やはり俺の魔物の王を決める戦いは間違っている。   作:ホッシー@VTuber

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感想でも話しましたが一応、こちらでもお話ししておきます。


タグにアンチ・ヘイトを付けるべきでは?という感想が来ました。
確かに今の章で由比ヶ浜や雪ノ下、葉山がボロボロにされています。
ですが、これは成長のための挫折と言いますか。決して、陥れるためではありません。
私の中でアンチ・ヘイトというのは原作キャラを陥れ、そのまま何かしらの処置をせず、読者のヘイトを稼ぐような行為だと思います。
なので、後出しのようではございますが、由比ヶ浜や雪ノ下、葉山も挫折から立ち直り、前に進もうとするのでもう少しだけ待っていただけたら幸いです。
言い訳染みたことだとはわかっていますが、ご了承ください。


……と、言いつつ今回のお話はギャグ路線なんですけどね。


LEVEL.63 やはり彼と彼女は似た者同士である

「使うか?」

「あ、大丈夫よ。マイコンデンスミルクあるから」

「そうか。さすがだな」

「これぐらい常識よ」

 そう言いながらニヤリと笑う彼女。最初はどうなることかと思ったが、戦うことにはならないだろう。何より――。

「「ふぅ……」」

 ――偽MAXコーヒーを友達と一緒に飲める日が来るとは思わなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ことの始まりは少し前。サイが珍しくガッシュの家に遊びに行き、小町は友達と一緒に勉強会をするらしくたった一人の家で休日を満喫していた時、不意にインターホンが鳴ったのだ。惰眠を貪っていた俺は寝惚けながら何の警戒もせず、玄関の扉を開けた。

「こんにちは、八幡。久しぶりね」

 そこにはゴスロリファッションに身を包み、大きな紙袋を持ったかのツペ家当主、ハイル・ツペの姿。

「……」

「あら、もしかして私のこと忘れちゃった? 友達を忘れるなんて酷い人ね。いいわ、もう一度自己紹介をしてあげる。私はツペ家当主、ハイ――」

 とりあえず、扉を閉める。いや、何でいるの? そもそも何で家を知っているの? ストーカー? サイのストーカーなの?

「こらー、開けなさいよ! 開けて! あけ……開けてよぉ!」

 どんどん声が震えていくツペ家ご当主様。何だか弱い者いじめをしているような気分になり、僅かに扉を開ける。もちろん、チェーンをかけて。いや、あの時は嬉しくて友達になったけどちょっとは警戒するだろ。主に殺される的な意味で。

「あ、開いた……じゃなくて! 酷いじゃない、友達になったのに無視するなんて!」

 そう言いながらも開けてくれたのが嬉しかったのか彼女はニヤニヤ笑いながらドアノブを掴み、引く。ガチャンとチェーンの音が響いた。扉にチェーンがかけられていることに気付いたのか隙間からこちらを見上げるハイル。自然と目と目が合った。

「……ぐすっ」

「いや、すまん。ほんの出来心だ。ほら、よくあるだろ? 友達にいたずら。それだよそれ。うん」

「ホント?」

「ああ」

「……そっか。友達にいたずらか。えへへ」

 もう何この子、可愛いな……てか、打たれ弱いな。優しくしてあげよう。殺気も発していないし。ポロポロと泣きながら笑っているハイルを見てため息を吐きながら扉を開け、彼女を家に入れてあげた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それで? 何の用だ、ハイル」

 そう、練乳の入ったチューブをいじりながら問いかける。少し練乳が足りなかったのかチューブをにぎにぎして練乳をじゅるじゅると出していたハイルは呆れたようにため息を吐いてチューブをテーブルの上に置いた。

「ハイちゃんよ、八幡。別に用はないわ。何? 用がなくちゃ友達の家に来ちゃ駄目なの?」

「いや、そこまで言ってないだろ」

「それでいいのよ……あの、ところでサイちゃんは?」

「ガッシュの家」

「……別に気にしてないし。私、八幡に会いに来ただけだし。か、悲しくなんか……ないし」

 いや、なら涙目にならないでください。この家に来てから何回泣きそうになっているの? サイもサイだけどこの子の将来も心配しちゃう。あー、コーヒーをそんな一気に飲んじゃって。むせちゃうよ?

