やはり俺の魔物の王を決める戦いは間違っている。   作:ホッシー@VTuber

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まさかの連続更新。
戦闘シーン書くの楽しいです。
今回の戦闘シーンはちょっと無理あるかもしれませんが。


LEVEL.49 比企谷八幡と群青少女は大海恵とティオと共にコンビネーション技を繰り出す

「殺すううううう! ぶっ殺してやるぅぅぅぅぅぅ! ユウトオオオオ! 最大呪文の準備いいいいいいい!」

「は、はいっ!」

 怒り狂うハイルの怒声に悲鳴を上げながらパートナーのユウトが心の力を溜め始める。サイに覚えられていなかったことがそれほど許せなかったらしい。今なら攻撃し放題なのだが、サイは攻撃呪文を覚えていないし、ティオの『サイス』も魔物相手には効果は薄い。まぁ、ティオ本人は川で溺れているから攻撃すら出来ないのだが。

「ね、ねぇ。何であの子あんなに怒ってるの?」

 さすがのサイも修羅となっているハイルを目の当たりにして困惑しているようだ。

「……お前が覚えてないからだ」

「え? 私、あんな子と知り合いじゃないんだけど……」

「があああああああああ!! ユウトオオオオ! まだかあああああああ!」

「も、もうちょっと!」

 サイの呟きが聞えたのか更に怒りのボルテージを上げるハイル。止めて! 君のパートナーが恐怖で死にそうだよ! 足とかガクガクしてるよ!

「さ、サイ……あんたねぇ」

 その時、ずぶ濡れになったティオが戻って来る。その後ろには苦笑している大海。

「あはは。ごめんね、ハチマンのピンチでちょっと焦ってた」

「気持ちはわかるけどいきなりぶん投げるのは止めなさいよ!」

 どうやら、サイたちが河川敷に到着した頃、俺たちは『マ・セシルド』の召喚可能範囲外にいたようだ。なら、ティオを投げて強引に『マ・セシルド』の召喚可能範囲に俺たちを入れればいい。そう考えたサイが思いっきり投げたらしい。そのおかげでティオはずぶ濡れになったが。

「サイ……相手が心の力を溜めてる内に回復したい。大海は雪ノ下に簡単に説明してやってくれ」

 どうせ攻撃しても簡単に弾かれる。サイに至っては飛んでいるハイルに攻撃すらできないのでこちらの体勢を立て直した方が得策だ。

「あ、ごめん」

 俺の傷に気付いたサイは俺の後ろに回り込む。俺も雪ノ下から魔本を返して貰い、その場に座り込んで呪文を唱える。

「『サルフォジオ』」

「そいやっ!」

 群青色の液体が入った注射器が俺に突き刺さり、傷が綺麗になくなった。まだ痛みは残っているものの動く分には支障などない。痛みに襲われながら動く特訓ならほぼ毎日している。体の調子を確かめた後、チラリと雪ノ下たちを見た。説明はある程度終わったようで雪ノ下は顔を青くしている。そんな彼女を不安そうに見ていた大海だったが俺の方に近づいて来た。

「一応、魔物について説明したし、これから戦いになることも言ったけど……あまり長引かせるのはまずいかもしれないわ」

「わかってる……が、新幹線でも言ったように俺たちに決定打はない。雪ノ下には我慢して貰うしかないな。さて、新幹線で考えたコンビネーションのお披露目会といこう」

「ハチマン、不安だからってキャラを崩してまで茶化さなくていいんだよ」

 サイが俺の前に移動しながら笑った。おーう、バレテーラ。実際、ハイル相手に勝てるか不安だ。こちらの攻撃呪文は『サイス』のみ。それに対して向こうは回転攻撃+衝撃波を放つ呪文や剣を出現させる呪文、巨大なドリルを放つ呪文まである。何より、空を飛んでいるのが厄介だ。サイの専売特許である身体能力の高さがほぼ無効化される。まぁ、今は攻め方よりも――

「ハイちゃん! 行くよ!」

 ――敵の最大呪文を防ごうじゃないか。コンビネーションとやらで。

「大海、ティオ頼む。雪ノ下は下がってろ」

「ええ!」「もちろんよ!」

 大海たちが笑顔で頷きながら俺の前に――サイの後ろに移動した。雪ノ下も震えながら俺の後ろに隠れる。俺と大海が魔本に心の力を溜め始めた時、向こうの魔本の光が一気に大きくなった。

