やはり俺の魔物の王を決める戦いは間違っている。 作:ホッシー@VTuber
ガッシュサイド:マンガ4巻。LEVEL34の最後辺り。
俺ガイルサイド:単行本2巻と3巻の間。職場見学の翌日。
サイと出会ってから早くも2か月が過ぎました。その間、特に目立ったようなことは起きていません。材木座や戸塚、川崎(本人が依頼したわけではないが)の依頼を完了したぐらいです。
少し話が飛びましたが、ここから俺ガイルサイドとガッシュサイドのお話しをどんどん書いていきますのでお楽しみに。
なお、俺ガイルもガッシュも本編と少しだけ台詞が違いますのでご了承ください。確か丸々書き写すのはNGだと書いてあったと思うので。
「『サルク』」
俺が呪文を唱えるとサイの目が群青色に光った。その群青色の瞳はすでにボロボロの敵をジッと見つめている。
「『マ・バクルガ』!」
やけになったのか本の持ち主は何の対策もなしに攻撃して来た。
「がああああああああああ!」
相手の魔物は口からエメラルド色の光線を放つ。その光線は螺旋を描いているので最初に使った『バクル』よりも貫通力があるだろう。
しかし、サイの前ではそんな小細工、無意味だ。
「ッ――」
『サルク』による眼力強化で光線の軌道を読み、持ち前の身体能力で軽々と躱した。
「『サシルド』」
その後、地面からせり上がった盾を足場に大きく跳躍し、敵の背後を取る。魔物と本の持ち主が慌てて振り返った頃には彼女の手にあったライターに火が灯っており――。
「はい、お終い」
――簡単にエメラルドの魔本は燃え上がった。
「つまり、お前はあまりにも面白すぎる夢を見て……いてもたってもいられなくなり、妄想に耽った結果、眠れなくなってしまったと」
「はい、そうです」
何とか職場見学も無事に完了した翌日。俺は平塚先生に呼び出しを喰らった。昨日の夜に魔物と戦ったせいで寝不足になり、あろうことか平塚先生の授業で居眠りしてしまったのである。不覚。
「……比企谷。お前、少し疲れてるんじゃないか?」
嘘の報告を聞いた彼女は声を低くしてそう言った。
「え?」
「いや、何故かそう思ってしまってな。根拠はないのだが」
首を傾げながら不思議そうに話す先生。よく人を見ている。ただの寝不足だけど。
「よし、そんなお前にこれをやろう」
妙案を思い付いたとばかりに鞄の中から2枚のチケットを取り出して俺に見せつけた。
「大海恵コンサート?」
それは人気のあるアイドルのコンサートチケットだった。男だけでなく女にも人気のあるアイドルで小町もファンの1人だ。サイもちょっとハマりそうになっていたりする。たまに部屋で歌いながら踊っているし。もちろん、隠れて携帯で録画しましたよ。
「ああ、商店街のクジ引きで当てたんだ。しかし、生憎行く人もいないしそのアイドルには興味がなくてな。譲ってやる。楽しんで来い」
「いや、でも……こんなの生徒に渡していいんですか?」
「まぁ、よくはないが別にいいだろ。私が持っていてもゴミにしかならないからな」
ゴミって。オークションにでも出せば結構な値になるのに。あ、でもオークションにこう言ったチケットとか出したら駄目だったような。なら遠慮なく貰おう。小町とサイにでも渡せば喜んでくれるに違いない。
「それじゃ失礼します」
チケットを折れないように財布に仕舞い、職員室を後にした。
(部室にでも行くか……)
今頃、奉仕部の部室にはいつものメンバーの他にサイがいるはずだ。まさか平塚先生からお許しを得て頻繁に部室に遊びに来ることになるとは思わなかった。雪ノ下も由比ヶ浜もサイのこと、気に入っているみたいだし。サイ専用のマグカップがあるくらいだ。おかしいなー、俺は紙コップなのに。まぁ、淹れてくれるようになっただけありがたいのだが。後、サイが俺の膝の上で本を読んでいると二人からの視線が痛いので止めて欲しい。そろそろ消毒されそうだ。
そう思っていると不意に鞄から群青色の光が漏れ始める。もしかしてと慌ててトイレに駆け込み、鞄の中から魔本を取り出した。
(新しい術? いや、違う……)
ペラペラと捲っていくが読める場所が見つからず、結構後ろのページまで来ていた。
「ッ……」
そして、見つけた。
『おめでとう、人間界に生き残った諸君よ! この時点をもって残りの魔物の数は70名となりました。これからも魔界の王となるべく、頑張って戦い合ってください』
