やはり俺の魔物の王を決める戦いは間違っている。   作:ホッシー@VTuber

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今回、地の文が多いので読みにくいかもしれません。
魔物同士の戦いなら呪文が入るので台詞を違和感なく入れられるのですが今回はなかなか難しかったです。


LEVEL.30 かくして事件は何とか解決したが、王女の勘違いで場が乱れる

 男との距離は数メートルある。だが、奴の手には拳銃。引き金を引いてしまえば1秒たらずで俺の体を銃弾が貫くだろう。『じゃあ、銃弾を躱せばいいじゃない』とサイに言われそうだが、射出された瞬間に銃弾の軌道を読んで回避するなど加速装置がないと無理だ。

(なら……)

 小さく深呼吸して集中する。視るのは拳銃ではない。男の顔だ。俺には相手の表情を読む才能があるとサイにも褒められた。それをフル活用すれば――。

「大海、自転車の籠に入ってる鞄頼む」

 あの鞄には魔本が入っている。何かの拍子に銃弾が魔本に当たってしまったらサイが消えてしまうので大海に保護して貰おう。

 それだけ言いながら足元に落ちていた小石を左手で拾い、彼女の返事も待たずに一気に前に駆け出した。男はニヤリと笑い、少しだけ視線を俺から見て右下に向けて引き金を引く。

「ッ!!」

 その直前に俺は軽く左に跳ぶ。すると、銃弾が地面に当たり砂や小石が弾けた。俺が躱したのが意外だったのか目を丸くする男だったが、すぐに顔を引き締める。走っている俺をよく狙っているようで口で呼吸をし、止めた。急いで前にダイブする。もちろん、受け身を取るのを忘れない。

「なっ……」

 銃弾は俺の後ろの地面を抉り、彼は声を漏らして驚愕する。その隙に男との距離を縮めた。何も驚くことではない。ただ単に男がわかりやすかっただけだ。発砲するタイミングさえわかればそれに合わせて銃口から逃げればいい。

「くそ!」

 悪態を吐きながらもう一度、俺に銃口を向ける。だが、もう遅い。俺はすでに攻撃可能範囲に突入している。態勢を低くして右手を軽く伸ばし、銃を持っている手首に向かって手刀を落とす。手首を打たれたからか簡単に銃を落とす男。すかさず、銃を蹴って遠くまで飛ばした。しかし、男もすぐに冷静になったようで銃を諦めて俺に殴り掛かって来た。銃を蹴ったせいですぐには動けない。このままでは男の拳を貰うことになる。なら、時間を作ればいい。そう、この左手に持っている小石で。

「ッ――」

 軽く放られた小石に驚いた男は大きく仰け反った。急いで態勢を立て直し、男の出方をうかがう。それを見て訝しげな表情を浮かべた男だったが、すぐにジャブを繰り出す。あの一本背負いを警戒しているのか大振りではない。軌道は男の視線や腕の動きで予測できるのでその軌道上に左腕を置き、タイミングを合わせて受け流す。サイに注意されて何度も練習した。まぁ、普通に腕で受け止めて外に向かって振り払うぐらいの動きなのだが、なかなか難しい。タイミングが早かったらそもそも受け止められないし、遅すぎても衝撃をダイレクトに受けてしまう。そのせいでガードした腕が痺れて使い物にならなくなってしまうかもしれない。サイが言っていた。戦闘中、何が起こるかわからない、と。慢心駄目絶対。

 何とか受け流しが成功し、男の態勢が崩れた。その場にしゃがみ込んで足払いを仕掛ける。男は声を上げながら背中から倒れた。仕掛けた俺が言うのも何だが、簡単に倒れてしまって逆に驚いてしまう。

(えっと……)

 サイとの戦闘ではこんなこと起きなかった。そもそもサイと男の強さが天と地ほど差があって俺自身、戸惑っているのだ。彼女の一撃は受け流そうとすればそのまま腕を砕かれるし足払いなど仕掛ければその場でジャンプし、踏み潰されるだろう。

 俺の動きが止まっていることに気付いた男は首を傾げながら立ち上がる。多分、大きな隙が生まれていたのに一切、攻撃してこなかったのが不思議なのだろう。俺だって攻撃したいが、今までサイから学んで来たのは相手の攻撃をいかに上手くやり過ごすことだけだ。攻め方など知らない。もし、下手に攻めればそこを突かれてしまうだろう。

「……なるほどな」

 俺が一向に攻めないことから察したのか男は笑いながら立ち上がる。

「ただ身を守ることしかできないってか。なら、それができなくなるまで攻めるまでよ」

 何か言い返したかったが男の言葉は本当なので構えることで返答した。

 それから俺は何度も男の攻撃をあしらい続けた。受け流し、回避、足払い、不意打ち。使える物は何でも使った。どれほど時間が経っただろうか。多分、そんなに経っていない。しかし、向こうも殺し屋の端くれなのか僅かでも隙を見せればそこを攻めて来る。気が抜けない。

