やはり俺の魔物の王を決める戦いは間違っている。   作:ホッシー@VTuber

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LEVEL.46 心配と信じる気持ちの中で群青少女はもがき、彼に引っ付く

「……」

 俺の対面に座っているサイはワンピースの裾を掴んで俯いている。そんな俺たちを大海とティオが心配そうに見ていた。因みに大海は俺の隣。ティオはその前に座っている。

「さて……サイ、事情を説明して貰おうか?」

 腕を組んだまま、サイに問いかける。別に怒ってなんかない。ただどうして俺に何も言わず、ついて来たのか気になるだけだ。

「……その、ね? ハチマンが心配でついて来ちゃった」

 目に涙を溜めて震える声で教えてくれた。おお、ビクビクしている。そんなに俺、怖いか?

「俺が、心配? どうしてまた」

「だって……今回の修学旅行でトベの告白を手伝うんでしょ? 他にも色々起きそうだし。だから、来ちゃった」

 いや、『来ちゃった』じゃないから。彼女が突然、彼氏の家に来た時みたいに『来ちゃった(ハート)』しなくていいから。

「八幡君、ごめんなさい。実は誘ったの私たちなの」

 そこへ大海からの新情報。どういう意味なのかわからず、横に座っている彼女に視線を向けた。後、見た瞬間、ビクってしたけど何で? そんなに俺、怖いか?

「え、えっと……修学旅行の日程と私の京都入りの日が同じだってわかった時、サイちゃんに『一緒に行けるけどどうする?』って聞いたの。サイちゃん、八幡君がいないと眠れないらしいから」

 まぁ、仕事の関係で京都入りするならばサイとティオを連れて行っても問題はないだろう。『今、預かっている子たちがいるから一緒に連れて来た』と言えば通るはずだ。大海も明日から修学旅行だが『前日の仕事の都合上、仕方なく預かっている子も一緒に連れて来た』という免罪符がある。実際にサイとティオがここにいると言うことは事務所と学校の許可は得ているはずだ。

「なら、そう言えばよかっただろ? 俺だってサイが心配だったから大海に頼んだかもしれんし」

 まぁ、その時の俺がどう判断したかまではわからないが。

「サイは一度、断ったの。『ハチマンに迷惑かけちゃうから』って言って」

 ティオが少し不貞腐れながら言った。それを聞いて大海の方を見ると彼女も頷く。本当に断ったらしい。じゃあ、何故ここに?

「昨日、頼んだの。やっぱり一緒に行くって」

「……どうして急に? 前日になって我慢できなくなったわけじゃないんだろ?」

 あれだけゲームを買い込んだのだ。サイは本気で3日間、寝ずに過ごすつもりだったはず。昨日、何かあってそれのせいでサイが俺を心配し、ついて来た。

 じゃあ、その何かとは? サイが心配するほどのことが昨日、あっただろうか。いつも通り、学校の授業を受けて奉仕部の部室で戸部の依頼について話し合って海老名さんが来て――。

「八幡君、大丈夫? やっぱり寒い?」

 黙り込んだ俺の顔を心配そうに大海が覗き込んだ。ち、近い。もう少し離れて。

「別にそこまで寒くない。ちょっと考え事してただけだ」

 まぁ、11月にもなって“Yシャツ姿”だったら寒そうに見えるかもしれない。今、俺は制服の上を脱いでいる。大海は逆にコートを着ていた。

 俺と大海は別々の学校である。もちろん、制服も違う。そのため、俺と大海が一緒にいるところを誰かに見られたら『総武高校の男子生徒が別の学校の女子生徒と一緒にいる。しかも子供連れ』と密告される可能性がある。それを回避するために制服の上を脱いだ。男の制服は上を脱いだらパッと見、スーツにも見える。そして、大海はコートを着て制服を隠した。これで『Yシャツ姿の男とコートを着ている女。しかも子供連れ』になる。薄着の男と厚着の女が隣り合って座っている時点で十分怪しいが制服を見られるよりマシである。なお、大海が制服を着て来た理由は少しでも荷物を少なくするためらしい。サイの荷物が増えたから慌てて荷物を減らしたそうだ。なんかすまん。

「まぁ、サイがついて来た経緯はわかった。問題は何故、俺に言わなかったのか、だ。教えてくれないか?」

「……だって、私がハチマンを信じてないみたいだったから」

 目を逸らしながら寂しげに言うサイ。確かに俺の心配をすると言うことは俺自身の力では解決できないと決めつけているようなものだ。それを自覚しているからこそ、目の前で震えている。パートナーを信じ切れなかった自分を恥じている。

