やはり俺の魔物の王を決める戦いは間違っている。   作:ホッシー@VTuber

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今回……八幡がデレます。
かなりキャラ崩壊してると思いますのでご注意ください。


LEVEL.26  群青少女は産まれて来たことを祝福される

 千葉村での合宿からしばらく経った頃、俺とサイの生活はがらりと変わった。

「ハチマン訓練生。今日も訓練を行う」

「……」

「ハチマン訓練生? 返事は?」

「さー」

「……まぁいい。今日のメニューは昨日と同様、朝のランニングからの筋トレだ。その後、教官である私とあそ……んん、お遊びと行こうではないか」

 早朝、家の前で俺に向かってサイが言う。最後、素が出そうになって慌てて言い換えたが、内容がすでにアウトだ。遊んで欲しいだけじゃん。

「教官殿、少々よろしいでしょうか」

 手を挙げて発言権を求める。初日に勝手に発言したらボディブローをもらったのだ。あれは痛かった。

「何だ、ハチマン訓練生」

「今日は用事があるので教官殿とのお遊びには参加できません」

 今日、発売の新刊がある。それを買いに行きたい。しかも、少し遠出するつもりなので移動に時間がかかるのだ。許せ、サイ。

「えー! 遊ぼうよー!」

 しかし、サイは許してくれなかった。素に戻って頬を膨らませる。

「……教官殿、口調」

 初日に訓練中、今のような口調で話せと言ったのはサイだ。サイも結構、様になっているがすぐに素に戻ってしまうのが残念なところである。

「あ……んん! ハチマン訓練生、用事とは何なんだ?」

「本を買いに行きます」

「本を? では、午前中に買いに行って午後からあそ……お遊びをすればいいではないか」

「目的の物は少々、遠いところにあるため午前中から移動を開始しても帰還する頃には夕方になってしまいます」

「……そうか。残念だ」

 教官口調だが、すごい涙目になっているサイ。声も振るえているし。妖精さん妖精さん、泣かないで? 八幡はここにいるよ?

「……教官殿。なので、代案があります」

「代案? それは何だね?」

「はい、幸い明日も夏期講習がないため、夜の訓練後、短い時間ですが自由な時間があります。そこでお遊びをするのはどうでしょう?」

 夜の訓練は死にそうになるから癒しが欲しい。最初の頃は夜の訓練が終わってベッドに横になった瞬間、朝になっていたくらいだ。

「なるほど……仕方ない。そうするとしよう。だが、お遊びの内容は私が決めるがいいか?」

「それは構いませんが、短い時間で出来るものでお願いします。長いものだとおそらく、途中で脱落してしまいますので」

 主に居眠り的な意味で。

「ふむ、善処しよう。では、そろそろ出発するとしようか」

「……さー」

 ああ、地獄が始まる。

 町内ランニング50周、はっじまっるよー! 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハチマン訓練生! きびきび動け!」

「さ、さー!」

「甘いッ! もっと大きな声で!」

「さ、さあああああああ!」

 いや、声関係なくない?

 早朝のランニングが終わると次に待っているのは筋トレ地獄だ。この訓練は決まった回数をこなすのではなく、サイが止めるまで続ける。だからこそ、辛い。マラソンで例えると『3km地点までこのスピードで行こう』といったようにペースを考える。だが、この訓練ではそれが通用しない。常に全力。少しでも手を抜けばサイの喝が飛んで来る。もし、それでも駄目ならば――。

「このウジ虫野郎! そんなことで生き残れるとでも思っているのか! 腕立て伏せ追加!」

「さー!」

「声が小さい! 腹筋追加!」

「さああああああ!」

「うるさい! なんかこう……両手をグーパーってやるやつ追加!」

 理不尽な追加注文が入る。しかも、冗談ではなくガチで追加するからもう死んじゃう。初日はまだ優しかった方だ。今じゃサイが鬼に見える。

「背筋やめー! 次、縄跳び!」

「さー!」

 因みに筋トレの内容はその日によって変わる。昨日はサイをおんぶしてスクワットだった。こっちはすごい辛い思いしているのに背後から『ハチマンの背中、あったかーい』とか小さい声で聞こえるからやる気出ちゃう……じゃない。とにかくとても辛いのだ。

「二重飛び!」

「さー!」

「三重跳び!」

「さー! いでっ!」

「私をおんぶしてスクワット追加!」

 それ気に入ったんですか?

