やはり俺の魔物の王を決める戦いは間違っている。   作:ホッシー@VTuber

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お・ま・た・せ。
冬休みです。執筆し放題。更新し放題です。
えっと、つまり、日曜日の更新に加え、書き終え次第、更新するというフィーバータイムです。


ですが、この冬休み中に書いておきたい短編がいくつかあるのでさほど更新できないかなーと思います。


後、メリークリスマスです。



なお、今回のお話しで八幡がハチマンして人間を止めている描写があるのでご注意ください。さ、サイとの特訓の成果だよ!


LEVEL.48 比企谷八幡は正直言って人間を止めている

 俺たちを見下ろしながら微笑んでいる飛行型の魔物。その見た目は完全に吸血鬼である。しかも、ゴスロリ着ているし。後、魔物の真下にパートナーいるけどパートナーが上を見たらパンツ丸見えじゃね?

「ふふ、恐怖で言葉を失っているのかしら? 脂汗が見えるわ」

「……」

 どうやら現実逃避しても意味がないらしい。パンツ云々は本当にそう思うけど。

「比企谷君……私は、夢を見ているのかしら」

「安心しろ。これは現実だ」

「……これが現実だとしてどうやってあの子が飛んでいるのか説明してくれると助かるのだけど」

「この世界には不思議なことがたくさんある。以上」

「……眩暈がして来たわ」

 雪ノ下はやっと目の前で飛んでいるゴスロリが本物だと理解したらしい。チラリと彼女を見ると少しだけ顔を青くしていた。雪の女王様でもこの状況を理解するのは些かSAN値を削る行為だったようだ。SAN値ピンチ、俺たちピンチ。

「さぁて。『孤高の群青』のパートナーさん? 大人しく魔本を渡してくださるのなら傷一つなくお家に返してあげるけれど、どうする?」

「……生憎、その言葉を信じるほど俺は素直じゃない」

「あらあら……折角チャンスをあげたのに残念。そこの娘と一緒に仲良く死になさいな」

「『ガウルク』!」

 敵が呪文を唱えた瞬間、ゴスロリが消える。しかし――。

「きゃっ……」

 ――俺もほぼ同時に雪ノ下の腕を引っ張って横に跳んだ。いきなり引っ張られた雪ノ下は小さく悲鳴を上げながら倒れそうになるがその前に左腕で彼女を抱き寄せる。今は緊急事態なので許して欲しい。

「……へぇ?」

 先ほどまで俺たちがいた場所でゴスロリがニヤリと笑った。その足元には小さなクレーター。速度アップの呪文だったようだ。後1秒でも逃げるのが遅れていたら俺たちは粉々にされていただろう。その証拠に俺が持っていた鞄がゴスロリの攻撃の余波で破けてしまった。鞄から魔本を取り出し、鞄を投げ捨てる。

「さっきのはまぐれじゃなかったようね。ただの人間が2回も偶然であれに反応できるわけないもの。本当に人間?」

「人間だ。お前の言う『孤高の群青』のパートナーだけどな。そっちこそ何で『孤高の群青』を知ってるんだ?」

 魔本を背中に隠しながら問いかけた。今は少しでも時間を稼ぐ。サイがこちらに向かって来ているのならば魔力感知でゴスロリに気付くはずだ。しかし、問題はサイがこちらに向かっていなかった場合である。どうにかして俺たちのピンチをサイに知らせないと。

(携帯を取り出したら止めに入るだろうし。どうすっかな)

「……そうね。あの子のパートナーには教えておこうかしら」

 ゴスロリはそう言うと翼を広げてお辞儀をした。おお、様になっている。

「初めまして。私、ツペ家当主ハイル・ツペと申します。親しみを込めてハイちゃんって呼んでください」

 そう言った後、ニッコリと笑うハイル。その目は『早く呼べ』と言っていた。

「……ハイちゃん」

「よろしい。さて、貴方は私とあの忌まわしき群青の関係を聞いて来たけれど……はっきり言ってしまうとライバルね」

 あ、やばい。何となく展開が読めた。

「魔界にいた頃、私はとても優秀な生徒として周りからちやほやされていたわ。特にこの美しい容姿なんか歩けば10人中10人が振り向き、微笑めば失神する人はもちろん、鼻血を出す人なんて珍しくなかった。クラスでも私の人気は常にトップ。成績もトップ……ですが、そこに現れたの。あの群青がっ!!」