「来るぞ!」

「『ギガノ・バル・ガルルガ』!!」

 ハイルの手から8つのレーザーが撃ち出される。レーザーは一度、膨らむような軌道を描くが一斉に俺たちに向かって来た。俺たちに当たる直前で1つにまとまるのか。この呪文を攻略するにはレーザーが一箇所に集まる前に8つのレーザーを個々に無効化する必要がある。だが、俺たちはあのレーザー1本でさえ処理するのは難しい。なら、真正面から受け止めるまで。

「『マ・セシルド』!」

 俺たちの目の前に円形の巨大な盾が出現する。それとほぼ同時に8つのレーザーが1つにまとまり、巨大なレーザーとなって盾に直撃した。

「ぐっ……恵、出来るだけ堪えるわよ!」

 レーザーを受け止めた盾に皹が入るがティオはそれを見ても諦めることなく叫んだ。

「わかってる!」

 頷いた大海の手にある魔本が更に光を増した。すると、皹割れていた盾が綺麗になる。だが、それでもレーザーの勢いはなくならない。

「大海、消せ! 『サシルド』!」

 俺の指示を聞いて大海が呪文を消し、タイミングを見計らって呪文を唱える。サイの前から群青色の盾がせり上がった。今度はその盾がレーザーを受け止める――否、受け流す。群青の盾をなぞるようにレーザーが後方へ流れた。

「下がれ!」

 ちゃんとレーザーが受け流されているのを確認した後、次の指示を出す。レーザーを受けて赤熱している群青色の盾から距離を取った。

「大海!」

「『マ・セシルド』!」

 『サシルド』を消すと同時にまた『マ・セシルド』が出現する。再びレーザーを受け止めたが今度は皹割れない。

 そう、これがフォーメーション1――『デュアルシールド』である。真正面から受け止める頑丈な『マ・セシルド』。そして、受け流して威力を半減させる『サシルド』だから出来る防御方法である。『マ・セシルド』で敵の攻撃を出来るだけ受け止め、大海の心の力が尽きかけたら『サシルド』で時間を稼ぐ。その間に大海がまた心の力を溜めて再び『マ・セシルド』で防御。これをひたすら繰り返して敵の呪文を受け切る。条件としては『サシルド』で受け流せる尚且つ数秒でもいいから耐え切れないと成り立たないのだが、受け流せるのならば敵の術の威力も半減できるのでかなり使える戦法だと思う。『マ・セシルド』で受け切れない術は十中八九心の力を大量に消費する術なので――。

「は、ハイちゃん……もう、心の力が……」

 ――敵の心の力を大幅に削ることも可能。しかも、こちらは相方が攻撃を受け止めている間に心の力を溜められるのでほとんど被害はない。

「心の力を溜めろ! 『サシルド』!」

 大海の心の力を溜める時間を稼ぐためにもう一度、交代する。受け流されたレーザーの威力はどんどん落ちて行き、最終的に消えた。それを見届けた後、『サシルド』を消す。

「むきいいいいいいい! 2人がかりなんて卑怯よおおおおおおお!」

 受け切った俺たちを見てハイルが宙に浮きながら地団駄を踏む。器用だな。

「あ、誰かと思えば『孤独のハイル』じゃない。またサイに突っかかってるの?」

 そんなハイルを見てティオがそう言った。サイと知り合いならティオが知っていてもおかしくない。しかし、『孤独のハイル』とな?

「お前……周りからちやほやされてたって言ってなかったか?」

「はぁ!? あのハイルが!? そんなわけないじゃない! お昼ご飯の時、いつもトイレで食べてたのよ?」

「ぐっ……『首絞めティオ』! 貴女は一体何を言っているのかしら? 私は高貴なるツペ家当主ハイル・ツペなのよ? そんな便所飯だなんて――」

「じゃあ、友達の名前言ってみなさいよ!」

「くうううううううう!」

 ハイルはぼっちだったらしい。なんか急に親近感が湧いた。ティオに指摘されて涙目だし。そんなことよりティオの二つ名が気になる。何だよ、『首絞め』って。文化祭でガッシュの首を絞めていたがあれが関係しているのか? まぁ、あんなろくろ首のようになるほど首を締められたらそんな二つ名も付くわ。

「え、えっと……『首絞めティオ』さん。説明してくれない? もうわけがわからないよ……」

「ちょ、さ、サイ! あれはハイルの嘘だからね? 私は首を絞めたりなんか!」

「でも、この前、ガッシュの首絞めてたでしょ。ウマゴンも泣くほどの形相で」

「あ、あれはガッシュが!」

「無視するなああああああああ!」

 人間組は魔物組の会話に入って行けません。今の内に心の力溜めておこう。大海も俺が心の力を溜め始めたのを見て同じように溜め出した。向こうはハイルのキャラ崩壊を見て放心しているが。