「70名?」
すでに30人の魔物が消えたことになる。それが早いのか遅いのかわからない。俺とサイが出会ってまだ2か月ほどしか経っていないし、そもそも魔物と戦ったのは昨日のも含めて2回しかないのだ。
「……はぁ」
だが、そんなの関係ない。目の前に魔物が現れたのならば戦わなくてはならないのだ。戦わなくてすむなら速攻で逃げるけど。でも、サイは戦うことは好きらしい。昨日とか満面の笑みを浮かべて戦っていたし。ちょっと怖くて夜眠れなかったよ。だって俺の腕にさっきまで笑いながら戦っていた女の子がくっついているんだから。
「さてと」
すでに光が消えた本を閉じて鞄に仕舞い、部室に向かう。
……その日、由比ヶ浜結衣は部室に来なかった。
「ハチマン! 早く早く!」
その数日後、俺とサイは件のコンサート会場に来ていた。最初は小町にチケットをあげたのだがすでに予定を入れてあったらしく涙を流しながら出かけて行った。哀れ。
「もう楽しみだよ! あのアイドルのメグちゃんに会えるんだから!」
「いや会えるって言っても見えるだけだぞ?」
「そんなの知ってるって! あ、ジャンプすればステージに登れるかな」
止めておけ。警備員さんに連れて行かれ……あ、この子ならそれすらはねのけるわ。それどころか大海恵を攫って行きそうだ。誘拐は犯罪だぞ。
「ねぇねぇ! 席ってどの辺だっけ」
「あ? えっと、Lの16と17だったか?」
念のためにチケットを取り出して確認するが合っていたようだ。
「ぬおおおおお! 何をする! 私も入るのだあああ!」
会場の入り口に到着すると緑色のバックから両手両足を生やした金髪の子供がスタッフの手によってドナドナされていた。
「何だ? 今の」
「ん? ハチマン、どうしたの?」
チケットをスタッフに見せていたサイが問いかけて来る。あの騒ぎに気付かないとはそんなに楽しみなのか。
「いや、何でもない」
「それじゃいこ!」
俺の手を握って走り出すサイ。あまりにも力が強すぎて振りほどくことすら出来ず、俺は引きずられるように建物の中に入った。
「……」
さて、こんな経験はないだろうか。
クラスでお喋りをしている時に全く興味のない話で盛り上がっている中、苦笑いを浮かべつつ相槌を打つ。『あー、そうだよねー』とニマニマ笑いながら頷くのだ。俺? 俺はないよ。だって、話す友達いないもん。
しかし、俺は今まさにその感覚を味わっていた。
「うわぁ……」
ステージに大海恵が現れた瞬間、俺はこの世界から弾き飛ばされていた。サイも黄色い声を上げて手を振っている。てか、よく見えるな。『サルク』唱えてないのに。
「す、凄え……これがアイドルの力か」
そんな声が辛うじて隣から聞こえる。そちらを見ると少し大人っぽい男の人が周囲の反応を見て呆然とした。どうやら、俺と同じ待遇らしい。
「ん?」
向こうも俺が騒いでいないことに気付いたようで目と目が合った。
「「……」」
数秒間の沈黙。なんかすごい気まずい。会釈でもした方がいいのだろうか。
「ねぇ、ハチマン! 肩車して!」
「他の客の迷惑になるからダメだ」
サイの我儘を一刀両断しながら隣の男の人に会釈する。これなら『すみません。連れがうるさくて』と言う意味合いも込められるだろう。向こうもそう受け取ったのか少し微笑んで会釈した。
(あ、やべ……)
その時、突然尿意を催す。会場に入る前にMAXコーヒーを飲んだのがまずかった。コンサートが始まる前、サイに『トイレ行かないの?』と言われた手前、なんか恥ずかしい。
「ハチマン、どこ行くの?」
移動しようとしたらサイが首を傾げて問いかけて来る。
「少し人に酔った。帰って来なかったら魔物に襲われてると思っていい。助けに来てくれ」
小さな声でサイに言いながらサイの前を通った。こうでも言わないと『だから始まる前にトイレ行っておけばよかったのに!』と罵倒されるに違いない。
「もう、そんな冗談笑えないよ? さっさと行ってさっさと帰って来てね」
「おう」
魔本の入ったカバンを肩にかけながらホールを出た。漏れそう。
「ふぅ」
間に合ってよかった。ちょっと危なかったからひやひやした。
そう思いながら静かな廊下を歩く。会場はあんなにうるさいのに廊下だとここまで静かとはこの会場の防音はすごい。
「……いや」
のん気に考えていたが、静かすぎる。まるで『コンサートが終わってしまった』ような。
