やはり俺の魔物の王を決める戦いは間違っている。   作:ホッシー@VTuber

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ものすごく難産でした。それを踏まえて読んでください……。


LEVEL.41 彼女たちは彼を守ると再び、心に誓った

「あーあ、メグちゃんのライブ見たかったなー」

 文化祭もつつがなく……とは言えなかったが、無事に終わり俺の隣で少しだけ不貞腐れているサイがボソッと呟いた。その声をかき消すように文化祭実行委員たちがわいわいと盛り上がっている。途中、相模が逃亡した事実はすでになかったことになっているようだ。じゃなかったら、委員たちの中心で笑っていられないだろう。さすがシュジンコウ様だ。

 大海のライブが終わった後、体育館に戻った俺たちが見たのはエンディングセレモニーで挨拶している相模の姿だった。その姿は自信に溢れていた。まぁ、そのためにあんなことをしたのだ。成功してくれなきゃ報われない。

「上手く行って良かったね」

 俺の手を握っていたサイがこちらを見上げながら笑みを浮かべる。しかし、その目は泣いたせいで少しだけ赤かった。

「……ああ、そうだな」

 何とか返事をしたが、罪悪感がやばい。サイのために動いたのにサイを泣かせてしまったのだ。だが、あの状況で相模を動かすにはああするしかなかった。

 笑っている相模を見ながら俺は人知れず、唇を噛んだ。でも、これはきっと後悔ではない。サイを泣かせてしまった自分が情けないだけだ。そんな俺の心の中を見抜いたのか、それとも他に原因があったのかはわからないが、サイはギュッと俺の手を強く握りしめた。そんな俺たちの横を委員たちが話しながら通り過ぎていく。解散するのだろう。打ち上げの話も出ているようだ。まぁ、俺は呼ばれないだろう。委員たちの中で俺はサイを利用し、相模を陥れた極悪人だ。そんな奴を呼ぶ人なんているわけがない。俺もその方が楽だけど。

 ほとんどの人が通り過ぎていく中、ただ1人俺の前で立ち止まった人がいた。めぐり先輩である。

「……お疲れ様」

 挨拶をしてくれためぐり先輩だったが、その表情は険しい。まるで、裏切り者を見るかのような顔だった。

「おつかれさまっす」

「……君は真面目でいい子だと思ってたけど、違ったみたいだね」

 その言葉を聞いた瞬間、チクリと胸が痛む。きっと相模たちから俺の計画について聞いたのだろう。だから働きたくなかったのだ。頑張ってちゃんとやると期待され、そのうちボロが出て失望させてしまうから。特に俺は相模たちを説教して真面目に働かせた本人である。そんな奴がサボるために動いていたとなったら失望するのも無理はない。

 言いたいことを言ったからかめぐり先輩が俺の隣を通り過ぎようとした。

 

 

 

「勝手すぎるでしょ」

 

 

 

 だが、それを止めたのはサイだった。

「え?」

「勝手に期待して、周りの人に流されて、勝手に失望して……誰が貴女に期待してくれと頼んだの? 誰がハチマンは真面目だって言ったの? 人の話だけで判断するとか貴女は一体、何様なの?」

「え、えっと……」

「それに……生徒会長が気付かないなんて本当に終わってるでしょ。もっと周りを見なよ。自分の目で」

 それだけ言ってサイは俺の手をグイッと引っ張った。

「自分の目で……ッ!」

 サイに引っ張られたまま、ちらっと振り返るとめぐり先輩は目を見開いて俺たちの方を見る。その後、絶望した表情を浮かべた。どうやら、わかってしまったらしい。わからなきゃめぐり先輩も楽だったろうに。それほど彼女にとってこの事実は受け入れたくないことだったのだ。文化祭の成功は俺の犠牲の上で成り立っているのだから。

 少しだけ申し訳なく思いながらも俺たちは体育館を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 サイと一緒に来たのは奉仕部の部室だった。本当はホームルームがあるのだが、俺が行っても空気を悪くするだけである。サイもそれがわかっているのだろう。まだスペアキーを持っていてよかった。そう言えば、相模は部室の鍵をちゃんと返したのだろうか。まぁ、関係ないか。怒られても八幡しーらね!

「はい、どうぞ」

「サンキュ」

 サイから紅茶を受け取ってずずっと飲む。美味い。サイも俺の膝の上でホッと一息ついていた。記録雑務がまとめなければならない報告書があるが後でいいだろう。他の記録雑務から預かったメモをまとめるだけだし。

「あ、こんなところにいた」

 サイとまったりしていると突然、部室の扉が開き、大海がひょこっと顔を覗かせた。その下にティオもいる。あれ、まだいたの? てっきりもう帰ったかと思ったわ。

「メグちゃん、ティオ、やっはろー!」

「や、やっはろー……で、何でこんなところにいるのよ。結構迷っちゃったじゃない」

 中に入って来たティオが俺たちに文句を言って来た。まず、どうやってこの場所がわかったのか私、気になります!