「んなこと、気にしてんじゃねーよ。俺だって一緒だ」

「え?」

「お前が3日間、徹夜するって聞いてものすごく心配したんだぞ? それこそ平塚先生にサイを連れて来てもいいか聞くほどにな」

 俺が先生に頼んだとは知らなかったサイは目を丸くして驚いた。言ってないからな。恥ずかしいもん。どんだけサイのこと好きなのって思われちゃうし。好きだけど。

「なら、お互い様だ。お前が俺を心配したように俺もお前を心配した。それでいいじゃねーか。信じるのも大事だけど、心配するのも大事だと思うぞ」

 信じる。心配する。この2つの気持ちは相反しているかもしれない。

 信じられないから心配する。

 信じているから心配しない。

 だが、この2つの気持ちの出発点は必ず、相手を想う気持ちだ。相手が心配だから。相手を信じているから。それは決して恥ずかしいことでも恥じることでもない。誇るべきだ。まぁ、俺に言っても失望されないと信じて欲しかった気持ちもあるが。

「俺とお前はパートナー同士なんだ。心配するのも信じるのも当たり前だ。心配してくれてありがとな」

「……うん!」

 サイの頭を撫でながらお礼を言うと彼女は1粒だけ涙を零した後、嬉しそうに笑った。

 

 

 

 

 

 

「……なぁ、サイ」

「んー? 何ー?」

「……いや何でもない」

「そう?」

 俺に呼ばれてこちらを見上げたサイだったが用事がないとわかるとまた俺の胸に顔を埋めた。それを見てため息を吐いた後、大海とティオに視線を向ける。視線の意味は『救助要請』。

「あはは……」

 俺の視線を受けた大海は苦笑を浮かべて首を横に振る。要請拒否。

「全く何やってるんだか……あ、ちょっと! 採取してるんだから邪魔しないで! 虫の分際で生意気よ!」

 ティオもサイに呆れながらゲームをしていた。要請拒否。まぁ、ランゴスタはうざいよな。たまに麻痺るし。

 あの後、安心したのかサイは笑いながら涙を流し続けるというよくわからない状態になってしまった。さすがにこのまま放っておくわけにも行かず、試しにサイの体を持ち上げて俺の膝の上に置いた。すると磁石のように俺に抱き着いて顔を俺の胸に埋めたのだ。それからずっと離れてくれない。一応、戸塚には『ちょっと知り合いに会ったから話して来る』と連絡は入れておいたがそろそろ戻らないとマズイ。

「あ、そうだ。ねぇ、京都ではどうする? サイちゃん、こっちで預かった方がいいよね?」

「ああ、そうして貰えると助かる。ただ夜だけはこっちに来るだろうな」

「行くよー」

 だそうだ。後、サイさん? その状態で話すとくすぐったいから顔を上げてください。

「でも、ばれちゃうんじゃ……」

「サイに限ってそれはないな。術を使わなくても余裕で不法侵入できる。皆が寝静まった後、部屋に侵入して俺の布団に潜り込めば大丈夫だろ」

 朝は起きる前で部屋を出ればいいだけだし。

「そんな簡単に……サイちゃんなら出来そうね」

「ええ……サイなら出来るわ」

 大海とティオは顔を青くして納得していた。それほど怖かったのだろうか。サイの全速力宅急便。俺も体験したいとは思わないが。

「まぁ、昼間は頼む……って、今日はいいが明日とかどうするんだ?」

 明日は大海も修学旅行に参加する。その間、サイたちはどうしているのだろう。

「先生に預かって貰う予定よ。ホテルに閉じ込めておくのも可哀そうだから」

 サイたちも京都まで来てホテルでお留守番は嫌だろう。今の様子を見るとゲームでもして暇を潰していそうだが。

「ッ――」

 その時、いきなりサイが顔を上げてキョロキョロと周囲を見渡し始めた。そして、すぐに舌打ちをする。

「どうした、サイ」

「ううん、何でもない。気にしないで」

 舌打ちまでして何でもないことはないと思うが追究する前にまた顔を押し付けて来たので質問できなかった。魔物関係ではなさそうだが一応、今の反応を覚えておこう。

「サイー、そろそろ手伝ってー。ゴリラ、案外強くて……」

「んー? いいよー」

 ティオのお願いを聞いて顔を上げるサイ。そのままくるっと膝の上で体を回転させ、俺の胸に背中を預けた。離れるという選択肢はないらしい。京都に着くまでまだ時間はある。満足するまで放っておこう。俺も大海と話し合いたかったし。

「大海、ちょっといいか?」

「ん? どうしたの?」

「ちょっと、な。念には念を入れて――」

 使わなければ御の字。使うことになっても慌てなくて済む。転ばぬ先の杖だ。

 

 

 

「――俺たちの戦い方を決めておこう」

 

 

 

 コンビネーションの確認。俺たちが今、一番考えなければならないことだった。

 


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