 その後、『ハチマンの汗の匂い……いいかも』とか聞きながらめちゃくちゃ筋トレした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……」

 シン、と静まり返っている。俺の周りには誰もいない。聞こえるのは風の音や虫の鳴く音。それ以外は全く聞こえなかった。

「……」

 ここは俺たちが住む町から少しだけ離れた空き地だ。夜の訓練に使える場所を探してようやく見つけた。ここなら誰にも見つからない。遠いのが難点だが、『サウルク』を唱えてサイに抱っこして貰って移動すればすぐに着く。毎回、お姫様抱っこされるのは恥ずかしいがサイがやりたいと言うので仕方なく頷いている。

「ッ――」

 不意に背後から音が聞こえ、振り返った。しかし、そこには何もいない。あるのは石だけ。それを見た瞬間、しゃがんだ。頭上で何かが通り過ぎた。横目で確認すると後ろ回し蹴りを放っているサイを見つける。急いで右に転がった。

「へぇ」

 一撃目を躱したのが意外だったのかニヤリと笑うサイの拳が先ほどまで俺がいた場所にめり込んだ。あれを喰らえば骨の一本ぐらい簡単に折れるだろう。だからこそ、当たってはいけない。受け身を取って予め持っていた小石をサイに向かって投げる。

「……」

 首を傾けて回避するサイ。それどころか一瞬で距離を縮められて懐に潜り込まれる。右腕を引いた。正拳突きが来る。咄嗟に左腕でガード。

「ぐ、ぁ……」

 骨の砕ける音を聞きながら乱暴に腕を払う。力の流れを変えられてサイの体が俺の左側を通り抜けていく。冷や汗を流しつつ、それを視認していると群青色の瞳が俺を見つめていた。『少しはできるようになったね』と言いたげな視線。すぐに前に跳んで距離を取った。

「はい、チェックメイト」

 態勢を立て直そうと顔を上げると目の前にサイの貫手が迫っていた。ギリギリで止めてくれたので怪我はない。左腕は折れたけど。

「はぁ……はぁ……」

「うんうん、最初はよかったよ。でも、その後が駄目だったかな。石を投げるにしても1個じゃなくて2個投げて相手が躱したところに向かって3個目を投げるとかしないと。そうすれば相手は動きを止めてガードするしかなくなるし無理に突っ込んで来ても少しは態勢も崩れているだろうから対処法もある。それに私の怪力を知ってるんだから受け止めるんじゃなくて私の拳を横から叩くとかして横に体をずらすとか――」

「――あ、後で聞く……『サルフォジオ』」

 痛みを我慢しながら近くに置いておいた魔本に触れて呪文を唱えた。

「ゴメンゴメン。はい、どうぞ」

 苦笑いを浮かべながら巨大な注射器を俺に刺す。その途端、身動きが出来なくなるが骨や擦り傷が嘘のように消えていった。

「……はぁ」

 術の効果がなくなってため息を吐く。怪我は治っても少しの間、痛みは残る。その痛みが消える間、先ほどみたいにサイから駄目だったところを教えて貰うのだ。

「いい、ハチマン。戦いって言うのは力だとか受け止めるだとか色々な方法がある。その中でも有効なのは“不意を突く”ことなんだよ」

「不意?」

「そう、身構えてる時と突然攻撃された時じゃ全然違うの。不意打ちされたらまず、状況を把握しなくちゃならない。どこから攻撃されて、どれほどの被害を受けて、次に何をすればいいのか。そんなたくさんのことを考える間に敵は次の行動に移ってる。それじゃ遅いの」

