やはり俺の魔物の王を決める戦いは間違っている。   作:ホッシー@VTuber

58 / 256
ぼーなすとらっくにしようと思いましたが、いろは目線が結構長くなってしまったので普通のお話しにしました。
次回こそ、メグちゃんが出て来ます。
…ぜ、絶対だよー。


あ、後誤字報告ありがとうございます!
あんな便利な機能があったんですね……知りませんでした。
報告してくれた方、本当にありがとうございました!


LEVEL.57 一色いろはは比企谷八幡を認め、彼の話に乗る

 最初、先輩を見た時の感想は『目が腐っている』だった。

 

 

 

 いつの間にか勝手に生徒会長候補にされていてそれを現生徒会長であるめぐり先輩に相談した。でも、色々面倒なことがあるのか立候補は取り消せないらしい。平塚先生にも事情を説明したが渋い顔をされてしまった。このままじゃ私は生徒会長になってしまう。それだけは避けないと。でも、現生徒会長も先生も今の状況をどうすることもできない。

 困り果てていると不意にめぐり先輩が『奉仕部』に相談することを平塚先生に提案した。めぐり先輩の話によるといわゆる何でも屋のような部活らしく、もしかしたらこの問題も解決できるかもしれないとのこと。現生徒会長でも先生でも解決できない問題をどうにかできるとは思えないのだが。

 まぁ、藁にも縋る気持ちで奉仕部を訪ねてみることに。奉仕部の部室がある校舎には来たことはあまりなく、平塚先生とめぐり先輩の後ろをただ付いて行くだけだった。

「ここだ」

 どこまで行くのだろうと思っていると先生が一つの扉の前で止まる。ここが奉仕部なのだろう。扉の上にあるネームプレートに何枚ものシールが貼ってある。誰が貼ったのだろうか。

『……どうぞ』

 ネームプレートを見ながら首を傾げた時、部室の中から低めの声が聞こえる。その声で視線を前に戻すと今まさに先生がノックしようとしているところだった。

「……何故、ノックする前にわかった」

 先生も意外だったようでそう言いながら部室の中に入る。先生が呼ぶまで私とめぐり先輩は廊下で待機だ。

「雪ノ下と由比ヶ浜、サイはどうした?」

 どうやら、奉仕部の部員の中に来ていない人たちがいたらしい。でも、4人しかいないって言っていたから3人も来ていないとなると1人しかいないことになるのだが。この部活、大丈夫なのだろうか。

「さぁ? サボったんじゃないですか?」

「……後で詳しく聞かせて貰うぞ」

「それで今日の依頼は何ですか?」

 誤魔化すように先生に先を促す男子生徒。その声は嫌そうだった。本当に解決できるのだろうか。

「ああ、そうだった。入って来ていいぞ」

「失礼しまーす」

 先生に許可を貰い、めぐり先輩の後に続いて部室の中に入る。教室の中には文庫本を持ってこちらを気怠そうに見ている男子生徒がいた。その人は目が腐っていた。それでいて何もかも見透かすようなちょっとだけ怖い眼だった。

「ごめんね、比企谷君。ちょっと相談したいことがあって」

「……手短にお願いしますよ」

 めぐり先輩がお願いすると男子生徒――比企谷先輩は文庫本を閉じてため息交じりに頷く。明らかに嫌そうなのだが。

「ありがとう! ほら」

 お礼を言った後に私の方を振り返るめぐり先輩。目は腐っているし、頼りなさそうだし、嫌そうだが、今はそんなことを言っていられない。私は“いつもの”笑顔を浮かべた。

「こんにちは、一色いろはって言います!」

 ニコニコと笑いながら自己紹介をする。やる気なさそうだけど私が頼めばきっと積極的になってくれるはず。まずは先輩に私の可愛いところを見せて懐柔しちゃおう。

「……ああ。あの時の」

 しかし、先輩の反応は私の予想したものとは違った。いつもなら顔を赤くしたりデレデレしたりする。でも、先輩はただ何かを思い出した時のような表情を浮かべるだけだった。

「あれ? 先輩と会ったことありましたっけ?」

 その反応を見て不思議に思いながら別の質問をする。私の記憶では先輩とは初対面だ。先輩のような特徴的な目は簡単に忘れられないだろうし。あれ、でも私もどこかで見たような気が。まぁ、すぐに思い出せないならさほど重要なことじゃないのだろう。

