やはり俺の魔物の王を決める戦いは間違っている。   作:ホッシー@VTuber

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今週、こんなに更新が早いのは夏休みで比較的暇だからです。
9月末まではこんな感じになると思いますが、それ以降は通常通りの更新となります。


なお、今回から文化祭編です。文化祭編と言っても千葉村編では語れなかった夏休みの話をナレーション気味に説明しているので少しわかりにくいかもしれませんが、原作とほぼ同じ展開だと思ってくれれば問題ありません。


第3章 ~文化祭編~
LEVEL.27 初めて使いどころに困る術を得て2人は困り果てる


「「……」」

 あの天国のような夏休みが終わってしばらく経った。それでも俺の訓練は夏休み同様、続いているのだが、現在俺とサイは夜の訓練を一時中断して地面に直接座って沈黙していた。あ、サイは俺の膝の上に座っている。妖精さんを地面に座らせるなんてできるわけがない。

「なぁ、サイ……『サグルク』って」

「言わないでっ!」

 8月8日に発現した第5の術『サグルク』。最初は新しい呪文に喜んだ俺たちだったが、次の日に唱えてみてすぐに首を傾げた。術の効果が『サイの肉体強化』だったのだ。確かにサイのスピード上昇とドーピング効果のある『サウルク』とは違い、スピードはもちろん力や防御力も上がったのだが、第5の術にもなってそれだけなのかと拍子抜けしてしまった。上がると言っても『サウルク』みたいに跳ね上がるのではなく、『おお、上がったな』ぐらいの印象しかない。具体的な数値で言うと1.5倍から2倍ぐらいか。サイがティオに聞いてみても『さすがにおかしいんじゃない?』と返され、夜の訓練の合間に『サグルク』について研究することにした。

 その結果――。

「何これ!? こんな術、戦闘中使えるわけないでしょ?!」

 ――サイが発狂することになった。

「お、おい……落ち着けって」

「これが落ち着いてられると思う!? だって、だって!」

「いや……まぁ、便利だからいいじゃねーか」

「便利なのは認めるけどさぁ! それでもハチマンがいないと使えないし、使っても私が攻撃喰らったら全部“吐き出しちゃう”んでしょ!?」

 因みに検証の結果、石ころがサイの頭に当たっただけで『サグルク』の本来の効果は無効化させた。肉体強化は解けなかったけど。

「あー……それは面倒だな」

「だから本当に困った時しか使えない……しかも、転んだだけで無効化されちゃうから神経使うし……あぁ、まさかここに来て外れを引いちゃうなんてぇ」

 頭をガシガシと掻き毟るサイ。本当に発狂していらっしゃる。

「もしかしたら、今後術が成長するかもしれないだろ? 『サシルド』だって前よりでかくなったし」

 『サグルク』の研究中、全ての呪文を唱えたのだが何故か『サシルド』が大きくなっているのに気付いた。範囲は変わらないのだが、以前より高くなったのだ。これで『サシルド』を利用したサイジャンプがより高くなる。いや、需要あるかどうか知らないけど。

「うぅ……せめて、爆撃の中を走り回っても無効化されないぐらいじゃないと使えないよ」

「お前は戦争中の異国にでも行く気か?」

 そりゃ魔物との戦いは戦争と同等かそれ以上に激しくなるけど。

「しばらくは『サグルク』を使うとしても副産物である肉体強化目的だな」

「そうだね……まぁ、それだけでもありがたいんだけどさ」

 『術を使いこなしていないって感じでなんか嫌だぁ』とサイは嘆く。確かにサイの呪文はどこか使いにくい。無条件で使えるとしたら『サルク』だけだ。『サシルド』は地面からせり上がって来るので空中では使えない。『サウルク』はサイが怪我している時に使うとその後、サイが動けなくなってしまうので却下。『サルフォジオ』も敵がいないところで回復するのはいいが、敵の目の前で使えば身動きが取れずに隙を突かれてしまう。『サグルク』肉体強化は便利だが、本来の効果はひ弱。俺は『サグルク』好きだけどな。俺も使えるようになりたい。箪笥の角に小指ぶつけただけで“吐き出しちゃう”のは嫌だが。

「それにしても、お前の呪文、重ね掛けできるのは利点なんじゃねーか?」

「私も吃驚した。まさかそんなことができるなんて思わなかったよ」

 そう、『サルク』、『サウルク』、『サグルク』は同時に唱えられる。『サシルド』と『サルフォジオ』を唱える場合、『サルク』などの肉体強化系の呪文を一度、解除しなくてはならない。唱えようとしても発動すらしないのだ。だが、最初に言った3つの呪文は連続で唱えられる。例えば、『サウルク』を唱えた後に『サグルク』を唱えたとする。すると、仮の数値だが、『サウルク』によってサイのスピードが3倍になり、そこに『サグルク』の効果が加わってサイのスピードが3×1.5で4.5倍になるのだ。その分、呪文を唱えようとすると通常時より心の力を消費するがこれはかなり強力だ。

「後は攻撃呪文を覚えられればいいんだが……」

「っ……」

 俺の呟きを聞いてサイは少しだけ顔を強張らせる。

「どうした?」

「う、ううん! 何でもない! ほら、研究も終わったんだし訓練再開だよ!」

 誤魔化すように立ち上がって俺に手を差し出すサイ。それを見て俺は頬を掻く。

「ハチマン?」

「あー……すまん。しばらく夜の訓練は少な目にしてくれ」

「何かあるの?」

「文化祭実行委員になった」

 とある国語を担当する教員のせいでな。

「何それ?」

「まず、文化祭って知ってるか?」

「ううん。でも、私の名前が入ってるんだね!」

 まぁ、知るわけないよな。あと、そんなに嬉しそうに言わないで。そこまでいいもんじゃないから。

「簡単に言うと俺の学校が開くお祭りだ。ほら、夏休みの時、行っただろ?」

「……うん」

 そこでサイは顔を曇らせた。無理もない。

 夏休みの途中で俺はサイと一緒に夏祭りに行った。正確には最初、由比ヶ浜と二人きり(なんか行くことになった)だったが、花火の音に驚いてサイが俺を助けに来てしまったのだ。てか、よく俺の居場所わかったな。俺も由比ヶ浜も途中で合流した雪ノ下陽乃も吃驚していたぞ。