 そう言えば、夜の訓練中、よくサイは俺の不意を突いて来る。石を投げてその音に反応した瞬間、攻撃して来たり。一番吃驚したのは地面の下から出て来た時だ。話によると俺が夏期講習に行っている間に俺の足元まで続く穴を掘っておいたらしい。『いつだって戦いは何が起きてもおかしくないと知って貰うため。後、敵が罠を仕掛けて来ないとは限らないでしょ?』とのこと。

「まぁ、確かにどんなことが起きてもいいように準備しておくのは大事だよ? でもね。どんなに準備しても予想外のことは必ず、起きる。だからハチマンには不意打ちされてもすぐに動けるように慣れて欲しいの」

「そんなことできんのか?」

「じゃあ、なんで一撃目を躱せたの?」

「それは石が囮だってわかって攻撃して来るだろうから咄嗟に躱しただけ……ああ」

 そうか。あの時、俺は石が囮だと“一瞬にして判断した”。何が起きているのか把握するのに時間がかかっていたら一撃目で俺は倒されていただろう。

「理解出来た?」

「ああ……でも慣れるまで大変そうだな」

「大丈夫大丈夫! その間にハチマンには痛みにも慣れて貰うから」

「……因みにその理由は?」

「痛みで動けなくなっちゃったらその時点でその人は死ぬ。怪我をしたり腕が引き千切れても気絶しないでどこか治療できるところまで移動しないと追い打ちをかけられちゃうからね。それにハチマンの性格を考えるとすぐに怪我しちゃうだろうから今の内に痛みに慣れておけば何かと便利でしょ?」

 結構、バイオレンスな理由だった。そのおかげで初日に右腕をへし折られて悲鳴を上げていたのに今じゃ腕が折れる程度じゃ悲鳴を上げなくなった。サイの訓練は順調らしい。

「でも、もう少し攻めに転じてもいいんじゃない? ずっと防戦一方でしょ?」

「お前に隙がなさすぎんだよ……こっちは防ぐので精いっぱいだ」

「……魔物相手だと仮定して攻めに転じれるわけないからいいか」

 そうそう、無理は禁物だ。下手に攻撃手段を得て相手を殺してしまったら俺は犯罪者になってしまう。俺が相手するのは魔物だとは限らないのだから。

「それじゃ続き、しよっか」

「……ああ」

 この訓練は俺の心の力――つまり、『サルフォジオ』が唱えられなくなるまで続く。帰りの『サウルク』分は取っておくが日に日に心の力も増えているようで訓練時間も長くなっている。その分、俺の怪我の数も増えるけどな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あぁー」

「ハチマン、大丈夫?」

 心の力がないことから来る脱力感と訓練の疲れから睡魔が俺を襲う。家の前に着いた時、サイがそれに気付いて不安そうに問いかけて来た。

「大丈夫だ……教官殿、お遊びと行くんでしょう?」

「っ……うん!」

「じゃあ、行こうぜ」

 俺が玄関に向かって歩き出すとサイが嬉しそうに手を掴んで来る。振り払う理由もないのでそのままにしながら玄関の扉を開けた。

 

 

 

 ――パンッ!

 

 

 

「「ッ!?」」

「お兄ちゃん! 誕生日おめでとー!」

 突然の破裂音に身構えてしまった俺たち(訓練の成果)の前にはクラッカーを持った小町がいた。そう言えば、今日の夜の訓練は日付が変わるまで続いたので俺の誕生日である8月8日になったようだ。

「ああ、さんきゅ」

「最近、何かと大変そうだからねー。疲れてるお兄ちゃんに癒しをあげようと思って」

「はいはい、癒されてる癒されてる」

「んもう、適当過ぎ! 小町的にポイント低い!」

 いやだってお前が鳴らしたクラッカーの残骸が俺とサイの頭に乗っているんだぞ? しかも、結構汗かいたから肌に引っ付くし、これ誰片づけるの?

