッシー@VTuber
いや、本当に申し訳ないです。オリジナル展開となるとなかなか難しくて……。
――どうして、×××は傷つくことを××××ですか? 怖くは×××ですか?
――×××に決まっている。しかし、私は×××が怖い。だから、×××ために××××。
――それは私も××××です。どうか、×××××しないでください。どうか……。
「……」
私はそこで目を開けた。寝惚けていたのか天井に向かって手を伸ばしていた。少しだけ肌寒かったので腕を布団の中に戻して寝返りを打つ。自然と隣で寝ているハチマンが目に入った。
――サイは、信じておらぬのか?
「……そんなこと、ないもん」
私の願望を呟き、ハチマンの腕に抱き着いて再び、目を閉じた。
隼人君に誘われ、ヒッキーと再会してしまった日から2日後。週明けの月曜日の放課後。
「「……」」
どうしてこうなってしまったのだろう。鋭い目であたしを睨んでいる親友を前にして手が震えた。また壊れてしまうのだろうか。あの時のように。
「結衣」
「ッ……」
いつもより低い声で呼ばれてビクッと肩を震わせてしまった。それが気に喰わなかったのか彼女は眉間に皺を寄せてしまう。それを見て思わず、目を逸らしてしまった。コツコツと彼女が靴で階段の踊り場の床を叩く音が響く。相当、機嫌が悪いようだ。
「あーし、ちょー怒ってんだけど」
あたしの予想を肯定するように優美子は腕組みをしながらそう言った。
事の始まりは突然だった。いつものように……とはいかないけど普通に教室で話をしていたら突然、優美子があたしに話があると言ってここまで引っ張って来たのだ。
「怒ってるって……何で?」
声が震えないように努力しながら問いかける。だが、その問いかけの答えは鋭い眼光と舌打ちだった。
「……あんた、本気で言ってんの?」
「本気ってどういう――」
あたしの言葉を遮るように優美子はダン、と右足を足踏みをするようにその場で床に叩きつけて大きな音を立てる。『もう話すな』と言わんばかりに。
「結衣がずっと何かに悩んでるのは知ってた。でも……触れられたくなさそうだったし、様子を見ようって思った」
そこまで言った後、彼女は目を伏せた。腕組みを解いて力なく拳を握っている。
「その結果が今日。隼人と何かあったのかは知らないけどあんな露骨に避けてたらあーしじゃなくてもわかるでしょ」
「ッ……」
思い出すのは金曜日の出来事。隼人君はあたしたちを再会させた。でも、あたしは耐え切れず、ヒッキーから逃げたのだ。それが何だか後ろめたくて隼人君と話せなかった。いや、違う。彼と話してまたヒッキーと再会させられるのが嫌だったのだ。
「別に悩むなって言わないけどさ。それのせいであーしたちの仲までぎくしゃくするのは嫌。だから、どうにかしてくんない?」
「どうにかって……」
あたしだってどうすればいいのかわからないのだ。奉仕部は――あたしとゆきのんがいた頃よりも有名になっている。それに奉仕部に戻りたいと言ってもサイが許してくれるはずがない。あたしは役立たずだから。きっと、ヒッキーの迷惑に。だから、あたしはあそこに戻らない方が。
「少し痛いから我慢しな」
「え――」
突然の言葉に呆けると同時に乾いた音と右頬に痛みが走った。右頬がジンジンと痛む中、優美子を見る。彼女は左手を振るった恰好のまま、どこか悲しそうな表情を浮かべていた。
「結衣、今自分がどんな顔してるかわかってんの?」
「か、お?」
驚きのあまり動けないあたしを見て優美子はポケットから小さな鏡を取り出してあたしに渡す。おそるおそるそれを受け取り、鏡で自分の顔を見た。
