やはり俺の魔物の王を決める戦いは間違っている。   作:ホッシー@VTuber

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ものすごい難産でした……早く奉仕部復活して欲しいです。



もしかしたら後で書き直すかもしれませんが、基本的に内容は変わらないのでご了承ください。



一応、今回、愉悦できるかな?
ワインの用意はできました?


LEVEL.61 彼は彼の逆鱗に触れ、己の願いが愚かであることを諭される

 おかしい。頭の中でそんな抽象的な疑問がグルグルと巡る。

 おかしい。確かにあの時、奉仕部は崩壊したはずだ。

 おかしい。なのに、どうして今頃になって奉仕部がこんなにも有名になっている?

 おかしい。ああ、そうか。結局のところ、私は必要なかったのか。己の正義を正当化するためだけに利用していたのか。

 可笑しい。本当に可笑しい。こんな結末に至るまで己の愚かさに気付かないとは本当に笑える。

「……」

 真っ暗な自室。誰もいないマンションの一室。そこで私は少しだけ笑っていた。そうだ。こうなる運命だったのだ。遅かれ早かれ、奉仕部は崩壊し、私たちはバラバラになっていた。それが少しだけ早くなっただけ。そう、あの群青色の瞳を持つ少女によって。

 だから、私は悪くない。これが運命だったと言うのならば私が彼らに恐怖心を抱くのも当たり前なのだから。

 だから、私は臆病者なんかじゃない。それが運命なのだ。ええ、そう。だからおかしくない。私はいつだって正しい。正しい。それが正義。何も間違ってなどいない。恐怖心を抱くのは危険察知ができている証拠。しょうがない。

「……」

 だから――私は何も悪くない。私の、せいじゃない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 最近、結衣の様子がおかしい。優美子の話もほとんど聞いていないみたいだ。心ここにあらず、と言った方がいいか。何かから逃げるように無理矢理笑顔を作っているようにも見える。

 それはいつからだったか。俺の記憶が正しければ修学旅行が明けた頃だったような気がする。その前までは普通だった。なら、修学旅行中に何かあったことになる。だとすると考えられるのは――。

 そこまで考えて俺は首を横に振った。もし、俺の仮説が合っているのなら彼女が――いや、彼女たちがバラバラになってしまった原因は俺たちにあるのだから。

 その時、不意にポケットに入れていた携帯が鳴る。ディスプレイを見て相手を確認する。『陽乃さん』と書かれていた。

「……もしもし?」

『あ、隼人? 今すぐ来れる? ていうかすぐ来て』

 それだけ言って彼女は電話を切ってしまう。たまにある呼び出しだ。今日は一体、何をさせられるのやら。

「……はぁ」

 ため息を吐いた後、俺はメールを打つ。もちろん、彼女が今、どこにいるのか教えて貰うために。返信メールによると駅の近くにあるドーナツショップにいるらしい。急いでそこに向かうと店には陽乃さんと見たことのない女子2人、そして――ヒキタニ君がいた。まさか彼がいるとは思わず、驚愕しながら陽乃さんに要件を聞く。

「隼人を紹介して欲しいって子がいたから」

 ニコニコと笑いながら女子2人を指さす彼女。きっと暇つぶしに俺を呼んだのだろう。小さくため息を吐いた後、女子2人に挨拶をする。折本と仲町というらしい。当たり障りない会話を続ける。途中で一緒に遊びに行こうと言われたが、いつものように躱しているといい時間になったので解散することになり、折本さんと仲町さんは帰って行った。

「……どうしてこんなことを?」

「だって面白そうだし」

 念のために彼女の思惑を聞き出せば案の定、暇つぶしだった。しかし、腑に落ちないのはヒキタニ君の存在である。それについて聞いてみるとあの折本さんはヒキタニ君の中学時代の同級生らしく、昔ヒキタニ君が好きだった子らしい。少し意外だった。彼も誰かに恋をしていたなんて。だが、件の彼女はヒキタニ君のことなど眼中になく、むしろ見下しているようにも見えた。いや、はっきりと見下しているわけではない。ただ、ヒキタニ君のことをつまらない人だと心のどこかで決めつけているように見えただけ。それが少しだけ許せなかった。彼は今じゃ総武高校の中で有名になっている。いろはの応援演説を務めるほど人に認められている。

