やはり俺の魔物の王を決める戦いは間違っている。   作:ホッシー@VTuber

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LEVEL.33 群青少女はその時、彼が朴念仁だと悟る

 遊園地には様々なアトラクションがある。有名な物を挙げるならば『観覧車』や『メリーゴーランド』、そして『ジェットコースター』。しかし、絶叫系のアトラクションの中に身長制限を設けているものもある。

「いやよ! サイと一緒にジェットコースターに乗るんだからああああああ!」

 その身長制限にサイ、ガッシュ、ティオが見事に引っ掛かった。その事実を知ったティオが駄々を捏ねて暴れている。

 因みにティオの背中にはガッシュの黒いマントがくっ付いている。後で聞いた話だが、神経毒で身動きの取れなかったガッシュを敵の目の前まで運ぶ為にティオの背中にあの紫色の接着剤を付けて合体したらしい。ティオに危険が迫った時にガッシュが咄嗟にマントを脱いで守ったのだが、マントは取らないまま放置されている。時刻もお昼を過ぎているしマントを剥がすのに時間が取られるのは明白なので遊ぶ事を優先したのだ。マント取ってもよかったのに。その間に俺は自転車に乗って逃げるわ。あ、でもそうするとサイが悲しむから出来ない。詰んだ。

「恵、たんこぶよ! これで私の頭を殴って!」

「よしなさい」

 どこからか金槌を取り出したティオを大海が止める。そのままティオを引き摺って別のアトラクションへ向かった。高嶺とガッシュもその後を追う。

「ねぇねぇ!」

 その途中で全員に聞こえるようにサイが叫んだ。その手にはデジカメ。

「私、最近カメラ買ったの! で、写真いっぱい撮りたいから皆で順番にカメラ持って皆の写真撮ろっ!」

「よし任せろ。カメラを渡せ」

「ハチマンにカメラを渡すつもりはありません。どうせ『俺が写真撮るからアトラクション乗って来いよ。下から撮ってやる』とか思ってるんでしょ」

「くっ……」

 こいつ、やりおる。まさか俺の思惑を見破るなんて。

「はは、八幡さんの考えはサイにお見通しなんだな」

 俺の表情で図星だとわかったのか高嶺は笑いながらからかって来る。なんか気恥ずかしくなったのでそっぽを向いた。

「おお、カメラか! どうやって撮るのだ?」

 サイのデジカメに興味が湧いたのか目をキラキラさせてガッシュが使い方を聞く。サイも丁寧に教えた。

「ちょ、ちょっと! 私にも教えてよ!」

 そこにティオが突入し、魔物組がわいわいとカメラで遊び始める。遊園地、関係なくね?

「じゃあ、まずは全員の集合写真を撮りましょ? それじゃ誰かに頼んで――」

「恵さんは駄目だって! ばれたらどうするんだ!」

 そう言えば普通に話していたが大海は人気アイドルだった。普通に忘れていたわ。こんなところで大海恵が男2人、子供3人と遊びに来ているなんてばれたらスキャンダルものだ。高嶺もそれを危惧したのかデジカメをサイから受け取って近くにいた人に声をかける。すげー、他人に話しかけるのに躊躇してない。俺なら噛む自信がある。

 交渉が成立したのかネゴシエーター高嶺が戻って来たので急いで皆、集まり始める。

「ほら、ハチマン! こっち!」

「お、おい!」

 サイが俺の手を取って何故か高嶺と大海の間に押し込んだ。何でセンターなの? 端っこがいいんだけど。あれか、逃がさないためか。

「よっと」

 そして、いつものように俺の肩に跳び乗る。俺も反射的に肩車体勢に入った。それを見ていた高嶺たちが小さく歓声を上げる。曲芸じゃありませんよ。

「そ、それじゃ撮りますよー!」

 デジカメを持った女の人は驚いた表情を浮かべながらシャッターを切る。すぐに高嶺がデジカメを受け取りに行った。やだ、あの子すごく気が利く。お礼を言って帰って来た。

「じゃあ、カメラ係を決めて早くアトラクションに乗りましょ!」

「ウヌ、楽しみなのだ!」

 ティオの提案にガッシュが笑顔で頷く。とりあえず、カメラ係は持ち主であるサイに決まり、サイたちでも乗れるアトラクションを探す。

「うん、これなら乗れるわ」

 そこで見つけたのが飛行機型の乗り物が高いところまで上ってグルグル回るアトラクションだった。確かに全員乗れるけどこの歳になってこれに乗るのは少し恥ずかしいぞ。

「えー、こんなの幼稚じゃない!」

 ティオが文句を言うがとりあえず乗ることになった。そこで問題となるのが誰と誰が一緒に乗るか、である。このアトラクションは2人乗りみたいで子供だけでは危ないから大人組の俺、高嶺、大海と子ども組のサイ、ガッシュ、ティオに別れてジャンケンをし、勝った順番通りに乗ることにした。簡単に言っちゃえば1番に勝った人同士、2番に勝った人同士、残った人同士で乗るのだ。その結果――。

