やはり俺の魔物の王を決める戦いは間違っている。   作:ホッシー@VTuber

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LEVEL.255 彼らの戦いは予期せぬ形で終わる

 柱に術が激突し、爆発が起こる。その爆風にあえて乗り、サイは近くの柱へと着地してすぐに跳躍。その直後、彼女が着地した柱にまた術がぶつかった。

「逃げてるだけか!」

「『ファノン』!」

 リオウのわかりやすい挑発。バニキスもサイを煽るように呪文を唱え、また彼女へとエネルギー弾が迫る。

「『サザル・マ・サグルゼム』」

 すかさず、『サザル』を使い、『ファノン』を強化した。群青色に染まったそれをサイは『魔力放出』で自身の体を一瞬だけ加速してギリギリ回避する。

 あれから何度かリオウの術に『サザル』を当てているが奴が攻撃の手を緩める様子はない。おそらく、『ファウード』の栄養液の予備を持っているのだろう。そうでなければ奴は『ファウード』の鍵を使い、手下となった魔物たちを呼んでいたはずだ。

(いや、呼ぶのはもっと追い詰められた時か)

 リオウは『ファウード』の力を手に入れたことで他の魔物たちを手下にできた。それはリオウの方が強者であり、自分たちではどうにもできないと判断したからだ。

 しかし、もし、攻撃呪文を持っていない格下相手にいいようにされ、助けを求めたらどうなるか? 過程はどうであれ、リオウは『あれ、案外倒せんじゃね?』と手下たちに舐められる。そうなってしまえば下剋上の始まりだ。だから、リオウはよっぽどのことがない限り、他の魔物を呼ばない。呼ぶほどの相手ではないと思っている限り、奴は自分の手で俺たちを倒そうとする。だが、ああやって術を連発しているのは俺たちが格下だと思っているのもあるが、最悪、手下たちを呼べばいいと内心、考えているはずだ。下剋上が始まってしまうかもしれないがそれを恐れて助けを求めずにやられてしまっては意味がないから。

 だからこそ、俺たちはリオウたちに『追い詰められた』と判断される前に『ファウード』の鍵を奪わなければならない。倒しても、追い詰めすぎても、返り討ちにあってもならない。正直、無理ゲーな最高難易度クエスト。

「『サザル・マ・サグルゼム』」

 また、当たり前の話だが『サザル』を使う度、俺の心の力を消費する。つまり、弾数が限られているのだ。もちろん、『サザル』だけじゃない。消費が少ないとはいえ『サルド』や『サルジャス・アグザグルド』を使えば『サザル』の弾数は減るし、『サフェイル』や『サウルク』だって一瞬とはいえそれなりの心の力を消費する。

「『ファノン』!」

 群青色のオーラを纏ったリオウからエネルギー弾が放たれた。それをまた『魔力放出』を使って躱すサイ。毛先から3分の1(・・・・)ほど群青色に染まった長い髪にエネルギー弾が掠り、数本の毛が空中に散る。

 なにより心配なのがサイの体だ。あの長い髪を侵食している群青色の何か。最初は4分の1ほどだった範囲も戦いの中でどんどん広がっていく。そのおかげでサイの身体能力は強化され、『魔力放出』の威力も上がっているのは確かだ。

 だが、あれはよくない。絶対に多用してはならない何かだ。

 それでも、あれを使わなければならないほど俺たちは弱い。いや、置いていかれている。ガッシュたちはどんどん成長するのにサイは出会った頃からほとんど変わっていない。きっと、あれほど強かったサイでも近いうちにガッシュたちに勝てなくなる。そう確信できるほどサイは遅れ始めた。

 だから、あれ(・・)に頼らなければならない。その証拠に『魔力放出』がなければサイは何度も攻撃を受けていただろう。そもそも『サザル』を当てることさえ困難だったかもしれない。

「……くそ」

 無意識で俺は悪態を吐いていた。あれに頼らなければならない俺たちの弱さを嘆いているのか。あれを使うことを見逃した俺に対する怒りか。あんなおぞましい力に溺れながらも楽しそうに笑って戦うサイに対する――。

「……」

 駄目だ。これ以上考えても意味がない。俺たちはただリオウに勝てればいい。その後のことはまた後で考えよう。今、ここで奴らを止めなければ日本はなくなってしまうのだから。