 元々、サイはその日、ティオの家で遊ぶ約束をしていて俺と一緒に夏祭りに行けなかった。悔しがっていたが、夏祭りは人が集まるので合流するのは困難だと判断し、サイには諦めて貰った。そして、花火が上がる頃には家に帰って来ていて微かに聞こえる破裂音を聞き付けて飛んで来たのだ。

 その後、陽乃さんを迎えに来たハイヤー――いや、あの入学式の日、俺を轢いたハイヤーを見ながら陽乃さんが誤魔化せない一言を言ってしまった。あの日、俺と由比ヶ浜はもちろん、サイもこのハイヤーを目撃している。なんせ、俺とサイが初めて会った日なのだから。まぁ、会ったと言うよりはニアミスしたと言った方がいいか。だからこそ、俺たちは知ってしまった。あの日、あのハイヤーに乗っていたのは雪ノ下雪乃だと。

「もういいって言ってるだろ? お前は魔物と戦ってんだから」

 その事実を知った俺たちの中で一番落ち込んだのははっきり言って部外者のサイだった。『あの時、魔物の相手なんかせずに魔本を取りに行けばハチマンと会えたのに。そうすればハチマンは事故に遭わなかったのに』と悔しがっていた。もし、そうなっていたら俺はサイと会話するのに精いっぱいで由比ヶ浜の犬を助けられなかっただろう。それに加え、今の奉仕部も成り立たなかったはずだ。皮肉にもあの部活はあの事故の当事者全員が属しているのだから。

「うん……あ! そう言えば、ユイから部活しばらくなくなるってメールが来てたような」

 そうそう、それそれ。でもね、サイさん。そのメール、俺の携帯に来た奴だよね? 由比ヶ浜もサイに伝えようとして送ったんだろうけど、俺から伝わるって考えなかったのかしらん。

「まぁ、俺と雪ノ下が文化祭実行委員になったからな。由比ヶ浜も由比ヶ浜でクラスの出し物の準備あるし」

 そう言いながら相模の依頼のことを思い出して顔を顰める。サイはそれを見て怪訝な表情を浮かべるがすぐにハッとした。やべ、気付かれたか。

「ハチマンとユキノが同じって……大丈夫なの? 最近、2人おかしいし」

「うぐっ……」

 さすがサイ。見破っておられる。何故か夏休み明け以降、俺と雪ノ下はよくわからないがぎこちない。いや、俺は知っているのだ。俺が原因だと。

 雪ノ下だって嘘を吐く。『実は貴方を轢いたハイヤーに乗っていたの。でも、元気になったし慰謝料は払ったから今までどおりでいいわよね?』などと易々と言えるわけがない。雪ノ下だって人間だ。例え、ぼっちだとしても罪悪感は抱くし躊躇することだってある。

 でも、俺は彼女が嘘を吐いたことを許容できなかった。

 更に雪ノ下も雪ノ下で俺とサイに対してどこかぎこちない。何と言えばいいのだろうか。“何かを探っている”ような視線を時々、向けて来る。

(これは……あれだよな)

 合宿の時、雪ノ下が俺に質問したことを思い出してため息を吐いた。どこで知ったのかはわからないが、あの夜俺とサイに何かが起きたことを感じ取っているらしい。だが、これに関してはおいそれと教えるわけにもいかない。由比ヶ浜の時だって相当、混乱していたし。

「まぁ、何とかなるだろ。それより、そろそろ帰ろうぜ」

 これは俺と雪ノ下の問題だ。それに俺たちの関係がぎくしゃくしていても文化祭実行委員には関係ない。俺は自分の仕事をできるだけ少なくする努力をしなくてはならないのだ……由比ヶ浜に頼まれたから少しぐらい気にする程度だ。

「……」

 適当に誤魔化して魔本の入った鞄を取りに行ったから俺は見ていなかった。サイが不安そうに俺の背中を見ていることに。

「あ、そうだ。じゃあ――」

 そして、俺は気付かなかった。サイの脳内に2つのアイディアが浮かんでしまったことに。

 




『サグルク』についてですが、感想の返信でも言いましたが、本体の効果はしばらく秘密にしておきます。一応、ヒントは書きましたので思い付いた方は感想かメッセージなどで教えてください。もし、正解ならば白状しますwww
……でも、読者様って本当に勘の鋭い方ばかりなんですよね。今後の展開を何度も言い当てられてますし。今回も当てられないか心配です。


因みに今回のお話しは俺ガイル原作6巻の途中からです。文化祭は10月頃だと思いますのでだいたい9月初旬か中旬頃でしょうか?


あと、文化祭編では……ガッシュの原作のお話しも登場します。原作だと……確か、8巻のお話しでしょうか。6巻で清磨たちが外国から帰って来て7巻の冒頭で学校が始まってますからもしかしたら時期的に少々早いかもしれませんがご了承ください。


追記

予想通り、感想にて『サグルク』の効果、言い当てられましたw
一応、ネタバレに含まれますので気になった方だけ探してみてください。

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