やはり俺の魔物の王を決める戦いは間違っている。   作:ホッシー@VTuber

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清磨の口調はこんな感じだろうか……と首を傾げながら書きました。


LEVEL.34 高嶺清磨は初めて比企谷八幡を知る

 レジャーシートに戻って大海のお弁当を少しだけ貰い(その時にはサイもいつも通りに戻っていた)、再びアトラクションへと向かった。

「皆こっち見てー」

 いくつかのアトラクションに乗った後、移動している途中で不意にカメラ係だったティオが声をかけた。振り返るといきなりシャッターを切られる。ちょっと吃驚した。不意打ちはずるい。

「あ、ハチマンすごい吃驚してる。これは永久保存だね」

 いや、サイさん。俺の吃驚している顔にそんな価値はないと思いますよ。消していいです。出来れば早急に。

「それじゃ次のカメラ係の人ー」

「ウヌ、私なのだ!」

 ティオからガッシュにデジカメが渡った。なんかすごい不安。壊さないよね? 大丈夫だよね? 結構高かったんだよ、それ。

「おおー、すごいのだ……ちゃんと写真が撮れているのだ!」

「ガッシュ、デジカメにも容量があるから意味ない写真は消してね」

「ヌ? ヨウリョウ? 写真を消す?」

 壊す以前に操作方法がわかっていなかった。すぐにサイがフォローに入る。

「恵、あれ何?」

 ティオが何か発見したのか大海に質問していた。その視線の先にはクレープ屋がある。

「ん? ああ、あれはクレープよ。甘くて美味しいスイーツね」

「スイーツ!?」

 クレープを食べたそうにジッと見ているティオ。彼女たちの会話が聞こえたのかサイとガッシュもクレープ屋をジッとみていた。

「……サイ、ほれ」

 財布から500円玉を取り出し、サイに手渡す。それだけで俺の言いたいことがわかったのか満面の笑みを浮かべて大海の方へ飛んで行った。どうやらティオたちもクレープを食べるらしい。

「き、清磨……私も食べたいのだ……」

「……はぁ。しょうがないな。恵さんにお金渡して買って貰え」

「ウヌ! ありがとうなのだ!」

 涎を垂らしているガッシュにお金を渡す高嶺。ガッシュはお礼を言いながらカメラを高嶺に預けて大海たちの方へ走って行った。

「はぁ」

 待っている間、立っているのも疲れるので近くのベンチに腰掛ける。

「なぁ、ハチマンさん」

 俺の隣に座った高嶺が唐突に話しかけて来た。おおう、なんだ急に。吃驚しちゃったじゃないか。

「なんだ?」

「ハチマンさんたちは今日の戦いを抜かして今まで何人の魔物と戦った?」

「あー……5人ぐらいか? そっちは?」

 結構前のことなので曖昧だが、確かそれぐらいだったと思う。正直、これが多い方なのか少ない方なのかまではわからない。それよりも高嶺の質問の意図が読めない。俺たちの戦力を確かめたいのか、それとも比較したいのか。

「オレたちは10人ほど倒した」

「10人って……ダブルスコアじゃん」

 俺たちは少ない方だったか。いや、高嶺たちが多いのか。1人の魔物が10人も倒していたらすぐにこの戦いは終わってしまう。多分、彼らが極端に多いのだろう。

「その中の1人にコルルって奴がいた。すごく優しい魔物でガッシュとも仲がよかった」

「あ? でも、倒したって……」

「コルルは戦いが好きじゃなかったんだ。だからこそ、戦わされた」

 高嶺は俺の方を見ずに前を見ていた。その視線を追うとクレープ屋の列に大海たちが仲良く並んでいる姿があった。あの様子だと買うのにもう少し時間がかかるだろう。

「コルルは術を唱えると別の人格と入れ替わった。凶暴な性格で魔物だけじゃなく周囲の人や物を無作為に傷つけた。それを止めるためにオレとガッシュは戦って……」

 その後はすぐに予想できた。すでに高嶺が答えを言っていたから。

「その時、コルルが言ったんだ。『魔界に優しい王様がいたらこんな辛い戦いもしなくてよかったのかな?』って」

「それで『優しい王様』か」

 ガッシュが優しい王様を目指すきっかけだったのだろう。そして、高嶺もそれに応えようとしている。心の底からガッシュを王様にしようと決意している。そんなの目を見ればすぐにわかった。

「ああ。なぁ、ハチマンさん。あんたたちは……本当はどんな王様を目指してるんだ?」

 そう言って高嶺は顔をこちらに向けて俺の目をジッと見る。その目はとても真っ直ぐだった。

「……質問の意味がわからん」

「恵さんのコンサートの日、オレたちが優しい王様を目指してるって話したよな? そして、皆で優しい王様を目指せばこの辛い戦いもなくなる。その時はそれでよかった。ただ……今日の戦いを見て思ったんだよ。『何故、サイは戦いながら笑ってたんだ?』って」

「……」

 高嶺の言葉に俺は何も答えなかった。事実だったから。サイは戦闘の時、いつも楽しそうに笑っていた。夜の訓練はもちろん、魔物との戦いでもピンチの時以外は本当に楽しそうに顔を“歪ませる”。

「おかしいと思わないか? この戦いを止めるために王様を目指してるのにどうしてこの戦いを楽しんでる? 普通、必死になって戦うだろ。それなのに今日、あの魔物たちを追いこんでる時のサイは……言葉は悪いけど異常だった」

「……俺たちが初めて会った日にお前たちは見ただろ。あいつの目」

 群青色の瞳。それはとても澄んでいて綺麗だ。でも、俺は好きじゃない。理由ははっきり言えないが、あの目だけはどうしても気に喰わない。普段は可愛いんだけどね。笑っている時の目は好きだ。ただ、サイが追い込まれた時の群青色の目は嫌いだった。あまりにも澄みすぎていて。