「ッ! 八幡君!」

 その時、唐突に大海が俺を呼んだ。それとほぼ同時に男が攻撃の手を止めて足元に落ちていた何かを拾う。俺が蹴飛ばした銃だ。戦っている間に銃があった場所まで移動していたらしい。

「お前は強かったよ。でも、これで形勢逆転だな」

 確かに銃を拾われたのは辛い。1つのミスが死に繋がるからだ。だが、先ほどの攻防で俺でも銃を回避出来ることは知っている。落ち着いて行動すれば――。

「おっと、動くなよ。あいつがどうなってもいいのか?」

 俺の顔を見てニヤリと笑いながら大海に銃口を向ける。彼女は小さく悲鳴を上げた。

「……」

 それを見て俺は男に聞こえないように息を吐く。俺が動けば大海が撃たれる。今の大海はドレスを着ていてとてもじゃないが銃弾を躱せるような状況じゃない。いや、そもそも人間が銃弾を躱せること自体、おかしいことなのだ。俺もサイの訓練がなかったらあんなことできなかった。

「これだけ近ければ避けられないだろ?」

 大海に銃を向けながら俺の前まで来た男はそう言った後、俺の額に銃を突き付ける。

(やばい……詰んだ)

 少しでも動こうとすれば男は引き金を引くだろう。俺を殺しても大海から王女の情報を聞けばいい。俺を生かしておくメリットがない。これは完全に詰み。

「私の命を狙う者よ! マリル・カルノアはここにおる! その者は関係ない! 早くその薄汚い手を離すのじゃ!!」

 冷や汗を流していると路地の方から女の声が響く。目だけでそちらを見ると少し大海に似た女性がいた。あれがマリル王女なのだろうか。その後ろに目を見開いているティオもいる。

「何っ!?」

 男は声を漏らして王女を凝視し、本物だと判断したのだろう。俺から離れて王女の方へ向かう。

「出ちゃ駄目! 離れて!」

 大海が大声でそう呼びかけるも王女は動こうとしない。

「ちょっと、あなた!」

「ティオ、下がれと言ったであろう」

 ティオが王女に手を伸ばして駆け寄ろうとするが王女はその一言で止めた。そして、男を睨む。

「私とて半端な覚悟で誇り高き王位を受け継いだわけではない。我が命愛しさに関係なき者を盾にしては末代まで馬鹿にされる」

 王女の目は鋭い。それを見ただけでどれほどの覚悟で王位を受け継いだのかがわかる。他の人が傷つくぐらいなら自分の命など惜しくないと思っているのだ。彼女の威圧にあてられたのか男は体を震わせていた。

「さぁ、撃つなら私を撃て。我が血に流れる誇りは何者にも汚されぬ。それとも……王の首を取ることに今更ながら怯えたか?」

 そう言ってニヤリと笑みを浮かべる王女。

「ぐ……おおおおおお!!」

 挑発されて男は震える手で銃を構えた。それを見てティオが大海に魔本を投げる。呪文で王女を守るつもりなのだろう。だが、あれでは間に合わない。咄嗟に地面の土を掴んで駆け出した。

(一瞬でもいいから隙をッ……)

 ある程度、距離を縮めて思い切り土を上に撒く。撒かれた土は男に降りかかった。いきなり土が上から落ちて来たので一瞬だけ体を硬直させるが、すぐに発砲。銃弾が王女の命を貫こうとする。しかし――。

「『マ・セシルド』!!」

 ――それをティオの盾が全て受け止めた。どうにか間に合ったようだ。

「『サイス』!」

 続けて攻撃呪文を唱え、ティオの両手から生じた衝撃波が男を捉えた。『サイス』はそこまで攻撃力は高くないが人間を気絶させるほどの威力はある。男も例外ではなかったようで背中から地面に落ちて気を失った。

「……はぁ」

 ため息を吐きながらその場に尻餅を付く。見れば大海とティオもその場にへたり込んでいた。どうにかなったようだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 大海と王女の衣装チェンジも終わり、そろそろ解散しようとなって最後の挨拶をしている。まぁ、俺は少し遠くの方でMAXコーヒーを飲んでいるのだが。よかったー、鞄に入れておいて。疲れた脳に糖分が行き渡っているのがわかる。俺、生きてる。死ぬかと思った。もうやんない、あんなこと。

「八幡君」

 ため息を吐いていると大海が声をかけて来た。どうやら、今はティオと王女が話しているらしい。

「聞かなくてもいいのか?」

「ここでも聞こえるわ」

 確かに、聞こえるけど。別にここに来なくてもよくない?

