やはり俺の魔物の王を決める戦いは間違っている。   作:ホッシー@VTuber

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今回から修学旅行編の始まりです。



なお、申し訳ありませんが、来週の更新はテスト期間のため、できない可能性が高いです。もし、更新されたら『あ、こいつ諦めたな』と思ってください。
……一応、推薦は貰っているので進学は大丈夫なのですが、さすがに単位を落としたら卒業できないのでテスト頑張ります。


追記

すみません、修学旅行の日程が間違っていたので修正しました。


第4章 ~修学旅行編~
LEVEL.43 城廻めぐりは人知れず企み、笑顔で隠す


「修学旅行事前学習レポート。2年F組、比企谷八幡」

 俺の拳がサイの頭上を通り過ぎる。勢いを付けすぎたせいでバランスを崩してしまい、そこへすかさず彼女は足払いを繰り出す。払われる直前で前に跳び、転んで大きな隙を作るのを防いだ。

「調査テーマ……無記入」

 今度は大振りにならないように小さくジャブを繰り返す。だが、それを軽々と躱すサイ。

「修学旅行とは3泊4日という日程で教科書にすら載っていない歴史。親元を離れ、友達だけで行動する協調性の向上など学校では教えられない様々なことを学ぶ行事だ……と、字面だけはいいが俺はあまりいいとは思えない。教科書に載っていない歴史が知りたいなら1人で行った方がじっくり見られるし、協調性など社会人になれば自然と身に付く。じゃあ、修学旅行でしか手に入れられない物とは何か? 決まっている。友達との交流だ」

 そこまで読んだ時、サイはジャンプしてくるっと回転し、俺が突き出した腕に足を乗せてそのまま地面に叩き付ける。腕から嫌な音がした。

「だが、ここで考えて欲しい。生徒全員に友達がいるとは限らない、ということを。特に俺のような協調性スキル皆無な奴に友達が出来るわけがない。では、修学旅行で友達がいない奴は一体何を学べと言うのだろうか。結論を述べれば何も学べない」

 急いで後ろに転がってサイから距離を取るが、予測していたのか彼女はすでに追い掛けて来ていた。鋭い蹴りが俺の顎を捉え、吹き飛ばされる。

「何も学べない修学旅行に行くことに意味はあるのだろうか。いや、ないだろう。無駄にお金と時間を消費するだけだ。なら、家で協調性スキルを得るために家族と一緒に過ごした方が遥かに有意義になるだろう」

 背中から地面に落ちて口から空気が漏れた。

「なので、修学旅行を欠席し、家でサイと遊びます。俺たちの桃源郷はすぐ目の前にあったんだ!」

 息を荒くして大の字で寝ている俺を見下ろせる位置まで移動して来たサイはプリントから目を離し、俺に向かってニッコリと笑って見せる。俺もそれに対して笑って答えた。多分、引き攣っているだろうけど。

「はい、却下」

 そう告げた後、ビリッとプリントを破いた。せっかく書いたのになんてことをする。傑作だったのに。

「ハチマン……さすがにこれはないよ。まず、事前学習レポートって書いてるのに学習してないし。『サイと一緒に遊びます』? いつも遊んでるでしょ。“今みたいに”」

「これを遊びって言っていいなら俺、いいパパになれそうだな」

 子供に腕をへし折られても笑って許すとか仏様レベル。仏様でも怒りそうだわ。

「なら、私がママね」

「いや完全に子どもだろ」

「パパー」

 そんな甘えたような声を出しながら折った腕を踏まないでくれますか。ものすごく痛いです。バキバキってヤバい音してるから。

「私のこと心配してくれるのは嬉しいけどさすがに修学旅行は行って来てよ。2日ぐらいなら大丈夫だから」

「……」

 どうやらばれていたらしい。サイは俺がいないと眠れない。少し離れただけで不安になって起きてしまうのだ。そんな彼女を置いて修学旅行に行く気にはなれなかった。こうなったら修学旅行数日前に学校の窓ガラス全部割って停学処分を貰うしかないか。いや、退学になるか。