「ん?」
不思議に思っていると目の前を何かが通り抜けた。影からして子供のようだったが、こんなところにいるわけがない。
「……」
チラリと子供が来た方向を見ながら耳を澄ませた。微かにだが、日常生活では聞かない音が聞こえる。この音は――。
――戦闘の音。
さて、この音からして十中八九、魔物同士の戦いが行われている。そこで俺が取るべき行動は3つ。
1つは無視。このまま見て見ぬふりをしてホールに戻る。
2つ目は様子を見に行く。戦闘が終わったと同時にサイと共に奇襲して弱っている相手を倒すために少し覗いて情報を得るのが目的だ。
最後は――。
「……仕方ない」
サイはこのコンサートを楽しみにしていたのだ。もし、魔物同士の戦いで会場が破壊されてしまったら中止になってしまうかもしれない。
「――巻き込まれるか」
良心的な魔物ならば一般人の俺が戦闘を目撃した時にやめてくれるかもしれない。まぁ、こんなところで戦っている時点でそんな可能性はないのだが。やってみる価値はありそうだ。俺は駆け足で現場へ向かった。
現場に到着したのはいいものの、俺の想像以上にまずいことになっていた。俺が巻き込まれれば何とかなるかもしれないと考えていたが、まさか戦っているのが大海恵本人だとは思わなかった。それに相手の攻撃を喰らったのか地面に倒れて動かない。パートナーらしき女の子はまだ動けそうだがすでに満身創痍だ。
(どうするか)
俺の目的はコンサートを中止させないことである。だからこそ、巻き込まれて戦いを止めさせるなり、会場から遠ざけるように誘導したりすればよかった。だが、大海恵本人が戦っているとなると早急にこの戦いを終わらせなければならない。
曲がり角で様子をうかがいながら考える。その間に赤い髪の女の子がフラフラと立ち上がった。パートナーを守りたいのだろう。
(仕方ない、か)
「うわぁ、すっげー。映画みたいだー」
そんなことを言いながら俺は曲がり角から出た。棒読みなのは見逃して欲しい。
「え……」
両手を広げていた女の子が俺を見て呆然とし、顔を引き攣らせる。あの引き攣った理由って一般人を巻き込んだからですよね? 決して俺の目が腐っていてドン引きしたわけじゃないですよね?
「おいおい、一般人がこんなところに来ちゃ危ないだろぉ」
女の子と対峙していた男の魔物がニヤリと笑って呟く。あ、こいつら一般人にも平気で攻撃して来るタイプだ。気を付けよう。
「え? これ、何の撮影ですか? 映画?」
「だ、駄目! 逃げて!」
何の警戒心もなく近寄る俺に女の子が叫んだ。まぁ、向こうからしたらバカな一般人にしか見えないだろう。
「へー! すごいっすね。壁の損傷具合とかリアルですし。あ、大海恵さんが主演ですか? すごいっすね。スタントマンもなしにアクション映画を撮影するとか」
まだ気絶しているのか大海恵の顔を覗き込む。これならファンがアイドルの顔を近くで見ようとしているようにしか見えない。
(傷は……そこまで酷くないか。頭でも打って脳震盪を起こしたんだろ)
「ん……」
あ、目を開けそう。そして、俺を見ている。やだ、アイドルに見られてる。少しだけ顔を背けた。だって恥ずかしいじゃない。
「め、恵から離れなさい!」
肩で息を切らしながら俺のところまで女の子が駆け寄って来た。その間、向こうにいる魔物の方を気にしていたので油断はしていないらしい。
「俺が時間を稼ぐ。隙を見て逃げろ」
「え?」
「あ、そっちの人たちも有名人とか? 俺、あまり詳しくないんですけど、一応握手とかお願いしてもいいですかね」
女の子にそっと耳打ちして男たちに近づく。俺の体が邪魔で後ろにいる2人は見えないはずだ。出来るだけ時間をかせ――
「いいぜ。ほら握手」
「『エイジャス――』!」
――げそうにない。右手を俺に翳した瞬間、本の持ち主が呪文を唱え始めたのだ。作戦は中途半端だが、わざわざ攻撃を受ける必要はない。てか受けたら死ぬ。だが、相手が使ったのは長めの呪文だ。躱す時間はある。急いで俺は右へ飛んだ。
「『ザケル』!」
それと同時に俺の横を何かが通り過ぎて行った。
何とか八幡をガッシュサイドの話にねじ込めました。ですが、ちょっと無理矢理だったかなと思っています。いかがだったでしょうか?
続きはありますのでもし、変な場所があったら感想などで教えてください。出来る限り、修正しますので。