「……」

 そこで俺の隣にいたサイが何が起こっているのかわからないような表情を浮かべているのに気付いた。

「どうした?」

「えっと……タンジョウビって何?」

「「え?」」

 どうやら、サイは誕生日を知らないらしい。意外だったので俺と小町は声を漏らして顔を見合わせる。

「誕生日ってのはその人が産まれた日で、それを祝う日だ」

「産まれた日? 産まれた日に何でお祝いするの?」

「え? あー……」

 そう言えば、何で誕生日はあるのだろうか。俺にとって誕生日はクラスで人気の奴が『誕生日会開くよ』って告知しまくってそれを遠巻きに見ているだけの日だった。そして、その後、『誕生日会面白かったねー!』、『そうだねー! クラスの皆集まったよねー!』という会話を聞く。俺、行ってませんけど? それどころか呼ばれてませんけど? もしくは小町にプレゼントをあげる日。あ、でも、由比ヶ浜の誕生日会は行ったか。あの時、サイが演歌歌ったのには驚いた。お婆ちゃんと暮らしていたからそうなったんだろうけど。しかも、吃驚するほど上手かった。さすが妖精さん。こぶし効いてるぅ。

「産まれて来てくれてありがとーって意味だよ!」

 俺が言葉に詰まっていると小町がニコニコ笑いながらサイに教えた。

「産まれて来てくれて……ありがと……」

 サイは少しだけ辛そうに繰り返す。

「そう! お兄ちゃん、小町のお兄ちゃんに産まれて来てくれてありがとー!」

「お、おう」

 え、何でもう一回言ったの? お兄ちゃん、ドキッとしちゃったよ。

「……ハチマン!」

 ぐいぐいと俺の手を引いてサイが俺を呼んだ。すぐに下に顔を向けると少しだけモジモジしているサイの姿がある。何だ、この可愛い生き物。

「あ、あのね」

「あ、ああ……」

「ハチマン……産まれて来てくれて……そして、私のパートナーになってくれて、ありがと。本当に、ありがと……」

 そう言った後、恥ずかしさから俺の足に抱き着いた。そのまま、グリグリ。そのせいか足と顔が熱くなる。

「おう……」

 何だかサイを見ていられなくて顔を背けながらサイの頭を少し乱暴に撫でた。後、小町。ニヤニヤすんな。

「それにしても……誕生日を知らないとはねー。もしかして自分の誕生日も知らない?」

「……うん」

 俺の足から少しだけ顔を離してサイは頷く。その姿を見て理由を聞く気にはなれなかった。あまりにも悲しそうだったから。

「そっか。じゃあ、サイちゃんも今日が誕生日だ!」

「え?」

「だって、誕生日って言うのは産まれて来てくれてありがとって言う日なんだよ。だから、誕生日を知った今日こそサイちゃんの誕生日! そうでしょ、お兄ちゃん?」

 ウインクしながら俺にバトンタッチする小町。

「ああ、誕生日ってのは1年に1回、必ず来るもんだ。本当の誕生日から少しぐらいずれてたって誤差だ、誤差」

「いや、そう言うことじゃないよ……」

 俺の言葉に小町は呆れた様子で呟く。あれ、そう言う意味で言ったんじゃないの?

「こんなお兄ちゃんは放っておいて! サイちゃん、産まれて来てくれてありがとー!」

「え、あ、う、うん……どういたしまして……」

 まだ実感が湧かないのか困った顔でサイは頷いた。理由はどうであれ、彼女は自分が産まれて来てもよかったのかと疑問に思っているのかもしれない。過去に色々あったみたいだし。

「ほら、お兄ちゃんも」

「……ああ」

 多分、これも彼女を閉じ込めている檻なのだろう。サイ本人は自分の存在を良く思っていない。目を見ればわかる。悪いことをしたと思っているのにそれを褒められて困惑している子供の顔だ。でも、それは間違いだ。サイは――いや、産まれて来る子供全てに言える。産まれて来てはならない命などない。どんなに悪い奴だったとしても産まれて来た時は祝福されるべきなのだ。だから、俺が間違っていると教えなくてはならない。そう約束したから。

「サイ」

 しゃがんでサイと同じ目線になる。

「ハチマン?」

 その行為が意外だったのかサイは首を傾げながら俺を見た。少しだけ群青色の瞳が澄んでいる。俺はあまりこの状態のサイの目は好きじゃない。あまりにも澄みすぎているからだ。