 悔しそうに地団駄を踏むゴスロリ。その度にクレーターが大きくなっていく。おい、お前のパートナーもドン引きしているぞ。

「いきなりクラスに編入して来た彼女はとても不思議な人だった。この私が話しかけても完全無視。この私が! 話しかけて! 上げているのに! それだけでも忌々しいのに。あの子……魔法が全く使えなかった癖に戦闘技術だけは異常に高くて他の人はもちろん、私でさえ足元に及ばなかった。ですが? 私は高貴なるツペ家の当主ですから? 素直に負けを認め彼女に声をかけたわ……そしたらあの子、なんて言ったと思う?」

 『聞け。早く』とハイちゃんの目が言っている。彼女のパートナーも『早く聞いてあげて』みたいな視線を送って来ていた。すごい震えている。臆病なのだろうか。

「……何て言ったんだ?」

「『誰?』ですって……このツペ家当主ハイル・ツペに対して『誰?』。あはははははは!! ふざけんなっ!! ハイちゃんを無視するなんて絶対許さない! 許さない! 許さないいいいい!!」

 ハイルが思いっきり地面を踏む。地面が割れた。

「その日から私は『孤高の群青』のライバルとなり……今日、やっと彼女に一矢報いることができる! あはははは!!」

 狂ったように笑っているハイルだったがものすごく涙目だった。それほど悔しいらしい。彼女のパートナーもビビっているし。気の毒だな。

「あの忌まわしき群青は今、ここにはいない。確かシュウガクリョコウ、だったかしら? 貴方たちが離れるタイミングをずっと待っていた! これで、これで勝てる! 私が勝つのオオオオオオオオオ!」

 つまり、ハイルたちは俺とサイが離れる時をずっと待っていた。それがこの修学旅行だった。そして、京都に彼女のライバル(仮)であるサイがいることを知らない。

(それを上手く利用すれば……)

 なら、なおさらハイルたちに悟られることなくサイに伝えなければならない。今だってあんな風にペラペラと話しているのはサイがいないと思っているからだ。

「なぁ、ハイル」

「ハイちゃん」

「……」

「ハ、イ、ちゃ、ん」

 この子の『ハイちゃん』に対するこだわりは一体、何なのだろうか。

「ハイちゃん」

「何?」

「本当にサイのライバルなのか?」

「……何が言いたいの?」

 俺の言葉を聞いたハイルは目を鋭くさせる。イラッとしたようだ。

「お前が勝手に言ってるだけでサイはお前のことどうでもいいと思ってるんじゃないか?」

「ッ……ど、どうしてそう思うのかしら?」

 顔を引き攣らせながらも何とか笑顔を保とうとしている。おお、怒ってる怒ってる。

「いや、なんかお前、小物っぽいし……サイからしたらお前は周りで騒いでいる猿くらいの認識だと思うぞ。サイの目には周りの奴なんか入らないからな」

 特に魔界にいた頃は『孤高』と呼ばれるほどだ。ハイルのことなんか心底どうでもよかっただろう。

「さ、猿? この私が猿? あは、あはは……」

 よほどショックだったのかハイルは顔を俯かせながら笑う。体はバイブレーションの如く震えていた。

「雪ノ下」

 それを見ながら隣で放心していた雪ノ下に声をかける。

「な、何かしら?」

「すまん」

 一言謝った後、魔本を押し付ける。いきなり本を持たされた雪ノ下は目を丸くして驚いた。その隙に彼女の肩と膝の裏を持ち上げる。俗に言うお姫様抱っこだ。

「ひ、比企谷君!?」

「非常事態なんだ。お前の体力じゃすぐに追いつかれる。我慢しろ。後、その本は絶対に守ってくれ」

 俺だって我慢しているのだ。後で慰謝料とか請求されないよね? 大丈夫だよね?

