やはり俺の魔物の王を決める戦いは間違っている。 作:ホッシー@VTuber
なお、今回登場する人物の言動が原作とは少し違うかもしれませんがご了承ください。
文化祭実行委員の仕事に追われ、疲れていたが休みは必ず来る。そう、土日だ。土日の訓練は俺の疲労を考慮してくれたのか中止にしてくれた。そのおかげで昨日はゆっくり休めた。日曜の今日も存分に休むぞー!
「ハチマン、遊びに行きましょう」
「……まず降りろ」
存分に惰眠を貪ろうとしたが、凄まじい衝撃が腹部を襲って目を覚ました。すると、俺に馬乗りになったサイが笑いながらそう告げたのだ。どんなことをすれば腹部にあんな衝撃を与えられるんでしょうかね。おかげでおめめがパッチリだよ。
「ハチマンは昨日、たっぷり休みました。ええ、訓練もなければ文化祭実行委員の仕事もなかったからです」
「いやいや、サイさん? まだ疲れは取れていないんですよ? さっきので増加しましたよ?」
「それはきっと精神的に疲れているのです! そう、貴方はストレスがマッハなのです!」
「使い方間違えてるぞ」
それにしてもテンション高いな。何を企んでいるのだろう。
「なので、8時半にここに集合です。では、私はこれで」
俺に折りたたまれた紙を渡してそそくさと部屋を出て行った。あの子、なかなかの策士だな。俺はサイを悲しませたくない。もし、この紙の場所に行かなければサイは悲しむ。何とか話し合いで説得し、サイに諦めて貰えばそうはならないが、すでに彼女はここにいない。詰んでいる。
「はぁ……」
まぁ、サイも俺をリラックスさせるために色々と動いているのだろう。それを踏み躙るわけにもいくまい。
そう考えながら紙を広げた。
『駅へ行けばわかるよ!』
それしか書かれていなかった。
「……はい?」
暗号か何かですか?
「へーい、お兄ちゃん! 待ってたよー!」
自転車を漕いで駅の入り口に到着すると小町が出迎えてくれた。何してるの君。
「はい、次のヒントだよー」
「お、おう……」
「それじゃ楽しんでねー!」
俺に紙を渡して小町は去って行った。本当になんなのこれ。ため息を吐きながら紙を広げてヒントを確認する。
『線路沿いにひたすら走ってね!』
こんな一言と走る方向だけが書かれていた。
「……ただのサイクリングじゃん」
明らかに情報を隠している。しょうがない、漕ぐか。ペースについては書かれていないし気長に行こう。サイがどこに俺を連れて行こうとしているのかわからないが、線路沿いに行けば合流できるはずだ。
こうして、いつまで漕げばいいのかわからない地獄のサイクリングが始まった。
「……」
かれこれ1時間半ほど経った。時刻は10時。サイとはまだ合流できていない。途中、交通規則のせいで仕方なく、線路沿いから離れることが何度もあったのでそのせいかもしれない。まぁ、駅で集合すると判断し近くの駅にいちいち寄っているので大丈夫だと思うが。
「通行止めか……」
工事のせいで通れないらしい。仕方なく右折した。線路沿いから離れるように繁華街の方へ向かう。携帯のGPSで地図を確認したところ、繁華街を突っ切った方が早いかもしれない。途中本屋にでも寄ろうかな。そんなことを考えながら漕いでいると突然、路地から誰かが飛び出して来た。
「っ!?」「きゃっ!?」
慌ててブレーキをかけて飛び出して来た人を睨む。そして、目を見開いた。豪華なドレスを着ていたからだ。
「は、八幡君?」
「はい?」
その声でドレスから視線を外し、相手の顔を見る。どこかで見たような。
「大海?」
ティオの本の持ち主で今、大人気のアイドル大海恵だった。何かの撮影だろうか。
「待てっ!」
お互いに呆然としていると大海が出て来た路地の方から男の声が聞こえた。やはり撮影だったか。
「や、やばっ……」
路地の方を見て彼女は顔を青くさせる。おお、すごい演技力。
「何かの撮影か? あ、俺もしかして邪魔?」
じゃあ、早急に離れなければならない。サイとの約束もあるし急いで駅の方へ――。
「撮影じゃないの! 色々あって追いかけられてるのよ!」
「は、はあ?」
よくわからず、自転車から降りて路地の方を覗いてみる。そこには黒いスーツを着た男が鬼の形相でこちらに向かって来ていた。その手には拳銃。え、これが撮影じゃないならあの手に持っている物は本物なの?