「あいつは元々、異常なんだよ。夜とか俺と一緒に寝てる時、トイレとかで少し離れただけで泣いたり、俺以外の奴とは寝ようともしない。あいつは……もう壊れてるんだよ」

「壊れてる? あの子が?」

 俺の言葉が信じられなかったのか彼はもう一度、クレープ屋に並んでいるサイを見た。丁度、メニューを見てどれにしようか悩んでいるところだ。あの姿を見ただけではわからないだろう。

「俺はあいつのことを何も知らない。過去に何があったのか。どんな王様を目指してるのか。そもそも、王様を目指してるのかさえわからない。あいつは頑なに話そうとしないからな」

「ハチマンさんでも知らないのか? あんなに息が合ってるのに」

「息が合ってるからって何でも話すわけじゃないだろ。それに俺たちの息が合ってるのは考え方が似てるのとお互いに表情を読み合ってるからだ。俺たちは人の表情を読み取るのがそれなりに上手いからな」

「じゃあ、ハチマンさんは何のために戦ってるんだ?」

「俺のため」

 高嶺の問いかけに俺は即答する。前にもこんな質問されたな。あ、陽乃さんか。

「俺のため……サイのためじゃないのか?」

 俺の言葉が信じられなかったのか。彼は目を見開きながら聞いて来る。

「んなわけないだろ。誰かのためって言うのはその人に理由を押し付けてるだけだ。そんなの偽善にしかすぎない。人のためって言いながら人助けするのは『見逃した自分が許せない』とか『人を助けて優越感に浸りたい』とかそんな感情から生まれるもんだ。結局は自分のためなんだよ。俺とか常に自分のために動いてるし。他の人とか気にしてられないわ」

 俺が気にしても他の人が俺を気にしないから。俺はどこまで行ってもぼっちなのだ。誰かのために働くとか無理。

「俺は自分のために戦ってる。俺がサイと離れたくないからな。ぶっちゃけ、魔物の王とかどうでもいい」

「ど、どうでもいいって……」

 さすがに呆れてしまったのか、高嶺はため息交じりに俺の言葉を繰り返した。まぁ、待てよ。俺の言葉はまだ続くんだぜ。

「まぁ、サイが王様になりたいって言うなら協力する。俺があいつの願いを叶えてあげたいからな」

 サイは何も話してくれない。その理由はまだわからないし無理に聞くつもりもない。ただ、サイがどんなことを話しても俺はそれを受け入れる自信がある。過去のサイはどこまで行っても過去のサイなのだ。俺が知っているサイではない。俺が好きなのは今のサイなのだ。だから、黒歴史とか知らない。俺は何も覚えていない。過去の俺とか知らない。そう、あれはただの過去の残骸だ。八幡、もう忘れた。

「……自分のため、か。そうだな。コルルのためじゃない。オレたちがコルルのような優しい魔物にこれ以上辛い思いをさせたくないからオレたちは優しい王様を目指すんだ」

 プルプルと震えていると高嶺が急に立ち上がった。お、おう。なんだ急に。どうした。

「ハチマンさん、色々助かった。これからもよろしく頼む」

「お、おう?」

 なんかよくわからない内に高嶺の中で俺の株が上がったみたいだ。別に何もしてないんですけど。

「ハチマーン!」

 首を傾げているとクレープを持ったサイが駆け寄って来た。あらあら、はしゃいじゃって。転んでクレープを台無しにしてももう買ってあげませんよ。

「はい、あーん」

 そう言いながら俺に向かってクレープを差し出して来た。本当に楽しそうだ。

「……あーん」

 断る理由も気力もないのでクレープを一口。イチゴの味が口に広がる。なかなか美味いな。感心していると不意に横からシャッター音。高嶺が俺とサイを撮ったようだ。

「おい……」

「はは、いい感じに撮れたぞ」

 なんで俺のにらみつける攻撃を受けても笑っていられるんですか。睨んでいるわけでもないのに女子に悲鳴を上げられた俺の眼力がががが。

「清磨ー!」

「ごふっ」

 だが、俺の代わりに口の周りにクリームをべっとりと付けたガッシュが高嶺にタックルをかましてくれた。高嶺、哀れなり。

「こら、ガッシュ! 清磨が死んじゃうじゃない!」

 遅れてティオがクレープを持ったまま、ガッシュを叱る。その後ろには苦笑を浮かべている大海の姿があった。クレープは持っていないので買わなかったらしい。

「はい、ハチマン! あーん」

「……あーん」

 サイさん、俺はもういいんでそろそろ自分もクレープ食べたらどうですかね。見たところ、一口も食べてないじゃないですか。

「ハチマン、美味しい?」

「ああ、美味い」

「よかった!」

 まぁ、喜んでいるみたいだし別にいいか。

 




次回で遊園地編は終わると言ったな?
あれは嘘だ。


ということで、次回で本当に遊園地編が終わります。ここで区切った理由は最後から2番目に乗る(最後はメリーゴーランド)観覧車で八幡ともう1人……つまり、2人きりの状態にしたいなと思ったのですが、サイか恵のどっちかで悩んだ末、とりあえず、区切りました。
他にもダークホースとして清磨と二人きりにしてものすごく気まずい感じにするのも面白そうだなと1人で笑ったりw
最悪、観覧車はなくす場合もあります。
うーん、サイか恵か清磨か……悩む。

文字数的には観覧車がなくても家に帰る途中でサイとの会話を入れる予定なので足りると思います。

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