「ぷはっ! あ、そうそう。はい、頼まれてた漫画」

 自棄酒のように偽MAXコーヒーを飲み干したハイルが持って来ていた紙袋をテーブルの上に置いた。そう言えば、貸してもらう約束していたな。紙袋を覗くと頼んでいた漫画の他に『ハイちゃんのおすすめ!』と書かれた紙が表紙に貼られた漫画もある。いや、これ持っているんだけど。

「さんきゅ。読み終えたら返すわ」

「ええ、お願いするわ。あ、でもこっちの家の住所知らないわよね。困ったわぁ、どうしましょう!」

 わざとらしく嘆くハイルだったが、チラチラとこちらを見ている。その姿を見ているとなんかこう……いじりたくなってしまった。

「……じゃあ、今読んで返すわ」

「それは駄目! ゆっくり読まないと! だから、ね? ほら、もっとこう何か方法があるじゃない」

「そうか? 俺は思いつかないんだが」

「その! だから……連絡先、交換、しよ?」

 携帯(何故か二つ折りタイプ)で口元を隠しながらハイル。不安なのかちょっとだけ目をうるうるさせていた。本当にこの子、いじりがいがありすぎて俺のキャラが崩壊してしまいそうだわ。

「おう」

 ハイちゃんいじりを止めて頷く。それを見てハイルは満面の笑みを浮かべた。

「やった! じゃあ、赤外線送るね」

「いや、こっちスマホだから」

「……え?」

 うきうきした様子で携帯を操作していたハイルだったが俺の手にあるスマホを見て体を硬直させる。

「ま、まさか……あの、伝説のスマホを持ってるの?」

「最近じゃ珍しくねーだろ。逆にそっちのタイプの方が珍しいと思うんだが」

「じゃ、じゃあ……連絡先交換できないの? ユウト以外のアドレスが目の前にあるのに?」

 スマホ=伝説という謎の方程式を用いてどのような計算式を立てたのかは知らないが彼女は絶望に苛まれ、携帯を落として四つん這いになって落ち込んでいた。

「大丈夫だって。確かにLINEとか一緒にゲームとかはできないが電話とメールなら普通にできる」

「ら、ライン? ゲーム?」

 あー、あったわ。俺も最初言われた時とか意味わからなかったし。何、フリフリって。今のご時世、携帯を振るだけで連絡先交換できるとかやばいわ。

「とにかく! アドレス交換は出来るのよね!?」

「あ、ああ……手打ちになるけど」

「それでも構わないわ! ほら、アドレス出して! 早く!!」

 鼻息を荒くして携帯を構えるハイルであった。必死か。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふふ、ふふふ……」

 携帯の画面を見ながらニヤニヤしているハイルを一瞥し、漫画に視線を落とす。連絡先を交換して早1時間。そろそろお昼時だが、彼女は一向に帰ろうとしない。多分、時間を忘れてアドレス帳を見ているのだろう。そんなに嬉しいのか。逆にこっちが恥ずかしくなるわ。因みにアドレス名は『ハイちゃん』に変えられた。最初、『ハイル・ツペ』と登録したのだが、それを知った彼女に尖った爪を突き付けられたのだ。友達を脅すのは駄目だと思う。切実に。

「ああ、後はサイちゃんのアドレスだけね。ねぇ、八幡。サイちゃんは携帯、持ってるの?」

「いや、まだ。そろそろ持たせようとは思ってるんだけどな」

 大海と話し合っている最中だ。子供携帯とかあるみたいだし。もう少ししたらサイも携帯を持てるだろう。

「なら、サイちゃんが携帯を持ったらアドレスを――」

「――駄目だ」

 ハイルの言葉を遮って拒否する。まさか速攻で拒否られるとは思わなかったのか彼女は目を丸くし、すぐに俺を睨んだ。

「何でよ、友達でしょ」

「友達だからこその拒否だ。もし、俺がサイの断りもなしにお前にアドレスを教えたのがばれたら絶対、お前嫌われるぞ。サイは個人的な情報を知られるのを嫌がるからな。それと友達だからって何でも頷くとは思うな。友達だって人間なんだ。嫌なことは嫌なんだ。覚えておけ」

