やはり俺の魔物の王を決める戦いは間違っている。   作:ホッシー@VTuber

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先週はテスト期間のため、更新できずすみませんでした。
おかげさまで返ってきた4教科はとりあえず、大丈夫でした。まだ半分以上返って来ていませんが多分大丈夫です……多分。



なお、今回も胸が痛くなるお話だと思いますのでご注意ください。




……覚悟は出来ました?


LEVEL.59 前に進むために今だけは――。

「「「……」」」

 家に向かうまでの間、俺たちはずっと黙ったままだった。すごい空気が重い。主にサイが不機嫌なせいで。大海も空気を読んだのか俺とサイの後ろを歩いているし。

「……ねぇ、ハチマン」

 俺の隣を歩いていたサイが不意に話しかけて来た。思わず、肩をビクッと震わせてしまう。

「何で今、吃驚したの?」

「い、いや……いきなりだったから」

「嘘でしょ? 何か思い当たる節があるからビビった。違う?」

「……」

 ジト目で見上げて来る彼女から視線を逸らす。カラカラと自転車の車輪から響く音が嫌でも耳に入る。本当に嫌になる。

「私、ハチマンの考えてること全然わかんない。奉仕部はもう崩壊したのに……どうして独りでやってたの? 私がやったことってお節介だった? 私……余計な、ことしちゃった?」

 震えるサイの声を聞いて俺は思わず、立ち止まってしまった。サイも俺と同じタイミングで歩みを止める。俺を見上げる群青色の目には涙が溜まっていた。

「……いや、違う」

「なら、どうして! なんで奉仕部の活動を続けたの!? 奉仕部はもうなくなったの! それでいいでしょ!? ハチマンは私と一緒にいればいいんだよ!!」

 サイの慟哭がビリビリと大気を震わせる。ああ、そうだ。俺のやっていることはサイからすれば裏切りにも近い。奉仕部が大切ならあの時――修学旅行の時にサイの手を取るべきではなかったのだ。あの場で雪ノ下と由比ヶ浜を慰め、サイを説得すればよかった。だが、それでは駄目だった。それだけでは前と同じままだ。あの気持ち悪い空間に逆戻りだった。そんなの俺は耐えられなかった。何より、俺は別に奉仕部などどうでもよかったのだ。元々、平塚先生に無理矢理入れられただけだったし。しかし、奉仕部をこのまま崩壊させるわけにもいかない。“サイのため”にも。

「すまん……どうしても必要なことだった」

「必要なこと? あの部活が必要なの?」

「ああ」

 俺は決めたのだ、変わると。だから、もう少しだけ我慢してくれ、サイ。絶対に後悔はさせないから。今は言うべきではない。今言ってしまったら取り返しのつかないことになってしまう。だから、もう少しでいい。待っていてくれ。俺を、信じてくれ。

「「……」」

 俺の目をジッと見つめているサイ。俺も逸らさずに彼女の群青色の瞳を見続けた。

「……今回の依頼」

「あ?」

「今回の依頼ってどんなのだった?」

「……生徒会選挙に一色を勝手に立候補させた奴がいてな。それをどうにかできないかって」

 そこまで言ってサイの目が鋭くなっていくのに気付いた。それでいて揺れている。彼女は恐れているのだ。俺がまた同じ過ちを繰り返すことを。サイが奉仕部を壊そうとしたのも俺を守るためだった。だからこそ、彼女は許せないのだ。俺がまた自ら傷つこうとしていることに。

「それで……どうやって解決させたの?」

「一色に生徒会長になることを勧めた」

 だから、安心させたい。俺はもうあの頃の俺とは違う、と。

「……え?」

 俺の解決方法が意外だったのかサイは目を丸くした。それを見てニヤリと笑いながら言葉を続ける。

「だってそうだろ? 生徒会長になった方がメリットも多いし。何よりあの状況であいつを生徒会長にさせないのは無理だった。なら、生徒会長にした方が楽だろ? 俺もめぐり先輩のしつこい勧誘とか面倒だったしな。まぁ、応援演説やる羽目になったけど」

「……ふふ、大変だね」

 今までの解決方法とは違うとわかったのか彼女は少しだけ嬉しそうに笑った。だが、その笑顔の中に憂いも含まれている。どうして、そんな顔をするのだろうか。

「そっか……うん」

 どうして、目が後悔の色で染まっているのだろうか。

「ハチマン」

「な、んだ?」

 何とか返事をするがそれどころじゃなかった。おかしい。だって、俺は変わったのだ。サイを傷つけないために俺は自分を傷つけるのを止めた。それなのに、どうして――。

「奉仕部、頑張ってね。私は……もう、行く資格ないから手伝ってあげられないけど」

 

 

 

 ――どうして……お前はそんなに泣きそうな顔をしているんだ?