「別に話したことはない。見たことあるだけだ。あと“そう言うのは”いいから早く話を進めてくれ」

「そう、言うのは?」

 一瞬、何を言われたのかわからなかった。だが、すぐに理解する。私の猫かぶりを見破ったのだ。今までそんな人などいなかった。それなのに先輩は見破ったことはおろか、『そう言うのはいいから』と邪険に扱ったのだ。それに気付いた私が先輩に対して抱いた感情は『敵対』だった。面倒臭いことになりそう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それから私は何度も先輩に可愛いアピールをしたが、のらりくらりと躱され続けた。更に何故かめぐり先輩は先輩を生徒会長にしたいみたいで何度か勧誘している。何でこんな目が腐った人を勧誘するのだろう。この人が生徒会長になるぐらいなら私がなった方がマシだと思う。やりたくないから言わないけど。

「無理もない。まさかいたずらでそのようなことをする奴がいるとは思わないだろう。選挙管理委員会を責めるのは少し酷かもしれんな」

 その時、平塚先生がため息交じりにそう呟く。だが、私はそれを聞いて思わず、ムッとしてしまった。選管がしっかりチェックしなかったせいでこのような事態になっているのだ。それを『まさかいたずらで他人を立候補させる人がいるとは思いませんでした』なんて理由で罰を免れるなんて許せなかった。

「先生。それはどうかと」

 そう思っていると不意に先輩が先生を睨むように見ながら言葉を紡ぐ。その目は腐っていながらもとても冷たかった。見られていない私でさえ、少し怖いと感じてしまうほどに。

「……何?」

 まさか先輩が反論するとは思わなかったようで先生は目を丸くした。

「そもそもいたずらが起きる起きないの前にそう言うのはきちんとするのが当たり前なんじゃないですか? 体育祭実行委員長をやった時とかこれでもかってぐらい確認させられましたし」

 そうだ、思い出した。どこかで見たことがあると思ったら今年の体育祭実行委員長をしていた人だ。棒倒しで人間とは思えない動きで一気に葉山先輩チームの棒を倒したのを覚えている。あの時は私も葉山先輩ではなく先輩を見ていた。いや、あれは誰だって先輩を見るだろう。それぐらいすごかった。

(じゃあ、あの時の超人が先輩?)

 目が腐っているのに? にわかに信じがたい話だった。でも、今の先輩は言ってはなんだが迫力がある。今までの先輩とは別人のようだった。

「それに実際に被害を受けてる奴もいるんですよ。それなのに『まさか起きるとは思いませんでした』なんて発言はちょっと問題なのでは? 今回の一件を見逃してまた起きた時も見逃すんですか? それじゃいつまで経っても終わりませんよ」

 先輩の言葉を聞いて私は目を丸くした。先ほどまでぞんざいに扱っていたのに今、私を気遣ったのだから。そもそも先輩は真剣に私の依頼について聞いていた。あんなにやる気がなさそうだったのに。状況を確認するために的確な質問もしていたし。

(この人、もしかして出来る人?)