「独りで寝れるのか?」

 眠れないのを知っていながら聞かずにはいられなかった。

「多分無理。だから寝ない」

「……はい?」

「3日ぐらい寝なくても大丈夫だよ? あ、3日間でどれだけゲームを全クリできるか挑戦してみようかな」

 見栄を張っているわけではないようだ。だからこそ、気になる。俺とサイが出会ってから彼女が徹夜した覚えはない。つまり、魔界にいた頃に徹夜を経験していたことになる。だが、幼い子が徹夜などできるのだろうか。まぁ、魔物だから人間の常識が通用しないだけかもしれないが。

「家にあるゲームほぼクリアしただろ」

「あれ、そうだっけ? まだ数本あったはずだけど」

「あるのはクリア概念がない戦争ゲームとかだぞ。スコアを競う奴」

「あー……そうだったね。じゃあ、新しいの買わないと」

「……そろそろ腕治していいか?」

 痛みで視界がチカチカしているのでお願いします。魔本の上に座らないでください。呪文が唱えられないんです。

「えー、どうしよっかなー?」

 ニヤリと笑って破ったプリントをチラつかせる。それだけ言いたいことはわかるがこちらも頷くわけにはいかない。痛みを我慢してジッとサイを見続ける。サイも俺を見ていたので自然と見つめ合うことになった。

「……」

「……」

「……」

「……」

「……何か、言ってよ」

 少しだけ顔を赤くしてそっぽを向くサイ。勝った。だからもう許して。泣いちゃう。

「とにかく! ハチマンは修学旅行に行くこと! じゃないと……」

「……じゃないと?」

 

 

 

「――学校で授業中、ハチマンの膝に座ってずっと甘えてやるんだから」

 

 

 

 結局、修学旅行に行くことになった。ロリコンにはなりたくない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 文化祭から早くも2か月が過ぎた。だが、俺は相変わらずぼっちだ。それが問題だった。文化祭で悪の権化として君臨したはずの比企谷八幡の噂はすでになくなっている。いや、噂そのものはなくなっていないがその内容があまりにも意外なものに変わっていた。

『比企谷八幡は本当に悪なのか?』

 そんな声が時々聞こえる。『働かない文化祭実行委員たちを叱り、雪ノ下の次に仕事をしていたはずの男があんな計画を企てるだろうか』と一部の人が疑問に思い、それが広まって『比企谷八幡は悪派』と『比企谷八幡は善派』に分かれたらしい。ぼっちだった俺がこんなに注目される日が来るなんて思いもしなかった。面倒だから真実を聞きに来た奴は無視したけど。

「はぁー」

 そして、この事態に陥った原因がもう1つ。

「……何でいるんすか?」

「えー? だって、ここ落ち着くから」

 サイが淹れた紅茶を美味しそうに飲んでいるのは城廻めぐり先輩だった。ものすごく馴染んでいる。あ、サイが作ったクッキーを食べて笑った。さすがサイ。お菓子の腕前も相当なものである。

「……城廻先輩。依頼がないのであればここに来る必要性はないと思うのですが」

 さすがの雪ノ下も戸惑った表情を浮かべていた。彼女の依頼はこの前終わったばかりだ。もうここに用事はないはず。

「んー、そうなんだけど何となく来たくなっちゃって。あ、そうそう。比企谷君、この前はありがとう。体育祭運営委員会の“委員長”引き受けてくれて」

「……あれ、ほとんど強制だったじゃないですか」

 めぐり先輩の依頼は『体育祭を盛り上げたいので何かアイディアください!』というものだった。『千葉県横断お悩み相談メール』というかなり胡散臭い相談窓口に送られて来たのだが、返信が待ちきれなかったのか直接、部室にめぐり先輩が来たのだ。

 そこで体育祭の話をしていたのだが、まだ体育祭運営委員会の委員長が決まっていないと言われ、俺たちも何人かに声をかけた。しかし、その結果は空振り。そろそろ決めないと本当にマズイとなり、仮として誰かの名前を借りることになった。そこでめぐり先輩にお願いされたのが――俺だった。最初は断ろうとした。したのだが、めぐり先輩がサイたちに何か小声で言った途端、サイと由比ヶ浜がめぐり先輩の案に賛成し、雪ノ下は賛成もしなければ反対もしないと言い出した。何がどうなってそうなった?