「そもそも、あの人間は一度も外部に連絡してなかったのにここがわかったの!?」

「え? ハチマン、どうやって『サルク』唱えたの? てっきり、ハイルの目の前で堂々と唱えたのかと」

「んなことするかよ。向こうはお前が京都にいるって知らなかったみたいだし。会話に『サルク』って単語を紛らわせて唱えた」

「い、いつの間に?」

「……サイからしたらお前は周りで騒いでいる猿くらいの認識。猿くらいの。『サルク』らいの」

 正直言ってばれてもおかしくはなかった。呪文を唱えれば魔本から光が漏れる。今は夜のため、その光はかなり目立つ。挑発したのもハイルの注意力を削ぐためだったが、何とかなってよかった。因みに今、『サルク』と言ったが術は発動していない。サイとの特訓の中に『魔本を持ちながら術を唱えても勝手に術が発動しないようにする』というものがあった。事故を防ぐためって言っていたが魔本を手放さずに会話できるのはかなりありがたい。それも見越していたのだろうけど。

 もちろん、術を唱えただけでサイが俺たちの場所を特定できるわけではない。だが、俺たちがピンチだと知られる。それだけでも違う。サイなら俺がピンチだと知れば血眼になって探すだろう。そして、俺たちに近づけば魔力感知ですぐに敵の居場所がわかる。後はそこへ向かうだけだ。さすがに間に合わなくてティオは投げられる羽目になったが。

「……ユウト、気付いてた?」

「ひっ……だ、だってハイちゃん、僕の声聞こうともしなかったし、怖かったし」

「ユウトオオオオオオオ!」

「ご、ごめんなさあああああああい!」

 しかし、どうやらユウトは気付いていたらしい。ハイルが怖すぎて声をかけられなかったようだが。

「ねぇ、『孤独のハイル』ってどういうこと?」

 ハイルとユウトがごちゃごちゃやっている間にサイはティオに事情を聞き始める。俺たちの心の力もまだ溜めている最中だから暇なのだろう。レーザー受け止めるのに結構、心の力使ったからな。

「……あの子、あんな性格だから友達が出来なかったのよ。でも、成績だけはよかったからそれを支えにしてたらしくて……そこにサイが来ちゃって」

 唯一の長所がサイに取られたのか。魔界にいた頃、魔法は一切使えなかったが戦闘技術だけはずば抜けていたので抜かされてしまったのだろう。多分、座学の方もサイなら楽々満点とか取りそうだし。

「こら、ティオ! 変なこと吹き込まないで!」

「事実じゃない……あれ、でもハイルがサイに突っかかり始めたのって班分けの時、サイと一緒になってからじゃ――」

「あああああああ! 言わないでええええええええ!」

「班分け……あ、そう言えばいつだったか筆記用具忘れた子にペンとか貸してあげたような……」

「きゃあああああああああああ!」

 顔を真っ赤にしたハイルが地面に降りてその場でゴロゴロと転がり出す。おおう、黒歴史黒歴史。簡単に話をまとめると孤独だったハイルはサイに優しくされてコロッといってしまい、友達になるべく近づくが、どうしていいのかわからなくてとりあえず、突っかかってみた。こんな感じか? ツペ家当主はかなり不器用な子だった。

「もういいもん、怒ったもん! ハイちゃん、マジギレしちゃったもん!! ユウト!」

 赤面しながら立ち上がったハイルだったが、恥ずかしさからか完全に子供口調に戻っている。もしかしたらこっちが素なのかもしれない。

「……ご、ごめん。心の力が」

「ああ、もう! もう! もう! もおおおおおおお!! ユウトは心の力溜めてなさい! 私独りでやるから!」

 そう言った後、ハイルが翼を広げて低空飛行でこちらに突っ込んで来た。

「大海、フォーメーション2で」

「……」

「大海?」

 指示を出したのに動こうとしない大海を見ると少しだけ不満そうにしていた。新幹線の中でもフォーメーション2について話した途端、猛反対して来たし。

「時間がない。頼む」

「……無理だけは、しないでね」

「わかってる」

「はぁ。本当に……心配ばかりかけさせるんだから」

 すまん。でも、俺たちが勝つためにはこうするしかないのだ。頷いた大海に心の中で謝った後、サイの隣に並ぶ。

「ふふ、何だかわくわくする。ハチマン、頑張ろうね」

「俺は全くわくわくしないけど頑張りまーす」

「死ねっ!」

 ハイルが標的にしたのは俺だった。まぁ、そりゃそうだろう。魔物は人間より強いのは当たり前なのだから。タックルでもするつもりなのか右肩を前に突き出すような体勢を取った。