「『サザル・マ・サグルゼム』」

「あハは、当たらないよ!」

 何度目かの『サザル』。群青色に染まった術をサイはケタケタと笑いながらやり過ごす。そして、そっと右手を挙げた。

「ッ――」

 来た、合図だ。思わず止めてしまった呼吸を意識的に再開して魔本に心の力を溜める。サイを早く元の状態に戻すためにもけりをつけよう。

「はは、あははは!」

「どうした? 気でも狂ったか?」

 サイは『魔力放出』を使い、柱から柱へと跳び移る。どんどん加速していく様子はリオウは目を細めて眺めていた。あれほど高速移動されては術を撃っても当たらないはずだ。なら、スタミナが切れたタイミングを見計らって確実に当てた方がいいと判断したに違いない。

(そう考えた時点でお前らの負けだ)

 心の力は溜まった。重要なのはタイミング。早すぎたら警戒されて回避される。遅かったら反撃の術を受ける。そして、このチャンスを逃した時点で俺たちの負けだ。

「すぅ……はぁ……」

 柱の陰からジッとその時が来るのを待った。仕掛けるタイミングはサイが決める。だから、俺はジッと――。

 

 

 

 

 

「きゃはっ」

 

 

 

 

 その時、サイが小さく笑い、一瞬でリオウの懐に潜りこんだ。きっと、リオウ自身もサイに距離を詰められたところは視認できていなかったに違いない。

「はっ! 正面から来るとわかっていれば何も怖くない!」

 だが、俺たちが『サザル』を使うと決めつけて(・・・・・)いるリオウはさほど驚かずに叫ぶ。確かに『サザル』を撃つとわかっているのであればサイが近づいてきた瞬間、術を使えばいいだけだ。それにもし仮に術を回避されたとしても『サザル』に殺傷能力はない。多少、心の力を多めに消費するだけで終わる。

 

 

 

 

 

 もし、本当に俺たちが『サザル』を使えば、の話だが。

 

 

 

 

 

「『サ――』」

 魔本に込めた心の力を解放する。そして、術を唱えながら『サジオ』の出力を最大にしつつ、柱の陰から飛び出した。術によって強化された俺は魔物には負けるが一般人が出せないほどの速度で動ける。だから、この距離からの奇襲に奴らは反応できない。そして、この術を唱え切ればリオウたちを――。

 

 

 

 

「おっと、そこまでだ」

 

 

 

「ッ!?」

 反応できたのはサイとの特訓のおかげか。突如、瞬間移動したように俺の右に現れた何かが蹴りを放ち、咄嗟に『サジオ』のオーラを集中させた右腕でガードした。

「ガっ……」

 だが、そんなガードなどなかったように右腕がぐしゃりと粉々に折れ、俺の体は簡単に吹き飛ばされた。視界がグルグルと目まぐるしく回転し、近くにあった柱に叩きつけられてやっと止まる。もし、右腕ではなく体に直撃していれば内臓が破裂していただろう。

「ッ! ハチマン!」

「な、なんだ!?」

 すぐにこちらの異変に気付いたのだろう。サイは俺の傍へと駆けつけ、リオウは第三者の介入に周囲を警戒する。もちろん、俺はひしゃげた右腕や柱に体を強打したせいでまともに呼吸すらできない瀕死状態だ。どんな状況でも周囲を警戒しろとサイから教わっていなければこの場でのたうち回っていただろう。

「ハチマン、大丈夫!? しっかりして!」

「『サ、ル……フォジ、オ』」

「お願い!」

 悶えながら術を唱え、サイの頭上に巨大な注射器が現れる。それを彼女は一気に振り下ろして俺に突き刺した。数秒の硬直の後、俺の体は何とか治り、フラフラと立ち上がる。

「大丈夫?」

「あ、ああ……なんだ?」

 いや、何をされた? ここには俺たちとリオウたちしかいなかったはずだ。入口の方は一度も開いていないし、ハイルが門番をしてくれている。だから、途中から侵入してきたわけじゃない。

(つまり、最初からここにいた……)

 サイの『魔力探知』で引っ掛からなかった? サイやハイルのように『魔力隠蔽』持ち? いや、多分、違う。単純に侵入者が魔力を隠すのが上手かった。そして、なによりサイが正気じゃなかったせいで『魔力探知』に意識を向けられず、気づけなかったのだ。

「なかなか面白い余興だったが……さすがにあのままお前に負けられると困るからな」

「なっ……オレが負けるだと! 貴様、一体……」

「あの、魔物……」

 リオウは侵入者と対峙し、怒りを露わにするが侵入者の姿を捉えると言葉を失くす。きっと、俺とサイも同じだ。だって、侵入者はあまりにも――。

「紫電の眼光、白銀の髪……まさか、王族に生まれし雷……雷帝、ゼオン!」

 

 

 

 ――ガッシュに瓜二つだったのだから。


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