「でも、ヒッキー途中から乗り気だったじゃん」

「……まぁ、やるからにはやらないとな」

「最後の棒倒しとかハチマン無双だったもんねー」

 目玉競技として男子は海老名さんが考えた棒倒し。女子は材木……何とか座が考えた千葉市民対抗騎馬戦、略してチバセンが行われた。チバセンの前の段階で白組150点。赤組100点で赤組が負けていた。奉仕部は仲良く全員赤組だったのだが、負けず嫌いで有名な雪ノ下が本気を出して空気投げで三浦を打ち取った。その勢いでそのままチバセンは赤組が勝ち、30点加算され点数差は20点。棒倒しで赤組が勝てば逆転優勝できる、という何ともお約束な展開になったのだ。

 問題の棒倒しだが、見に来ていたサイに『優勝してね!』と応援されたおかげか俺のキラ付けも完了し、いつでもカットイン攻撃できる状態だった。更に赤組の大将が戸塚だったこともあって柄にもなくはしゃいでしまったのだ。迫り来る敵を躱し、いなし、飛び越え、ただひたすら前に進む。白組の大将だった葉山すらも追い付けないほどの速度で白組の棒に辿り着き、サイ直伝のタックルで棒を倒して速攻で終わらせた。棒が倒れた後も静まり返った会場の空気を今も忘れることは出来ない。

「あの時は吃驚したよー。比企谷君、すごい動きしてたから」

 思い出したのか嬉しそうに言うめぐり先輩。あの体育祭で『委員長を務め、棒倒しで無双した人が文化祭でサボろうと色々企てたのか?』と思った人がいたようで前から少しだけ流れていた『比企谷八幡は働き者』説の信憑性が高まったのだ。そのせいで噂と噂がぶつかり合い、訳の分からない状況になった。俺もわかんない。誰が収拾するの? 俺はやらないよ?

「……話を戻してもいいでしょうか?」

 いつの間にか体育祭の思い出話になっていたが、雪ノ下が冷たい目で修正を図る。おお、怖い怖い。

「あ、ごめんね。これ飲んだら帰るから」

「えー、まだいてもいいんだよ?」

 帰ると言っためぐり先輩を引き止めようとするサイ。体育祭が終わった頃から何故かサイはめぐり先輩に懐いていた。べ、別に寂しくないし。今も俺の膝の上で紅茶飲んでるし。腕折られるし。あ、最後のご褒美じゃないわ、体罰だわ。

「そろそろ生徒会も解散するからね。その準備もあるから最近、忙しくて。あ、そうそう。比企谷君、生徒会長やってみない? 推薦しておくよー?」

 まるで冗談のように言った彼女だったが目は真剣だった。なるほど、今日の目的はこれか。文化祭以来、妙に気に入られたと言うか付きまとわれていると言うか。『あれ? もしかして俺に気でもあるの?』的な自惚れ思考になりそうだ。まぁ、ならないけど。

「さすがに……と言うより、俺が選挙に出ても『誰こいつ?』とか言われちゃいますって」

 そもそもこんな目の腐った奴が生徒会長になったら学校崩壊が起きそうだわ。それに生徒会に入ったら忙しくなって夜の訓練出来なくなりそうだ。

「気が変わったらいつでも言ってね。それじゃまた」

 紅茶が入っていたカップを長机に置いてめぐり先輩は笑いながら帰って行った。おかしいな。俺の予想だとそれなりに嫌われているはずなのに。学校でも変な扱いを受けるわ。めぐり先輩には目を付けられるわ。最近の俺はどうしたのかしら。明日、大海たちと遊ぶ約束もしているし。本当にぼっちが聞いて呆れる。クッキーを口に運んでそっとため息を吐いた。

「ハチマン、美味しい?」

「ああ、美味い」

「そっか。それならよかった!」

 まぁ、サイの笑顔が見られるなら俺がどう思われていようとどうでもいいがな。

 




文化祭以降に起きたことをナレーション風にしてみました。
だいぶ原作とは話が変わっています。
因みにめぐり先輩がサイたちに言ったのは『ここで比企谷君が活躍すれば噂、なくなるかもね?』という感じです。原作の相模と同じ感じで委員長に仕立て上げられました。
今後、ナレーション風にする場合はこのような感じになると思います。



そして、しれっと重要な伏線を入れておきましたが気付いた人、いるのかな?

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