「今日はありがと。助けてくれて」

「いや……別に大したことじゃねーよ。それに最後は死にそうになったし」

「……ごめんなさい。私のせいで」

「お前のせいじゃない。攻め方を知らなかった俺のせいだ」

 もし、俺が攻め方を知っていたら男を倒せたかもしれない。それこそ大海に銃が向けられることもなかったはずだ。

「でも、貴方が動けなかったのは私がいたからで」

「いいんだって。誰かのせいとか言ってたらキリがない」

 それにいつもは俺のせいにされるからこういうのは慣れていない。すごいんだぜ? その日、風邪で休んでいたのにいつの間にか俺のせいになっていたからね。先生の出席簿を見せたら何故か俺、出席になっていたし。先生すら俺の存在がうやむやってどういうことなの。

「じゃあ、何か困ったことがあったら言ってね。初めて会った時のお礼もまだできてないし」

「別にいいって」

「駄目よ。私の気がおさまらないんだもの」

「……今度な」

 そう返事をした時、丁度MAXコーヒーがなくなったので近くのゴミ箱に捨てた。

「それよりなんで一人で戦おうなんて無茶したの? そっちの方が許せないわよ!」

 ティオの声が自然と耳に滑り込んで来る。いや、君少し前まで独りで戦おうとしていたじゃないですか。

「ふふ」

 少しだけ呆れていると大海が小さく笑った。何だろうと視線を向ける。

「私、王女様を見た時、誰かに似てるって思ったの」

 俺の視線に気付いて彼女は唐突に語り始めた。茶々を入れる場面ではないので黙って聞いておく。

「わかったの。王女様は出会った頃のティオにそっくりだって。八幡君たちと会った頃は私も一緒に戦ってたけど最初なんて私ですら協力させて貰えなかったのよ?」

「へぇ……意外だな」

 大海たちに出会った時、少なくとも大海のことは信頼していた。それは大海がちゃんとティオの心の扉を開けたから信頼関係を築けたのだろう。

「まぁ、それでも他の魔物の子は敵だって言ってたけどね。でも、八幡君たちに出会って……あの子、よく笑うようになったわ。今じゃ私が学校とか仕事の時とかはガッシュ君の家に遊びに行くほどなの。少し前まで独りで戦ってたのに今じゃお説教する側なのね」

 そう言いながらティオを見る大海は笑っていた。パートナーが人を信じられるようになって本当に嬉しいのだろう。

「もう独りでは戦わぬよ」

「そう、それなら安心ね!」

 そこで王女との別れは済んだのかティオがこちらにやって来る。

「そこの者も助かった。危険な目に遭わせてすまぬ」

「あ、いや……気にしないでください」

 ちょっと王女様、いきなり声をかけないでくださいよ。吃驚しちゃって声、裏返っちゃったじゃないですか。

「大切な人を守るために戦っている姿、格好良かったぞ。末永く幸せにな」

「……はい?」

 あれ、この人とんでもない勘違いしているんじゃ?

「わ、わわわ私と八幡君はそんな関係じゃないわ!!」

 王女の言葉を聞いてその意味を察したのか大海は顔を真っ赤にして叫ぶ。事実だけどそんなに否定されると心に来るものがあるんですけど。ティオも大海の慌て振りを見て少しだけ呆れているし。

「照れなくてもよい。お似合いじゃぞ?」

「てぃ、ティオ、八幡君! 早く行きましょ! 待ち合わせの時間、すぎてる!」

「え!? 嘘、大変! それじゃマリル、また会いましょう!」

「……待ち合わせって何? あ、それでは」

 サイが何か仕組んでいるのは知っているのだがその内容までは知らない。先を行く大海とティオを追うために王女たちに頭を下げてから自転車を押し始めた。

 

 

 

 

 

 

 

「ねぇ、恵! 携帯で八幡と偶然会って協力して貰ったって言ってたけど何かあったの?」

「せ、説明するほどのことはなかったわ……」

「じゃあ、何で顔を赤くしてるのかしら? 八幡、教えてくれるわよね?」

「……勘弁してくれ」

 待ち合わせの場所に向かう間、俺と大海はニヤニヤ笑っているティオの質問攻めに苦しんだ。

 因みに2人は電車に乗るらしいので駅前で別れて待ち合わせ場所である駅まで自転車で向かうことになった。戦った後に自転車漕ぐの辛いんですけど。

 




なお、本当なら八幡のカッコいいシーンを入れる予定でしたがそこまでしたら八幡がハチマンになってしまうので最後だけ少し情けなく終らせてみました。
それでも大海を守るために自分の身を犠牲にしようとしてるのでカッコいいっちゃカッコいいんですよね。

因みに、大海は最後の王女を見て少しだけ八幡に似てると思いましたが本人に言うことでもないので黙っています。


まだ大海に恋愛フラグは立っていないので安心してください。今、建設工事のための足場を作っている状況です。

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