「進展あったら教えてねー」

 そう言って陽乃さんは帰って行った。ここに残ったのは俺とヒキタニ君。すぐに彼は鞄を掴んで帰ろうとする。

「ちょっと待ってくれ」

「あ? 何? 急いで帰らないとサイが怖いんだけど」

 慌てて呼び止めると不機嫌そうにこちらを振り返った。

「最近、奉仕部が有名になってるのは……知ってるのか?」

「……まぁな」

 少しだけ目を逸らす彼。あの噂は本当のようだ。もし、違ったら否定することはあっても今のように頷きはしないはずだ。だが、最近結衣が奉仕部に行っているようには見えない。噂にも男子生徒一人しか出て来ないのだ。つまり、今の奉仕部は彼一人で活動していることになる。

「君一人でやってるのか?」

「……お前に関係ねーよ」

 俺の質問に対して彼ははっきりと拒絶した。これ以上、踏み込むなと態度で示して来た。しかし、こればかりは無視できない。

「もしかして修学旅行のあれで?」

 そう、彼らがバラバラになってしまったのは俺たちのせいでもあるのだ。俺は知っていた。彼はあのようなやり方しかできないことを。それなのに俺は彼に任せてしまった。あの後、何があったのかは俺にはわからない。でも、今の奉仕部は崩壊したと言っても過言ではないはずだ。そして、その原因の一つがあの依頼だとわかる。ならば、俺に――俺たちにだって責任はあるはずだ。今の関係を壊したくないばっかりに彼らの関係を壊してしまった責任が。

「お前の言ってるあれがどれかわからないが……お前には関係ない。それだけは言える。じゃあな」

 そうはっきりと言ってヒキタニ君は去って行った。

「……」

 何か、できないのだろうか。俺に何か。

 気付けば俺は彼らの関係を前のように戻す方法を探していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そのメールはあまりにも唐突で一瞬、送る相手を間違えたのかと思った。

『明日、ちょっと付き合って貰えるかな?』

 隼人君からのお誘い。でも、どうしてあたしなのだろう。優美子だったら飛び上がって喜びそうなのに。

「……よし」

 まぁ、友達と遊んで気分を変えよう。それぐらいの気持ちであたしは了承メールを送った。

「あ……」

「……」

 次の日、隼人君に指定されたお店の前で久しぶりにゆきのんに会った。彼女は少しだけ、やつれていた。見惚れてしまうほど綺麗だった黒髪が少しだけくすんで見えるほどに。

「……どうして、ここにいるのかしら」

 最近まであたしに向けられることなどなかった冷たい目で彼女はそう問いかけて来る。その目を見ていると心が痛んだ。まるで、敵を寄せ付けないように頑張って威嚇する子猫のようだったから。

「え、えっと……隼人君に呼ばれて」

「……何を企んでるのかしら」

「え? じゃあ、ゆきのんも?」

 どうやら、ゆきのんも隼人君に呼ばれてここに来たらしい。ますます彼の意図が読めなくなってしまった。

「私は帰るわ。彼にそう言っておいて」

 そう言って踵を返してしまうゆきのん。もし、ここで彼女を帰してしまったらあたしたちは本当に終わってしまう。そう思った。

「待って!」

 だからだろうか。いつの間にか私は大声を上げていた。

「せ、せっかくだから一緒に行こうよ……久しぶりにゆきのんとお話ししたいし」

「別に私には話すことなんてないのだけど?」

「それでも! それでも……一緒にいこ?」

「……今回だけね」

 ため息を吐くゆきのんを見てあたしは久しぶりに自然と笑えた。何だか、あの頃に――奉仕部がまだあった頃に戻れたような気がして。あたしとゆきのんは一緒にお店の中に入り、待ち合わせをしていると店員に伝えたところ、二階に通された。

 そして――。

「ヒッキー?」

 ――一番、会いたくない人の姿を見つけてしまった。

「……お前ら」

 彼もあたしたちが来るとは知らなかったのか目を丸くして立ち上がる。ヒッキーの他にも誰かいるようだが、あたしは彼以外、目に入らなかった。

 

 

 

 ――何も知らない奴に怒る資格なんてない。お門違いなんだよ……役立たず。

 

 

 

 彼を見る度に呪いの言葉があたしの心を蝕む。呼吸が上手くできない。ああ、駄目だ。耐えられない。彼の前に立っていることが。彼の姿を見ていることが。彼との思い出を……思い出すのが。駄目だ。

「ッ――」

 あたしはその場から逃げるように走り出した。後ろから隼人君の声が聞こえるが無視する。

(ごめんなさいっ! ごめんなさい!)