そこに映った顔は――一言で言ってしまえば、ぐちゃぐちゃだった。苦しみと悲しみで顔を歪ませ、涙を流しているあたしだった。慌てて空いている手で目元を拭う。しかし、涙は止まらない。止まってくれない。あれだけ“我慢”して来られたのに。どうして、今のタイミングで涙が零れてしまったのだろう。
「あ、あぁ……」
そうか。今まで我慢できたのではない、とうとう限界が来てしまったのだ。
サイに言われたこと。
奉仕部が崩壊したこと。
ヒッキーの差し出した手を無視したこと。
ヒッキーがたった一人で奉仕部を立て直してしまったこと。
ヒッキーの前から逃げてしまったこと。
隼人君を避けるようになってしまったこと。
……もしかしたら、優美子たちとの関係も終わってしまうかもしれないこと。
現実逃避していたあたしは右頬の痛みでやっと現実に目を向け始め、自覚し、震えた。この痛みが『これが現実だ』と教えてくれた。だからこそ、震える。
「ゆ、みこ……」
「ん?」
「あたし……もう嫌なの」
もう、失いたくない。終わらせたくない。離れたくない。放したくない。そんな感情が溢れ返り、歪む景色の中で唯一、しっかりとそこに存在している彼女に手を伸ばす。
「優美子……助けて」
「遅いっての、バーカ」
震えるあたしの手を優美子は笑いながら握ってくれた。
「――ふーん、そんなことがね」
数分経ってやっと泣き止んだあたしと優美子はファミレスに移動して今まであったことを吐き出すように(さすがに魔物については誤魔化したけど)話した。全てを聞き終えた彼女は腕組みをしてそっと呟く。
「あたし……バカだしサイの言う通り、役立たずかもしれない。でも、やっぱりあの場所でゆきのんとヒッキーとサイと過ごしたいの」
例え、ゆきのんとヒッキーとサイがそれを望んでいなくても。そう締めくくってあたしは真っ直ぐ優美子の目を見つめる。それを受け、何故か目を閉じる優美子。
「……あーし、修学旅行の2日目の夜にヒキオとコンビニで会ってんだよね」
「え?」
「その時さ……姫菜にちょっかいかけないでって言ったんだけどあいつ、姫菜の依頼を優先するって言ってさ」
そこで彼女は言葉を区切った。言いにくそうに、言葉を探しているかのように。
「そう言ったあいつの顔が……何と言うか、悲しそうだったと言うか。決心してるって言うか」
「えっと……どういうこと?」
「あーしもよくわかんない。ただ何となくそう思っただけ」
「えー……」
すごい気になる。2日目の夜となると……すでにゆきのんがヒッキーとサイのことを怖がっていたはず。それと何か関係があるのだろうか。それに確か姫菜の依頼は『今の関係を壊さないようにとべっちの告白を阻止して欲しい』みたいな感じだったと思う。あたしもあれからすぐに奉仕部を離れてしまったから具体的な話はわからないけど。
2日目の夜のヒッキーの顔。
ゆきのんがヒッキーたちを怖がっていたこと。
姫菜の依頼。
「あー、もう! わかんないよー!」
そう言いながらテーブルに突っ伏した。多分、この3つが鍵だ。それはわかるのだが、これ以上何をしていいのかわからない。
「これ、あーしらじゃ無理じゃね?」
「うぅ……どうしよう」
あたしはバカだし、優美子はあの時の当事者じゃない。このままじゃ何も解決しないまま、時間だけが過ぎてしまう。
「なら、他の人呼べばいいじゃん。姫菜とか」
頭を抱えていると不意に優美子がそう提案した。
「え、でも……」
これは奉仕部の問題だ。優美子を巻き込んでしまっただけでも申し訳ないのに他の人にも協力を要請するなんて。
「多分、姫菜なら喜んで来てくれると思うけどね。それに――」
――これはあーしらの問題でもあるし。
携帯を操作しながら彼女はそう呟いた。
由比ヶ浜がやっと前を向き始めました。
右頬バチンが気付けになった感じです。
次回、具体的な作戦会議、になると思います。