「いい度胸だ、人間……まずは貴様からズタズタに引き裂いてくれるわあああああああ!!」

 堪忍袋の緒が切れたのかハイルは凄まじい形相で俺たちを睨み、絶叫した。さて、もう一押ししておこうか。

「わー、お猿さんが怒ったー」

「ユウトオオオオオオオ!! 呪文を唱えろおおおおおお!」

「は、はい! 『ガウルク』!」

 暴走状態のハイルの姿が消える。目にも止まらぬ速さで移動しているのだ。

「――ッ!」

 だが、俺には通用しない。その場にしゃがむと頭上をハイルの足が通り過ぎた。

 戦闘で大事なのは冷静さを失わないこと。我を忘れてしまえば攻撃が大振りになる。それに加え、攻撃の軌道も読みやすくなる。言ってしまえば、こちらからすると躱しやすくなるのだ。そりゃ、あれだけ殺気を放っていれば振り返らなくても躱せるわ。最初の不意打ちも殺気を感じて咄嗟に躱したほどだし。蹴りを躱されて相手が体勢を崩している間に俺は敵に背を向けて走り出した。

「ちょ、ちょっと! 比企谷君!」

「喋るな、舌噛むぞ!」

 珍しく声を荒げる雪ノ下に忠告した後、今度は右にステップ。すると、左側をハイルが通り過ぎ、近くの塀に突っ込んだ。あれに掠っただけでも骨が折れそうである。それにここだと色々とマズイ。今は人がいないからいいものの通りすがりの通行人にハイルが攻撃を仕掛けない保証はない。それにハイルが突っ込んだところにたまたま人がいる可能性もある。どこか広い場所に行かないと。

「雪ノ下。この辺に広い場所とかないか?」

「……河川敷があったはずよ。方向は――」

「いや、そこまではいい」

 方向音痴のお前じゃナビゲートは無理だわ。後ろから感じるハイルの殺気を探りながら考える。確か河川敷は――。

「『ガル・ガ・ガルルガ』!」

 河川敷の場所を思い出そうとしたがその前にハイルのパートナーが新しい呪文を唱える。チラリと後ろを見るとハイルが体を回転させながらこちらに突っ込んで来ていた。しかし、『ガウルク』の効果が切れているのか速度は目で追えるほど。これなら躱せる。もう一度、右に跳んだ。だが、躱した直後、ハイルが翼を大きく広げ、衝撃波が発生した。急いでハイルに背中を向ける。

「ガッ……」

「比企谷君!」

 背中に鋭い痛みが走り、呻き声を漏らすが足は止めない。止めたら殺される。

(面倒な術だな)

 『ガル・ガ・ガルルガ』は自分の体を回転させて相手に突っ込む術。それに加え、翼を広げると自分の周囲に衝撃波を発生させることができるのか。厄介だ。基本的に俺が回避するとなると紙一重になる。衝撃波まで躱せない。さすがにサイの特訓で痛みに慣れているとは言え、何度も衝撃波を受けていたら俺の体が壊れてしまう。

「『ドルガルル』!」

 冷や汗を掻いているとそこにハイルがドリル状の弾を放って来た。顔だけで後ろを見ながらドリルの軌道上からずれる。しかし、ドリルが地面に着弾して道路だった物が俺たちの方へ飛んで来た。いくつかの石が俺の体に当たり、鈍痛が俺の体を蝕む。さすがに挑発し過ぎたかもしれん。でも、希望はまだある。この通りを抜ければ――。

「『ギガノ・ガソル』!」

「死ね」

 その時、俺たちの目の前に大きな剣状のエネルギー体を持ったハイルが現れた。上空を移動して先回りしたらしい。剣を振るうハイルの顔は歪んだ笑みを浮かべていた。このまま放っておけばハイルの剣は俺と雪ノ下を真っ二つにするだろう。だが、何とかするにしても今の俺は雪ノ下を抱えているから両手は使えない。いや、使えないからこそ何とかできる。サイが言っていた。『ハチマンは常に魔本を持ってるから両手は使えないと思った方がいい』と。じゃあ、どうすればいいのか? 魔物の攻撃をいなすためには何を使えばいいのか? 決まっている。手が使えないなら足を使えばいい。

「う、うおおおおおおおおお!!」

 気合を入れるために絶叫しながら雪ノ下を強く抱きしめ、その場でくるりと回転し、後ろ回し蹴りを放つ。狙うのは剣の腹。普通の剣とは違い、剣そのものがエネルギーでできているため、無傷では済まないだろう。