 何度も、何度も頭の中で謝罪する。それは約束をすっぽかしてしまった隼人君に対してなのか。無理矢理誘ったゆきのんに対してなのか。頑張って奉仕部を守ってくれているのに何も返せていないヒッキーに対してなのか。あの群青色の瞳を持つ少女に対してなのか。あたしにはわからなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 葉山隼人の考えは至ってシンプルだった。それはもう一度、彼らに話し合って貰うこと。きっと、彼らはすれ違ってしまっただけ。話し合えばまた分かり合える。そう思って折本たちの誘いを利用して比企谷八幡と雪ノ下雪乃、由比ヶ浜結衣を再会させた。そのついでに折本たちに八幡が中学時代から変わったと教えようと思っていた。自分が悪役となり、八幡たちの仲を取り繕うとした。八幡が今までやって来たように。しかし、隼人は皮肉にも知らなかった。八幡はあれから変わったことを。自分を犠牲にして人を助ける方法を止めたことを。彼は、知らなかった。

 その結果がこれだ。結衣は泣きながら店から出て行き、雪乃は冷徹な目で隼人を睨んだ後、何も言わずに去った。そう、彼が思っている以上に奉仕部に属していた彼らの関係はボロボロになっていたのだ。だからこそ、その事実を受け止められず、その光景を呆然と見ていた隼人は気付かなかった。去って行った雪乃の手がわずかに震えていたことに。

「えっと……私たち、これで帰るね」

 折本と仲町は訳が分からないまま、帰った。この場の空気に耐え切れなかったのだ。そして、ここに残ったのは放心する隼人と少しだけ頬を緩ませて彼を見ている雪ノ下陽乃。最後にずっと黙ったままの八幡。

「隼人がしたかったのはこういうことなの?」

「ちがっ……俺はただ!」

 陽乃の問いに隼人は声を荒げて否定した。こうなるはずじゃなかった。きっと、戻れたはずだ。前のように。“戻せたはずだ”。そう自問自答する。だが、現実は違う。彼の目論見は最初から破綻していた。すでに話し合いで解決できる状態ではなかったのだから。

「いやぁ、まさかあんなことになってたなんて知らなかったよ。比企谷君、どうして教えてくれなかったの?」

 雪乃と結衣の反応を見て奉仕部が崩壊していることに気付いた陽乃は笑いながら八幡に話しかける。

「……」

 しかし、八幡は何も答えない。腕を組んで黙り続けている。

「比企谷君?」

 まさか無視されるとは思わなかったのか陽乃は少しだけ目を細めて再度、彼を呼んだ。

「……すみません。ちょっとこいつと話があるんで今日のところは帰ってくれませんか?」

 ゆっくりと目を開けた彼はそう静かに言う。その視線は陽乃ではなく隼人を捉えていた。

「えー、私も仲間に入れてよ。面白そう」

「すみません。こればっかりは」

「……はぁ。しょうがないな。後で色々教えてね」

 八幡のただならぬ雰囲気を感じ取ったのか珍しく陽乃が引き下がる。このまま引き下がった方が面白そうだと思ったのだ。あの理性の化物である八幡が静かに怒っているのに気付いたから。隼人が何を言われるのかわくわくしながら陽乃は店から出て行った。

「……葉山」

 それを見送った後、立ち上がった八幡は彼の名前を呼ぶ。その声はいつもより低く、冷たく感じた。

「ここじゃお店の迷惑になる。外に行くぞ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ヒキタニ君の後を追う。ただひたすら。何も考えず。いや、考えられなかったと言うべきか。

「ここでいいか」

 不意に聞こえた彼の声で周囲の様子を確かめるといつの間にか路地にいた。どうしてこんなところに連れて来たのか聞こうとした刹那――。

「ガッ……」

 ――胸ぐらを掴まれ、背中から壁に叩き付けられた。息が詰まる。

「言ったよな。お前に関係ないって」

 顔を歪ませていると俺の胸ぐらを掴んだまま、彼は低い声で吐き捨てた。表情は彼が下を向いているからわからない。

「なのに、余計なことしやがって……今回はあいつらが“逃げて”くれたからよかった。でも、もし他のアクションを起こしてたらどうなってたか」

「逃げて……? 君は、このままでいいと思ってるのか!?」

 独りになっても奉仕部の活動を続けているからヒキタニ君自身、前の奉仕部に戻りたいと思っていた。しかし、彼は言った。『逃げてくれてよかった』と。それは彼女たちと話し合いたくないと言っていることと同じだ。