「邪魔だ!」
今、俺は大海と黒いスーツの男に挟まれるような場所にいる。そして、男の狙いは大海。そのせいか俺を排除しようと襲い掛かって来た。さすがに拳銃では攻撃して来ないらしい。右拳を握って引いた。
(右ストレートか)
それを視認しながらあえて一歩前に出る。大海の様子から本当に狙われているのは確かだ。知り合いが目の前で傷つくところを見逃すほど俺は落ちぶれちゃいない。
男の右ストレートが俺に迫る。後ろから大海が俺を呼んだ。タイミングを見計らって姿勢を低くして拳を躱し、振り返りながら男の体に背中を当てる。丁度、男の前に俺がピッタリとくっ付いている状況だ。流れるように伸び切っている男の腕を掴んで前に引っ張りながら腰を後ろに突き出す。そのまま、一気に持ち上げて男を地面に叩き付ける。一本背負いだ。
「う、嘘……」
「大海!」
男から離れて自転車に乗りながら叫ぶ。
「は、はい!」
「乗れ!」
「え?」
「早く!」
路地の方を見ると男が呻き声を漏らしながら悶えていた。急いでここから離れた方がいい。しかし、大海はドレスを着ている。走り辛いだろう。なら、俺が自転車に乗せて走った方がまだマシだ。
「うん……」
戸惑いながら大海が荷台に座り、俺の肩を掴んだ。サイとの特訓で培った筋肉をフルに使い、ペダルを踏む。ドレスのせいで空気抵抗が大きく、漕ぎにくいがそれだけだ。出来るだけ揺れないように気を付けながら道を進む。
「どうして八幡君、自転車に乗ってるの?」
その途中で後ろから大海が問いかけて来る。まず、俺がいることに疑問を持たないのだろうか。
「サイと遊ぶために移動してたところだけど」
「移動って……まさかここまで自転車で来たの!?」
「あ、ああ……」
「すごい遠いのに……あ、そっか」
何か思いついたのか呟いていた彼女は勝手に納得してしまう。
「サイちゃん、本当に黙ったままここまで誘導したんだ」
「おい、誘導って何だ」
そして、お前は何を知っている。
「え、えっと……今はとにかく逃げないと――」
「見つけたぞ!」
先ほどの男が前から迫って来ていた。迂回して近道でもしたのだろう。急ブレーキをかけてドリフトした。サイの訓練に自転車を乗りこなすメニューがあり、ドリフトぐらいなら簡単にできるようになった。因みにサイ曰く『自転車に乗っている時に襲われるかもしれないから念のため!』とのこと。
「きゃあああああああ!」
だが、唐突なドリフトに驚いた大海が俺の腰に腕を回し、俺の背中に抱き着いた。ちょ、大海さん、止めて! 八幡、そういうの慣れてないから!
「くっ……」
前の男、後ろのアイドルのせいで転倒しそうになり、奥歯を噛んで体重を移動させてバランスを保つ。そのまま、男から逃げるために少し狭い路地へ突入した。路地の道はガタガタしていて揺れる度に大海が悲鳴を上げ、腕に力を込める。それと同時に俺たちの密着度もどんどん上がっていくぅ。八幡の鼓動も早くなっていくぅ。ペダルを漕ぐスピードも速くなっていくぅ。
「は、八幡君! だ、大丈夫なの!?」
「知らねー!」
「ちょっと!」
ぎゃあぎゃあ騒ぎながら路地を進んでいると広い場所に出た。どうやら、空き地らしい。だが、問題があった。
「ここ行き止まりか?」
正面に道路は見えるがフェンスがあってあれを越えなくては向こう側に行けない。左右は建物の壁。いつもならフェンスを越えればいいが、ドレスを着たままあのフェンスを越えられるとは思えない。急いで引き返そうとする。
「へへ、追い詰めたぜ」
しかし、その前に男が路地を塞ぐように現れた。自転車を走らせて距離を取り、降りた。大海も俺の隣に並ぶ。
「マリル王女、覚悟しな」
「はぁ? マリル王女?」
大海さんってばどこかの国の王女だったの? でも、顔立ちは日本人のそれだし。そう思いながら横目で大海を観察する。
「私はマリル王女ではないわ! 服を交換したのよ!」
「ふ、服? なんで?」
「……少しの間、服を交換しようって向こうに提案されて服と鞄をそのまま持って行かれたのよ。ティオが今、マリル王女を探してる」
騙されてるやん。でも、だいたい把握できた。あのスーツの男はマリル王女という人の命を狙っていた。だが、その件のマリル王女は理由まではわからないが、大海に服の交換を提案し、服と鞄を手に入れてまんまと逃げた。そして、男はマリル王女のドレスを着た大海をマリル王女だと勘違いして追いかけ回していたのか。
「な、何!?」
今更気付いたのか男は目を見開いて驚く。気付くの遅くね?
「大海、お前携帯は鞄の中にあるのか?」
「え、ええ……」
「じゃあ、これでお前の携帯に掛けろ。王女が出るかもしれない」
そう言いながら俺の携帯を手渡した。大海が受け取ったのを見てそのまま前に出る。
「何をする気なの?」
「時間稼ぎだ。王女とティオが一緒にいればここに来てくれるだろう」
大海とティオが合流できれば呪文が使える。もしもの時、切り札になるはずだ。
「お前、マリル王女の場所を知りたいか?」
どこかに電話を掛けようとしていた男に声をかける。仲間を呼ばれるのはあまり嬉しくない。まだ、1対1しか経験したことないし。
「知っているのか?」
「さぁ、どうだろうね。俺を倒せばわかるんじゃないか?」
これで男は俺に攻撃して来るはず。マリル王女の居場所のヒントがこんな目の腐っている普通の男子高校生が持っているのだから。
「後悔するなよ、ガキ」
男がニヤリと笑い、拳銃を構えた。
拳銃は卑怯じゃないですか……。
サイの作戦1『精神的に疲れている八幡を誘ってティオたちと一緒に遊ぼう!』
・サイが八幡のために考えた。ティオから遊園地に遊びに行こうと誘われたことで思い付いた作戦。だが、普通に誘っても八幡なら渋ると思い、黙って誘導することにした。
その誘導は駅まで自転車で移動させ、そのまま集合場所であるモチノキ遊園地直通電車の駅で合流すること。8時半に駅に行かせたのは八幡がどれくらいのスピードで自転車を漕ぐのかわからないため、余裕を持たせたから。
現在、サイは駅の前でキョロキョロと辺りを見渡ながら八幡を待っている。ガッシュ達は遊園地の前でティオたちを待っているため、別行動。原作通り、10時半ごろに遊園地に入る。
因みにサイの魔本は八幡が持っている。
こんな感じになっております。他に気になったことがあれば感想なので質問してください。