「サイは自分が本当に産まれて来てよかったのかって疑問に思ってるだろ」

「……うん」

「理由は?」

 俺の質問に首を横に振った。話したくないのだろう。でも、構わない。それぐらい予定調和だ。

「過去に何かあったのかはわからない。そのせいでどんな目にあったのかも。でもな? 俺はお前と出会ってこうやって一緒に過ごすことができて……よかったと思ってる」

「っ……」

「だから……な。産まれて来てくれて。俺と出会ってくれて。俺と一緒にいてくれて……俺のパートナーになってくれてありがとう」

 本当にサイと出会って俺は変わった。前の俺はこんなこと言う奴じゃなかった。でも、悪くないと思う。これもサイが産まれて来てくれたからこそ起きた変化だ。

「……私、産まれて来ても良かったの?」

「ああ」

「わ、私……色々……」

 そこで言葉を区切ってしまう。言えないことがあるのだろう。

「言わなくてもいい。でも、どんなサイでも俺は何度だって言う。産まれて来てくれてありがとう」

 俺のジッと見ていたサイの目から1粒の涙が零れた。それがきっかけになったのか呆然としていた彼女の顔がどんどんくしゃくしゃになっていく。

「よかったんだ……私、産まれて来てもよかったんだ……」

「そうだよ、サイちゃん! こんなに可愛くていい子が産まれて来ちゃ駄目だったらお兄ちゃんどうなっちゃうの! 消滅しちゃうよ!」

 小町ちゃん、今それ言わなくてもよくない?

「う、うぅ……」

 ワンピースの裾をギュッと掴んで涙を流すサイ。その姿は泣かないように我慢しているようだった。

「ほら、サイ」

 腕を広げてサイを呼んだ。

「……いいの?」

「逆に何で駄目なんだよ。ほら」

「……うん」

 サイはおそるおそる俺の体に抱き着く。俺も彼女の背中に腕を回して優しく撫でてやった。

「ありがとな、サイ」

「ぅ、あ……ああああああああああああああああああああああああああ!!」

 そう言えば、サイが声を上げて泣いたところを見たことがなかった。泣いたとしても声を殺していた。声を上げて泣くことを禁止されていたかのように。

 それからサイは今まで我慢していた涙を消費する勢いで泣いた。その間、俺と小町は優しく声をかけ続けた。強くて優しくて幼い群青色の瞳を持つ少女に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……え? 誕生日、プレゼント?」

 サイが泣き止んだ後、小町が『プレゼント何がいい?』と聞き、またサイは首を傾げた。

「お祝いなんだからプレゼント渡さないと! 何が欲しい?」

「……何でもいいの?」

「うん、大丈夫! お兄ちゃんが買うから!」

「おい」

 いや、まぁ、その意見には賛成なんですが少しぐらい手助けしてくれてもいいんですけど。

「……カメラ」

「え? カメラ?」

「うん……写真撮れるあれが欲しい」

 泣いた後だからかいつもの元気がなく少しだけしおらしい。

「買って来る」

 そのせいかな。気付くと財布を持ってドアノブに手をかけていた。よーし、八幡がとびっきりのカメラを買って来てやるぞー!

「ちょ! お兄ちゃん、深夜にお店開いてないって!」

「そうか……じゃあ、明日買いに行くか?」

「……うん!」

 俺の問いかけに頷いたサイは満面の笑みを浮かべていた。

「じゃあ、今日のところは……ん?」

 サイも落ち着いたし夜も遅い。このまま玄関にいるわけにもいかない。そう思って移動しようとしたのだが魔本を入れてあった鞄が群青色に輝いているのに気付いた。

「まさか……」

 急いで鞄を開き、魔本を取り出す。それを見たサイが小町を居間の方へ連れて行く。その隙に本をペラペラと捲る。

「あった」

 

 

 

 ――第5の術『サグルク』。

 

 

 

 そこには新しい術が書かれていた。

 




これにて千葉村編は本当の完結です!
術の習得のスパンが短いとは思いますが、第6の術習得は遅くなりますので見逃してください!
なお、『サグルク』の説明は次の文化祭編の冒頭でします。

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