「すぅ……はぁ……」

 深呼吸して腰を低くする。右手に持った魔本をギュッとしっかり掴んでハイルに向かって駆け出す。

「『サウルク』」

 ハイルとぶつかる直前に術を唱え、ハイルのタックルを受けると同時に体を左側に引きながら彼女の服を掴み、後方へ投げ捨てるように払う。イメージするのは闘牛士が闘牛をいなすシーン。いなされたハイルは悔しそうに俺の方を振り返る。

「こっちだよ」

「ガフッ……」

 その隙に高速移動したサイのドロップキックがハイルに直撃した。だが、これだけでは終わらない。

「『セウシル』!」

 大海が術を唱えると俺とサイ、ハイルを囲むように半透明のドーム状のバリアが出現する。ドロップキックで吹き飛ばされたハイルは『セウシル』に背中から激突して口から空気を漏らした。

「くっ……まだまだあああああ!」

 痛みで顔を歪ませるが雄叫びを上げながら俺の方にまた突っ込んで来る。確かに人間は魔物には勝てない。術を使われたら自分の体を犠牲にしないとやり過ごせないし、ただのパンチでも骨が折れてしまう。だが、それを知っているからこそ対策できる。

「よっと」

 突っ込んで来たハイルの動きに合わせて後ろに倒れ込む。そのまま彼女の服を左手だけで掴み、背中を地面に付けた後、両足でハイルの体を上に持ち上げながら後方に向かって投げる。ちょっと変わった巴投げだ。投げられた彼女は目の前の光景に顔を引き攣らせた。何故なら――。

 

 

 

 

「お待ちしていました」

 

 

 

 

 ――いつの間にか空中で待ち構えていたサイを見たからだ。

 フォーメーション2――『セウシルリング』。これは俺とサイと敵を『セウシル』の中に閉じ込めて強制的に戦わせる戦法だ。閉じ込められたことに気付いた敵はまず、俺を狙うだろう。しかし、俺にはサイとの特訓で編み出した柔の技がある。柔能く剛を制す。とにかく俺は相手の攻撃をいなし、躱し、受け流す。無傷とはいかないがハイルのように心の力を使い切った状態で突っ込んで来るならば結構、簡単にやり過ごせる。そして、その隙を突いてサイが攻撃する。

「はい、ドーン」

「ガッ」

 サイの踵落としを受けたハイルは地面に落とされる。サイは『セウシル』の壁を“走って”登り、ハイルの前まで移動したのだ。さすがサイ。

 『セウシルリング』にも弱点はある。まず、『セウシル』が脆いこと。攻撃呪文一発でも受けたら壊れてしまうだろう。まぁ、その場合、攻撃呪文を放った瞬間、サイが思い切り攻撃し、敵が怯んでいる間にもう一度、『セウシル』を唱えるだけなのだが。

 他にも『セウシル』の範囲が狭いのでかなり窮屈であること。言ってしまえば俺たちも戦い辛い。まぁ、基本的に俺はカウンタータイプだし、サイも『サウルク』のおかげで一瞬にして移動できるからあまり関係ないのだが。

 最後は俺がいなし切れない攻撃をされた場合、正直言って詰みである。一撃でも受けたら『サルフォジオ』で回復するまで俺は戦闘不能になってしまうだろう。そうなるとティオたちに守って貰うしかない。もし、大海の心の力がなければ総崩れだ。そうならないためにも細心の注意を払って――。

「さぁ、ハイちゃん?」

「私たちと一緒に遊びましょ?」

 ――挑発しようではないか。

「く、くそおおおおおおお!」

 『セウシルリング』はあまり長い時間持たない。だからこそ挑発するのだ。怒りに我を忘れ、単調な攻撃を繰り出し、俺にいなされ、サイの重い一撃を受ける。それが『セウシルリング』。ハイルのような高飛車でプライドが高い奴にこそ真の力を発揮するフォーメーションだ。軽い挑発で怒り突っ込んで来るから。

「ぐはっ」

 突っ込んで来たハイルを一本背負いし、地面に叩き付けられたところへサイが蹴りを放つ。捕食者はお前じゃない。俺たちだ。さぁ、踊れ、舞え、散れ。籠の中に閉じ込められた蝶々さん?

 




正直、『セウシルリング』にクレームが来そうで怖いです……。
狭すぎんだろ!とか……。
ガクブルしながら感想お待ちしています。
お、お手柔らかにお願いします!

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