「なっ!?」

 まさか立ち向かって来るとは思わなかったようでハイルは目を見開く。その視線の先では剣の腹と俺の踵がぶつかっていた。

「ぐっ……おおおおおおおおおおッ!」

 踵から血が吹き出し、顔を歪ませる。立ち向かってはいけない。俺はひ弱な人間なのだ。魔物の怪力に――術を跳ね返すのはもちろん、軌道をずらすことなんてできるわけがない。そう、俺の狙いは軌道をずらすことではない。“剣の腹を足場に思いっきりジャンプする”ことだ。軸となっていた左足で軽く跳び、体を浮かせた後、右足に力を込めた。すると、慣性の法則により力を込めた反動で宙に浮いていた俺たちの体がわずかに左にずれる。それだけで十分。ハイルの剣は俺の体を掠めながら通り過ぎ、地面を抉った。それを見届けながら俺は背中から地面に倒れる。雪ノ下を抱えながら術に向かって後ろ回し蹴りを放って軌道上から逃げた後、華麗に着地できるほど人間を止めているつもりはない。急いで立ち上がり、背中と右足の踵の痛みを無視して走る。

「ふ、ふふ……あーはっはっは! 面白い……面白いぞ、人間! 今のをやりすごすとは!」

 後ろからハイルの楽しそうな声が聞こえるが俺は全然楽しくない。そんなことを考えながら走っていると通りを抜け、やっと河川敷に着いた。急いで河川敷に降り、振り返る。

「でも……これで終わり。さよなら」

「『ギガノ・ドルガルルガ』!」

 そこにはハイルの両手から撃ち出された巨大なドリルだった。今から左右に跳んでも躱せない。先ほどのように術を足場に跳ぶにしても攻撃した瞬間、ドリルによってひき肉にされる。雪ノ下が俺の服を掴んで小さく悲鳴を上げた。

「……」

 背中は衝撃波でズタズタにされ、右足の踵は血だらけ。石が当たったせいで体中が痛い。少しでも気を抜けば痛みで気絶しそうだ。でも――。

 

 

 

 

 

 

 ――目の前に現れた中央に羽の紋章が刻まれた円形の巨大な盾を見て笑ってしまった。

 

 

 

 

 

 

 ドリルが盾に当たった瞬間、消滅していく。声は聞こえなかったが大海たちが来てくれたらしい。何とか間に合っ――。

「きゃあああああああああ!」

 安心した束の間、俺たちの前をティオが悲鳴を上げながら通り過ぎ、川に突っ込んで行った。え、何が起きたの?

「あ、ごめんティオ。強すぎた」

 その光景を見て呆然としているとサイが俺たちに駆け寄りながら謝る。川で溺れているのか騒いでいるティオを大海が助けに向かった。

「……サイ」

「全く。ハチマンってば私がいない時に魔物に襲われ過ぎでしょ……まぁ、余計なのまでいるみたいだけど」

 俺の腕の中で震えている雪ノ下を見てため息を吐くサイ。そして、突然現れたサイを見て驚愕しているハイルの方を向く。

「『孤高の群青』が何故、ここに……さすが私のライバル! 私の襲撃を予知してここに来ていたのね!」

「……」

「あら、どうしたのかしら? まさか私が襲って来るなんて思いもしなくて驚いているのかしら。いえ、喜びで声も出せないのね。ライバルであるハイル・ツペが目の前にいるのだから!」

 満面の笑みを浮かべて叫ぶハイルに対し、サイは困惑した表情で俺を見た後、口を開いた。

 

 

 

 

 

「……あの、どちら様?」

 

 

 

 

「うがああああああああああああああああああああああああああ!!!」

 

 質問。ハイル・ツペは本当にサイのライバルなのですか?

 

 答え。いいえ。サイの目にハイル・ツペは入ってすらいませんでした。

 




ハイル・ツペのコンセプト

・ガッシュの原作に出て来そうな魔物。なお、小物。書いている内に某弾幕シューティングゲームのかりちゅまにしか見えなくなった。ごめんなさい。



因みに作中で八幡がサイにSOSを出しています。
……まぁ、わかりやすいので気付いていると思いますがわかりましたか?

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