「平塚先生って人に八幡君たちがどこにいるのか聞いてみたの。帰っていなかったら教室かここだって。教室に行ったら多分、騒ぎになっちゃうからここに来てみようって話になってここまで来たってわけ」

「そ、そうっすか……」

「二人とも立ってないでほら座って座って!」

 俺の膝から飛び降りて椅子を2つ持って来たサイ。いつも依頼者が座る場所に大海とティオが腰を下ろす。すかさず、サイが紅茶を淹れて2人に渡した。

「ここが八幡君の部活かー。奉仕部だったっけ? どんな部活なの?」

 紅茶を一口飲んだ後、部室を見渡ながら大海が質問する。

「あー、簡単言うとお腹を空かせてる人に魚をあげるんじゃなくて魚の捕り方を教えるみたいな感じだ」

「何よそれ。魚あげた方が早いじゃない」

「でも、そうするとその人は一生、魚をあげた人に依存することになっちゃうでしょ? だから、捕り方を教えて自立させるの」

 納得していないティオにサイがそう説明する。それを聞いたティオはまだ納得し切れていないのか微妙な表情を浮かべながらも頷いた。

「大海、今日は助かった」

 そんな彼女たちを放って俺は大海にお礼を言う。大海が来てくれなかったら文化祭は成功しなかっただろう。

「ううん、気にしないで。私も途中から夢中になってたから。でも、よかった。無事に文化祭成功して」

「……無事じゃないよ」

「え?」

 サイが呟いた内容が意外だったのか大海とティオは目を見開いて俺を見る。詳しく話せと目で訴えていた。

「……いや、別に何もなかっ――」

「――ハチマン!」

 誤魔化そうとした俺を止めるサイ。キッと睨む目には少しだけ涙が溜まっていた。話さなくてもいいじゃないか。文化祭は成功した。大海もライブを楽しんだ。これでいいじゃないか。なのに、どうしてそんな顔をする?

「お願いだから……もう少し頼るってこと、覚えてよ。見てるだけってすごく、辛いんだよ?」

「……」

「私たちはパートナーなんだよ。メグちゃんやティオも仲間なの……辛かったら辛いって言っていいんだよ。そのために仲間がいるんだから」

 そう言ってサイは俺の手をまた握った。その手は震えている。

「……わかんねーよ」

 でも、俺はサイの言葉を理解出来なかった。ずっと独りでやって来た。今回だって独りで何とかなった。もう問題は解決しているのに今更、仲間を頼ってどうしろと言うのだ。

「話して、八幡君」

 いつの間にか俺たちの傍まで来ていた大海が俺たちの手に自分の手を重ねた。

「話しなさいよ。仲間じゃない、私たち」

 そこへ更にティオも重ねた。3人の手は温かった。

「……気分のいい話じゃないぞ」

 こんな言葉じゃ折れないことを知りながらも一応、確認する。頷いた大海とティオを見て俺は今まであったことを話した。

「何よ……それ。八幡は何も悪くないじゃない!」

 話を聞き終えてまず、ティオが吠えた。眉間に皺を寄せて地団駄を踏んでいる。やめなさい。うるさいですよ。

「あの時はああするしかなかったんだよ。相模をあそこまで追い詰めたのは俺だし」

「それでも、もっとやりようがあったでしょ! 無理矢理連れて行くとか!」

「ティオ、落ち着いて」

 暴れているティオを大海が宥める。しかし、大海の表情も暗かった。

「八幡君、ごめんね。君が辛い思いをしてたのに私、文化祭成功してよかったなんて言っちゃって」

「別に気にしてねーよ」

「ううん、そんなことない。君はすごく辛い思いをしてる。目を見ればわかる」

 ジッと俺の目を見つめながら大海が断言する。いつもならすぐに視線を逸らしているのに今は逸らせなかった。

「文化祭を成功させるために八幡君は傷ついた。それはもうどうすることも出来ないし、今更本当のことを言っても意味がないこともわかってる。だから――」

 大海はニッコリと笑って鞄の中から魔本を取り出す。そのまま、本を胸に抱いた。

 

 

 

「――もうこれ以上、八幡君が傷つかないように私たちが守るってここに誓うわ。大切な物を守るためなら自分が傷ついても構わないと思っているなら、傷つく前に私たちが守ればいい。そうよね、ティオ」

「ええ、そうよ。サイも八幡を守るためなら自分の身を犠牲にしちゃうぐらいだし! まとめて私たちが守ってあげるわ!」

 

 

 

 その言葉を聞くのは2度目だ。1度目は大海が初めて俺の家に来た日。だが、その時と今の大海の目は何もかも違った。覚悟を決めた目。何を言っても無駄だとすぐにわかった。彼女たちは俺たちを守るためならどんな時だって駆けつけてくれる。そう考えた瞬間、何故か俺の心に刺さっていた棘が抜けた。

「……頼んでないぞ」

「頼まなくたって勝手に守るわ。ずっと待ってても意味ないってわかったから。貸し借りとか関係ない。仲間が困ってたら助けるのは当たり前だもの」

 お、おう。これはどうすればいいんだ。ぼっちの俺にはわからないよ。助けて、サイえもん。

「ふふ、ハチマンったら。こういう時は素直にお礼を言えばいいんだよ」

 あ、駄目だ。完全にサイも向こう側だ。

「いや、そうは言っても……」

「何が不満なの? 私たちが守ってあげるって言ってるのに」

 俺の態度が気に喰わなかったのかティオの目が鋭くなった。子供なのに迫力があるな。怖い怖い。まぁ、ここまで言われたのだ。頷いてしまうのも仕方ないだろう。ああ、そうだ。仕方ないのだ。俺は悪くない。

「じゃあ……よろしく、頼む」

 

 

 

「うん、任せて!」「ええ、任せなさい!」

 

 

 

 もしかしたら、俺は今日初めて仲間というもの得たのかもしれない。まだ仲間とは何なのかわからないが、意外と悪い気はしなかった。

「ヒッキー、いるー?」

 その時、ノックもなしに扉が開き、由比ヶ浜が現れた。その後ろには雪ノ下の姿。

「あー、やっぱりここにいた! 何でホームルー……へ?」

 俺を見つけた彼女は少しだけ怒った様子で何か言いかけたが、大海を見て目を丸くして硬直してしまう。

「……そう言えば、忘れていたわ。比企谷君、説明してくれるかしら?」

 そして、その後ろから絶対零度の視線。あ、これ、やばい奴だ。

 




次回、修羅場

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