 

 

 

 『それじゃ行こ?』とサイはそのまま歩き出した。俺を置いて、独りで歩き始めた。

「ぁ……」

 何か言おうとするが、言葉が詰まる。何か言わなければ。でも、何を? 何を間違えた?俺は一体、何を見逃している? 何だ? どこで、間違えた?

「八幡君……」

 不意に後ろから大海に話しかけられる。ぎこちない動きで振り返れば苦しそうな表情を浮かべた彼女の姿がそこにはあった。

「私、サイちゃんに聞いたの……修学旅行で何があったのか」

「そう、なのか……」

「うん……それでね。今のサイちゃんの気持ち、少しだけわかるの」

 声すら出せない俺を無視して目を伏せてゆっくりと言葉を紡いだ。

 

 

 

 

 

「だって、苦しい思いをしながら八幡君を助けたのに……八幡君、自分の力で、別の方法で、誰も傷つかない方法で……助かっちゃったんだもの」

 

 

 

 

 

「ッ――」

「私たちが守るって言ったのに……ハイルたちとの戦いでは私たちが八幡君たちに守られてた。もっと力があれば……もっといい解決方法があれば八幡君を――サイちゃんを助けられたのに。そうすればサイちゃんの両手がなくなることも、奉仕部を壊さなくても、よかったのに……って。私なら……ちょっと、耐えられないかな。力がなければ頑張ればいいけど、壊したものを直すのは難しいと思うから。もう……取り返しがつかないこと、だから」

 大海はそれだけ言ってサイの後を追いかけた。取り残された俺はただ呆然と自転車のハンドルを握る自分の手を見ているだけだった。

「俺、は……」

 俺は変わった。ああ、変わった。自分を傷つけない解決方法を見出し、雪ノ下を模倣し、由比ヶ浜の雰囲気を纏った。だが、結果はこんな有様である。サイのためと思い、奉仕部の活動を独りで続けた。そのせいでサイを傷つけた。

「……」

 奥歯を噛み締め、空を見上げる。すでに太陽は沈み、綺麗な星が微かに見えた。そんな微かな希望に手を伸ばす。

(ああ、そうだ。もう、止まれないんだ)

 どんなにサイが傷つこうとも、俺は止まるわけにはいかない。ここで止まってしまえば何もかもが無駄になってしまう。だから、止まらない。止めない。前に進む。進むしかないのだ。

「くっ……」

 だから、今だけは後悔してもいいだろうか。

 今だけは悔やんでもいいだろうか。

 今だけは――自分自身を傷つけてもいいだろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……サイちゃん」

 ハチマンから逃げるように歩いていると後ろからメグちゃんが声をかけて来た。後ろを見れば悲しそうな表情を浮かべたメグちゃんが私を見ていた。

「どうしたの?」

「……どうしたのじゃないよ。そんな泣きそうな顔して」

「……」

 きっと私が何もしなくてもハチマンは何とかしてしまったのだろう。変わった彼を見てすぐにわかった。だからこそ、目の前が真っ暗になった。私のしたことは彼にとって無駄なことだったのではないのか、と。

「大丈夫だよ。サイちゃんのしたことは無駄じゃなかったから。大丈夫だから」

 そう言いながら私をギュッと抱きしめるメグちゃん。メグちゃんの温もりが私の凍りついた感情を融かしてくれる。

「我慢しなくていいんだよ……大丈夫だから、ね」

「う、うぅ……」

 メグちゃんは優しい手付きで私の頭を撫でてくれた。駄目だ。耐えられない。

「頑張ろ、サイちゃん。一緒に……八幡君の隣を歩けるように」

「うん、うんっ……」

「だから、今は……今だけは、泣いて。前に進も?」

 私とハチマンはお互いを思いやり、お互いを傷つけた。ハチマンは私を想い、変わった。私はハチマンが変わったのを見て泣いた。何も出来ない悔しさと傷つけてしまった後悔。その二つの感情が私たちをボロボロにし、強くする。いや、強くならなければならない。きっと、ハチマンが奉仕部を続けるのにも理由があるはずなのだ。その理由を知った時、泣かないためにも、傷つかないためにも私はしっかりと前を見て彼の想いを受け止めたい。彼が笑えるように、私が笑えるように。

 

 

 

 

 

 だから、今だけはメグちゃんの力を借りて感情を爆発させても、いいよね。ハチマン。

 




変わると言っても八幡が人の気持ちを察せられないのには変わらないと思い、このような展開になりました。
それでも彼が奉仕部の活動を止めないのにも理由があり、後々出て来ます。


……まぁ、それでも彼は現在進行形で間違えているのですが。
今はまだ八幡は不甲斐ないですが、応援よろしくお願いします。




次回からクリスマス編。
この章だけ主人公が変わります。
全ては奉仕部を復活させるため、八幡とサイと仲直りするため、あの子が奮闘?します。

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