「このままじゃ駄目なことぐらいわかってる」

「なら!」

「でもな……もう話し合いで解決できないんだよ」

「試してみないとわからないじゃないか!」

「その結果があれだろうが!」

 聞いたことのない彼の絶叫。顔を上げたヒキタニ君は怒りのせいか顔を歪ませていた。

「俺たちはもう話し合いどうこうでどうにかなる状態じゃねーんだよ……余計なことすんな。お前には関係ない」

「関係あるだろ! 修学旅行のあれが原因なら何もしなかった俺たちにだって責任がある! だから、君たちの関係を前のように――」

「――壊れた関係はもう戻せない」

 俺の言葉を遮って彼は静かにそう言った。

「どんなに修復しようとも壊れた物はもう元の形には戻らない。戻ったとしてもそれは似た何かだ。元の関係じゃない」

「それは……」

 自分でも声が震えているのがわかる。だが、どうして震えているのかわからない。

「お前だってわかってるんだろ? わかってるからあの時、何もしなかったんだろ? 壊れたらもう戻らないってわかってたからあんな必死になって今の関係を保とうとしたんだろ?」

「……」

「それにな。責任があるとか言ってたけど……お前は怖かっただけだ。自分のせいで他の関係が壊れたのが」

 彼の言葉を聞いた俺はガツンと頭を殴られた錯覚に陥る。

「だから何としてでも自分の手で奉仕部を……壊れた関係を修復したかった。だから、お前はあんなことをした。責任があるから。俺のせいだから。そんな言い訳で本当の目的を自分で隠して」

「……違う」

「自分の罪をなかったことにするために。失敗を成功で隠すために。お前は急いで俺たちの関係を修復しようとして……失敗したんだよ」

「違うッ!!」

 俺はただ見ていられなかっただけだ。だから、きっかけを作ろうとした。ただそれだけなのだ。そう、それだけ。そう言えばいい。ヒキタニ君に向かって今、考えていることをぶちまければよかった。だが、俺は否定するばかりでその先の言葉を言えなかった。

「いい加減、認めろ。お前は自分のために行動してたんだよ。偽善者が」

「……」

 何も言えなかった。いつの間にかヒキタニ君は俺の胸ぐらから手を離しており、ずるずると壁を滑り、地面に座り込んでしまう。俺のしていたことは自分のためだった。

「幸いにも修学旅行の段階で俺たちの関係は中途半端に崩壊してる。だから、まだ完全に壊れたわけじゃない。でも、もし俺たちが話し合えば今度こそ、完全に壊れる。言葉にしたらそこで終わりなんだよ。だから、話し合いじゃ駄目だ。別の方法で解決するしかない」

「別の……方法?」

「ああ。そのために俺は奉仕部を失くさないように活動してる。だからもう余計なことをするんじゃねーよ」

 そう言って彼はその場を離れようと体の向きを変えた。しかし、そこでヒキタニ君は止まった。

「ほれ」

 そして、何かを俺に向かって放る。慌てて手を伸ばしてそれをキャッチした。

「USB?」

「由比ヶ浜が困ってたら渡してやってくれ。多分、それで解決するはずだから。今回のことを少しでも後悔してるなら……あいつの手助けをしてやってくれ」

「それは君がすればいいだろ? どうして、俺なんだ?」

「俺じゃ駄目だから。それだけだ。後、俺はヒキタニじゃない。比企谷だ」

 そう言い残して彼は路地から出て行った。

「……」

 きっとヒキタニ君――いや、比企谷は俺にチャンスをくれたのだろう。自分のために行動して関係を完全に壊してしまいそうになった俺に罪を償う方法をくれたのだ。今度こそは失敗しないと心に誓うように俺はUSBをギュッと握った。

 




実は元々、八幡はUSBを葉山に渡すつもりでした。
ですが、彼の暴走により、予定を変更して罪を償うチャンスとして渡します。
これで葉山は八幡に逆らえなくなりましたね、ぐへへ。
まぁ、八幡もUSBを由比ヶ浜に渡す確率が増えたので結果的にはよかったと思っています。



後、やっとヒキタニ君から比企谷になりました。原作ならもっと早く訂正していたのですが、この小説ではタイミングを逃してしまってずっと放置だったのでよかったです。

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