 体育祭の件や今の発言、そしてめぐり先輩から勧誘されている。そして、私の猫かぶりを見破ったのだ。他の人と違うのは明白。

(あっ……)

 そう言えば、今年の文化祭にメグちゃんを呼んだのは先輩だと聞いたことがある。それに加え、先輩がいなかったら文化祭そのものが成功しなかったとも。顔まで知らなかったので思い出すまで時間はかかったが、めぐり先輩が生徒会長に勧誘する人だ。噂は本当なのかもしれない。

「……雪ノ下に説教されたような気分だ。すまん、軽率だった」

「……いえ。こちらこそすみませんでした」

 すごい。先生に謝罪させてしまった。最初の印象がどん底だったからか今の先輩がとても頼りになる人に見えてしまう。

「先輩っ……」

 何より、あそこまでぞんざいに扱っていた私を庇うような発言に感動してしまった。最初は目が腐っている面倒臭い先輩だと思っていたが、今では先輩ならこの問題を解決できるかもしれないと期待している。めぐり先輩も嬉しそうにしているし。

 それから先輩たちと一緒に解決策を練るが一向にいい案は出て来ない。一番現実的なのは信任投票でわざと落選すればいいという案だが、それは私が嫌だった。みっともないから。

「じゃあ、応援演説をやる奴がヘマをすればいい。そうすれば一色は泥を被らなくてすむ」

 私の我儘を聞いた先輩はさぞ当たり前のようにそう言った。私は先輩の言葉の意味が理解出来なかった。だって、ヘマをするということは私の代わりにその人が泥を被ることになるのだから。

「あ、あのー……その応援演説をやるのは?」

 そして、私が一番気になったのは『その泥を被る人が誰なのか』だった。私は立候補者だし、めぐり先輩は現生徒会長だから出来ないし、先生は先生だし。つまり――。

「俺しかいないだろ」

 ――先輩しかいなかった。

「ま、待ってください!? それじゃ先輩が!?」

 確かにそれが手っ取り早いかもしれない。でも、私のために先生に反論してくれた先輩が泥を被るなんて嫌だった。何だか恩を仇で返しているような気がするから。

「嫌か?」

「もちろんですっ!」

 確認するように聞いて来たので頷く。

「じゃあ、答えは自ずと1つだ」

「……へ?」

 答え? 先輩はすでにこの問題を解決する方法を見つけているのだろうか。しかし、先ほどの案はちゃんと嫌と言ったし。なら、別の方法が?

「立候補を無効にすることもできなければ、取り下げることもできない。でも、落選するには一色か、俺が泥を被ることになる。それも嫌なら――お前が生徒会長になればいい」

 この人は何を言っているのだろうか。それが嫌だからここに来て先輩に頼っているのに。

「えっとね……それが嫌だからこうやって悩んでるんだよ?」

 私と同じ意見だったようでめぐり先輩が苦笑しながら言う。

「そもそも何で嫌なんだ?」

「え?」

 それを聞いた先輩は腕を組んで逆に質問して来る。まさかそんな質問をされるとは思わず、呆けてしまった。

「どうして、お前は生徒会長になりたくないんだ?」

 私は、どうして生徒会長になりたくない? そう言えば、具体的な理由はそこまで考えていなかった。

「そ、それは……ほら! 私って、サッカー部のマネージャーしてるじゃないですかー? だから、両立するのは大変ですしー」

 何とか絞り出した理由。しかし、先輩は腕を組んだまま、めぐり先輩の方を見て口を開く。

「めぐり先輩。そんなに生徒会って大変なんですか?」

「う、うーん……時期にもよるけど、生徒会長1人に仕事が集中するわけじゃないから役員全員でフォローすれば部活をやりながらでもできるよ」

「だ、そうだ」

 え、そうなの? てっきり、放課後は生徒会の仕事で忙しく部活に出る暇なんてないと思っていた。まぁ、文化祭や体育祭の時は忙しくなるみたいだが、それは一時的なものだし。いやいや、その前に一番重要なことがあった。

「で、でも! 私って1年だから自信ないですよー!」

 そう、私はまだ1年生なのだ。1年生が生徒会長をやるなんて聞いたことがない。きっと、失敗したら『これだから1年に生徒会長なんて任せたくなかったんだ』みたいなことを言われるに違いない。

「逆に考えろ。1年だから失敗しても許される、と」

 そこで先輩は成功したらすごい1年となり、失敗しても1年生だから許される、と説明してくれた。

「な、なるほど……」

 先輩の言う通り、私の猫かぶりがあればだいたいの人は誤魔化せると思う。先輩には通用しなかったが。でも、1年生という免罪符と猫かぶりを使えば何とかなりそうな気がして来た。あれ、何で私、納得しているの?