「うっ……ごめんなさい」

 俺の言っていることが正しいとわかったのか彼女は肩を落として落ち込みながら謝る。ハイルは二つ名になるほど孤立していた。だから、初めての友達(まぁ、友達2号だが)ができて舞い上がっているのだ。これで少しは落ち着くだろう。

「……八幡って優しいのね」

「あ?」

「だって……さっき断ったのって私のことを考えてのことよね? それにちゃんと注意してくれた。それがちょっと嬉しくて」

 空になったマグカップを見つめながらハイルはそう呟く。その顔には少しだけ憂いの色が見えた。

「……そうか」

「あら、何も聞かないのね?」

「聞いて欲しいのか?」

「……そうね。言ってどうなることでもないし。話す必要性もないもの」

 そう、話したところで何も変わらない。話した方が楽になるだとか、相談に乗ると言っても最終的に解決するのは本人なのだ。話して楽になったのは話したことで気持ちの整理ができたから。相談に乗って解決できたのはその相談を参考にもう一度、考え直したから。だからこそ、話したところで何も解決しないとわかっているこの子には関係ない。すでに気持ちの整理はできているし、相談に乗ったところでぼっちの俺が彼女が考え直せるほどの意見を言えるとは思えない。それを俺もハイルも理解していた。同じぼっちだから。

「それより聞いて欲しいことがあるんだけど」

「いきなりだな」

「私だって色々大変なの! ほら、コーヒーのおかわり!」

「……なんなら、お昼食べていくか?」

 俺もお腹空いたし。

「うぇ!? ま、まだ早いわよ! 友達とご飯なんて!!」

「付き合いたてのカップルか……適当に作るから期待すんなよ」

「き、期待なんてしてないんだから! 友達の手料理とか憧れてたわけじゃないんだからね!」

 などと典型的なツンデレを見せてくれたがインスタントラーメン(色々アレンジを加えたが)を一緒に食べている間、彼女はずっとニコニコしていた。

 お昼を食べた後、しばらくハイルの愚痴を聞いた。どうやら、彼女のパートナーであるユウトはすでに成人しているがフリーターでバイトを何個も掛け持ちして生活しているらしい。しかし、それだけでは生活できないのでハイルも商店街でお手伝いをして野菜や魚をおすそ分けして貰っているらしかった。

「そう言えば、ハイル」

「ハイちゃんよ。何?」

「お前、尻尾生えてなかったか?」

「……な、何のことかしら?」

「ほら、ハートの形の――」

「――あー! そうだった! この前ユウトがねええええええええ!」

 何となくハイルの尻尾について聞いてみたが絶叫で遮られてしまい、誤魔化された。そんなことを続けているとテーブルの上に置いていた魔本がいきなり輝き始める。俺たちはお互いに顔を見合わせた。

「サイちゃんに何かあったのかしら?」

「いや……それはないと思うぞ。ガッシュたちもいるし。それにこの輝き方は……」

 一度だけ見たことがある。あれはサイと出会って2か月が過ぎた頃だ。ハイルが見守る中、パラパラと魔本を捲り、見つける。

『おめでとう、人間界に生き残った諸君よ! この時点をもって残りの魔物の数は40名となりました。試練を乗り越え、更なる成長をし、魔界の王となるべくこれからも全力で戦いあってください』

「魔物の数が……40人に?」

「ああ、そうみたいだ」

 ハイルに魔本を見せると彼女は目を見開いて驚いていた。まさかこのタイミングで来るとは。

「なぁ、ハイル」

「ハイちゃんよ」

「……お前は王に興味ないのか?」

「……別に興味なんてないわ。私が興味あるのはサイちゃんと――」

 その時、彼女は群青色の魔本をジッと見つめていた。無表情のまま。

 

 

 

 

「――ツペ家の繁栄。それだけよ。」

 




気付いたらこうなっていました。
ハイルが出ると他のキャラも勝手に動き出すので楽しい反面、八幡のキャラが若干崩壊しているという後ろめたさがあります……。


次回は再び、サイ視点です。

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