「おー! 高いのぅ!」

 ――ガッシュと乗ることになった。後ろの飛行機ではティオが高嶺の服にしがみ付いて叫んでいる。逆に前の飛行機でサイと大海は話しながら景色を楽しんでいた。

「八幡、すごいのだ! 空を飛んでるのだ!」

「おう、そうだな」

 あまり話す機会はなかったがガッシュは満面の笑みを浮かべて話しかけて来る。

「それにしてもサイと八幡はすごいのだ」

「あ? 何がだ?」

 不意に褒められて首を傾げた。今日の戦いのことを言っているのだろうか。

「お互いを信頼している感じがするのだ! それにあんなに高くジャンプした後でも八幡はサイの考えを感じ取って行動していたのは本当にすごかったぞ!」

 すごさをアピールしたいのか両手を振るガッシュ。確かに俺とサイは目を見るだけでだいたいお互いの考えていることは読める。しかし、それはあくまでも“俺とサイの考え方が似ているからこそ予測できる”だけだ。俺がサイの立場ならこうすると考えて行動しているに過ぎない。

「そんなんでもねーよ。それこそお前と高嶺だって最後まで諦めずに戦ってたじゃねーか」

 俺とサイの信頼関係は一本しかない繋がりだ。他の人とはできない。それは俺が他の人のことをそこまで信頼していないからだ。

 だが、高嶺たちは違う。今日だって遊園地にいるかもわからない俺たちに救援を求めた。戦いの中、来るかもわからない救援を待ちながら戦うなんて精神的に辛いものがある。『今、味方はここにいるのか?』、『いたとしてこの救援信号に気付くのか?』、『気付いたとして助けに来てくれるのか?』。そんな不安要素に押し潰されてもおかしくない。

「私は信じておったぞ。八幡たちが来てくれると」

 そのプレッシャーを耐え抜いたのが高嶺とガッシュだ。心の底から俺たちを信じて助けを求めた。だからこそ、生き残ることができた。俺には到底、真似できない。いるかもわからない味方に助けを求めるなど。

「……そうか」

「お、八幡! サイがこっちに向かってカメラを向けているのだ! 一緒に写ろうではないか!」

 ガッシュの言葉を聞いて前を見るとサイが手を振ってカメラを向けていた。黙って写真に撮られようと思ったが、ちょっとした悪戯心が湧き、手元にあったハンドルを動かす。飛行機が左右に揺れ始めた。

「ぬおおおおおお! 八幡、止めるのだ! 揺れるのだあああああ!」

 カメラに気を取られていたガッシュが大声を上げながら慌てている。その瞬間をサイが写真に残した。後で見たら俺も少しだけ笑っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ええ!? まさかお弁当作って来てくれたの!?」

 レジャーシートを敷いてお昼ご飯をどうしようか話していると大海がお弁当を作って来てくれたらしい。高嶺も知らなかったようで叫んで驚いていた。

「もちろんよ! あ、もしかしてアイドルは家事なんてできないと思ってた?」

 お弁当を広げながら俺と高嶺の反応を見て問いかけて来る大海。腕を組んで『少し怒っていますよ』アピールをしている。まぁ、冗談だろうけど。

「へぇ、大変そうだな」

 確か大海はティオとの2人暮らし。学校と仕事に加え、家事までやっているとは思わなかった。でも、2人暮らししているなら家事をしていてもおかしくないか。

「え、えっと……ハチマン、お弁当どうぞ」

 適当に返事をしたらサイが俺にお弁当を差し出した。今日も作って来てくれたらしい。ありがたやありがたや。

「おう、サンキュ」

 お礼を言っていつも使っているお弁当箱を受け取る。他の人もサイのお弁当がどんな物か気になるのかジッと俺の手元に注目していた。蓋を開けると玉子焼きやミニハンバーグ、小さくまとめたサラダなどが入っており、ご飯の上には桜でんぶで作られたハートマークが――。

「……あれ」

 そこまで確認した瞬間、俺の手からお弁当箱が消えた。ついでに隣に座っていたサイも消えた。何が起こったのかわからず、高嶺たちに視線を送るが向こうもよくわかっていないらしく、首を傾げている。仕方なく、サイのお弁当は諦めるか。