「それに……悔しくないのか?」

「悔しい、ですか?」

 最初、先輩の言葉の意味がわからなかった。何に対して悔しいと思わなければならないのだろう。

「ああ。正直言って今回の一件の首謀者たちはお前を陥れるために立候補させた。少なくとも純粋な気持ちでお前を推薦した奴なんざいねー。お前が落選するのを見て嗤うだろうな」

「……」

 多分、私も心のどこかでそう思っていたのだろう。彼の言葉がぐさりと心に刺さった。

「だから、見返してやれよ。陥れられたのならば……立派な生徒会長になってそいつらの前で言ってやれ。『君たちのおかげで私、こんなに立派になれたよ。ありがとう』ってな」

「見返す……」

 それは――さぞ気持ちいいだろう。陥れたはずなのにそれを逆に利用して成功し、お礼を言われるなんてどれほど恥ずかしくて悔しいことなのだろうか。ちょっといいかも。

「……めぐり先輩」

 まだ見ぬ相手の悔しがる顔を想像していると不意に先輩がめぐり先輩に声をかけた。

「ん?」

「俺って学校の中じゃどんな評価受けてます?」

 ……この人、いきなり何を聞いているのだろうか。それに先輩の噂は今、一番聞くほど有名なのに本人はそれを知らない。自分に興味がないのだろうか。

「え、えっと……文化祭の疑惑はもうほぼ完全に晴れてるよ。逆にメグちゃんを呼んだって噂も流れてるぐらいだから結構、広まってるんじゃないかな? 前の体育祭でも活躍してたし。だからこそ、生徒会長に向いてるなって思ったの」

 あ、やっぱり先輩ってすごい人だったのか。疑惑はよくわからないけど、めぐり先輩がはっきりと生徒会長に向いているって言っているし。なら、私よりも先輩が立候補して生徒会長になった方がいいのではないだろうか。私なんかよりも。

「なぁ、一色」

「は、はい!」

 ちょっとだけ落ち込んでいる時に先輩に話しかけられたので驚いてしまった。少しだけ声が裏返ってしまう。

「俺が応援演説してやる」

「へ?」

「あのめぐり先輩が生徒会長に推薦するほどの人物が応援演説をするんだ。なかなかなお膳立てだろ?」

 先輩が、私の?

「つまり、お前は俺やめぐり先輩から認められたすごい1年で、部活と生徒会を両立し、お前を陥れようとした奴らを見返すチャンスを得られ、失敗してもさほど痛くない。どうだ?」

「……」

 先輩の提案はあまりにも魅力的だった。それこそ『どうして先ほどまで生徒会長になることを拒否していたのだろう』と思ってしまうぐらいに。そして、何よりこんな短時間で生徒会長になった時の利点を挙げられる先輩をすごいと素直に感心した。まぁ、デメリットの話を一切していないからそう感じるのだろうけど、それでも十分やる価値はある。それに――。

「……そうですね。落選するより当選した方が良さそうです。ですが……私はまだ“1年生”なのでまた相談に乗ってくださいね、先輩?」

 ――また困った時は助けてくれますよね?

「……おう」

 こうして、私は先輩の話に乗る形で生徒会長になることにした。先輩は他の人と違うみたいだし、これから生徒会の仕事の相談をすれば色々と面白いかもしれない。もしかしたら葉山先輩との仲も繕ってくれたりして。

 

 

 

 

 

 

 そう考えていた時期が私にもありました。

 

 

 

 

「全く……帰りが遅いと思ってメグちゃんと一緒に様子を見に来てみれば……ハチマン、何してるのかな?」

「べ、別に? 何もしてないけどー?」

「ギルティ」

 窓の外からメグちゃんを背負って部室に入って来た群青の少女――後々、私の天敵となるサイちゃんと出会うまでは。

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。