「すまん、俺にも弁当分けてくれ」

「う、うん……たくさんあるから大丈夫だけど……サイちゃんはどうしたの?」

「俺も何が何だからわからん」

 肩を竦めながら早速おにぎりを食べる。あら、美味しい。大海さんは将来いいお嫁さんになりそうね。

 適当なことを考えながら食べているとティオもお弁当を作って来たそうでレジャーシートに広げた。だが、正直美味しそうには見えない。不器用な子が頑張って好きな人のために初めてのお弁当に挑戦してみました、的なお弁当だ。ティオは高嶺に食べるように言っているが、何度かガッシュに視線を向けている。ああ、そう言うことか。

「ちょっとサイ探して来るわ」

 おにぎりを飲み込んで俺は立ち上がった。

「え、どうしたのよ。急に」

「このまま帰って来なかったらあいつだけ飯抜きだろ。そんなに遠くに行ってない内に見つけておかないと面倒だ」

 ティオの質問に答えながら靴を履いてその場を後にする。ある程度、離れた後、丁度高嶺と大海が立ち上がる所だった。さて、サイはどこに行ったかな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「サイ」

「ッ!!」

 レジャーシートを敷いた場所から数分。見覚えのある白いワンピースが木の影から出ていたので声をかけるとわかりやすいほど見えていたワンピースが跳ねた。

「は、ハチマン?」

 おそるおそると言ったように木から顔を覗かせたサイ。

「何やってんだ、こんなところで」

「何もやってないでござるよ」

「ベタなネタで誤魔化そうとするんじゃない」

「うにゃっ!?」

 軽めにサイの脳天にチョップをかます。痛みよりも驚きの方が大きかったようだ。俺はそのままサイの隣に座った。

「で、どうしたんだ?」

「……何でもない」

 おや、ここまで言って話さないと言うことは本当に話したくないってことか。これ以上、聞いても無駄だろう。

「とりあえず戻ろうぜ」

 何があったのかまではわからないが早く戻らないとあいつらに心配されてしまう。慰めるようにサイの頭に手を置いてそう提案した。

「うぅ……」

 するとサイは顔を俯かせて呻き声を漏らす。本当に今日のサイはいつもと違う。どうしちゃったのかしらん。首を傾げているとサイの近くにお弁当が置いてあるのに気付いた。それに手を伸ばして蓋を開ける。

「あ、駄目!」

 その時、彼女は俺の手を掴んで止めた。どうやらこのお弁当が原因らしい。しかし、どこもおかしいところはない。目立つのは桜でんぶのハートマークだけだ。

「あー、そうか」

「ッ……な、何がでしょうか!?」

 俺が呟くとサイが声を荒げた。顔も真っ赤だ。

「いや、恥ずかしかったんだろ? これ」

 ハートマークを指さしながら問いかけると図星だったのかまた顔を下に向けて小さく頷いた。

「まぁ、高嶺たちに見られたら恥ずかしいか」

 サイはいつもお弁当を作る時、ご飯の上に桜でんぶでハートマークを作る。今回もいつもの慣れでハートマークを作り、俺が蓋を開けた時に高嶺たちにも見られることに気付いて俺の手からお弁当箱を奪い去ったのだ。まぁ、確かに恥ずかしいかもしれない。

「……ん?」

 俺の言葉を聞いてサイが顔を上げて首を傾げていた。『え、何言ってるのこの人』みたいな表情だった。

「違うのか?」

「ち、違くない! そうだよ、そう! いやぁ、恥ずかしかった! これからはハートマーク作らないようにしなくちゃね!」

 俺の推測が外れているのかと思ったが合っていたらしい。何故か必死に肯定しながらサイはお弁当箱の蓋から箸(蓋の部分に箸を収納する場所がある)を取り出してハートマークを崩そうとする。それを俺がサイの手から箸を奪うことで阻止した。

「勿体ないだろ? こんなに綺麗にできてるのに。それに俺は好きだぞ、これ」

 桜でんぶは甘いから好きなのだ。これがなくなってしまうのは結構、悲しい。桜でんぶとご飯を一緒に口に入れて咀嚼する。うん、甘くて美味い。

「す、好き!?」

「ああ、好きだぞ。桜でんぶ」

「……へー」

 正直に答えたらサイの目から光が消える。なんか話しかけ辛かったので俺は黙ってお弁当を食べ続けた。美味い。

 

 

 

 

 

 

 

 

「そうだよね……意識してた私がバカだった」

「サイ? どうした?」

「ううん、何でもないよ!」

 木の影でお弁当を食べた後、サイが何か呟いていたがその後に浮かべた笑顔はいつも通りの笑顔だった。

 




サイの乙女モード終了。次回から頭を撫でられてもちょっと恥ずかしそうにするだけです。固まらないのは期待するのを止めたからです。『あー、これは子どもとか妹とか相手してる時の手だわー』とすでに悟っています。



次回で遊園地編は終了。その次から文化祭編に戻ります。

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